015_頼って頼られて
015_頼って頼られて
「すまないな、モモカ。
実はアルの事でお前に頼みたい事があってな。」
お茶を入れながらバクラはそう切り出す。
「頼み・・・ですか?」
「そうだ、とその前にお前から見て今のアルをどう思う。
なんでもいい、率直な感想を聞きたい。」
「今の列人ですか?そうですね。
周りの皆さんはいい人みたいで、列人も慕われているようですし、人間関係については安心しました。
ただ、列人自身は以前・・別の記憶の時と比べると力が落ちているようで、時折焦った感じが見られます。
さっきのバクラさんとのやり取りで特に顕著に出ていました。
きっと、どうやったらうまくいくか1人で悩んでたんだと思います。
そのせいで私も少し頭にきて、見苦しい所を見せてしまいました。
・・・あいつ、本当は村を出るなんて考えたくもないくせに。
『あいつはギリギリになるまで、1人で抱え込むから困る』と光太郎さん、えっと別の記憶での先輩も言っていました。」
苦い表情で百香がお茶を一口飲む。気分を落ち着けたいのだろう。
そんな百香に対してバクラは意外そうに返事をする。
「そうか・・・あれで力が落ちているのか。
俺が思っていたことと違うな。
俺はてっきりあいつが普通より遥かに強い力を持っているから村のみんなを守る為に重圧を感じていると思っていた。
まさか力不足を感じているとはな。
その別の記憶の時ではあいつとはどんな関係だ?」
「戦友っていうのが一番しっくり来るでしょうか。
同じ部隊で5年間一緒に戦っていました。
その時のチームの名前がエレメンタルズです。」
「なるほどな。
それでレットという呼び名とエレメンタルズというチーム名に拘るのか。
・・・さてここからが本題なんだが。」
「頼みたいこと、というやつですね。」
バクラが居住まいを正して真剣な顔で百香を見る。
百香もそれに応じて居住まいを正す。
「ああ、頼みと言うのはアルの能力の事だ。
アルの炎の能力については知っているな。」
「はい、よく知っています。」
「では、炎の勇者の伝説については知っているか?」
「そちらについても知っています。」
「だったらわかるだろう。
アルの能力は伝説に出てくる炎の勇者にそっくりだと。」
炎の勇者の伝説
列人の住むコル村のある国、フラム王国に伝わる伝説。
『世界を滅ぼさんとする魔王が魔物の大群を引き連れて現れるとき、
炎の剣を携えし勇者が癒しの神子と共に現れるであろう。
勇者は神子と共に魔王を打倒し世界を救わん。』
というのがその内容である。
この伝説は平民にはあまり知られていないが上級貴族くらいになると大体知っている。
このフラム王国の王族は炎の勇者の末裔とされており、歴史上、剣に炎を纏わせられるのは王族だけである。
「俺はな、お前がモニカ=ローゼスベルクと思った時に貴族がアルの能力を嗅ぎつけてそれを利用しに来たと考えた。
そして如何にお前を排除しようかと考えた。
すまなかった。」
頭を下げるバクラに対して、百香は微笑みながら答える。
「いえ、列人の事を真剣に考えてくれているからの事だと思います。
私はそれを聞けてとても嬉しいです。」
「・・・そんなお前だからこそ頼みたい。
アルはこれからその力から色々面倒な目に遭うだろう。
その時アルの支えになって欲しい。」
バクラの頼み事に百香は思わず目をパチパチと瞬かせ困惑する。
「えっと・・・そんなことですか?」
「・・・ああ、お前にとっては当たり前すぎる事なんだな。
だがな俺、いや俺達にとっては大事なことだ。
アルはとにかく人の事を頼らない。
それがモモカ、お前の事では俺を頼った。
アルのやつに頼られたのは実は今回が初めてだ。
・・・正直嬉しかった。
だからこその頼みだ。
俺もお前たちが困ったら最大限力を貸す。」
「ありがとうございます。その時は頼らせて頂きます。」
百香は異郷の地にも同志がいる事を知った。
バクラは新たな同志を迎える事ができた事を知った。
近くに頼れるもの、頼ってくれるものがいる大切さを再認識する百香である。
一方、百香がバクラと話している頃、先に家にたどり着いた列人は早速母親であるマリアと話す事にした。
バクラが百香を引き止めたのはもちろん百香と話をしたかったのもあるだろうが、列人とマリアが話す時間を作る為でもある。
バクラはできる漢なのだ。
「お帰りなさい。アル、モモカちゃんは?」
「バクラに捕まってるからもう少し帰りが遅くなる。
母さん、ご飯はどうした。」
「遅くなるって聞いたから先に食べたわよ。
あなたはどうする。」
「百香が帰ってからでいい。
それまでちょっと大事な話があるんだけど。」
「何かしら?」
列人は百香を助けてから今までの経緯、バクラとの会議の内容についてマリアに話した。
さすがに百香の前世がヒーローであった事は言えないが、百香がモニカ=ローゼスベルク公爵令嬢である事やそれにより命を狙われている事についても話した。
「それで迷惑を掛ける事になるんだけど、百香を匿うのに協力者が必要なんだ。
母さんにもお願いしたいんだ。」
「そう、わかったわ。具体的には何をすればいいの?」
まさかの即答に列人は少し困惑した。
「・・・母さん。そんなにあっさり了承していいの?
俺が頼んでる事って結構危ない事だと思うんだけど。」
「でもあなたは私を頼った。
それだけモモカちゃんの事を守りたいんでしょう。
それに親は子に頼られて嬉しいものよ。
昨日言った事、ちゃんと憶えていたのね。」
「・・・ふぅ、叶わないな。
母さんにはこの家に国の連中が来た時の対応を頼みたい。」
笑顔で答える母に列人は観念したという表情で話を続ける。
モニカ公爵令嬢が乗った馬車が襲われた為、いずれ調査隊が出て、この村に来る可能性がある事。
その時、国の連中に百香を逢わせるわけにはいかない事。
列人が対応すると揉める可能性が大である事。(バクラ談)
よってこの家に国の連中が来た時の対応はマリアが適任である事。
以上の説明を列人はマリアにした。
「そういう事ね。わかったわ。その時は任せて。」
マリアは列人に笑顔を深くして応じる。
実のところ、マリアは病気して以来、息子に頼られなくなった事を寂しく思っていた。
故に息子がガールフレンド(マリア視点)の為に自分を頼っているという状況を嬉しく思うのだった。




