057_母の思いと赤色の昔話
昨日に引き続き、列人の過去回です。
今回はマリア視点です。
057_母の思いと赤色の昔話
大人達が昔話をしている頃、列人達は4人でマリアの待つ列人の家に向かった。
今日のところは仕事収めの打ち上げでもしようと言う事になったのだが、
「すまん、そういえば自警団に顔を出さないといけない用事があったんだ。
悪いけどしばらく家でくつろいでいてくれ。ついでに食材とか集めるから。」
「ええ、わかったわ、列人。こっちは適当にやっておくから。」
「こら、アル。せっかく招いた女の子を待たせるなんて紳士失格よ。
なるべく早く戻ってきなさい。」
「お義母さん、私は気にしませんので。アルくん気をつけて行ってきて下さい。」
「なるべく早く帰ってくるよ。あとフィオ、さりげなくお義母さん呼びするな。」
「行ってらっしゃい。列人お兄さん。」
「ああ、行ってくるよ。亜美ちゃん。」
このやり取りの後、列人は足早に自警団の詰所に向かった。
「列人お兄さん、行っちゃいましたね。」
「みんな、これはある意味チャンスよ。」
「どういう事ですか。モモカさん。」
「ほら、今列人がいないじゃない。マリアさんから、列人の恥ずかしい話とか聞けるかも。」
「百香お姉さんってほんとにそういうの好きだよね。」
「でもモモカさんの言う通り、少し、いえかなり気になります。」
「あらあら、なんの話かしら。楽しそうね。」
「ええ、マリアさんもお話しませんか。ちょっと聞きたい事もありますし。」
「あら、いいわね。じゃあ私から質問していいかしら。」
「いいですよ。お義母さん。なんでも聞いてください。」
「じゃあ、遠慮なく。ねえ、みんなはアカサカ=レットって言葉に聞き覚えはある?」
この瞬間、3人の表情は凍りついた。それを見たマリアは優しい表情で、
「そう。アルはみんなに話したのね。自分に今とは違う別の記憶があることを。」
「マリアさん、知っていたんですか。どこで。」
「アルから直接ね。多分一番最初に知ったのは私ね。あの子が8歳の時かしら。
少し昔話をしましょうか。」
そう言ってマリアは語りだした。
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今から10年前、村が一番荒れていた時期の事だった。
村が荒れる前のアルは大人しいけど、家の手伝いを良くしてくれてとても優しい子だった。
私と夫とアルの三人で慎ましい中にも幸せな日々だった。
でもある日、大量のモンスターが村に入り込んできて、その退治の為ハンターだった夫が戦いに出て命を落とした。
その上、村を守る男達がいなくなったのをいい事に何処かから悪い人達が入り込んできた。
生活はどんどん苦しくなるけど、私はアルを養う為に必死で働き、その結果体を壊してしまった。
「母さん、しっかりして、目を開けてよ。」
アルが泣いている。起きて「大丈夫だよ」って言わなきゃ。
そんなに泣かないでアル。心配かけてごめんね。
「アル、ごほ、ごほごほ。」
なんで咳が出るのよ。なんで身体が言う事を聞かないのよ。
アルが泣いちゃうじゃない。
「母さん、母さん、ちょっと待っててね。
僕が母さんを守るから、いっぱい稼いでお医者さんも呼んで。」
やっぱりアルは優しい子、私の事をこんなに心配して、大丈夫だからねアル、すぐに元気になるからね。
私の意識が少しずつ遠のき返事もままならなくなった。
「母さん!母さん!母さん!」
アルがとうとう泣き出した。
あんなに顔をぐしゃぐしゃにして、体を起こして抱きしめてあげたいけど、それもままならない。
「くそ、『俺』はまた守れないのか。」
この時、アルの声でアルとは違う誰かが呟いているようだった。
とても辛そうで、それが凄く悲しかった。
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「その時でしょうね。アルがアカサカ=レットさんの記憶を思い出したのは。」
「私の時と同じですね。私も突然桃梨百香の記憶を思い出しましたから。」
「やっぱりモモカちゃんもそうだったのね。もしかしてアミちゃんも?」
「はい。前の記憶では私が子供の時に列人お兄さんと百香お姉さんにお世話になってました。」
「思った通りね。そう考えると色々と納得できるのよ。
モモカちゃんが初対面のアルと妙に仲がよかったのも頷けるわ。」
「そんなに前から感づいていたんですか。」
「伊達にあの子の母親はやっていないわ。さて話を続けましょうか。」
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アルの呟きが聞こえてからしばらく経って、アルがおもむろに立ち上がった。
「しばらく眠っていてください。俺が何とかします。」
私の知らない大人の口調でアルは優しく語りかけ、そして家を出ていった。
私は言い知れぬ不安に襲われながらも、体の不調には逆らえず意識を手放した。
次に目が覚めた時、私の枕元にアルが座っていた。
とても穏やかな、子供をあやす親の様な表情だったのが印象的だった。
先ほど寝たためだろうか、寝る前より体調はいい。
「起きましたか。何か食べたほうがいい。
今ミルク粥を持ってきますのでちょっと待ってください。」
そう言って席を立つ。アルはさっきまであんな大人の様な話し方をしなかった。
ミルクなんてどこから手に入れたのだろう。タンスの上にある袋はなにかしら。
それに服に少し赤い物がついていた。あれはもしかして血、アルは怪我してないだろうか。
色々な疑問が次から次へと溢れて来たがアルが戻って来た為、一旦置いておくことにした。
「お待たせ。熱いから気をつけてください。」
そういってアルが身体を少し起こしてくれ、お粥を冷ましては私の口に運んでくれた。
アルは火をどうやって起こしたのかしら、この子はちゃんと食べているのだろうか。
この粥とても美味しい。この子いつの間にこんなに料理が上手になったのかしら。
ご飯を食べたおかげで少し元気が出てきた。
「アル、あなたは食べたの?」
「大丈夫、さっき食べましたよ。」
何故だろう。声も姿もアルなのに、いつもの優しいアルなのに、話し方は大人で凄く遠く感じる。
怖い、アルがいなくなりそうで怖い。
「ご飯はもういいですか?また寝ますか?」
「ええ、もうご馳走様よ。美味しかったわ。少し話をしましょう。」
ここで話さないと、なんとかしないとアルがいなくなる。
「ええ、いいですよ。なにを話しましょうか。」
「どうして、そういう話し方をしているの。
そんな大人みたいな話し方どこで覚えたの?」
アルの顔色が一気に曇ったのを感じた。でもしっかり話さないと。
でないと本当にアルがいなくなる。
「それにタンスの上に見慣れない袋があるけどあれは何。
あなたの服に赤い物がついているけど、もしかして血、怪我とかしてない?」
「タンスの上の袋にはゴブリンを狩ってきた報酬が入ってます。
この赤いのはその返り血です。怪我はありません。」
「そう、あんまり危ないことをしてはダメよ。
あなたにもしもの事があったら私は生きていけないわ。」
「あの、疑わないんですか。俺が何か悪い事をして金を手に入れたと。」
「なに馬鹿な事をいってるの。アルがそんな事するわけがないじゃない。」
アルの表情が歪むのが見えた。これは泣く前の表情だ。ああ、やっぱりこの子はアルだ。
「すみません。マリアさん。あなたには嘘をつくことができないようです。
これから話す事は信じられない様な事ですが、全て真実です。どうか聞いてください。」
え!マリアさん。
「俺は・・・この体は確かにアルフレットのものです。
そしてついさっきまで確かにアルフレットでした。」
マリアさんって何。
「しかし先ほど俺は前世とも言っていい別の記憶を思い出しました。
その時の名前は赤坂列人です。」
そんな事はどうでもいい。マリアさんって何よ。
「言うならば俺はあなたからアルフレットを奪ったことになります。
この事を知ったあなたが俺を恨んでも仕方ないと思ってます。」
なんで私がアルを恨まなくちゃいけないのよ。そんな事よりマリアさんって何よ。
「しかし、せめて罪滅ぼしがしたい。
アルフレットは間違いなくあなたを愛してましたし、俺もあなたの事が好きです。
だからあなたの身体が治って当面の生活をするお金が稼げるまではそばにいる事を許してほしい。」
アルが私のそばにいる事なんて当たり前じゃない。どうしてそんな事に許可を取るのよ。
「マリアさん、これから少し出掛けて来ます。
医者を呼ぶためのお金が稼げる仕事が見つかりましたので。
もしご不快ならそれを最後にここを離れようと思います。」
マリアさんって何よ。私はあなたの母親よ。
それにここから出て行く。
ふざけないで、私が不甲斐ないから、なんであの人もアルも私を置いて行こうとするのよ。
「ねえ、アル、どうして母さんって呼んでくれないの。」
「え!」
そうだ、私は母親だ。
「俺にはその資格がありません。」
「聞いて、アル、私はあなたの母親よ。例えあなたが認めなくってもね。」
この子がなんと言おうと、この子にどんな記憶があろうと、
「でも、俺はあなたの知るアルフレットじゃない。」
「あなたはアルよ、あなたのその別の記憶も含めてあなたはアルフレットよ。
あなたに別の記憶があったとしても、あなたは私の息子よ。」
そうだ、この子は間違いなくアルだ。
優しくって、私を愛してくれて、今だって私を思って泣いてくれている。
別の記憶がなんだというの。この子は私のアルだ。
「いいんですか?母さんって呼んでもいいんですか。」
「当たり前じゃない。それから無理に大人の話し方をする必要もないわ。」
「わかった、ありがとう。『母さん』」
「うん、それでいいわ。あんまり危ないことしちゃダメよ。」
「善処するよ。母さん」
「そこは素直に『はい』と言っときなさい。じゃあ私は少し寝るからね。
気をつけて、無事に帰ってくるのよ。」
「ああ、行ってくるよ。母さん」
こうして、私とアルは再び親子となった。
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「はい、これで昔話はお終い、どうだったかしら。」
「お義母さん、お義母さん、私、わたし・・・」
「あら、フィオちゃんそんなに泣いちゃって。
私の語りもなかなか捨てたものじゃなさそうね。」
「列人お兄さんにそんな過去があったなんて。
普段はおちゃらけているからわからないけど。」
「列人の奴、あっちでもこっちでも大変よね。
でもこっちのほうがまだましかな。」
「え、アルって向こうでも何かあったの?」
「モモカさん、私気になります。
だってアルくんって、アカサカ=レットだった時の話全然しないんですもん。」
百香の言葉に全員が食いつく。
「まあ、あんまり愉快な話じゃないからね。
あいつ、あっちでは捨てられっ子だったのよ。
ヒーローの施設に捨てられて親を知らずに生きてきたの。
両親健在の私には想像もつかないわ。
だからでしょうね。
アルフレットからマリアさんを母親を奪ったと思って罪悪感を感じていたんでしょう。
あいつ変なところで真面目だから。」
「百香お姉さん。それ私も初耳。
そんな話本人の許可なく話していいの。」
「大丈夫、別にあいつ隠してないから。
自分からしないだけ。私に話した時もあっけらかんとしてたわ。」
「なんか列人お兄さんらしいよね。」
「そうよね、だから私はマリアさんに感謝しているの。」
「え、どうしてかしら。モモカちゃん。」
「あいつに母親を教えてくれたから。
やっぱり仲間が幸せなほうがいいじゃない。」
全員がしみじみしているところへフィオが口を開く。
「そうですね。後は私と結婚して幸せな家庭築けば完璧ですね。」
「そうよね。今のところあの朴念仁が異性として意識しているのってフィオちゃんだけだからね。」
「え、そうなの。私にはそうは見えなかったよ。」
「ううっ、なにげに酷いです。アミさん。」
「でもあれで脈アリってどうしてわかるの。
我が息子ながら恋愛感情は死んでるんじゃないかってくらい、女の子からの好意に全く気づいていないのに。」
そう、列人はコル村限定で物凄くモテるのである。
なのにそのことに本人が気づいていない事にマリアは頭を抱えていた。
時々、列人を好きな女の子がマリアのご機嫌を取って外堀を埋めようとしていても、当の列人はと言うと母親は若い子とも仲がいいんだなぁ、くらいにしか思ってないのである。
「あいつは本当にどストレートに好意を伝えないとわからないのよね。
以前あいつが訓練をしている時に一人の後輩の女の子が『付き合ってください』って告白したのよ。」
「え、それってどストレートな告白だよね。
列人お兄さんにそんな甘酸っぱい思い出があるなんて聞いたことがないよ。」
「それでモモカさん、どうなったんですか?」
「あいつ、それを『訓練に付き合ってくれ』と思い込んだらしく、その後輩相手に1時間模擬戦始めちゃったのよ。」
「「「うわぁ~~、それはひどい。」」」
百香の話に3人の心はシンクロした。
あまりの酷さにその後輩が不憫でならなかった。
「だから、いくらぞんざいに扱われても好意を示し続けるフィオちゃんには期待しているの。」
「確かにね。でも私はモモカちゃんに期待してるんだけどな。」
マリアの発言に百香の声が1オクターブ下がる。
「マリアさん。なんでそう思うんですか?
私とあいつはただの腐れ縁ですよ。」
「だって、あなたとアルのやり取りって、もう恋人通り越して夫婦なんですもの。」
この発言に百香がしばらく固まり、それから反論する。
「・・・失礼な事を言わないでください。
誰があんなデリカシー0の鈍感男を好きになるんですか。
あんまりいい加減な事言うと列人を殴りますよ。」
「うわぁ、まさかの列人お兄さんへ飛び火。」
「モモカさん、ここにアルくんを好きな女の子いますよ。」
「モモカちゃんもかなり失礼だけど、言ってることが合ってるだけに言い返し辛いわね。」
列人の鈍感さについて女性陣がギャーギャーと姦しく話していると
扉からノックの音が聞こえた。列人が帰ってきた。
列人はテーブルに荷物をおきながら女性陣に話しかける。
「ただいま、何話してるんだ。」
列人の声に百香が反応する。
「くたばれ!列人!!」
叫び声と共に百香の左拳が弧を描き、列人のレバーへと吸い込まれていく。
見事なブーメランフックである。
列人は堪らず身体をくの字に曲げ、咳込みながら抗議する。
「ごほ、ごほ、百香!テメー!いきなりなにしやがる!」
「うるさいわね!マリアさんが失礼な事を言ったから代わりに殴られなさい!」
「理不尽すぎるだろう!テメー!今日こそ白黒つけてやる。表出ろ!」
「上等じゃない。やってやろうじゃないのよ!」
本当に列人を殴った百香を見てドン引きする3人を尻目にそう啖呵を切ってから、2人は村の広場へと走っていった。
そこでは女性相手に顔面グーパンを容赦なく叩き込む男と、男性相手とは言え木製の棒(鉄より硬い)で素手の相手を容赦なく打ち据える女の、なんとも醜い戦いが繰り広げられていた。
この殴り合いは1時間続いた後、住民の通報を受けたバクラが2人に鉄拳を叩き落とす事で決着した。
このあまりに馬鹿らしい争いにゲオルグはドン引きし、治療を拒否。(当然亜美も拒否)
大いに顔を腫らしていた二人だが、次の日には元に戻っていたという。
ヒーローは回復力も規格外なのであった。
尚、この日を境に今まで燻っていた列人と百香の恋人説は完全に消失した。
このエピソードが列人が村を守るようになった一番の理由だと思います。
マリアは親を知らない列人の初めての母親です。
最後の殴り合いは重めのエピソードに耐えられなくなって筆者が思わずやってしまいました。
百香とは男女の仲ではなく、河原で殴り合う男友達の関係の方が近いでしょうか?
百香はこんな事でいいのか筆者は時々不安になります。




