098_子供の桃色と大人の白色
怪人_ツァオガウを倒した直後の話です。
少しだけ亜美の前世の話が出てきます。
098_子供の桃色と大人の白色
「絶対安静です!いいですね!」
「・・・・はい、わかりました。」
ハンターギルドの臨時医務室(ゲオルグの部屋)
ゲオルグが百香を静かに叱りつける。
それに対して百香は項垂れながらただ素直に従う。
「全く!何をすればこれだけ体内のエネルギーが無茶苦茶に乱れるのですか?
私はこの後またチル集落に戻りますが、私が良しとするまでは霊力の使用及び戦闘行為は禁止です。
レット殿と殴りあうのもダメです。一切の暴力行為を禁止します。
破ったらどうなるか・・・・・分かりましたね!」
「はい、すみません。」
「謝ってほしいわけではありません。ちゃんと言いつけを守ってほしいんです。返事は!」
「はい、言いつけ通りにします。」
「よろしい、では失礼します。」
「「「「「・・・・・・・」」」」」
そう言ってゲオルグは部屋をあとにする。今日は別室で休むらしい。
ゲオルグが患者に対してこれほど怒るのをここにいる皆は初めて見た。
ちなみにここにいるのは百香の他に列人、亜美、フィオ、バクラ、ジーニアスである。
「しかし、百香。無茶したな。まさか変身するとは。」
「でもよかったですね。命に別状はないし、後遺症も出ないだろうって事でしたから。」
「それはあれだ。俺より百香の方が霊力操作が上手いからだろう。
俺は変身した時は常に全力だったからな。」
「え!レットもあれが出来るのかい。ちょっと見てみたいんだけど。
モカの時はあまり見れなかったからね。」
「おい!ジーニー!テメーの興味本位に命かけられる訳ねえだろうが。
しばき倒すぞ!コラ!」
「まあ、魔族の幹部相手に実質被害無しで撃退できたんだ。
その上情報も手に入れたと言うなら結果は上々だろう。」
「まあ、私がしばらく行動不能になったのは被害と言えば被害だけどね。」
「・・・・・」
「アミさん?どうしたんですか?元気ありませんね。」
「・・・・ごめんなさい、フィオさん。私ちょっと外に散歩して来るね。」
取り敢えず百香の無事が確認できた事で列人達の気が緩む中、亜美の顔色だけは冴えない。
力のない足取りで部屋を後にする亜美を心配そうに列人は見送る。
「なあ、亜美ちゃんの元気がないんだけど何があったんだ。」
「ごめん、それ私のせいだ。今から説明するから、列人フォロー頼める。」
百香が先ほどツァオガウに行った事について皆に説明する。
「「「・・・・・」」」
「おい、百香。亜美ちゃんの前でそれをしたのか。そりゃショックだったろうな。」
「そうね。やっぱり見せるべきじゃなかったわね。あの子は本当に良い子だから。」
列人があっけらかんと話し、百香が少し俯く中、フィオが震える声で百香に語りかける。
「・・・モモカさん、聞いてるだけで身体中が震えます。」
「ごめんね。フィオちゃん。こんな酷いことする人間嫌いよね。」
「・・・モモカさん。辛かったでしょう。もう大丈夫ですからね。」
フィオが百香の頭を胸に収めて抱きつく。
百香は自分の頭に雫がこぼれ落ち、僅かに濡れるのを感じる。
「アミさんはきっと怖かったんだと思います。優しいモモカさんがいなくなってしまうのが。
それって私達コル村の人間が全員抱えている負い目なんです。
優しいアルくんに人殺しをさせているって。
きっとアミさんも同じ事を思ったんだと思います。
だからモモカさん。そんな顔をして我慢しないでください。
辛い時は泣いていいんです。」
「・・・・」
フィオの言葉に百香の涙腺はその機能を停止させた。
今まで溜め込んできたものがとめどなく溢れるのを百香は感じ、気づけば自分より年下の少女の胸の中で子供の様に泣きじゃくっていた。
「うぅ・・・ごめんね・・・ありがとうね、私、みんなと一緒にいて・・いいんだよね。
みんな・・わたしの・・・こと・・・きらいにならないよね。」
「当たり前です。みんなモモカさんの事が大好きです。」
「言っただろう。もし次こういう事あった時は僕も一緒だと。
君一人が辛い思いをしなくてはいけないと言う道理はないんだよ。」
「全く、不甲斐ないな、俺は。こういう事は大人の俺がやらないといけないのに。
モモカ、無理だけはするな。いいな。」
「みんな、百香の事は頼んだ。俺は亜美ちゃんの方を見てくる。」
列人は百香達を部屋に残し、亜美を追いかける。
百香はきっともう大丈夫だろう。
その頃亜美は村はずれ、ツァオガウと先ほどまで戦っていた墓地で一人佇んでいた。
「・・・はぁ、私何やってるんだろう。
百香お姉さんを傷つけて、そのくせ自分は被害者面して。
ほんとに情けないな。前世の80年の経験なんてちっとも役に立たない。
こんな事じゃ『あの人』に怒られちゃうかな。
いや、『あの人』はとても優しかったからきっと慰めてくれるかな。」
「寒・・・亜美ちゃん、こんなとこにいたら風邪引くよ。」
亜美が振り向くとそこには列人が立っていた。
「ごめん、ちょっと聞こえたんだけど、『あの人』ってのは誰の事かな?」
「もしかして一人言聞かれたのかな。恥ずかしいよ。
『あの人』って言うのは前世での私の旦那様。」
「そっか、亜美ちゃん向こうでは結婚してたんだったね。
どんな人なの?」
「そういえばこっちに来てあの人の話するのは初めてね。
あの人の名前は武黒星、
とても優しい人だったけど日本語がすごく下手で間違った日本語を使ってよくトラブルにあっていたわね。」
旦那の事を話す亜美の纏う空気はガラリと変わっていた。
見た目は10代前半と言ってもいいくらい幼いにも関わらず、その雰囲気は30を過ぎた大人のものだった。
「彼は3代目エレメンタルズリーダー『初代エレメンタルブラック』
私はその補佐でサブリーダー『2代目エレメンタルホワイト』だった。
たくさんの戦場を彼と一緒に闘ってきたわ。
さっきも話したけど彼は日本語が下手でね。
私は中国語と日本語の両方が使えたからよく通訳をしていたわ。
戦いは辛い事が多かったけど彼と一緒ならどんな敵でも倒せると思っていたわ。
結婚してからも私は彼を愛し、彼も私を愛してくれていたわ。」
大人の亜美はとても懐かしそうに、それでいて幸せそうに、でも切なげに自分の過去を語る。
その亜美の表情がどんどん悲痛なものへと変わっていく。
「ある日、任務でとある人の護衛をしていたんだけど怪人の奇襲を受けて私が後一歩で殺されるところまで追い詰められたの。
そしてあの人は、ヘイは私を助けるために自分の身を盾にして怪人と同士打ちになったの。
私の無力があの人を死なせたのよ。」
大人の亜美の顔に浮かぶのは後悔と自責の思いだった。
「私はね、今でも怖いのよ。私の無力で列人お兄さんが百香お姉さんが死ぬのを想像すると。
さっきだって本当は百香お姉さんを支えてあげないといけないのに責める事しかできなかった。
私は何年経っても甘ったれの子供だと自覚させられたわ。」
悲しげな表情で語る亜美に列人が口を開く。
「ねえ、亜美ちゃん。百香は君に感謝していたよ。
任務で疲れて帰ってきた時に『おかえりなさい』って笑って迎えてくれる君にね。
亜美ちゃんの笑顔を見ていると自分のやっている事は決して間違いじゃないって思えたってあいつは言っていた。
さっきだって『優しい百香お姉さん』がいなくなるのが怖かったんだろう。
百香は亜美ちゃんの中で自分がまだ『優しいお姉さん』だった事が嬉しかったし、それを自分が壊すのが辛かったんだ。
百香はもう大丈夫だから言ってやって欲しいんだ。『おかえりなさい』ってね。」
「そう、なんだね。そうだよね。百香お姉さんはいつも優しい百香お姉さんだものね。
ありがとう、列人お兄さん。私、戻って百香お姉さんにお礼言ってくるね。」
そう言って笑顔に戻った亜美が列人にもう一つ大人として語りかける。
「それから列人。これは人生の先輩からの忠告だけど早くフィオさんと結婚して子供を作りなさい。
戦いの中に生きる人間はいつそういう事ができなくなるかわからないんだから。
私と同じ後悔はしないでね。」
亜美は静かに列人に語りかけた後、百香の元へと駆け出していった。
「そんなに簡単な事じゃないんだよな。亜美さん。」
子供に戻った亜美の背中を眺めながら、大人の亜美に対して呟く列人の姿はどこか寂しげで儚げなものだった。
百香については今まで溜め込んでいた色々が解消されて、これからさらに前へ進める感じでしょうか。
亜美については子供と大人の両面を持っていてまだまだ事情が複雑です。
お忘れかもしれませんが亜美は前世では人妻です。
その上、80年の天寿を全うしています。
そう考えると妹系人妻守銭奴腹黒説教老女と属性盛りだくさんですね。
(まあ、肉体が10代なので老女要素はほぼありませんが)
今考えるととんでもないキャラクターになってしまったと戦々恐々の筆者です。
まあ、これで亜美が『学園』時代にノーマルルートを選んだ理由がわかって頂けたかと思います。
彼女は一途に前世の旦那様を愛しています。




