058_閑話_その頃『学園』では
今回はアメリアこと亜美がいた『学園』の話です。
058_閑話_その頃『学園』では
フラム王国_王都フラム_国立上級学園 通称『学園』
春休みを終えた学生たちは学年が一つ上がり、新一年生も後数日で入学して来る事もあり、希望と僅かな不安で浮ついた雰囲気になっていた。
そんな空気の中、とある1グループの生徒達はどんよりと沈んだ空気に包まれていた。
この国に第一王子にして王太子、ギルバート=フラム=ルージュとそのグループである。
「アメリアが退学とはどういうことだ。ジーニアス。」
赤の髪と赤の瞳の丹精で整った顔の正統派美青年、ギルバートが向かいに座っているジーニアスに問いかける。
「ああ、ギルバート。僕もさっき知ったのだけど、春休み中にアメリアが退学届を提出してそれが受理されたそうだ。」
「なんでも、『モニカ=ローゼスベルク様を修道院送りにした事に責任を感じた。』っていうのが理由だと噂されているわ。」
「まあ、確かに平民が公爵令嬢を修道院送りにしたとあっては『学園』には居づらいだろう。」
灰色の髪と金の瞳の知的な美青年、ジーニアス=ウォルト伯爵子息がこれに答え、
水色の髪と瞳を持つ綺麗系美女、ミランダ=コースト伯爵令嬢が話を苛立たしげに補足し、
それに対してコル村に騎士隊長として来ていたトーマス=ゼクス侯爵子息が淡々とコメントする。
「ミランダ嬢、トーマス、あれはモニカ嬢がアメリアを殺害しようとしたからだろう。
アメリアが責任を感じることではない。
第一ここでモニカ嬢を許せば、上級貴族は平民を好きに殺してもいいという誤ったメッセージになりかねない。」
「それは本当に『モニカ嬢がアメリアを殺害しようとしていた』としたら、だろう。」
この時ジーニアスの声は普段よりわずかに低くなっていた。
「何が言いたい。ジーニアス。」
そんなジーニアスの反論にギルバートも声を低くして問いただす。
「あの疑惑についてだが、僕はいささか調べが足りなかったと思っている。」
「しかし、モニカ嬢は殺害疑惑を否定しなかった。」
「だが、肯定もしなかった。あの『無気力令嬢』のことだ。
取り調べが面倒くさかったのだろう。だからまともに返事をしなかった。その結果が有罪だ。
故にアメリアは責任を感じた。」
ジーニアスはこの時苦虫を噛み潰した様な顔をして自分の推測を語った。
自分より家柄の良いご令嬢に対して随分な言い方だが、ジーニアスはモニカが有罪であったと全く思っていない。
にも関わらずモニカ自身が裁判で容疑を否認しなかった事に苛立ちを感じていた。
それが言葉を辛辣にしている事にジーニアス自身は気づいていない。
「だが普通は自分にあらぬ嫌疑が掛けられていれば否定するだろう。
それを彼女は黙秘した。私が聞いた時も『どうせ誰も信じないから話すだけ無駄。』の一点張りだ。
疑うなという方に無理がある。」
「そうかな、僕は魔法の研究で協力してもらっていた関係上、彼女と話す機会があったがとにかく何に対しても執着がない人だったよ。
おそらく王太子の婚約者についても執着がなかったんじゃないかな。
僕が彼女に疑惑の件を聞いたときには『やってないけど誰も信じないだろう』だった。
第一彼女が魔法の制御を失敗するとは思えない。」
そもそもジーニアスは彼女が殺人など絶対にやるとは思っていなかった。
ギルバートはジーニアスの発言に対して酷く驚いた。
彼はモニカがやってないと言えば徹底的に調べるつもりだった。
だがギルバードには『黙秘』でジーニアスには『やってないけど信じないだろう』と言ったのである。
この差はあまりに大きい。それに加えてジーニアスは彼女が魔法を失敗すると欠片も考えていないようだ。
自分は婚約者に信用されていなかったと同時に信用していなかったのではないかと今更ながら思う。
そこにジーニアスが追い打ちを掛ける。
「だいたいね、アメリアに現を抜かしていた君が悪いと思うよ。
アメリアは大人だったから君の王太子としての悩みに親身に相談に乗ってくれていて、それで君の気持ちが軽くなっていたのはわかるけどね。」
そう、アメリアこと亜美が目指した物はノーマルエンド、つまり恋愛一切なしでの魔王討伐である。
基本みんなに優しいし、悩んでいれば相談にも乗るし、間違っていれば苦言を呈する。
良き友人の様な関係を目指していたので、彼ら全員との関係は良好だった。
ジーニアスの発言に今まで黙っていたトーマスが声を低く唸る。
「おい、ジーニアス。殿下相手に口が過ぎるぞ。
だいたい貴様は伯爵家の三男だろう。少しは身分に応じた態度というものがあるだろう。」
「それはすまないね。トーマス=ゼクス候爵子息様。
アメリアがいたら、『身分を傘にきた物言いは他の者に不快感を与えますから控えたほうがいいですよ』
って窘められていただろうね。」
「よしなさい、あなた達。ジーニアス熱くなりすぎよ、らしくない。
トーマスもここは『学園』なのだから身分を傘に着るのは禁止よ。
ここはそういう場所なんだから。はぁ、こいつらを私一人で面倒みるなんて荷が重いわ。」
ジーニアスとトーマスの口論に思わずため息がでるミランダ。
本当はミランダも喚きたくなるくらいには苛立っているがそれをしても仕方がない。
モニカの有罪にもアメリアの退学にも納得いかないのはミランダも同じである。
そんなどんよりとした空気の中教室の奥から甲高い声が聞こえてきた。
「皆様聞いてくださる。私、春休みの間に領地に戻っておりましたけど、その時に大変な極悪人と遭遇してしまったのでございましてよ。」
「それはどのような者なのですか?ナタル様。」
「コル村のハンター_エレメンタルズのアカサカ=レットとトウリ=モモカと名乗っておりましたわ。
その者達は平民にも関わらず、私に謂なき中傷をした上、恫喝してきましたのよ。
まあ、私がビシっと言い返して差し上げましたから手出しまではされませんでしたけど。」
「あら、ナタル様は勇敢でいらっしゃるのですね。」
「お美しいだけでなく、勇敢だなんて憧れてしまいますわ。」
「ええ、私も貴族の端くれです。ノブレス・オブリージュの精神を理解するものとして、やる時はしっかりやる事にしておりますの。」
「まあ、そんな方がいらっしゃれば、バンの街も安泰ですわね。」
三下令嬢ナタルが取り巻きの下級貴族の令嬢を相手に列人達とのやり取りをさも自分の武勇の様に語っていた。
それに対して、ギルバートは呆れたようなを視線送り、再びトーマス達に視線を戻す。
するとなぜかトーマスの顔色が悪くなっている事に気づく。
「どうした、トーマス。顔色が冴えない様だが何かあったのか?」
「少し聞き覚えのある名前が聞こえた気がいたしまして。
気にしないでください。きっと聞き違いでしょう。」
「そうか、まあ君がそう言うなら。」
ギルバートは様子のおかしいトーマスを気にしていると、またナタルの甲高い声が聞こえてきた。
「そのエレメンタルズのトウリ=モモカなる人物は格好こそ平民のそれでしたが、姿形があのモニカ様にそっくりだったんですのよ。」
この発言にギルバートが思わず声をあげ、トーマスに質問する。
「すまない、トーマス。たしか君は行方不明のモニカ嬢探索のため、コル村に行っていたな。
結果はどうだったんだ。差し障りのない範囲で教えてくれ。」
「はい、殿下。詳細は守秘義務がございますのでお教えできませんが、結果としては空振りでした。
捜索途中で騎士団長のヴィルヘルム殿が来て、『コル村にはいないので帰投する様に』との命令がございましたので。」
「そうか、コル村とバンの街は近くにあるから、もしかしたらそのトウリ=モモカがモニカ嬢ではないかと思ったのだが、君が調べていて見落とすとも考えにくい。」
ギルバートとトーマスが納得仕掛けたところに余計な口を挟む者がいた。
ジーニアスである。
「そうかな。別にトーマスの探索を疑っているわけではないが、途中で騎士団長が来たというのはなんともきな臭くないか。
それにエレメンタルズのレットという人物は知る人ぞ知る最重要危険人物だ。」
「はぁ!最重要危険人物?なんだそれは。」
「これは都市伝説の類の話なんだが、2,3年前に一夜にして盗賊ギルドが壊滅したという話があるんだが。」
「はあ!盗賊ギルドが壊滅だと、騎士団でも手を焼いている連中だぞ。」
「それがある一人の人物の手で行われたと言われているんだよ。」
「ありえないわよ。盗賊ギルドって一体何人いると思っているのよ。」
「その人物がエレメンタルズのレットであると。」
「あくまでも都市伝説だけどね。
でもコル村のレットという人物が本当にそうだとしたら、モニカ=ローゼスベルクをトウリ=モモカとして囲う事も可能ではないだろうか。
まあ、あくまでも噂を元にした推測だがね。」
ギルバート達がレットについて話しているとまたナタルの声が聞こえてきた。
話すならもう少し音量を下げて欲しいものだと思うギルバートであったが、
「そのすぐ後に退学されたアメリアさんにお会いしましたの。
あのような野蛮なハンターに遭遇した後でしたので、危ないから気をつける様に忠告しましたの。」
「まあ、なんとお優しい。さすがナタル様でございますわ。」
「お話中にすまない、ナタル嬢。その話詳しく聞かせていただけるかな。」
「貴方様はギルバート殿下。はい喜んで。」
アメリアの足取りがわかるかも知れない情報に思わずギルバートは反応してしまった。
そしてナタルが知る(主観9割、事実1割)情報を詳しく聞いたギルバートはある一つの可能性に辿りついた。
「ありがとう。ナタル嬢、大変参考になったよ。
そのエレメンタルズについても気に止めておくよ。」
「はい、ギルバート殿下。お役に立てて、嬉しゅう存じます。」
そしてギルバートはナタルの情報を4人と共有し、先ほど思いついた可能性について相談することにした。
「つまり、ギルバート殿下。あなたはそのアカサカ=レットという人物が何らかの方法でモニカ嬢とアメリアを自分のそばに置いていると推測しているのね。」
「たしかに可能性としてはなくはないと思うけど、少し突飛すぎないかな。
そのレットという男がナタル嬢の言う通りの極悪人だったとしても、『学園』の生徒を近くに置く理由がわからないし。
まあ、2人とも美人だからレットと言う男が変態野郎ならわからなくもないけど。」
「ちょっと!ジーニアス!冗談でもそんな事言うもんじゃないわよ!」
「まあ、行って確認するだけでも価値はあると思うのだが。」
「・・・・」
「本当にどうしてしまったんだ、トーマス。先ほどから黙り込んで?」
「申し訳ございません、殿下。私は騎士団の任務の関係でコル村には行けません。」
「そうか、無理にとは言わないよ。騎士団の任務のほうが大事だ。」
「お役に立てず、重ね重ねお詫び申し上げます。」
この時、トーマスは思い出していた。
コル村の事件の後にヴィルヘルムによって行われた、列人式ヒーロー育成術初級編を。
これは列人がヒーローになって一年目に行っていた新人用教育メニューをこちらの世界風にアレンジし、それをヴィルヘルムに伝授したものである。
これはあくまでもヒーローにとっては初級編であって普通の人間には死ねる内容である。
一部紹介すると、50キロの重りを担いで標高1000mの山を登頂後すぐに下山、
50キロの重りはそのままで10キロの遠泳、30キロの棍棒での素振り10000回、
モンスターが蔓延る森の中に荷物なしで放り込まれてのサバイバル等が挙げられる。
ヴィルヘルム含む直属の部隊(通称0番隊)は全員当たり前の様にこなしおり、この中には団長補佐官のジルも含まれる。
このおかげでトーマスは元々ハンターで言えばBランク上位くらいだった実力がAランク上位まで挙がったが、それと引き換えにヴィルヘルムと列人へのトラウマが植えつけられた。
尚、今後コル村に近づいた場合、これの3倍のメニューを休みなくやらせると脅されている。
そんな彼をよそにギルバート達は話を進めていく。
「コル村に行くにしても、王太子の君は王都をそうそう離れられない。
トーマスは騎士団の任務で無理。となると僕かミランダ嬢が行くしかないな。」
「どうせなら2人で行くべきだと思うわ。
そのレットって人が危険人物なら戦力は多い方がいいし、何らかの理由で戦闘になることも想定されるから。」
「ところでミランダ嬢、単位は大丈夫なの。僕は卒業分まで既にとっているけど。」
「あなたはほどじゃないけど、数ヶ月休んでも大丈夫な程度にはとっているわ。」
「じゃあ決まりだ。僕とミランダ嬢でコル村の様子を確認しよう。」
「・・・もしレットと言う人物にモニカ様とアメリアが捕らえられているなら助けないと。」
「・・・そうだね、でも慎重に。彼女達の安否の確認が最優先だよ。」
こうして列人達に振り回される哀れな被害者もとい、『学園』からの刺客が動き出した。
三下令嬢ナタルが久しぶりに登場です。
彼女の貴重な情報(ほぼ主観)により、列人が悪役認定されました。
哀れな学生の明日はどっちだ。
ちなみにジーニアスとミランダについては『025_モニカってどんなやつ』で話に出てきています。
気になる方はご確認をどうぞ。




