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107_それぞれの自己嫌悪

ミランダの停学が決まった直後の話です。

サブタイ通り若干重めの内容があります。

107_それぞれの自己嫌悪


ミランダは自己嫌悪に襲われていた。

王太子を引っぱたいて停学とかありえない。

停学が決まったから復学するまで『学園』の寮を追い出されることになった。

今はヴィルヘルム騎士団長の家に列人達と一緒に厄介になっている。

ミランダが塞ぎ込んでいると頭上から能天気な声が降ってくる。


「いや~、ミラ。よくやってくれた。おかげでスカッとしたよ。」


「こら!列人お兄さん。本人は気にしてるんだからそんな風に言っちゃダメだよ。」


「いや、だって俺が言いたかった事の大半を言ってくれたんだもん。」


「だもん、じゃないよ。なんでいつもそうデリカシーがないの!」


「あの~2人とも。落ち込んでる人の頭の上で騒がないでくれるかしら。」


「「あ、すみません。」」


ミランダの突っ込みに思わず2人は謝ると共に少し心配になる。

突っ込みにいつものキレがない。これは緊急事態である。

最もこんな事に緊急性を感じる当たり、エレメンタルズ特有の能天気さの賜物だと言える。


「ねぇ、ところでこれからどうするの。私のせいで学園に侵入できなくなったじゃない。

殿下の訓練の件とか、国王陛下にどう説明するのよ。」


「その件だがもうアズさんには連絡入れてるよ。

そうしたら、ミラと俺達に会いたいってさ。」


「はぁ!私が国王陛下と謁見!!」


「いや、そんなに緊張する事ないと思うぞ。

あの人って気の良いおじさんだから。」


「列人お兄さん以外にそんな風に王様の事を言う人はいないよ。」


「いや、ヴィルヘルムもそうだぞ。」


「2人が特殊なんだと思うよ。ちなみに私も参加かな。」


「うん、亜美ちゃんも参加。俺達にヴィルヘルムを加えた4人だな。

ちなみに会うのは今日の夜だから。」


「急だね、なんか少し気が重いなぁ。」



国王と会うことに驚きを見せるミランダと口で言っているほど緊張していない亜美であった。


時間は少し進みこの日の夜、

この国の王子ギルバートは父王であるアズイールの元にやってきていた。


「はぁ、父上。どうやら私は本当にダメな人間だったらしいです。」


「いきなりどうしたのさ、ギル。いくらなんでも落ち込み過ぎだろう。」


「いえ、これが落ち込まずにいられますか。

私は自分がどれだけ婚約者を思いやれないダメな人間だったかを思い知らされました。」


「なにがあったか聞かせてくれるかい。」


ギルバートは昼間に『学園』であった事を説明する。

それを聞いたアズイールが思わず渋い顔をする。


「それはまずいね。レット君相当怒っていただろう。

それにあのミランダ嬢がそんなに怒るなんてよっぽどだよ。

ちなみになにが原因かはわかっているんだよね。」


「はい、レットは私のモニカ嬢に対する態度が不誠実だったと言っておりました。

確かにその通りです。

私は婚約者であるモニカ嬢より自分を気に掛けてくれるアメリアの方に気持ちが向かっていました。

しかもモニカ嬢の窮地とも言えるあの裁判で私はモニカ嬢を疑ってしまった。

結果、徹底的な調査を行う事をせず、冤罪に追い込んでしまった。

にも関わらずアメリアにあった時には退学の理由を問い詰めるだけ。

思えばコル村から帰ってきたミランダ嬢にモニカ嬢の安否の確認もしていなかった。

これでは不誠実だと言われても仕方がない。」


「そうだね。ギルは失敗してしまったね。

では今後はどうするつもりなんだい?」


「それは、わかりません。私は失敗しました。

私に何かする資格があるでしょうか。」


ガタン!!!

部屋の中に突如ドアが乱暴に開く音が響く。


「この馬鹿王子が!ふざけた事抜かすんじゃねえぞ、コラ!!」


落ち込んでいるギルバートの元に突然の闖入者が現れ、罵声を浴びせる。

列人である。


「ちょっと、列人お兄さん。勝手に出たらダメだよ!」


「そうよ、陛下の指示があるまで外に出るなって言われたでしょう!!」


「うるせえ!さっきから聞いていたらウジウジウジウジと。

泣き言言っている暇があったら考えて動けってんだよ!!」


「ああ、やっぱり。そろそろ我慢できなくなると思ってたよ。」


部屋に勝手に入っていった列人を亜美とミランダが止めに入るが列人は止まらず、その様子にアズイールが思わずため息をつく。


「君はレット。どうしてここに。」


「俺の事はいいんだよ。それよりテメーだ。

またそうやって何もせずに終わるつもりか。

また同じ失敗を繰り返すのか。」


「だったらどうしろって言うんだ!!」


列人の罵声に対してギルバートが思わず叫び返す。

その表情には憤りと後悔がありありと伺える。


「私は・・・・私は失敗したんだ。

もうモニカ嬢もアメリアも戻ってこない。

私がモニカ嬢を蔑ろにし、アメリアに依存した為だ。

私の自業自得で大切な人を傷つけたんだ。」


「それがどうしたって言うんだ。百香も亜美ちゃんも生きている。

まだ全然手遅れじゃないだろうが!!!」


列人の鬼気迫る様子と怒声に全員が声を失う。

この凍りついた空気の中でも、列人の勢いは留まる事を知らず、激情のまま言葉を吐き出す。


「生きてるんだったら、いくらでも取り返しがつくんだ。

2人に悪いと思うなら土下座でもなんでもして許してもらえ。

とにかく2人に向き合って胸の内を全部伝えろ。

死んだらそんな事できなくなるんだからな。」


「ちょっとどうしたの!レット。

さっきから生きてるとか死んだらとか、一体なにがあったの。」


ミランダは列人の発言に困惑する。明らかに列人の様子がおかしい。


「ミラ、君は百香の事を無敵の超人か何かと勘違いをしているが、この間の戦いであいつは一歩間違えば死んでいたんだ。

俺はもう二度とあいつの死ぬところを見たくないんだ。」


列人の言葉にいよいよ意味が分からなくなったミランダが困惑しながら聞き返す。


「どういう事なの。まるでモカが死ぬところを見た様な言い方して。」


「あいつは、百香は俺の目の前で一度死んでいるんだ。

あいつが生きながら焼かれて苦しんでいるのを俺はただ見ていることしかできなかったんだ。」


この時列人は前世で死んだ時の記憶を思い出していた。

百香を庇う為に身体覆い被せ百香の盾になろうとしたが、『化物』の自爆の炎はその程度では当然防げず、炎に耐性のある列人は百香が焼かれて死ぬ光景を見続ける事になったのだ。

当然この事を知っている人間はここにはいない。

傍から見れば列人が訳も分からず錯乱しているようにしか見えない。

ただ1人を除いて、


「俺はもううんざりなんだよ。自分の大事なものが自分の無力で失われるのを見るのは。

だから失わない為に必死で足掻くんだ。

なあ、ギルバート。お前はまだ何も失ってないだろう。じゃあ足掻けよ!」


「もうやめてよ。列人お兄さん!!!!」


列人の叫びに亜美はボロボロと涙を流していた。

この中で一番自分の無力を悔やんでいるのは亜美である。


「もう、やめて。それ以上自分を傷つけないで。

私には解るから、私だって同じだもの。」


この時亜美は列人と百香が死んだ知らせを受けた時の事を、そして自分を庇って命を落とした前世の夫『エレメンタルブラック』の事を思い出していた。


パンパン


「みんな、一旦落ち着こう。お茶でも入れるからそれを飲んでそれから話そう。」


この状況を仕切り直す為にアズイールが手を叩きながら全員に語りかける。

そんなアズイールにギルバートが疑問を投げかける。


「父上、これは一体どういう状況なのでしょうか?

何故ここにレットやアメリア、ミランダ嬢がいるのですか?」


「ギルも一緒にお茶を入れに行こう。そこで話すよ。」


そう言ってアズイールはギルバートを連れて給湯室に向かった。

王族2人がお茶を入れに行き、平民2人と貴族が客間に残っていると言うあべこべな状況でミランダが亜美を気遣いながら質問する。


「ねぇ、アミ。大丈夫。そんなに泣いて、一体どうしたの。よかったら話してくれる。」


「うぅ、ぅぅうううぅぅ。」


「俺から話すよ。亜美ちゃん、いいね。」


「うぅうっ、うん。」


列人は泣いている亜美を宥めながらミランダに前世について話す。

実はミランダとジーニアスには不思議な記憶があると伝えて、必要に応じてある程度の事は話しているが詳細については話していない。

この話を聞いたミランダはにわかに信じられないという表情をしたが、それは2人を信用してないからではない。

常識人のミランダにはあまりに突飛すぎてうまく話を消化できなかったからだ。


「普通は信じられない話だけど、あんた達ならありえるわね。

そう考えると色々納得がいく部分もあるし。」


「すまんな、ミラ。混乱させる様な事を言って。」


「いえ、聞きたいと言ったのは私よ。教えてくれてありがとう。」


「亜美ちゃん、どう。落ち着いた?」


「うん、ありがとう。列人お兄さん。

ところでミラはこの話を聞いてどう思ったの?」


「別にどうも思わないわよ。強いて言えばあんた達の事が知れて嬉しかったって事くらいかしら。」


「そう、ありがとう。ミラ。」


「・・・・別にいいわよ。」


不安そうにミランダに質問する亜美にミランダは素っ気なく答える。

その素っ気なさの中にある優しさに亜美は満面の笑みでお礼をいうとミランダはそっぽを向いて返事をする。

その頬は強い赤みを帯びていた。


一方、給湯室

何故かお茶を入れているこの国の最高権力者とその横についている息子が話をしているところだ。


「ごめんね、ギル。どうしてもギルの本心をレット君達に聞いて欲しくって隠れてもらっていたんだ。」


「はぁ、まあそんなところだとは思っていました。何故そのようなことを。」


「ギルはアカサカ=レットの噂はもう調べたかい?」


「はい。市民の窮地にどこからともなく現れ助けてくれる、弱きものの味方。

間違ったものを憎む真の騎士、正しきものの守護者、悪しき権力者の天敵。

粗暴な態度に反した正しい心の持ち主。

私が調べた内容を要約するとこんな感じでしょうか。」


「まあ、色々と尾ひれが付いているけど概ねそれでいいと思うよ。

そんな人間が自分の失敗を悔やんでいる者を見たらどうすると思う。」


「・・・そういう事ですか。父上も人が悪い。」


「でもね。そうするのが一番確実だった。

ギルは頭がいいから指摘を受ければ自分の失敗に気付けるし、レット君はそれを見捨てない。

僕はそんな2人の真っ直ぐな気持ちを利用した汚い大人という訳だよ。全く嫌になるよね。」


アズイールは自分のした事に対してうんざりした様子でため息をつき、それに対してギルバートが反論をする。


「父上、そういう言い方は止してください。私を思っての行動なのでしょう。」


「そう言ってくれると少し気が楽になるよ。

でも結果としては上々だね。レット君はお前の為にあんなに真剣に怒ってくれた。

レット君の中にお前を見捨てるという選択肢はもうなくなっているよ。

ヴィルに嘘の集合時間を言った甲斐があったね。」


「・・・父上、そんな事をしていたんですか。」


「きっとヴィルは怒ると思うからフォローしてもらってもいいかな。」


「知りません。ご自分でどうにかしてください。」


「ギル~。そんな事言わずにお願いだよ。」


この国の最高権力者はどうやら息子の前ではポンコツのようだ。

拗ねる息子に泣きつく姿はただの情けないおっさんである。


「さあ、行こうか。向こうの話も終わったみたいだし、お茶の準備もできた。」


「そうですね。あとお茶は使用人に頼んでは如何ですか。

自分で入れたお茶を平民に振舞う王など前代未聞ですよ。」


「堅いこと言わないでよ。あいつらがいると肩がこるんだから。」


ギルバートはこの時間をとても愛しく思っていた。

今までは父とこんなたわいも無い会話ができるなど夢にも思っていなかった。

では、皆の元に戻ろう。失敗を取り戻す為に足掻くことを決心するギルバートであった。

今回の列人の行動は、列人の事情を知らない人間にとってはかなり奇妙に見えたと思います。

列人は当然そんな事は分かっていますが、それでも言わずにはいられませんでした。


物語の冒頭で百香を守る為に村を出る覚悟までしたのはこういう事情があります。

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