105_エレメンタルズの学園潜入
今回はいよいよ列人が『学園』に突入する話です。
列人の事だから絶対にトラブルを起こしてくれるでしょう。
105_エレメンタルズの学園潜入
フラム王国王都フラムの『学園』昼休みの事、
ミランダは異様な光景を目撃していた。
「いらっしゃいませ。安くて美味しいお弁当はいかがですか~。」
「今日はボリューム満点のカツサンド弁当ですよ~。」
『学園』の購買部の隣に今までなかった販売スペースができている。
問題はそこで弁当を販売している人物である。
「レット、アミ、なんであんた達がここにいるのよ!」
ミランダは店員=列人と亜美を怒りに任せて問い詰める。
それに対して列人はなにを怒っているのかわからないっと言った顔で返事をする。
「いや、見ての通りお弁当売り。大丈夫、許可はアズさんから取っているから。」
「私は列人お兄さんに雇われてきたの。時給1000クレトだよ。」
「ミラもお弁当買っていかないか。一つ300クレトね。」
「ええ、頂くわ。・・・じゃないのよ。何堂々と顔出ししてるのよ!」
ミランダが怒るのも無理はない。
列人は先日隠密で護衛をすると言ったにも関わらず、堂々と顔出しをしているのだ。
しかも退学したアメリアこと亜美を連れてだ。
ミランダで無くてもトラブルの匂いしか感じない状況である。
「いや、だって成り行きとはいえ、馬鹿王子の様子も見る事になったからさ。
隠れてこそこそするより堂々と行動できる様にしたほうがいいって、アズさんと相談して決めたんだ。」
「護衛対象の私にも相談しなさいよ。
だいたいその『アズさん』って何者よ。」
「ああ、アズイール国王陛下のことだ。」
「はぁ!ちょっとふざけんじゃないわよ!」
「ミラ、声が大きいよ。みんなこっちを見てるじゃない。」
列人に対して貴族のお嬢様らしからぬ大声で叫ぶミランダに注目が集まる。
その騒ぎを聞きつけ生徒達が集まってくる。
「なにを騒いでいるんだ。この栄えある『学園』にそのような騒音はふさわしくない。
こんなどこの馬の骨ともしれない者が入ってくるとは『学園』の品位も地に落ちたものだな。」
聞き覚えのある声だった。トーマスである。
「うるせえよ!俺は今ミラと話しているんだ。黙ってろ!ヘボ騎士!」
「こら!列人お兄さん。お客様になんて口聞いているの!
ごめんなさい。お弁当は如何ですか。」
「!!お前はレット。何故ここにいる!それにアメリアまで。」
「あ!私アメリアなんて人間ではありませんよ。私は亜美です。」
「いい加減な事を言うな。お前は間違いなくアメリアだろう。」
「なあ、亜美ちゃん。だから変装くらいしたらって言ったんだよ。」
「そういう列人お兄さんこそ、早速トーマスの馬鹿が騒いでるじゃない。」
「アメリア、貴様、今俺を馬鹿呼ばわりしたな。平民の分際で!」
「・・・トーマス、テメーまたぶちのめされたいみたいだな。」
「・・・・・いい加減にしなさい!!!!」
騒ぎを大きくする列人達に業を煮やしたミランダが一喝する。
その余りにも迫力のある怒声に列人達のみならず、周囲に集まった生徒達も思わず黙り込む。
「見世物じゃないわよ。ほらみんな解散!」
「・・・・」
ミランダの声にトーマスと周りに集まっていた生徒達がそそくさとその場を立ち去る。
それでも気合の入った平民の生徒が一部この場に残っている。
「あの、すみません。お弁当、300クレトって本当ですか?」
「ええ、本当ですよ。如何ですか。」
「はい、頂きます。300クレトです。」
「はい、丁度ですね。ありがとうございます。」
実はこの『学園』の学食や購買部の弁当は非常に高い。
一番値段が安いものでも1000クレトする。
一日の稼ぎが5000クレトほどの平民にはかなり痛い出費である。
従って300クレトの弁当は非常にありがたいのである。
その上、売っているのが『学園』で人気の高かったアメリアこと亜美である。
この弁当屋が流行らない道理はない。
一通り客足が収まるのを見計らってミランダはお弁当のカツサンドを片手に質問を再開する。
「レットは私の護衛でここに来たんだったわよね。それがなんでお弁当売っているのかしら。
それからどうしてアミもいるの?さっきは王子がどうのって言ってたけど。」
「ああ、それね。実はアズさんとはあの謁見の後もヴィルヘルムを通してやり取りをしていてな。
俺は別に隠密行動でも良かったんだが、それだと『学園』内でミラ以外とやり取りするのに不便だろうってことで『学園』内での営業許可書を発行してくれたんだ。
つまり今の俺は業者としてここに入っているわけだ。」
「ちなみに私は列人お兄さんのアシスタントだよ。」
「色々と突っ込みたいところがあるんだけど、まずコル村は大丈夫なの。モカが魔族と戦って重症だと聞いているけど。」
「それについては心配ない。ちゃんと百香が回復したのを確認してからこっちに来たから。
それにバクラがいれば魔族相手でも2時間くらいは持たせられるだろう。」
「そうだったわね。あんたこことコル村を2時間で行けるんだったわ。
ちなみにどうしてアミも一緒なの。」
「それはだね。護衛が一人だと色々不便というのもあるし、列人お兄さんにはミラの護衛以外にも仕事があるからだよ。」
「さっき言っていた王子がどうのって件ね。あんた殿下に何するつもりなの。」
「なんか酷い言いようだな。別に何もしねえよ。ただアズさんに頼まれて戦闘訓練をするだけ。」
「・・・殿下、死ななきゃいいけど。」
「おい、人聞きが悪いぞ。俺が普段から酷い事をしているみたいじゃないか。」
「それ、よくも私に言えたわね。あんたのデタラメ訓練のせいで体重60キロ超のゴリラに改造された私に対して。」
「おめでとう。亜美ちゃんの体重を超えたな。百香超えまではもう一息だ。」
「モカじゃないけどぶっ飛ばすわよ!」
「列人お兄さん。今のは流石に酷いよ。百香お姉さんに報告だね。」
「あ!やめて。俺が悪かったから。」
またしてもデリカシー0発言により女性2人の怒りに触れた列人は流れるような動作で土下座をする。
その騒がしい光景に1人の男が近づいてくる。
「楽しく食事をするのは結構だが、周りに人もいる。
出来ればもう少し声を落としてもらえるかな。」
「あ!すみません。気をつけます。」
列人が謝りながら振り向いた先には今まで噂をしていた人物が立っていた。
この国の第一王子_ギルバート=フラム=ルージュである。
「分かってくれればいい。新しく入った業者の方でよかったかな。
えっと!!・・・・アメリアか。」
ギルバートがアメリアこと亜美の存在を確認し、目を見開く。
それに対して亜美が答える。
「いえ、アメリアと言う人間ではありません。私は亜美です。」
「アミ、そのボケいらないからね。殿下、この子は確かにアメリアよ。」
「そうか、どうして退学なんかしたんだ。事情はわかっているがせめて相談してくれても良かったんじゃないか。」
ギルバートの亜美を責めるような発言に列人がイラつきながら噛み付く。
「おい、馬鹿王子。亜美ちゃんが退学した責任の一端はテメーにもあるだろうが。
なに棚上げしてるんだ。」
「ちょっと列人お兄さん、言い方!」
「申し訳ありません、殿下。この馬鹿には私から言い聞かせますので。」
「ミラが謝る必要はないぞ。こいつと俺の問題だ。」
「この馬鹿!少し黙ってなさい。」
「・・・・・・」
列人のあんまりな言い草に亜美とミランダが列人を叱り、ギルバートが黙り込む。
「あのな、俺はアズさんに頼まれてお前の面倒を見るとは言ったが、気に入らなければ見捨てるとも言ったんだ。
あんまり舐めた態度取っているとアズさんには悪いがマジで見放すぞ。」
「ちょっと、列人お兄さん。なにをそんなに怒っているの!」
「あのふざけた裁判が成立した原因の一つには、こいつのモニカに対する不誠実な態度があるんだ。
王族のお前ならどうするべきだったかくらいわかるだろう。」
「だからってこんな所で言う必要ないでしょう!
誰に聞かれているかわからないわ。」
「・・・・」
不機嫌に言い放つ列人に対して亜美とミランダが列人を叱りつける。
ちなみに今は声を絞っている為、周りにこの会話は聞こえていないが、列人と王子が言い争っているくらいはわかる。
仕方なく列人はこの場では折れることにした。
「ふぅ、取り敢えず今言った事は宿題だ。本当はどうするべきだったか、自分で考えてみろ。」
「・・・・・」
列人はそう吐き捨てて、黙り込むギルバートに背を向け、売店のバックヤードへと引っ込む。
自国の王子に対してここまでボロクソ言う平民はまずいない。
ギルバートの口の中に苦いものが広がる。
「なあ、アメリア。どうすれば君は退学しなかったんだろうな。」
このギルバートの呟きに亜美も怒る。
「ギルバート殿下、ちゃんと列人お兄さんの話聞いてました!
列人お兄さんは自分で考えろと言ったんです。
それになんで私の事ばかり気に掛けるんですか。
モニカ様の事はいいんですか!」
「!」
「私が言えるのはここまでです。
あとは殿下がお考え下さい。
助言を求めるのは結構ですが自分で考える事を放棄しないでください。」
そう言い残して亜美も列人の後を追う。
その場に残されたのはギルバートとミランダだけだった。
「殿下、私から言う事は何もありません。
ただ、ご自身がお考えになった事に対する助言ならいつでも承ります。」
「そうか、感謝する。ミランダ嬢。」
そういえばアメリアが『学園』に在席していた時も自分が弱気になるとああやって叱咤激励してくれたものだと思った。
そんなアメリアの事が気になって、でもそれがモニカへの罪悪感になって、自分でも訳が分からなくなっていた。
きっとあのレットという男はその事を見透かしているのだろうと思う。
あとはその気持ちをきちんとまとめて口にするだけだ。言わなければ誰もわからない。
父、アズイールがどこかの誰かから聞いた言葉を胸にギルバートは自分と向き合うのだった。
はい、案の定列人がトラブルを起こしてくれました。
列人は本当にこういう立ち回りが下手です。
ギルバートは多分列人の言った事の半分くらいしか分かっていません。
だから最後の方のギルバートの思考が少し違和感を感じる内容になっていると思います。




