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ブラックエンペラー  作者: うー
異世界転生編
7/7

新たな名前と共に

 縄を縛られ、俺は大広場へと続く道を歩かされていた。

 スラム街で虐殺を行った俺は公開処刑される事となり、俺はただ黙って従うしかなかった。勿論、死にたくない。だが、俺は俺のルールを破ってしまったんだ。仕方のない事だ。

 道中、石を何度も投げられ、俺の頭からは血が流れ出ていた。


「……はっは……いてぇなぁ……ぶっ殺してやりてぇなぁ」


 大半の記憶を失い、性格までも変わってしまったのか、自分でも驚くほどすんなりとそんな言葉まで出てきた。どうやら、俺はもう以前の俺では無い様だ。

 わずかながら残る記憶は全てあの三人に関する事だ。あの三人だけは死なずに済んだ。それだけで充分だ。


「……阿久津」


 大広場にもうすぐ辿り着く、というその時に、一人の女が俺の以前の名を呼び声をかけてきた。リュドミラだ。


「……んだよ……てか、阿久津って誰だよ……」


「…………私はアナタともっと一緒に居たい……」


「無理だろ。どう考えても、俺これから処刑されるんだぜ? しょ け い!」


「……うん」


 こいつ、一体何を考えていやがるんだ。これから処刑される相手に向かってもっと一緒に居たいだなんて、俺を憎んでる奴等に殺されても知らねぇぞ。

 まぁ、でも素直にそう言われて嬉しくない訳じゃない、嬉しいが、もう二度と会える事はないだろ、なんせ死ぬんだし。


「……じゃぁなリュドミラ、ラニウスとメアリーによろしく伝えといてくれ」


 俺はそのまま大広場へと連れていかれ、乱暴に首と腕を断頭台に嵌められて前から見ると頭と手だけが民衆から見える状態になっていた。

 そんな状態でも意外と心に余裕はあり、笑みを浮かべる事が出来た。


「……意外と人道的でびっくりだな」


 笑みを浮かべる俺に対して石を投げつけてくる者も居れば、記憶喪失前に知り合いなだったであろう者は信じられない、と言ったような顔でこちらを見つめていた。

 そして少しの間、石を投げつけられて頭や顔から血を流しながらぼーっとしていると王城に続く道から兵隊を連れた幼女が馬に乗って、大広場に現れた。


「……全く、呆れたモノだな。魔法使いを撃退した者が実は魔法使いだった……笑えん冗談だ」


 兵士に断頭台に上げて貰いながら幼女は姿に似合わないう口調でそういいつつ、民衆の方へと顔を向けた。


「諸君、ここに囚われている魔法使いをどうする」


「殺せ! ぶち殺しちまえ!」


「そうだそうだ! 魔法使いなんざ火あぶりにでもしちまえ!」


 全く──鎖に繋がれている獣を前にした者というのはとても命知らずだ。少し前まであんなにも怯えていたのにいざ危険が無くなるとこれだ。

 いつだって吠えるのは弱者だ。俺はその弱者の前で奮い立たせようと演説をしている女王の後ろで不思議と笑みが崩せない。愉快だ。あぁ、愉快だ。至極愉快だ。


「──さぁ、魔法使い。死ぬ前に何か、言いたい事はあるか」


 俺は笑っている間に演説は終わったのか俺の手と首を刈り取る刃に繋がっているロープにナイフを当てながら女王はそう言った。

 言いたい事、言いたい事ねぇ。


「……何もねぇなぁ」


「それは残念だ。残念だよ魔法使い」


 女王は躊躇なくロープを切ると刃が俺の首めがけて落下してくるのが音で分かった。だがしかし、俺の体は四つに分かれる事はなかった。

 何故なら、群衆の中で血を吹き出しながら魔法を使うリュドミラの姿があったからだ。周りを見ると時間が止まったように全てが停止していた。風も雲も刃も。


「……お前……どういうつもりだ」


「私は……っ……言ったはず……アナタと一緒に……居たい……とっ」


「バカか……そんな命を削るような膨大な魔力を使ってまでこんな殺人鬼と一緒に居たいってか? 理解出来ねぇ」


「それでもかまわない……私は……アナタを元に戻す……私が憧れた……アナタに……だからそれまでは死なせない……!」


 血を流しながら断頭台から俺を解放するとゆらゆらとおぼつかない足取りでゆっくりと大広場を後にした。

 俺はバカに肩を貸しながらとりあえず繋ぎ止めた命を守る為にこの国を出る準備を始める事にしようと、リュドミラに簡単な治癒魔法をかけ、止まっている民衆から財布を拝借しお金を集めて、食料と着替えを袋に詰めた。

 そして無意識に足が向かったのは騎士団本部の馬小屋で、そこに繋ぎ止められている鉄で出来たモノに目が離せなかった。


「……こいつでいいか……おいバカ野郎。サイドバッグにお前の着替えとか詰めとくぞ」


「……うん……私、恨まれるかな」


「そらぁ恨まれるだろ。嫌だぜ? 怒り狂ったAvenger(復讐者)に追いかけ回されるのは……まっ神様とか巨人でも嫌だけどな」


 不思議な事にこの鉄の塊について俺は知っている。いや、こいつが何かはわからないが、何をする為の物かは無意識に理解出来る。

 いつ解けるかわからない魔法のせいでゆったりとしている暇はない、と俺はエンジンをかけて鉄の塊を町の外に向けて走らせる事にした。


「……阿久津……」


「阿久津じゃねぇよ」


「じゃぁ……なんて呼べば……」


「好きに呼べ……」


「じゃぁ阿久津……」


「好きにしろ……」


 こうして、俺からすれば新たな名前 阿久津として生きる事になった。とりあえずは他の魔法使いを探すとしするが手がかりなんて一つも無い。

 だがこいつと一緒ならどこにでも行けそうだ。このバカとなら──俺は俺自身を思い出せそうだ──

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