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1.プロローグ

1話に限り主人公目線ではありません。






中学校の入学式の日。


目が覚めて鏡を見れば、私はブサイクになっていた。


理由も原理も何も分からないが、一つだけ言えることがある。


少なくとも昨夜の私はこんなにブサイクではなかった。


出っ歯で潰れた瞳。

チリヂリの髪の毛。

消えかけの眉毛。


どこを取っても汚点まみれの特徴に塗りたくられたその容姿。


360度どこから見ても化け物と変わらないその見た目に自分でも思わず嗚咽してしまう。


「どうして……」


訳もわからず、細くなった瞳からは透明な涙がこぼれ落ちた。


その涙だけは、皮肉にも容姿端麗であった時のものとは変わらない。


鏡の前で項垂れ、ショックを隠せない。

その日は学校にも行かずただひたすら、悲しみに明け暮れていた。

















時は遡り、小学生の頃。

私、杉本小鳥はとてもモテていた。


実際に毎日のようにラブレターを靴箱にもらっては、その返信に精を尽くされる毎日を送っていた。


本当に面倒だ。


こっちの気持ちも考えろよな。


ブサイクな男に告られても嬉しくないし、むしろキモい。


だからと言って、ラブレターの返信を返さなければ性格の悪い女だと思われるかもしれない。


だから、毎日毎日書きたくもない返事を書くために机に向き合いペンを動かす。


それが私にとっては大きなストレスとなっていた。


でも、運がいいことに、私にはストレスを発散する術があったのだ。


同じクラスの男子生徒、梶竜也(りゅうや)を陰で虐めることは私に取っては快楽の一種として日々のストレスを発散していた。


殴り蹴り。

機嫌がいい時には公園の砂を口いっぱいに詰め込んでやったことも、梶の教材を燃やしてやったこともある。


もちろんクラスメイトにはバレないようにやっている。


いじめを公でやるなんて馬鹿がすることだ。


私は馬鹿ではない。


だから、バレないように、慎重に。

梶竜也をいじめ続けてやった。

肉体的外傷も服で隠れるところを集中的に攻撃してやった。


でも、よくよく考えて見れば、これはいじめではないのかもしれない。


私のような美少女と関われるのだ。

むしろご褒美に近いだろう。

お金を、払って欲しいくらいだ。




「梶くーん。今日も一緒に帰ろ〜?」


そう言って梶竜也を下校に誘って、周囲に人がいなくなったら暴虐の限りを尽くす。


そして、私のストレス発散が終了したら、

「はぁー。スッキリした。かーえろ。」

と言って梶竜也を蹴り飛ばしてから帰路につく。


帰り道。

夕焼けの太陽を見ながら血みどろになった手をハンカチで拭う。


「本当に充実してる。」


本心からそう思えた。

友達もいる。

ストレスを発散するおもちゃもいる。


好きな人はいないけど、毎日が私に取っては宝石箱のような日々だった。


小学校を卒業して中学校に入ってもこの輝かしい毎日は続く。

そう確信していた。

中学生になったら好きな人もできて、もっと充実した日常が……………………





























そして私は中学生になった。


同時に宝石箱のような毎日は泥沼のような汚物へと変貌を遂げていた。


要因は分かってる。

自分の容姿が最低最悪になったことだ。


入学式の朝。

鏡を見て絶望に打ちひしがれ、その日は学校に行けなかった。



しかし、次の日。

勇気を振り絞って、辛い気持ちを抑えて頑張って登校した。


教室に入ると、クラスメイト達からは化け物を見るような目線を向けられ、そのバケモノが杉本小鳥の席に着くと、小学校からの同級生は目を丸くして驚いていた。


無理もない。


絶対的美少女が中学生になった途端、圧倒的ブサイクに変貌していたのだから。



その日は誰とも話さず、モノトーンの彩りのない1日は過ぎていった。


転機が訪れたのは2日目からだ。


学校に着き、自席に向かうと大量の落書きが書かれていた。


ブス。整形失敗おばさん。臭い。


誹謗中傷の言葉がずらりと並んでおり、私の似顔絵のようなものまである。


それを見たときは流石に泣き崩れてしまった。


でも、それはただの序章に過ぎなかった。


過酷ないじめの生活が始まったのだ。


直接的な暴力はないが、言葉攻めや所持品の紛失。

靴箱ロッカーに入れられた大量の刃物。




それが1年続いた時には、私の心はすり減ってなくなっていた。


もう涙なんて出てこない。


指に貼り付けられた無数の絆創膏。

ストレスで白髪が生えてしまった髪の毛。

学校に行くたびに震えが止まらなくなる。


怖い。

私の感情はそれだけだ支配されたいた。


そして。

いじめられ続けて2年が経った時。とうとう私はある一つの決意をした。


「……………死のう。…………」


そう決めてからは行動が早かった。





その日の放課後には校舎の屋上で風に煽られていた。


その場所から見える風景はとても幻想的で、輝いて見える。

まるで私の小学生の時の日々。


今となってはもう懐かしくとも何ともない。

でも今になって、涙が出てきた。


「どうして…………」


そういえばと思い出す。


彼の名前。

梶竜也。


私が虐めていた少年の事だ。


彼の立場になって初めて気づいてしまった。

自分が行なっていた行動の愚かさを。


彼は中学生になってからは、私からいじめを受けることもなくなっていたので、充実した日々を送っていた。


ただ、今でこそ、彼は楽しそうなスクールライフを送っているが、小学生の時は彼の生活は底なしの泥沼のようなものだった。


そのときの彼の悲しみ。


私がそれに気づくにはあまりに遅かった。


「もう……ダメだ。……私が生きる意味なんて……どこにもないじゃない。」


醜い顔から流れてくる涙でも、その色は純粋な透明色だ。


黒い靴を脱ぎ、屋上の淵に歩を進める。


フェンスも柵もない屋上。

そこから見える夕焼けと街並み。


これが私の最後の思い出。


「梶くん…………本当にごめんなさい。」


突然の突風とともに躊躇なく身を投げた。


瞳を閉じて脱力し、風をきる感覚を感じる。



数秒後には私はもうこの世にはいない。

思い残すことなど殆どない。


あるとすれば一つだけ。


梶くんへの謝罪。


直接、彼に会って謝罪したかった。



でも、それはもう叶わない。

今の私には梶くんに会う資格すらない。

カス以下の存在。


だから命を賭して彼に償う。


そして、最後の涙が空気を舞った。

















ーーーーぱん!ーーー















「ちょっ!何やってんの!」


「……え?………」


閉じた瞳を開けると、梶くんが私の手を強く握りしめている姿が目に入った。


間一髪。

彼は私の飛び降りを防いでしまったようだ。


彼の強く握られた右手は私の左腕を掴み、私を引き上げようと必死になっている。



「くッ!……マジに重いんですけどッ!」



必死に私の体を支えている彼の額からは汗がポタポタと私の頬にこぼれ落ちる。


「しっかり捕まれよ……」


彼は苦しそうな声でそう言っているが、顔はぎこちない笑顔を浮かべている。


私を不安にさせないためだろう。


だが、私にとって、その笑顔は罪悪感を掻き立てた。

かつて死ぬほどいじめた彼が、いじめっ子に笑顔を向けている。


「どうして…………」


「………ん?……なんか…言った?」


「…………どうして私を助けようとするの!!」



もう頭が真っ白だ。

出てくる涙が止まらない。


彼を見て居ると、死にたくなる気持ちと罪悪感で自分がぐちゃぐちゃになりそうだ。



「小学生の時!あんなにいじめたのに!

あんなに……悲しい思いを…させてしまったのに。……」


「………」


「殴って、蹴って……

もっと酷いこともした!

それなのに……どうして私を助けようとするの!!」


「………」


「ねぇ!答えてよ!どうせ私なんて死んだほうが……」


「うるせぇー!!!」


怒涛の声が校舎中に響き渡った。


私の言葉を遮るようにして、彼の表情も憤慨しているように変貌している。


「ブサイクな顔になったからって自殺なんかしてんじゃねーよ!

小学生のときのあの憎たらしい顔面がそんなに良かったか!?」


腕が痛い。

彼の握る手が次第に強くなっているのがわかる。


「今のお前はブサイクだ!!

きもいし、うんこみてぇな臭いもする!」


事実だ。

そのせいで、私はいじめを受けている。

顔を伏せて反論することすらできない。


「でもな!!

そんなの関係ねーー!!!!」


「………え?」


「ブサイクでもなんでもいいじゃねぇか!!

人の命はそんなに軽くねぇんだよ!」


彼の雄叫びは私の心を震わせ、

全身が鳥肌を立てて彼の言葉を深く吸収した。


そして、彼は渾身の力をもって、私の体を屋上に引き上げた。


私の腕には赤い手形が残っている。

目の前で尻餅をついて、息を切らしている彼がどれ程、真剣に私を助けようとしていたのかが刻印されているかのようだ。


「死にたいなんていうんじゃねぇぞ……」


唐突に彼はそう切り出してきた。

ひたいに浮かべる汗を拭いながら、私に目を向けてくる。


「何でお前が、そんな見た目になったかは知らねぇし、興味もねぇ。」


「…………」


「でもな、簡単に命を捨てようとすんな。苦しくても、辛くても、生きて生きて生き抜け。

小学生の時、俺は自殺を考えるほど、苦しい日々を送ってた……」



「…………」


顔を背けることしかできない。

私がその原因だからだ。


「でも今じゃ、結構楽しい生活を送れてるよ。友達もいる。……だがらお前も…生きろ。どんなに辛くても生きていれば、いつかはいい事が起こるからよ。」


眩しかった。

そういった彼の顔は柔らかい笑顔に包まれていた。


小学生の時のいじめがまるでなかったかのような……輝かしい笑顔。


そして、その笑顔は私の心の中の枷を外したような気がした。


中学校生活の中。

どうしても拭いきれなかった、彼への謝罪の気持ち。


瞳から流れる涙。


彼はその涙を拭き取り、私の頭を撫でて屋上を去っていった。
























その日から変わった事がある。

私に友人ができた。

そして、その友人は私の想い人でもある。

名は梶くん。

梶竜也くん。


放課後はその友人の家に行き、一緒にゲームをして遊んだり、偶に休日を共に過ごしたりもした。


まるで夢の日々だった。

彼はこんな私を嫌な顔一つせず受け入れてくれた。

今までの中学校生活が嘘みたいだ。


小学校の時の生活なんて目じゃ無い。

本当の幸せを私は見つけたのだ。



一度、彼に私の気持ちを告白しようとしたこともあったが、その気持ちは心の中で留めておいた。



彼の重りになりたくなかったからだ。


私は今のこの立場で十分。

友達で、恋人ではない存在で私には十分すぎるご褒美。

でも……………………































「ふぁ〜。」


高校入学式の朝。

私は大きなあくびと共に目を覚ました。


そしてその瞬間、ある違和感に気づく。


(あれ?体が軽い。)


いつもなら足を前へ踏み出すたびにドスドスと音を立てていたのにそれがないし、動きづらいだとかそういう感じも皆無だ。


私は急いで自室の電気をつけ、鏡の前に立った。


「……………嘘。…………」


目をみひらかざるを得なかった。


鏡に映るのは、完璧とも言えるほどの美少女。

透き通るような色白で、細身の四肢。

大きな瞳に少し赤い頬。


信じられなかった。


でも、私の体はどこかに向けて動いていた。


母親が「ご飯の用意できてるわよ。」と言っているが、私はそれを無視して玄関の戸を開き駆け出した。

ネグリジェのままの格好だが、そんな事はどうでもいい。


兎に角、今は1秒でも早く、彼に会いたい。



目的地は一つだけ。


風を切り、なびく髪。

周囲の人の視線がこちらに向いている。


今は。

今だけは、どうしても彼に会いたい。


そして。

梶という表札を構えた家の前に到着した。


同時にバタリとその家の玄関から彼が出てきた。


黒髪で冴えない顔……それでいて、綺麗な瞳と心を持っているカッコいい男の人。


「おっ………え?……何ですか?」


ドクン。ドクン。


胸が高鳴る。

パジャマのまま飛び出してきた私を見て、彼……梶君は驚きを隠せないでいる。


その姿も愛おしい。

彼の一挙手一投足が…私を雁字搦めに、どうしようもなく……私の心を鷲掴みにしてくるようだ。


私はネグリジェの裾を握りしめ、そんな彼に人差し指を向けて一言。


「あなたのことが好きです。

私と、付き合ってください!!」


高鳴る鼓動と共に、そう叫んだ。










眠いです。

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