表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の獣  作者: 明日香狂香
2/55

 5年に一度のにえの日に、村の娘は旅に出る。

 無垢な娘は天使か邪気か。

 鎮守の森では、大騒ぎ。

 よっつ、いつつと指折り数え。

 今年も、旅立つ命によって、われらの里は永らえる。


 普段は聞くことのない口伝の2番を、この夜は村の年寄りが歌って聞かせていた。


 それから、5年の年月が流れた。5年前5歳だった男の子、啓太は10歳になった。夜になると、みなで囲炉裏を囲む姿は変わらなかった。

 食事も済んだころ、

「綾が遠くの街の学校に行くことになった。明日には、出てしまう。しばらく帰ってこれん。」

 綾は啓太の5歳上の姉だ。綾の上には良蔵という兄がいる。数ヶ月前、彼は今では珍しくなった結核で、街の病院に入院した。入院が遅れたため、病状は一進一退の予断を許さない状況だ。

 母親は立ち上がると、台所へ消えた。かすかにすすり泣く音が聞こえてくるが、誰も気付かないふりをしていた。


 啓太は知っていた。厄災の年に不幸に見舞われた家から、贄が出ることを。それは、鎮守の森の神に災いを断ち切ってもらう意味があった。贄を出した家は村の代表ということで村の皆が助けてくれる。5年前の雪姉ちゃんの家は一家の大黒柱が亡くなったが、今では村人達が助けている。ずっと昔、村が飢饉の際、鎮守の魔物と交わした約束。村を救う代わりに、毎年、贄を捧げる。こうして村はどんな年でも十分な実りを得ることできた。


 村の年寄りはそのことを普段は語らない。ただ、厄災の年にだけ、そっと聞かせるのである。だれも、どうなったかは知らない。死んでいるかもしれない。だが、血の跡も何も残ってはいないので、どこかで生きているかもしれないと誰もが願っていた。贄が5年に一度は人間の娘で、残りは家畜であることの理由も誰にもわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ