表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運送屋の交流記  作者: ねんねこ
第10話
63/83

04.

 ***


 雪の国、ブラウニーの浜辺にて。私はゆっくりと周囲を見回した。

 チラチラと降っている雪は海水に着地すると一瞬で溶けてしまっている。砂浜を踏みしめた足は砂を踏んでいるのか、雪を踏んでいるのか。

 当然、雪が降る程の気温なので浜辺に人影は無い。私とイザークさん、2人きりだ。


「寒い……」

「あれ、私の『バリア』のお世話にはならないんじゃなかったの?」

「潮風が寒すぎるから、もう止めた。この状態で海に入ったらどうなるんだろうね」

「試してみる?」


 イザークさんが無言で頷いたのを見て、そろそろと移動する。気分は二人三脚だ。私に外は無いが、バリア範囲外に出てしまうとイザークさんが心底寒い思いをする事になる。

 私は人工革のブーツを履いたまま、波間に足を盛大に突っ込んだ。

 波は私を中心にドーム上に避けられていく。当然、足が濡れたり、冷たい事は無かった。このまま沖へ行くとどうなるのだろうか。小さなドーム上に浮くのか、水を避けて沈むのか。


「それ、カメラ。使ってみなよ、ミソラ」

「あ、ホントだね。えーと、どうするんだったかな」


 使い方はフェリアスさんに一通り教えて貰ったはずだが、手順が難しい部分が出て来ない。

 ぬっ、とイザークさんの手が伸びて来て丸いボタンを指さした。


「カメラを覗いて、それを押すんでしょ。ギルマスがセットしてくれてたのに、もう忘れたの?」

「機械類は弱いんだって」

「機械の国出身なのにね」

「よくそういう事言う人いるけどさ、機械の国でも機械類を上手く扱えるのは研究者達だけなんだって。科学班」


 私はカメラを覗き込み、見えた風景をそのまま切り取るようにボタン――シャッターを押す。パシャリ、と小気味良い音が響いた。

 ややあって、カメラから1枚の写真が吐き出される。私より先にそれを回収したイザークさんは無言で写真を覗き込むと、指にそれを挟んで振り始めた。


「どうしたの?」

「真っ黒だったから」


 ややあって、浮かび上がった風景を見てイザークさんは「へぇ」、と目を細めた。写真を渡されたので、撮った風景を覗き込んでみる。


「凄い、見たままだ!うちの国って、割と凄い事やってたんだなあ……」

「割とって何さ。機械の国は凄いよ。あんなに国政は雑なのに、まだ連合に加盟しなくてもやって行けてる。この先の事は知らないけどね」

「えー、取り敢えず私が歳取ってギルド辞めるまでは、非加盟国でいて欲しいなあ」

「じゃあまずは、あの殺人鬼をどうにかしないといけないんじゃないの?」


 アルデアさんの飾り気のない笑顔が脳裏に甦る。殺人鬼、と銘打たれているのに、とても楽しそうに笑うあの顔を。

 どっと気分が重くなるのを感じる。どうしろと言うんだ、あんなの。丁重にお断りした所で引き下がってくれないだろう。体の良い移動手段を逃すはずがない。


「だってどうしようもないでしょ」

「……殺してしまおうか?」

「は!?」

「いや……何でも無い。でも、殺られる前に殺る。これは自然界の掟みたいなものだから。そういう手段もあるって事くらいは考えておいた方が良いんじゃないの」


 ――何てこと言うんだ、この騎士崩れは。

 しかし、言わんとする事は分かる。アルデアさんは移動手段である私を諦めないだろう、余程の理由が無い限りは。


「悪かったから機嫌を直してくれる?君が暗い顔して帰ったら、息抜きの意味がないって僕が怒られるだろ」

「暗くなる話題を振ったのもイザークさんだけどね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ