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運送屋の交流記  作者: ねんねこ
第8話
49/83

01.

 雪の国、フロージス。

 広がるのは一面の雪景色だ。石造りのとても冷たいイメージがある町だが、そのイメージと違わず寒いのだろう、きっと。風が吹く度に前を歩くイザークさんが身震いしているから間違い無い。

 『バリア』内にいると寒くないので、先程までぴったりと私にくっついていた彼はしかし、町へ入ったところで八百屋のおばさんからカップルと勘違いされて以降、私に近付かなくなった。そこまでしなくてもよくないか。

 人が踏み砕いた傍からそこに新しい雪が積もり、さくさくとした雪の感覚が楽しい。ついでに私を中心に円形に広がった『バリア』に延々と降り続く雪が滑って行って綺麗だ。


「イザークさん、頭に雪が積もってるよ」

「うるさいな、分かってるよ。冷たいんだからさ。それより、依頼人の住所は?ああ、寒い」

「あ、住所ここだ」


 紙に書かれた住所と目の前の家が一致している事を確認する。

 しかし、このフロージスには集合住宅が一切無い。みんな一軒家で、綺麗なベランダが付いているものばかりだ。


「すいません、サークリスギルドから来ました!」


 家の中からガシャン、という破壊音。何事かと思って固まっていれば、中から勢いよく人が出て来た。とても堅気とは思えない、20代後半くらいの男性だ。


「うぃーっす、お疲れさん!寒かったろ、ちょっと荷物取って来るから、中入って待っといてくれや!」

「お邪魔します」

「イザークさん!?」


 寒い、と言っていつもなら警戒心の高いイザークさんが腕を擦りながら中へ入って行った。何とこの家、玄関の先にすぐまたドアがある。寒さ対策だろう。

 玄関の先で依頼人の男性を待つこと1分。私達が尋ねて来た時同様、全く落ち着きの無い様子で再び姿を現した。その手には小さな箱を持っている。何故だろう、どこかで見た事のあるような箱だ。


「何かさあ、アレだろ。おたく、荷物の中身をチェックするんだろ?すっかり忘れててさあ、新しい箱を出して来たんだよ。小物だから口をちゃんと閉じとかねぇと、無くしたら困るからよ、早めにチェックしてくれよな!」

「あ、はい」


 そう言う依頼人は片手に似付かわしくないピンク色のリボンを持っている。これで固定するつもりなのだろうが、そもそも彼にピンクという色そのものが似合わない。

 釈然としない気持ちで蓋を開けてみる――甦る記憶。

 そうだ、この箱見た事があると思ったが、アルデアさんがイカルガさんに届け物をした時と同じ箱だ。そう、あの時はアクセサリーを運んで――

 現れたそれに絶句する。あの日、運んだそれとは別の物だが、箱に収まっているのは女性物のアクセサリーだ。

 茫然とする私を余所に、男は間をつなぐように言葉を紡ぐ。


「いやよ、仲間の女にシルバー類が好きな奴がいんだよ。俺のカノジョってば、俺と小物の趣味が合わなくて持て余してたんだが、貰ってくれる奴がいて良かったぜ」

「それ、浮気じゃん……」

「え、マジ?お兄さん、案外堅物だなあ!しかし、そう思う奴がいるって事は肝に銘じておくぜ!次からは失敗したら質にでも入れちまうか!」

「質屋の使い方が分かっているとは思えない発言だけどね」

「はっはっは、手厳しいや!」


 仲間の女――箱のイメージのせいで、どうしてもイカルガさんの顔がチラつく。しかしそれを振り払い、業務モードへ頭を切り換えた。よくよく考えてみれば、こんなカラッとした晴天みたいなイメージの彼が殺人ファミリーと接点があるとは思えない。


「えーと、届け先の住所と、サインをお願いします」

「あ?住所?ちょいと待ってな、書いてねぇや」

「ええ?どうやって私が荷物を届けると思ってたんですか……!」

「不思議な力で世界各地に出没する、って聞いてたからよ。ごめんな」

「否定は出来ませんけど、どこに持っていくのか分からないのはちょっと……」

「あー、現住所どこだったかなあ。何か、手紙が来てたからそれに住所が――」


 再び依頼人が家の奥へ引っ込んで行った。

 それを見届け、イザークさんが眉根を寄せる。彼も何かに気付いたのだろうか。


「へぇ、雪の国の家っていうのは温かいね。土地も安いみたいだし、金が貯まったら僕もここに家を建てようかな」

「ポンコツ……ッ!!普段から真面目キャラ気取ってる癖に、渾身のボケは止めろ……!」

「ハァ?何なの急に、僕に喧嘩売ってるでしょ」


 ズダダダ、と落ち着きの無い駆け足。音が聞こえたと思った瞬間にはバタン、とドアが開け放たれた。


「待たせたな!あったぜ!」


 凄い力でドアを開いた依頼人はその手に一通の手紙を持っていた。うっすらと住所のような文字が書かれているのが見える。そんな彼はしかし、もう片方の手に可愛らしい封筒を持っていた。まだ何も書かれていない状態だ。


「えーと、その何かちょっと可愛い封筒は何に使うんですか?」

「いやよ、丁度手紙探してたら出て来たから、奴等にゃ最近会ってねぇし、手紙でも書いてやろうかと思って」

「すいません、私の言い方が悪かったんですけど、私が手元に取っておくようの伝票に住所を書いて欲しかったんです。1枚ストックがあるので、それをお渡ししますね」

「おう、そうだったか。サンキュ!こっちに住所な。あ、ちょっと運送ちゃん、手紙書いてくんね?」

「私が!?」

「いや、暇そうだし」


 高そうな銀色の万年筆を渡される。空いている紙の裏に試し書きしてインクの出を確認してみると、インクの色は桃色だった。


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