魔女のわたしがボクっ子吸血鬼に『カプッ』とされるまで
コメディ多めのラブコメです。ご注意ください。
「さあ!今こそあの女を見返す時!」
あるところに魔法を極めた魔女と言われる少女がいました。
そして、その魔女にはひとつのコンプレックスがあった。
「わたしにだって彼氏は作れる!」
それは、生まれて500年、魔法に全てを捧げて来たため恋人が出来なかったこと。
「いつも馬鹿にしてくれちゃってさぁ。
なにが『あなたみたいなちんちくりんには恋人とかは早かったかしら』よ!
自分も身長150cmないじゃない」
そして魔女は、2000年前に付き合っていた男の子との甘~い時間をいつまでも自慢してくる龍人に物凄くイライラしていました。
「でも、この魔法さえ完成してしまえばあんな女もう、どうでも良くなる。
この『理想の彼氏召喚魔法』さえ完成すれば!
ここ2000年、男日照りのあの女に見せつけまくってやるわ」
その意志は固く、何者にも崩せそうにありませんでした。
「そして私は、彼とズッコンバッ婚を果たし、幸せに暮らすのよ」
その脳内の妄想も、もう誰にも止められそうにありません。
「あの女みたいに『気が付いたら、彼がどこかに消えていた』なんてことも絶対にないわ。
ふふっ、いまこそ理想の彼氏をここに!
さあ魔法陣よ!私の血を媒介に、私にぴったりな男の子を召喚しなさい!」
魔女が500年生きてきた知識と経験、そして全ての魔法技術を注ぎ込み、未来過去冥界天界現界異世界、その全てを精査し、理想の彼氏を召喚する魔方陣が今、発動された。
冥界を調べている時点でオバケが出てきそうな気もするが、魔女が気付いていないのはそういうことを気にしない質だからだ。
理想のズッコンバッ婚が出来るかは分からないが……
兎にも角にも、なんかすごい魔法が発動して、理想の男の子が魔法陣の真ん中に現れた。
可愛らしい瞳に、思わず撫でてしまいたくなる女の子みたいな肌。そして何より、身長が魔女と同じくらいの150cmほどの小さな体躯。
分かりやすく言えば、中学に上がるか上がらないかぐらいの彼に、魔女は心を奪われた。
「好きです、結婚しましょう」
対して少年の方は怯えていた。物凄く怯えていた。
客観的に見て、ただの誘拐だ。想像してみてほしい。変態が中学生の前に現れて、鼻息を荒くしながら誘拐した相手に「結婚しましょう」と迫っているのだ。事案発生である。
だが少年は諦めなかった。変態などに屈しないとばかりに、キリッと魔女を見つめ言い放った。
「ボ、ボクは吸血鬼なんだ。それ以上近づいてみろ。カプッて噛んじゃうぞ」
言い放った言葉が魔女にクリティカルヒットする!
ビクンビクンと体を震わせる魔女。その頬は赤く染まっている。逆効果だぁぁぁぁ。
魔女は完全に興奮状態。ハアハアと息を荒らげながら、一歩ずつ近づいていきます。
「来るな!寄るな!ド変態!」
パシンと頬を打つ音が響きます。
「ご褒美です!ありがとうございます!」
少年の必死の抵抗?にもかかわらず、魔女の毒牙があどけない少年に迫る。その時、衝撃が走った。
魔女の秘密研究所の壁に大きな穴が空いていたのだ。
上がる土煙、やがてその中からとっても硬いオリハルコンの壁を突き、破り現れたのは魔女の予想した人外だった。
「アルケーさまぁぁぁぁぁ!」
龍人だ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
新たなる脅威の出現に思わず叫び声をあげるボクっ子吸血鬼改め、アルケーくん。
「ぐへへへへ。アルケーさまぁぁぁぁぁ。この2000年間どこに隠れていたんですかぁ?ずっと探してたんですよぉ?」
「隠れるも何も、ヒューレー、お前は昼ゴハン作るとかいって出ていっただろ?というより、抱くな、触るな、頬擦りするな!」
お互いに首をかしげる2人。アルケーとヒューレーの間に何か食い違いがあるようだ。
「ねえ、アルケーさま?今年は何年ですか?」
ヒューレーがそう尋ねると彼は2000年前、彼が消えた年を答えました。
「えへへ。そうやって意地を張るところも可愛いってことにしておきましょう。ほら、おうちに帰りますよ」
「え、いやボクは……」
だが変態は聞く耳を持たなかった。そのまま抱き上げておうちに帰ろうと翼を広げた。
そして飛ぼうとした瞬間、撃墜。
誰に?もちろん魔女に。
「さっきから聞いていたらイチャコラしやがってぇ!そもそもその子はわたしが運命の人として召喚したのよ!こっちに寄こしなさい!」
「はあ?何言ってんの?アルケーさまがあなたなんかに見合うとでも?エイドス、なんていう男みたいな名前してるあんたにアルケーさまは渡さない!」
女同士の白熱したにらみ合いがアルケーくんを放置して始まります。
千を超え魔法が吹き荒れ、その全てが龍の咆哮ひとつで掻き消されていく。
齢500歳と年齢不詳の女性に使う言葉ではないが、まさに大怪獣バトル。
あ、また1つ山が消し飛んだ。
「よくよく考えたら、アルケーさまと私が会えなかったの、あなたが召喚したせいじゃないの?なんてことしてくれるのよ!」
「はあ?わたしは自分と最高に相性のいい彼氏を召喚したのよ!つまり……あなたとアルケーくんの相性が私以下って事でしょ?ざまあないわね!」
ブチッ……
「死に晒せぇぇぇぇぇ!」
「お前がなぁぁぁぁぁ!」
今度は、大地と海と空が割れた。
……そして1時間後。
ひとりが呟いた。
「もうやめない?」
ずっと抱えられていて、少し気分が悪くなってきたどこかの吸血鬼くんである。
「え、あ、そうですね。お恥ずかしい所をお見せしました」
汗ひとつ流さず立っている龍人の少女と片膝をつき息を荒らげている魔女エイドス。決着は今にも決まりかけていた。
ただ周りの惨状を見るに、このままでは星まで砕くかもしれないのでここらで止めておこうという、彼の優しい配慮である。
そして息も絶え絶えな魔女をその場に放置してその場を後にしたその時、一滴の血が地面に落ちた。
「待ち……なさい」
魔女が文字通りその身を削って自分の限界を超えた魔法を使おうとしているのだ。
これにはヒューレーも冷や汗を流す。無論、龍人である彼女の身体はその魔法に耐えきれるだけの頑強さを持っているだろう。
だが、果たして彼はどうだろうか?2000年振りに逢えた愛しい人の肌に、一筋でも傷が付けば彼女は悔やんでも悔やんでも悔やみきれないだろう。
なぜなら、魔女の本気の魔法は、ほかの有象無象の魔法とは違い、吸血鬼の真祖である彼に傷を付けられるだけのポテンシャルがある。
「アルケーさま」
ヒューレーが自分の抱えているアルケーのことを見ると、彼は笑っていた。
(嗚呼、これだ)
ヒューレーは目の前で起きていること全てを忘れて、その瞳に魅せられていた。
どれだけ昔のことかはもはや覚えていない。ただ、彼女が覚えているのは、初めて彼に会った時、彼は同じように笑っていたことだ。
捕食者が獲物を見つけた時に浮かべる笑み。
その笑みを彼は浮かべていた。
自分が狩るにふさわしい獲物以外にはなんの興味も持たず、弱い振りをして相手が調子に乗っているところを『カプッ』とおやつ感覚で喰らい尽くす猛獣が、獲物を見つけてしまった。
「ヒューレー、おろせ」
「はい、アルケーさま」
アルケーはゆっくりと魔女エイドスのほうに歩いていく。
「もうやめない?」と、1度は価値がないと判断した小さな女の子が、1万年も生きていないだろう女の子が、人の限界を遥かに超えて魔法を酷使する姿。そんな姿に彼は興味を持った。
彼は1歩、また1歩と彼女に近づいていく。
魔女は地面の砂を踏んだ音聞き、前後不覚の状態で相手が誰なのかも分からないまま魔法を放った。
星すらも分解し、塵芥とすることの出来る魔法がアルケーへと迫る。
だが、彼はその魔法を、まるで儚き夢の水泡が、気がついた時には割れて空に溶けていくかのように、消し去っててしまった。
ポンッと彼女の肩に優しく手が置かれる。そして、ゆっくりと彼女の首筋に沈んでいく小さな2本の牙。
魔女エイドスは、何故か感じるむず痒さに大きく目を見開いた。
深く刺さった2本の牙の痛みと、首筋に感じる柔らかい感覚。
目の前に見える小さな体躯が少し背伸びをしながら、その手を後ろに回し、首筋に顔を沈めている姿にどこか背徳的なナニカを感じてしまっている彼女は、そのまま彼に魅了されていく。
一方で、アルケーも彼女の血をすすり、何とも言えない心地よさを感じていた。
貪り尽くしたくなるような、感覚器を押し潰してくる龍人ヒューレーの血とは違い、
彼女の血は、まるで全てを包み込み癒すような優しい味がした。
いや彼女が一滴、たった一滴の血を地面へと落とした時から彼は彼女の全てを手に入れたいと願っていたのだろう。
心を落ち着かせる芳醇な香りに、思わず舌鼓を打ちたくなるような優しい味。吸血鬼であれば、この魔力でどこまでも香りと味を高められた血を欲し、同族全てを殺し尽くしてでも独り占めしたいと願うだろう。
彼はただこの一瞬だけでも彼女を独り占めできていることが何より嬉しかった。
それから、どれだけの時間が経過したのかは定かではない。
だが全てが終わった時2人が顔を惚けさせており、アルケーが唇を上へと這わせた時、エイドスが快く受け入れたことは確かだ。
そして、龍人と魔女はこれからずっと吸血鬼に『カプッ』とされながら、仲良く幸せに生きていくことになりましたとさ。
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最後に読んでいただいて本当にありがとうございました。