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運送屋の交流記  作者: ねんねこ
第3話
16/83

01.

 朝から大変良い天気の土曜日。私は浮かれた気分でギルドへ足を運んでいた。と言うのも、実は運送出張サービスを始めたのだ。

 それまではギルドへ直接荷物を持ち込み、それを私の移動技能で指定の場所へ運んでいた。しかし、この出張サービスでは報酬の上乗せで私が指定地まで荷物を取りに行くのだ。つまり、依頼の手紙さえ出して貰えれば世界中のどこにだって荷物を受け取りに行き、そして届ける。

 なお、手紙は鳥型のモンスターが配達する。体感的には届く確率60%前後と言ったところか。届かない時は本当に届かない上、手紙が届かなかった事が分からない仕様になっており、短気な人には向かないと思われる。また、郵便関係は連合の管轄なので密書なんかはあえなくお縄となる。要注意だ。


「――浮かれているけれど、客にとってのメリットはあっても、ミソラ自身にはデメリットばかり。分かっているの?」

「まあまあ、コハク。ミソラだってそんなにお馬鹿ではないさ」

「どうかな。いつか絶対にやらかすと思う」


 今日も今日とて暇そうにカウンターに座っているコハクさんと、仕事をサボっているようにしか見えないマスター・フェリアスさん。

 先人の有り難い発言を思い、私は小さく溜息を吐いた。そう。あまり認めたくは無いが、この出張サービスにより私の技能バレの可能性は格段に上がった。アレクシアさん程お金に執着は無いが、無くて困るものでもないと考えている私はどちらかと言うと金を稼ぐのが好きだ。金になるのなら、多少の危険もやむを得ないと思っている。思っているが――


「確実にヤバイ荷物の可能性は上がりますよね。だって、ギルドへ持って来ないってだけでチェックの手が入らないと思う人、いるでしょうし」

「分かってるじゃないか、ミソラ」

「さっき私はそんなにお馬鹿じゃないって言ったのと同じ口でよく言いましたよね、フェリアスさん。一番困るのは武器の弾薬運ばされたり、ヤバイ組織の食糧運ばされたりとか、そんなんですよね。正直」

「そうだね。結局は君が自分の手で、荷物をチェックしないと。疑って掛かる事を忘れてはいけないよ。こんな世の中なんだからね」


 それに、とコハクさんが溜息を吐きながら言いつのる。


「そもそも荷物を運ばせる気なんかなくて、ただただミソラを誘き出す事も出来るようになったわ」

「もうそれについては、ミソラが自分で気をつけて変な依頼人だったら即逃げ出すしか道は無いなあ。まあ、逃げ出す時も慌てず、出来る限り技能の露出を避けた方が良いね」

「ミソラにそんな芸当が出来るとは思えない。テンパってすぐ目の前で『瞬間移動』するに決まってる」


 何だかピリピリしている様子のコハクさんんから睨まれた。彼女は少しだけ世話焼きな所があるので、こうして私の心配をしてくれるのは助かるが、少しばかり融通が利かない所があるのも事実だ。

 どうやってコハクさんの機嫌を直せばいいのか、思考を巡らせているとようやっと彼女は口を開いた。


「――良い?何かあったら、直ぐに出張サービスなんて止めてしまいなさい。貴方、そんな技能持っていたんじゃ飼い殺しは必至よ。絶対に捕まらないようにする事」

「だ、大丈夫ですって!私、もし捕まったとしてもすぐに逃げられるわけですし!」

「分かってない。人間の足を止める方法なんて、いくらでもある。どうして手紙を運んで来るあの鳥モンスター達は逃げ出したりしないの?」

「そ、それは……えーっと、飼われているからじゃ……」

「どこへでも自由に飛んでいける鳥だって、飼われてしまえばその程度って事。それは人間も例外じゃない。絶対に大丈夫だなんて言葉は机上の空論に他ならないし、それを言えてしまう以上、貴方は人間の残酷さを全く理解していない」


 はいはい、話は終わったかな、とフェリアスさんが口を挟んだ。いつの間にかその場から消えていたギルドマスターはしかし、その手に2通の便箋を持っている。

 ――『サークリスギルド運送屋』そう宛先に書かれているのが見えたので、早速出張サービスを利用しようとしているお客様からの依頼だろう。


「10時過ぎか。今日は晴れていたから、手紙が規定の時間通りに届いて良かったよ。じゃないと、ミソラとコハクが延々とカウンターで駄弁ってるだけになってしまうからね。さ、きりきり働こうか。今日はまだ土曜日だし」

「2つともこなすの、ミソラ?」

「中身次第ですね。というか、1通明らかにマズイ内容に見えるんですけど」

「自分の目でチェックした方が良いね。眼を養う為にも」


 言いながらフェリアスさんが私に依頼書を渡してきた。1通は一体何を依頼しているのかと困惑する程に分厚く、もう1通は逆にぺったんこだった。もうすでに色々と不安になってくるのだが。

 一先ず、実に存在感のある分厚い封筒から開けてみる。宛先の段階で少し危険な仕事臭が漂うので、一目見て刎ねたいという気分があった。


「――『物資補給の協力要請』……はい、アウト!これ、絶対軍からの勘違い要請状ですよ!危険!却下!」

「まあ、彼等も手当たり次第な所あるからね。その方が賢明だろう」


 連合軍は常に革命軍と交戦状態にある。その為ならば、適当な理由を付けて民間施設をも利用しようとする腹積もり、いっそ感服するくらいだ。だが、一民間人としては関わりたく無い一択なので封筒をそっと閉じた。


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