04
何も起こらないで(超切実)。
そう思っていた時期が私にもありました。
王子様との邂逅、スリドンから数年後。
どうして、悪役令嬢のメイドさんが、学園入学前の私に突撃してくるんでしょうか。
そしてなんで、貴族御用達のカフェに引きずり込まれてタイマンはられているんでしょうか。
そもそも記憶を思い出して以降、私は小説のルートを外れるべく、教会であった『聖女』選別の儀式を熱出したとぶっちし、『聖女』認定されずに済んだんですよ。
おかげさまで、貴族の養女として迎え入れられることもなく、王立学園への進学を勧められることもなく、たまーにお忍びの王子様に声を掛けられる以外は、穏便に暮らせるようになってきていました。
そのお忍びの王子様も、最近はぐっと見かける頻度が減ってきて、順調にフラグ回避出来ている、ヨシヨシと思ってたんですけどね。
それなのに、避けてるはずの悪役令嬢側からアプローチがあるのか。
貴族御用達のカフェなんて、平民である私にとって、アウェー感半端ないんですけど。
服装も一人だけ浮きにも浮いていて、周りからチラチラ見られていて恥ずかしいんですけど。
そもそもメニューの内容もお高くて、私のお小遣いではお茶の一杯も飲めやしないのですが。
胃が……痛いです。
そんな気まずい雰囲気の中、お茶が運ばれてきて(メイドさんのおごり)店員さんが立ち去ると、メイドさんは、おもむろに質問してきた。
「何故、『聖女』認定されていないのか、お聞きしても宜しいでしょうか」
男爵家出身のメイドさんは、今日は休日なのかメイド服ではなく、楚々とした佇まいのドレスを着ている。
その姿は小説の挿絵通りで、真面目で主一筋、BLを推し進める悪役令嬢の暴走を、時に生暖かく見守り、時に首根っこを掴んで引き止めながら、主の危機には真っ先に動く、素敵美少女。
悪役令嬢のメイドさん。
私が押してるほんのりGLカップリングのお相手メイドさん。
そんな人に、真顔で質問を詰められるなんて!(脳内錯乱中)
「あの、なんのことでしょうか」
脳内錯乱したままでは、話が進まないと自分の意識を本筋に戻るよう努力し……、質問を質問で返す。
言ってることはわかるけれど、聞きたい意味がわからないので。
恐らく漫画だったらば、はてなマークが飛び散っているだろう私の顔を見ると、彼女はちょっと考えるように沈黙してから、言葉を変えて質問してきた。
「貴女は『乙女ゲームの世界に生まれ変わったヒロイン』ではないのですか?それとも『転生悪役令嬢の世界に生まれ変わったヒロイン』ですか?」
ドキっとした。
一見、同じ「ヒロインに転生しているのか?」と質問している言葉だけれど、前者と後者では持っている知識が違う。
ヒロインがハーレムを作れる世界か、それともヒロインがハーレムルートを選択すると逆断罪されちゃう世界か。
前者なら「悪役令嬢ってなに?」だし、後者なら「ハーレムルートは回避しなきゃ」と思っているヒロインということだ。
つまり。
「貴女、ハーレムルートを回避しようとしている『転生悪役令嬢の世界に生まれ変わった転生者』ですよね?」
と、メイドさんは質問のようでいて、確信を持った言葉を追加で投げかけてきた。
目が泳ぐ。
正直この行動をしている時点で、自分の身がバレてしまっていることはわかっている。
そうは言っても、なんと答えを返して良いものか。
このメイドさんは、本来私の敵になる人だ。
ただし、こんな風に会いに来るはずではなかったので、この人も本来の動きとは異なっている……つまりは、『転生悪役令嬢』に転生した『転生者』に指示を出されて会いに来たか、……当の本人が『転生悪役令嬢』のメイドに転生した『転生者』か。
転生って言葉が飽和してきたし、頭の中でも飽和してきた。
そもそも転生転生って、そんな気軽にしていいものなのか。夢オチの方が本来は楽なシステムじゃないのか。
……ふて寝したい。そしてそのまま本来の世界に戻れないだろうか(※尚、何度も試して失敗済み)。
ああ、どうやって返答すべきかなぁ……。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。
まだ続きますので、よろしければお読みくださいね。