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3.男の娘




取り敢えず、その日、竜也は小鳥に姉の私服を何着か貸して帰宅してもらった。


もちろん姉の許可などもらっていない。


姉は高校三年生で生徒会長をしている優等生で、とても優しい性格をしている。

そのため、竜也は姉なら許してくれるだろうと推測したのだ。


(それにしても、まさかあの杉本がねぇ〜。)


入学式も終わり下校している時に天を仰ぐ。


入学式には小鳥の姿はなく欠席しており、竜也は一日中、その事を頭の片隅で考えていた。


別に小鳥のことが好きだとか、気になるだとか、そう言ったことではない。


ただ単に、不可解な事実を受け入れられないだけであるのだ。


「おっ!竜也君!」


不意に竜也の背後から溌剌とした甲高い声が聞こえてくる。


振り返り確認すると、そこには男子の制服を着た美女が手を振りながらこちらに駆け寄って来ていた。


「おお!優!お前も東高だったのか!」


優と言うのは、宮野優。

竜也が中学生だった時の親友のことであり、見た目は美しい聖女だが、性別は男であるらしい。


"らしい"と断定しないのは、ブツの確認を誰も行ったことがないからなのだ。


本人は"自分は男だ"と豪語しているが、竜也が"じゃあ、一緒に風呂でも入ろうぜぇ〜"と言うと、必ずそれを全力で否定してくる。


と言うように、謎が多い男の娘であるが、その美貌から男女問わず人気があると言うこともまた事実なのだ。


「中学の卒業式以来だね。竜也くん。」


竜也の手前まで来た優は、二パッと笑みを浮かべる。


(か、可愛いでやんす。)


あまりの可愛らしさに、流石の竜也でも思考が鈍ってしまう。


「お、おう。久しぶりだな。

あはは。」


優はセミロングの髪を触りながら、朗らかな笑みを浮かべ、

「竜也君。一緒に帰らない?」

と続けた。


「おう。いいけどよ。」


「やったー!」


優は満面の笑みでその嬉しさをアピールした。


こういうちょっとした優の行動は、"優は本当に男なのか?"と疑問に思わせる。


「よ、喜んでもらえて光栄っす。」


(こいつと一緒だと調子狂うな……)











「それにしても、こうして竜也君と一緒に下校だなんて、久しぶりだなぁ〜。」


下校道、下り坂となっている住宅街を歩いているとき、優は懐かしさを思い出すように竜也を覗き見る。


「久し振りか?

中学生の時に散々一緒に帰ったじゃん。」


「いやいや。受験勉強がどうとかで、最後の方は1人で下校してたよ。」


確かにそうだった。


竜也は頭の方は平均程度で、東高を合格するためにはもう少し勉強を頑張る必要があったのだ。


その為、竜也は12月頃から優と一緒に下校することを辞めて1人で勉強しながら帰路についていた。


「そうだっけなぁ〜。よく覚えてないや。」


「ムゥ〜!いくら何でも乙女心が傷つくよ?」


優は頬を膨らませて竜也に抗議する。


「都合のいい時にだけ乙女とかいうな。お前は男なんだろ?」


「当たり前だよ!

エンジン音だけを聞いてブルドーザーだと分かるくらい当たり前のことだよ!」


何処かで聞いたことのある古臭いボケをしてくる。


「分かりにくい例えを出すな。

………お、優。ちょっと動くな。」


優の髪に付着していた白色のゴミを竜也はそっと払いのけてやる。


「!?」


すると、優は頬を赤くして、目をパチクリと見広げた。


「きゅ、急にどうしたの?

人の髪の毛なんて触って……」


「ゴミが付いてたから、それを払いのけただけだ。気にすんな。」


「あ、そうだったんだ。

……てっきり、竜也君が僕の美貌にメロメロになって頭を撫でようとしたのかと思ったよ。」


優は耳を赤くしたまま笑顔を浮かべる。

その姿はまるで天使……いや、それ以上に美しい何かのようであった。


これで優が男ではなく女だったとしたら、竜也でさえも心を躍らせていたかもしれない。


「バカ言え。俺はノンケだ。

お前のような男子を好きになることなんてないんだよ。」


「本当に竜也君は素直じゃないね。」


「勝手に言ってろ。」


竜也は冴えない顔であくびをしながらそう言った。


冴えない顔で……というのはいつものことだが、彼はいつもよりも冴えない顔をしていた。


何故なのか。

それは小鳥の存在だろう。


こうして優と会話をしている時でも、頭のどこかでは常に小鳥のことを考えている。


そんな時、優は

「ねぇ、竜也君。

中学の時からさ、なんか妙に杉本さんと仲よかったよね?」

と竜也を覗き込んだ。


"杉本さん"という単語に、少しビクッと反応してしまうが、直ぐに平成を繕い、

「そうだなぁ〜。

それがどうかしたか?」

と冷静に優に返答した。




「ううん。別に。ちょっと気になっただけ。……竜也君って、ああいうのがタイプなのかなって。…もしかして、付き合ってたりするのかな。」


"ああいうの"……つまり、ブサイクって事なのだろう。

中学の時の小鳥は見た目最悪、臭い最悪、おまけに根暗だったから、優がそのような言い方をするのも納得がいく。


「何行ってんだよ。ただの友達だよ。付き合ってるわけねぇだろ?」


「そ、そうだよね。竜也君があの女と付き合うわけないよね。」


優は安堵の表情を浮かべる。



「ん?あの女?どういう事だ?」


「小学生の時の事。。。

ほら、中学生の時に話してくれたじゃん。」


竜也は

「あぁ。そうだったな。」

と昔の記憶を掘り起こす。


実は、竜也は優に小学生の時の杉本小鳥からのいじめの話を話したことがあるのだ。


何がきっかけで話すことになったかは、竜也は詳しく覚えていなかったが、優に話したことがあるという事実だけははっきりとしていた。


「正直、竜也君があの女と友達って事も驚きだよ。

あんなことしておいて………本当に都合のいいやつ。」


優の目にははっきりと敵意を感じられた。

尋常ならざる殺気といってもいい。


「まぁ、優は気にすることないさ。

俺ももう気にしてない。

ほら、俺って過去のことは水に流す性格じゃん?」


「良くも悪くも…確かに竜也君はそういう性格だね。

でも、いじめは水に流すべきじゃないと思うなー。」


「あはは。いいんだよ。」


竜也は笑って、その話をごまかす。


その時、ふと優の白いうなじが見えた。

白いが、別に不健康そうだと言ってるわけではない。

むしろ、ハリのある肌からは若々しさが滲み出ている。


さらに優のことをよく見ると、かなり小柄な体をしていることがわかった。


竜也との身長差は20センチを超え、華奢な体型の優。

肩幅を小さく、触れて仕舞えばそこから崩れ去りそうなほど細い四肢をしている。

瞳は髪の色と同じで色素の薄い茶色。


男物の制服を見にまとっているが、これほど似合わないと言う言葉が似合う状況もないだろう。


「なぁ、お前さ、本当に男なのか?」


いつの間にか竜也の口からそんな言葉が溢れる。


「いつも言ってるでしょ?

むきむきの漢だよ!

ほら、証拠に、」


優は制服の袖を捲り上げ、力こぶを作って、竜也に見せた。


「どう?ガチムチでしょ?」


自信満々で力こぶを誇示する優。


だが、竜也は

(うわ〜。全然じゃん。こいつ本当に男か?てか、ガチムチって……)

と苦笑いを浮かべていた。


と言うのも、優の腕は真っ白く細いままで、"お前、力こぶ作ろうと努力してるの?"とツッコミを入れたくなるほど何もなかったのだ。



優は捲し上げた袖を下げて、竜也に

「ほら、言ったでしょ?」

と自信ありげに囁く。


「あはは……そだねー。」


竜也の中で優の性別は本当に男なのかという疑問は深まるばかりであった。








































「ただいまー。」


「あら、おかえり優ちゃん。」


優の帰宅に、彼の母親が出迎えてくれた。


母親は母親とて美しい容姿をしていたが、どこかで優と似ている感覚もあった。


「お母さん。仕事は?今日はかなり早いね。」


玄関で靴を靫ながら、そう質問する。


優の母親は、いつもなら夜の11時頃まで出勤しているのが普通で、これほど早く帰宅することなど滅多にないのだ。


「そうなの。今日は仕事が早く終わってね。急いで帰って来ちゃった。

でもごめんね、入学式、参加できなくて。お母さん頑張ったんだけど……」


のほほんとした雰囲気の母親だが、いざとなると頼り甲斐があるいい人だ。


事実、優の母親は優の入学式に参加するために数日間もいつもより長い残業に明け暮れていた。


結果的に入学式に参加することはできなかったが、そうしようとする努力が優にとっては嬉しいのもであったのだ。



「気にすることないよ。

もう高校生だよ?入学式にお母さんが来てないからって、落ち込んだりしないよ。」


優は母親に笑顔を向けて、リビングに向かう。


「そう。それなら良かったわ。」


リビングは一般家庭と同じくらいの広さで、華やかな装飾が施されていると言うわけでわない。

だが、どこか可憐さはある。

豪華な飾り付けなしでも、美しい人が2人居るだけで、その平凡な空間は色味を帯びたと言うことだ。



優は学生鞄を椅子の上に置いて、コップに牛乳を注ぎそれを飲み干した。


「ぷはー!やっぱり帰宅後の牛乳は格別だよ!」


「それを言うならお風呂上がりじゃないの?ふふふ。」


逃げのない会話を、優の母親は心の底から楽しんでいた。

優の家族は、優自身と母親のみ。


父親は優が中学生の時に他界し、それからは母子家庭での生活となっている。


一日中仕事をしている母親にとって、この唯一の家族との会話は何よりも大切な宝物だったのだろう。



「あ、そうだ。優ちゃん。今日、お母さんは1日仕事ないから、久し振りにお買い物でも行かない?

優の服、たくさん買いに行こうよ。」


母親は優ともっと時間を共有したかった。

だから、優を外出に誘ってみたのだ。


だが、

「………ごめん。今日は無理。

学校の宿題が多すぎて………

急いで片付けてしまわないと。」

優は若干悲しげな表情を浮かべ母親の提案を断った。



「あら、今日、入学式だったのに、もう宿題出ちゃったの?

最近はどこの学校も勉強に力を入れてるって聞いたことあるけど、本当だったのね。

入学式にまで宿題ださなくてもいいのに。」



「本当にごめんなさい。」


「気にしなくていいのよ。

優は勉強頑張ってね。」


「……うん。じゃあ、宿題終わらせてくるから、用事があるときは携帯で呼んでね。」



「分かってる。」


その短い会話の後、優は椅子に置いたバックを手に取り、階段を上って行ってしまった。


優の部屋は2回の突き当たりにあり、いつも母親がいるリビングからはかなり距離がある。


そのため、優は母親と連絡を取りたいときは携帯で手っ取り早く連絡を取り合うことにしているのだ。



優がドアノブに手をかけ自室に入る。


カーテンが閉まりきっているため、中の様子は全く見えない。


優は自分のバックをベッドの上に置いて、シュルシュルと制服を脱ぎ始めた。


そして、下着姿になったところで部屋の明かりをつける。


ーカチー


「ふぅ。」


一息ついて、優は自分の部屋を見渡した。


そこには壁一面に貼り付けられた"竜也の写真"。


どれも盗撮したであろう画角で、無数の竜也の写真が所狭しと貼り付けられていたのだ。


その写真の中には、竜也以外の生徒も写っているが、それらは黒ペンでぐちゃぐちゃに消されている。


さらにそれだけではない。

ジップロックで密閉されている靴下や下着、数本の髪の毛、使用済みの箸などが部屋の装飾品として飾られていた。

そしてそのどれもが竜也の物だということは明瞭な事実である。



「今日も竜也君はカッコよかった❤︎」


顔をとろけさせて、写真の竜也にキスをする。


くちゅくちゅと音を立てて、長々と唇を触れ合わせた。


写真の竜也の口と優の唇に透明な糸が繋がり、

「はぁ〜❤︎切ないよ〜❤︎竜也君❤︎私、もう我慢できないよ❤︎」

と激しく呼吸を乱す優。


彼の胸には膨らみがあり、それは胸筋と呼ばれるものではなかった。

逆に股には一切の膨らみがない。


彼は……いや、彼女はいつもとは違う甘い声を上げて一言。


「竜也君は私だけの物❤︎

あの、杉本小鳥と竜也君が付き合ってたらどうしようかと思ったよ❤︎

私という彼女がいながら浮気なんて、絶対に許さないからね❤︎」


と呟いて、再び無機質な竜也の写真に熱烈なキスをした。







どうぶつの森の新作が楽しみです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 竜也の人生に現れる登場人物がヤバい過ぎて、前途多難過ぎるのが不憫かつ、面白いですね。 洋画で眼鏡かけると心の美しい人が美女に見える映画を思い出しました。そこからの発想なのでしょうか、独自な…
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