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103_閑話_王族の親子

今回はフラム王国の王子_ギルバートの視点です。

103_閑話_王族の親子


今日、私の元に突然父上、国王アズイールから呼び出しがあった。

私はそれに応じ城にある父上が住まう屋敷へと向かった。

しかし珍しい。公務ならば王城の方へ呼ばれるはずだ。

すなわちこれはプライベートでの呼び出しと言う事。

お忙しい父上が公務以外で呼び出しとはよっぽど重要な事なのだろう。

私は使者の執事と共に父上の書斎へと入る。


「陛下、ギルバート殿下をお連れいたしました。」


「うん、ご苦労。ギルバート以外は下がってくれるかな。」


父上は執事達を労いながら退出を促す。優しい口調の中にも威厳に満ち溢れている。

そういえばいつぶりだろうか。父上とふたりっきりというのは。

そう考えると少し緊張してきた。不甲斐ない、私はこの国の王子だ。

例え偉大な陛下の前であろうと怯んではいけない。


「ふぅ、やっと出て行ってくれたね。全く、使用人の前っていうのは疲れるよ。」


え!どういう事だ。目の前の父上が使用人がいなくなるや急にだらしなく机に突っ伏した。


「あ、ごめんねギル。急に呼びつけちゃってさ。どうしても話したい事があって。」


「いえ、陛下。お呼びとあればいつでも参上いたします。」


「ギル~。ここは王城じゃないんだからさ~。そういう堅苦しいのは無しでいこうよ。

息子にまでそんな態度取られたら父さん泣くよ。」


「はぁ・・・」


父上の余りの変わり様に私はついていけず、なんとも締まりのない返事を返してしまう。


「あ、そうか。ギルと二人きりで会うのってもう10年以上なかったからね。

僕の態度を見てびっくりしただろう。こっちが素なんだ。」


「左様でございますか。」


私の中にあった威厳に満ち溢れた厳格な王の姿が一瞬にして崩れ去る。

そのせいかなんとも間抜けな返事を返してしまった。


「でもそうか。僕は本当にダメな父親だね。10年以上息子を放ったらかしにしているなんてさ。」


「いえ、陛下がお忙しいのは存じておりますので。」


そうだ。子供の頃は寂しいと、父に会いたいとよく駄々を捏ね、その度に従者から窘められたものだ。


「誰がそんな事言ったの?息子が会いたいって言ったらすぐにでも行くのに。

こんなどうでもいい仕事放り出してね。」


「!!」


「それよりもすまなかったね。一番大変な時に一緒にいてあげられなくて。

モニカちゃんの事もアミちゃんの事も辛かっただろう。」


目の前の父は公務をどうでもいいと言った上に私のことを労ってくれた。

私はこんな父上を知らない。その顔は優しく、愛おしいものを見る目で私を見ていた。

私は幻覚でも見ているのか。


「・・どうか、お気になさらないでください。陛下。」


「・・・・」


私が震える声でなんとか返すと父上は心底悲しそうな顔になった。


「言わなくては人間何もわからない、か。本当に僕はどうしようもないね。」


父上の顔に浮かぶのは後悔の念であったと思う。

父上は国を支える為に身を粉にして公務を務めているのだ。

例え世間でどのような評価を受けていようと父上は偉大な国王なのだ。

それがこんな顔をしている。私がこんな顔をさせている。


「ある人に言われたんだよ。思っているだけではだめだって。

大切な事はちゃんと言葉にして言わないとわからないって。

こんな当たり前の事をギルと同じくらいの子に言われたんだよ。」


「・・・・」


「なあ、ギル。僕はね、お前の父親になりたいんだ。

国王陛下なんて誰にでもできる木っ端役人じゃなくて、たった一つ私にしかなれないお前の父親にね。」


「あなたがそれを言いますか。」


この時私の頭に血が上るのを感じた。こんなに頭にきたのはいつぶりだろうか。


「世間では知られていませんが、あなたが偉大な王である事は私はよく知っている。

隣国との停戦、迅速な災害復興、的確な経済政策、どれをとっても世間で言われている凡人にできる事ではない。

それなのに世間ではあなたを評価せず、私ばかりに期待をする。

私がどれほど重荷に感じているかあなたにわかりますか。」


「そうか、やっぱり僕は父親失格だね。」


「そういう事を言っているんじゃない!私の父はすごいんだってみんなに言いたいんだ。

なのにあなたがそれを否定したら私はどうしたらいいんだ!」


「・・・・」


私が激昂するのに父上は驚いたのか、黙り込んでしまった。

私はこの時、国王に対して余りに無礼な態度を取ってしまったことに思い至った。


「申しありません、陛「ギル、やっと父って言ってくれたね。」」


父上は私の肩を抱き優しく呟く。

こうやって父上に抱きしめてもらったのはいつ以来だろうか。


「当たり前です。あなたは私の自慢の父上ですよ。」


「ギルが良い子で僕は本当に嬉しいよ。もっと早くこうしていればよかった。」


「・・・そうですね。なぜ今までできなかったんでしょうね。」


私に囁く父上の声はどこまでも優しかった。

私は思わず頬を緩めて囁き返す。


「ところで今日はどういったご要件だったのですか?」


「ギル~。堅いよ。もうちょっと砕けていこうよ。」


「あなたは砕けすぎです。それより早く要件を言ってください。」


私がそう促すと父上は気の抜けた声で語り始めた。


「えっと、どこから話そうかな。どうでもいい事と重要な事があるけどどっちからにしようか?」


「・・・では、どうでもいい方からで。」


私は思わず呆れた様な声で返す。

父上はそれにどうでも良さそうに答える。


「僕ね。命狙われているみたいなんだ。

首謀者はジギスムントで魔族が絡んでいるらしいね。」


「はぁ!今なんと言いました!

父上の命が狙われているとおっしゃいましたか。

一大事ではありませんか!なにをそんなに適当に語っているんですか!」


「いや、分かりきっていた事だからこれについては割とどうでもいいんだよ。

強いて挙げれば魔族が絡んでいる事が判明したのは進展と言えば進展かな。」


「何故、ジギスムントを追求しないのですか!

今、分かりきっているとおっしゃいましたよね!」


「もう、ギル。もう少し静かに話そうよ。

そんなに怒ると血圧上がるよ。」


「余計なお世話です。誰のせいだと思っているのですか。」


「落ち着いて、落ち着いて。悪かったよ。お茶でも入れるから一服しようよ、ね。」


そう言って父上は席を立ち、自分でお茶を入れに行ったようだ。

使用人に言いつければいいのに、この人は本当に自分が王だとわかっているのか。

ここに来る前とは180°どころか540°変わった父上のイメージに呆れる思いである。

しばらくして父上が本当にお茶を持って戻ってきた。


「まあ、ギル。これを飲んで落ち着こう。お菓子もあるからさ。」


「父上、もしかして子供扱いしていませんか。」


「いや、だって、ギルは僕の息子だろ。」


「そういう意味で言ったのではありません。わかってて揶揄っているでしょう。」


「いいだろう。久しぶりの親子の語らいなんだからさ。」


「・・・・もういいです。話を戻しましょう。」


「ジギスムントを追求しない理由だったね。そんなの物的証拠がないからに決まっているだろう。

相手は状況証拠だけで公爵令嬢を罪人に仕立て上げられる程度には権力を持った相手だよ。

こちらもそれ相応の準備をしてからじゃないとね。」


「父上、あの裁判はジギスムントによって仕組まれていたとお考えなのですか?」


「いや、どう見てもそうだろう。もしかして気づいてなかったのかい。」


「・・・はい、裁判とは公平であるものと考えておりました。」


「確かにその通りだけど、人がやる以上いくらでも不正は入り込む余地はあるよ。

ギルは少し物事を疑う事を覚えた方が良さそうだね。」


「返す言葉もございません。」


私が俯きながら返事をすると父上は慌てた様子で弁解をしてくる。


「ごめん、ギル。別に説教するつもりじゃなかったんだよ。

あんまり気にしないでね。お前はまだ若いんだからこれから学べばいいよ。」


「・・・はい、今後はより一層精進して参ります。」


なぜだろう。

目の前にいるのはこの国で一番偉い国王陛下のはずなのに、こうして見ると息子に嫌われたくなくて必死などこにでもいる父親に見えてしまう。

私の堅くなった口調で返事をした事に対して、機嫌を損ねたと勘違いしたのかさらに慌てた様子になる。


「悪かったって、ギル。今のはちょっと偉そうだったよね。謝るからさ、ね。」


「別に怒っていません。それより重要な話の方をしましょう。」


「そうだね。こっちはとても重要だからよく聞いていてね。」


先ほどまでと打って変わって父上の表情はまさに真剣そのものに変化した。


「実はギルも命を狙われていて、護衛は強化するつもりだけどギル自信にも強くなってもらいたいんだ。」


「やはり私も狙われていますか。まあ、当然ですよね。

確かに防衛力の強化は最重要ですが、私が強くなるとは具体的にはどうするのですか?」


「ある人に戦闘の師事を仰いで欲しい。

その人にはお前の事を話したが、お前を直接見て鍛えるかどうかの判断をしたいそうだ。

その人はミランダ嬢の護衛として雇われたハンターだが信頼していいと思う。

ただ、少々難物でお前の事を余り心良く思っていない節があるんだ。」


「ミランダ嬢のですか?差し障りなければその人物が何者かお教え願えますか。」


「ああ、コル村のハンターチーム、エレメンタルズのリーダー、レットだよ。」


ここで父上はとんでもない人物の名前を出してきた。

レットと言えばジーニアスが言っていた最重要危険人物、父上はなにをお考えなのか。

レットの名を聞いて唖然とする私に父上は説明を続ける。


「びっくりしているようだね。無理もない。彼には色々な噂が付きまとっているからね。

その中にはあまり良くない噂もあっただろう。特に貴族共が流す噂はそうだ。

彼の為人を知りたければ、平民の間で流れるアカサカ=レットの噂を調べるといい。

それが彼の本質だ。」


「わかりました。早速資料を集めさせて「ダメだよ、ギル。他人が間に入った情報っていうのは。」」


私が調べると言った事に父上は否を唱える。


「ギルには信用できる『目』はあるのかい。

僕にはヴィルがいるから大丈夫だけどお前にはそういうのがないだろう。

調べるのだったら『学園』や下町の平民に直接聞くのがいいよ。

正しい判断は正しい情報からだからね。」


父上の発言に私は疑問を投げかける。


「城の者が信用できない、と言う事でしょうか。」


「そうだよ。特にお前の近くには碌でもない連中が多い。

自分で完全に信用できる者を見つけるまでは自分で直接見た情報以外は信用してはダメだ。

はっきり言って今の城は魔窟だ。」


「・・・・」


父上から聞かされた今の状況に私は言葉を失う。

そんな過酷な状況で父上は国を回しているのだ。

私は自分と父上の差に愕然とする。

そんな私を気にしたのか父上は優しく声を掛けてくれる。


「大丈夫だよ。こんなの慣れれば誰にだってできるから。

お前は私より才能があるし、よかったら暇なときに僕のところにおいで。

僕が教えるのでは少し心許ないかもしれないけど、お前の為になるなら僕は頑張れるから。」


そう言って優しく笑う父上に今まで尊敬していた厳格な国王の姿はない。

だがそこには私を愛し、慈しんでくれる、敬愛すべき父親の姿があった。

ギルバートはアズイールがやってきた政策が世間の評価とはかけ離れた凄まじいものだとわかる程度には政治に精通しており、その事で国王を凄く尊敬していました。

但し人を信じすぎる性格の為、城のロクでもない貴族から入る情報も信じてしまい、その結果判断を誤る事が度々あります。

そして父親が政治家としてだけは優秀すぎる為、自分と比較して自信喪失してしまい、それが判断を鈍らせる事にもつながっています。

今回の件でその辺が少し改善していてくれればと願う筆者です。

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