055_ヒーロー赤坂列人の噂
本日2話目です。
今回ゲオルグ先生がコル村に到着します。
後もう少しでコル村は無医村脱却です。
055_ヒーロー赤坂列人の噂
その後、ゲオルグの指示のもとチル集落での看病が始まった。
ゲオルグの指示は的確で、エレメンタルズはそれに従うだけで、野戦病院の環境は普通の臨時病院くらいまでには改善された。
主な役割は百香がゲオルグと共に薬の調合、亜美が治癒魔法による治療と看病、列人がその他の雑用である。ゲオルグは3人の働きに目を剥いた。
まず百香は薬の調合をゲオルグに教えてもらい、少しも立たないうちに今回の治療に必要な調合を全て覚え、もうゲオルグの代わりができるほどだ。
亜美は軽症のものを治癒魔法で回復させつつ、コルト病以外の病気にも対応し、患者を減らしていった。
ゲオルグによるとコルト病は患者の体力を急激に奪う病気のため、治癒魔法で治すと体力が奪われすぎて逆に衰弱死を招く事があるらしい。
従って、治癒魔法は軽症のものに限られるのである。
ちなみに『アナスト』でゲオルグ無しで犠牲が出るのもこれが原因である。
治癒魔法は他の病気には対応できるので現場の負担は大きく軽減された。
そして、雑用係の列人。ゲオルグとしてはこれが一番助かった。
コルト病は体力を奪う病気である。つまり環境が悪ければ体力が回復せず治りが悪くなる。
それを列人の馬鹿みたいな仕事量と洞察力を持って一気に解決したため、今までと比べて格段に治りが良くなった。
ここで列人が持つ必要な物資を的確に配分する能力(メンバーからはストーカー扱いされるレベル)がここぞとばかりに役に立った。
一言二言指示を出しただけで、見る見る環境を良くしていく列人にゲオルグも度肝を抜かれた。
そして看病に明け暮れる事、丸2日が経過した。
懸命な看病の甲斐もあり集落での治療はほぼ完了した。
ちなみにコル村の方には『メッセージアイリス』で連絡済み。
急遽泊りがけになった事をフィオに伝えると、
「誰の目もないからってモモカさんとアミさんにいやらしい事しないでくださいね。
そういうことはまず私としてください。」
等といつも通りの返事が返ってきた。
列人はこれに慣れてしまったら人として大事なものを失うと思い、懸命にフィオに抗議した。
ゲオルグは今回の報酬として、コルト病の治療法の伝授とコル村の村人全員の健康診断及び必要であれば治療を約束してくれた。
チル集落での治療は終わったものの、さすがに今まで休みなく治療をしていた為、すぐに出発というわけにはいかず、もう1日集落で厄介になることにした。
列人としては走って15分もあればコル村につくため帰っても良かったのだが、さすがに仕事完了までは自分だけ帰るのはどうかと思ったのでやめた。
コル村に帰る前の日の事、百香がふと気になった事をゲオルグに質問した。
ゲオルグと列人が出会った時の会話についてである。
「ゲオルグ先生、列人と会った時の会話で気になる事があるんですけど、聞いてもいいかしら。」
「はい、モモカさん。どこが気になりました。」
「あいつの名乗りですよ。あいつ赤坂列人って名乗ったじゃないですか。
でもあいつの本名ってアルフレットなんですよね。
どうしてあの名乗りでエレメンタルズの列人だと思ったんですか?」
「ああ、そのことですね。実は巷ではこんな噂があるんです。
モンスターや盗賊などに襲われたり、権力者の横暴に嘆いている人の元に颯爽と現れて助けてくれるヒーローを名乗る青年がいると。
その青年は自分の事を『エレメンタルズのアカサカ=レット』と名乗り、超人的な力で善良な市民を守ってくれると。
ただその青年は口が悪く、一見粗暴に見えるが決して弱いものは傷つけず、間違っている事に毅然と立ち向かう。
そんな正義の味方、真の騎士の様な青年だと。」
「それ絶対に誇張されてるわね。
あいつはただ自分が気に入らないものに対して牙を剥いているだけですよ。」
「でもそれが善良な市民の為になっていると言う事です。
つまりレット殿は正しい人が傷つくのが嫌いなんでしょう。」
百香は転生直後の列人のセリフを思い出していた。
『一部始終見せてもらった!白昼堂々、女性一人を複数人で襲うとは見下げた輩だ。
ハンターチーム_エレメンタルズ所属 赤坂列人が地獄に送ってやる!』
転生しても列人は列人ってことね。
物思いに耽っているとゲオルグが言葉を続けた。
「あそこでアルフレットと名乗っていたらきっと私は疑っていたでしょうね。
その青年は必ずアカサカ=レットと名乗るそうですので。」
「・・・・」
この言葉を聞いて百香の表情に僅かに影が落ちた。
列人は10年間ずっとエレメンタルズの赤坂列人でいる為に必死だったのだろう。
アルフレットに転生したのだから、本来はアルフレットとして生きなければならない。
にも関わらず自分の事を赤坂列人だと認識している。村の人間は全員『アル』と列人の事を呼ぶ。
アルフレットになった事自体は嫌いではないだろうが、アイデンティティの部分で齟齬が発生してしまう。
そのズレを解消する為にせめてヒーローらしい事をした時には『赤坂列人』と名乗っていたのだろう。
亜美ちゃんはその辺をどうやって折り合いをつけているのだろう。
今度3人で話してみるのもいいかもしれない。そんな事を思う百香だった。
そして、出発の時。エレメンタルズとゲオルグは集落の住民の感謝の声を受けてコル村に向かった。
今回グレートサイクロン号にはゲオルグも乗るので低速通常走行(時速50キロ)だ。
それでも一般人のゲオルグにはかなり早いため、乗っている間は顔色を悪くしていた。
最初、高速通常走行(時速100キロ)で帰ろうとしたのだが、ゲオルグの悲鳴と共に断念した。
その時の様子がこちらだ。
「では、村に帰りますか。ゲオルグ先生これに乗ってください。」
「なんですか、この物騒な大八車は。戦争にでも行くんですか。」
ちなみにゲオルグはずっと薬の調合をしていた為、グレートサイクロン号を見るのはこれが初である。
まあ、普通はバス並みの大きさの金属製の大八車を見ればこういう反応になる。
だが、列人はお構いなしだ。
「では、全員乗ったか?出発するぞ。シートベルトを締めて。
発車カウントダウン5,4・・・・0、発車」
「ちょっと待って下さい。これあなたが引くんですか。
って、速い、速い、速い、止めて、止めて、止めて~~~」
「なんですか~、ゲオルグ先生、初めての乗り物だからって少しはしゃぎすぎですよ。」
「こら、列人。スピード落としなさい!!ゲオルグ先生が失神してるわよ!!」
「ゲオルグ先生、しっかりしてください。」
列人もさすがにまずいと思い、すぐにスピードを落とした。正座で説教はいやなのである。
スピードを落とした事でゲオルグはなんとか復帰したがそれでもやはりきつかったようだ。
ひと悶着あったものの特に何事もなく
(ただし途中でゴブリンの群れをひき逃げした事は除く)
無事コル村にたどり着いた。
村にたどり着くとすぐにフィオが迎えに来た。今日は非番のようだ。
ちなみにフィオはエレメンタルズの専属となっている為、エレメンタルズがいない時に休暇を取っている。
「おかえりなさい、アルくん、モモカさん、アミさん。
ゲオルグ先生、ようこそコル村へ。」
「ああ、ただいま、フィオ。」
「こんにちは、フィオさんでいいかな。
確かに私がゲオルグだが、君とは初対面だったと思うが。」
「はい、アルくんから連絡を受けてましたので。
アルくん、マスターが呼んでましたよ。私も一緒に行きますね。」
「わかった。ゲオルグ先生。
この村を取り仕切っているハンターギルドのマスターバクラのところに行きます。
そこで今後について話し合いをしますので、もうしばらくお付き合いください。」
「ありがとう、レット殿。案内をお願いするよ。」
「・・・・・」
列人達はバクラのところまでゲオルグを案内する。
まだゲオルグがいるので、列人もフィオも猫を被っており、亜美が何か物言いたげに2人を見ていた。
そしてハンターギルドのマスター室に到着。
「マスター、ゲオルグ先生を連れて参りました。」
「ああ、ご苦労だったな。エレメンタルズ。
それよりなんだアル。その気色の悪い喋り方は?
いつもの話し方でいいぞ。」
「マスター、ゲオルグ先生の前です。」
「ああ、そういえばお前身内と他人で喋り方変えていたな。」
列人の猫かぶりについては、バクラも周知の事実だった。
何故ここまで猫かぶりができる癖に貴族の対応ができないのか、バクラは不思議でならなかった。
「レット殿に取って私はまだまだ他人と言う事かな?」
「いえ、敬意を払うべき相手とそうでない相手をきっちり分けているだけです。」
なるほど、つまり貴族は敬意を払う価値がないと判断しているわけだ。
バクラはなんとなく列人の思考を理解した。
そして親しい相手に態々敬意を示す必要がないと言う事も。
「紹介が遅れて申し訳ありません。ゲオルグ医師。
私が当ギルドのマスター、バクラです。
今回は我々の招きに応じていただき、感謝いたします。
レットの喋り方については気にしないでください。
こいつは気に入った相手にしか丁寧に喋りませんので。」
「そういう事で納得しておきますよ。
できれば私もレット殿の身内になりたいとは思うのですが、それよりも今後について話をしましょう。」
バクラの丁寧な挨拶にゲオルグが応じる。
なんだかんだでゲオルグも列人を気に入っていた。
ゲオルグは依頼を果たし、列人に報いるべく行動に移る事にした。
ゲオルグにとって弱い者の味方であるヒーローアカサカ=レットは同志とも言える存在です。
医療で人を救いたいと思っているだけのゲオルグは弱いものを守るアカサカ=レットにシンパシーを感じたのかもしれません。




