042_領主との会談
本日2話目です。
娘はあれですが、領主はまともです。
042_領主との会談
公園での事件の後、一旦荷物を置きに宿屋に戻る事にした。
途中で色々買い物をしていたら、荷物が嵩張って動きづらくなったからだ。
宿に入ると受付のお兄さんが声を掛けてきた。
「やあ、レットさんだよね。ちょっと手紙を預かっているんだけど、読んでくれないか。
どうやら領主様の使いで急用らしいんだ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
お兄さんにお礼を言いながら手紙を受け取る。
「ねえ、列人。どんな内容なの?」
「領主からの手紙だな。娘の非礼を詫びたいと書いている。」
「え!あなたってただのハンターでしょう。何で領主が自ら謝るの?」
「モモカさん、アルくんってハンター業界では結構有名なんですよ。
1人でいくつも犯罪組織潰したりしてますし、しょっちゅう高額モンスター討伐してますし。」
「ああ、そういえばこいつそんなヤクザみたいな事やってたわね。
もしかしてみかじめ料とか取っているの。」
「誰が取るかよ。だいたい今の内容でなんでヤクザなんだよ。」
「いや、だって領主がビビるレベルでしょう。これって絶対真っ当な事してないわよね。」
「モモカさん。一応アルくんは法に触れる事はしてませんよ。ただ無茶が過ぎて聞いたら引くレベルですけど。」
百香の列人に対する濡れ衣に対して、フィオが至極真っ当な意見を返す。
さすがにこれ以上無駄話を続けても仕方ないので百香は話を変える。
「ちなみにどんな人なの?領主様って。」
「そうだな。政治手腕は凡庸だが人格者で知られている。
人情味がある善政を敷いているな。ただ身内に甘いのが玉に瑕だ。」
「そうなんだ、所でどうするの。行くの?」
「そうだな、フィオ次第かな。別に俺達が領主に態々謝ってもらうってのも違うしな。
ちなみに呼び出し場所は人気のケーキ喫茶だ。多分奢ってくれる。」
「行きます!!!」
「・・・フィオちゃん。」
「・・・やっぱりな。」
ここの領主は自分達についてかなり細かいところまで調べているのではないかと列人は思った。
(少なくともケーキ喫茶に誘えばフィオが引っかかる事を把握している)
他人に自分の事を知られるのはあまりいいものではない、自分のしている事を棚に上げて思う列人である。
そして、約束の喫茶店に到着。
店に到着すると燕尾服の紳士(おそらく執事さん)が入口の近くに立っており、領主の元に案内してくれた。
領主はやや小太りの優しそうな人物だった。
列人達に愛想良く挨拶をして来たので、列人達も応じる。
「まず、こちらの呼び出しに応じてくれた事に感謝します。
シドニー=アンスバッハです。」
「これは領主様、お招き感謝いたします。
お時間を取られせしまい、大変恐縮です。
コル村のハンター、列人です。こちらは連れの百香とフィオです。」
「お初にお目にかかります。
お会いできて光栄の至りです。シドニー=フォン=アンスバッハ様。
列人と同じくハンターの百香です。」
「コル村のギルド職員のフィオと申します。
アンスバッハ伯爵様。
お会いできて光栄です。」
アンスバッハ、列人、百香、フィオがそれぞれ挨拶をする。
列人が権力者に普通に挨拶している事に驚く方もいるかもしれないが、列人は別に『権力を持っている人間』が嫌いなわけではない。
『権力を振りかざす人間』が嫌いなのである。
そしてこの嫌いの感情がはっきり表に出るのが列人の欠点である。
ちなみに百香が言った『フォン』とは正式に爵位を持つものへの敬称である。
「堅苦しい挨拶はここまでにしよう。
今回は娘が迷惑を掛けて済まなかったね。
事情は護衛をしていた者に聞いている。
父として謝らせてもらうよ。
ここではただのシドニー=アンスバッハだよ。」
この言葉だけでアンスバッハは貴族、領主としてではなく、父親として来たと言っている事が分かる。
さすがに貴族が軽々しく平民に頭を下げるわけにはいかない。
「そうでしたか。こちらこそ売り言葉に買い言葉とは言え、ご息女にかなりキツイ言葉を言ってしまいました。
正直大人げなかったと反省しております。」
「そのようですね。しかしあなたの立場なら無理からぬことです。
お互いに謝ったと言う事で、この件は手打ちでよろしいでしょうか。
よろしければ、一緒にケーキ等如何ですか。ここのケーキは絶品ですよ。」
「お心遣い感謝いたします。是非ご一緒させていただきます。」
列人とアンスバッハがお互いに謝りあったことで和解は成立し、ここからは穏やかなお茶会となった。
列人はケーキを1つと紅茶を、百香はケーキ2つと紅茶、フィオはケーキ5つと砂糖たっぷりのコーヒーを頼んだ。
ちなみにアンスバッハの前には既に5つのケーキが並んでおり、更に追加で3つケーキを注文していた。
フィオとアンスバッハは甘いもの好きで意気投合し、2人でケーキ談義に花を咲かせていた。
それを見ていた列人と百香、執事さんは若干引き気味であった。
和やかな空気の中、会談は一通り落ち着いたところで、百香はアンスバッハにもコルト病の情報を伝えておく事にした。
「実は領主様のお耳に入れておきたい事がございます。」
「それは領主に、と言う事でよろしいのですか。モモカさん」
この瞬間、アンスバッハの目つきが一気に鋭くなった。
これはひとつの街を任せられた領主の顔つきである。
「はい。これはまだ未確定の情報なのですが。
実は私、薬学の知識も多少持っておりまして、ここ最近『コルト病』発生の兆候が見られるのです。」
「コルト病!!あの死の病として恐れられている。」
コルト病の名前を聞き、アンスバッハの表情に驚きの色が浮かぶ。
「はい、つきましては対策としてある方を探して頂きたく思います。」
「ある方とは?」
「『放浪の名医_ゲオルグ医師』です。
私の情報が確かならばこのバンの街の近くに来ているはずです。」
実の所、百香に感染病発生の兆候等見分けられない。
何故ならこれはゲーム『アナスト』の知識だからである。
『アナスト』ではバンの街の近くに医者がいるという描写がされていたが、出現がランダムで細かい位置の指定はされていなかった。
そこで、領主の力で探してもらおうと思ったのである。
ちなみにゲームでのコルト病のイベントは、ゲオルグ医師を見つけて治療してもらうか、
見つからず犠牲を出した後に主人公アメリアの癒しの力がパワーアップして生き残った何人かを治療すると言うものである。
尚、パワーアップについてはゲオルグ医師を見つけても普通に発生する。
「その情報が本当なら一大事です。
早急に対策を打たせていただきます。
モモカさん、情報提供感謝します。」
「よろしくお願いいたします。領主様。」
「では、私はここで失礼させていただきます。
払いは済ませておきますので、皆さんは引き続きケーキをお楽しみください。
今日は謝罪にきたというのに楽しませてもらい感謝しているよ。」
そう別れの挨拶をし、アンスバッハは足早に去っていった。
この様子ならおそらく全力で『放浪の名医』を探してくれるだろう。
その後、フィオが追加でケーキを2つ頼んだところで百香がストップをかけ、3人は店を後にするのであった。
宿に帰った後、フィオがお説教された事は言うまでもない。
ネタバレ
実はゲオルグ医師は既に本編に出てきております。
まあ、こんなこと書かなくても大体の人はわかると思いますが。




