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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第一章 冒険篇
9/120

08話 龍神のねぐら

冒険者カードの書式を少し変更しました。今回は全編三人称です。

「じゃっ、お土産待ってますねっ。怪我しちゃダメですよっ」


「どうやってこの身体で怪我出来るのかも知らないっつーの。心配すんなよ」


「初めてのシルフィンおねーさんとの夜を過ごすタクミくん……、やべぇ、想像しただけで鼻血がぁ」


「夕方には戻れるつっただろ! てかパーティ探索だろ今日は!!」


 軽口を叩き合いながら、多少ながら不安気な面持ちで見送るクルルにサムズアップサインで応えて、タクミはシルフィンと連れ立って宿を出た。


 今日の冒険は冒険者ギルド所属の構成員で構成されたパーティでの洞窟探索となるため、対立組織の盗賊ギルド登録者であるクルルが参加できない。


 ――というか盗賊ギルドを嫌うパーティメンバーと軋轢が発生するおそれがあるため、以前受付でも相談した通りクルルは最初から不参加の予定となっている。


 タクミの3回のお試し冒険期間最後ということで一通りのパーティ探索も体験しておく必要があることを受付のシンディに聞かされ、先日の森の奥にある「龍神のねぐら」と通称されている洞窟探索を行うことになったが故のパーティ行である。


 パーティ選定はシルフィンが馴染みの冒険者に声掛けをして揃えたため、タクミはパーティ集めを経験していないが。


 元々このような案件は本来は依頼を受注して人数が揃った後にギルド受付や受注者間の折衝を経ていちパーティと成るため、個人が特に優れたパーティ構築術を勉強する必要はない。


 むしろ、どのような構成であっても柔軟に自身の立ち位置や動き方を経験として蓄積する方が重視される。


 ある程度名の知れた冒険者ならば単独受注した後に自身の責任で子請け、孫請けパーティを構成することもあり。


 今回のパーティは正にシルフィンの個人受注によるパーティ探索となっている。――つまり、シルフィンはそこそこ名の知れた冒険者である、ということの証左でもある。


「まぁ、龍神のねぐらって言ってもほんとに龍神と戦うわけじゃないしぃ、洞窟なんでそこら中に魔物が住み着いてるんだけどぉ?

 龍神の支配下にあって侵入者目掛けて襲い掛かってくる! なんてこともないんで気楽にねぇ」


 先日のように慣れた手つきで背嚢バックパックやポーチ内に必要装備をまとめつつ、シルフィンが顔だけをタクミに向けて緊張をほぐすように言った。


 とは言え、初のパーティ探索かつシルフィンやクルル以外の、冒険者ギルド内で初顔合わせしただけの見知らぬ冒険者と命がけの冒険行を初体験するとあって、タクミは傍目からも緊張でがちがちとなっている。


「まぁ、そんな気負わなくても大丈夫だよ。神器さんなんだってね、小さいのに凄いねー?

 腕前の方は知らないけど、耐久力だけなら折り紙つきってことでしょう? 遠慮なく頼らせて貰うからね」


 特に準備など必要なく、先日の体験で神鉄槍を使えない装備として諦めたため、ほぼ着のみ着のままで現地に来ているタクミは皆の準備中にもすることがなく入り口を見つめつつ立ち尽くしていたが。


 そんなタクミの背を大柄で戦斧バトルアックス板鱗鎧スケールメイルで身を固めた戦士風の男が大きな手で軽く叩いた。


「そういやギルドじゃ顔合わせだけで自己紹介してなかったね?

 僕はフープ、見ての通り戦士さん。タクミくんだっけ?

 君と同じ前衛職ってことになるね。

 今日はお互い前衛横並びだ、よろしく頼みます」


「あっ、そっかぁ。あたしら顔見知りだからつい省略しちゃってたけど、タクミくんは全員初顔合わせだもんねぇ。

 じゃあ改めて冒険者カード見せあいっこしとこっかぁ」


 だいたいの準備も終わったのか、弦を張った弓を肩に掛けつつ背嚢を背負い直したシルフィンがポーチから冒険者カードを取り出した。


 他のメンバーも冒険者カードを取り出して重ねていく。タクミも慌ててそれに倣った。


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PARTY:【ON】

登録名:フープ

種族名:人間 / 33歳

HP/MAX:260/260

MP/MAX:70/70

クラス:戦斧バトルアックスLv.7

   :手斧ハンドアックスLv.6

   :投斧トマホークLv.5

筋 力:150

知 力:90

俊敏性:130

耐久性:140

抵抗力:130

魔属性:火Lv.1

言 語:共通語、ゴブリン語、コボルト語

固 有:なし

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PARTY:【ON】

登録名:シルフィン・フェイ

種族名:エルフ / 161歳

HP/MAX:110/110

MP/MAX:260/260

クラス:ボウLv.10

   :小剣ショートソードLv.7

筋 力:150

知 力:90

俊敏性:130

耐久性:140

抵抗力:130

魔属性:水Lv.6

言 語:エルフ語、古代魔法語、共通語、妖精語、精霊語、ホブゴブリン語、オーク語

固 有:暗視視力、精霊魔法、麻痺耐性

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-----------------------------------------------------------

PARTY:【ON】

登録名:ティース

種族名:人間 / 19歳

HP/MAX:90/90

MP/MAX:350/350

クラス:短杖ワンドLv.6

筋 力:100

知 力:140

俊敏性:120

耐久性:60

抵抗力:150

魔属性:風Lv.3、火Lv.2、地Lv.1

言 語:共通語、古代魔法語

固 有:

-----------------------------------------------------------


「つくづく、シルフィン姉さん突き抜けてますよねえ。遠距離から接近戦まで弓のみで行けるとか、前衛の存在意義ないじゃないですか」


 お互いの能力値を確認しながら、フープがシルフィンのカードを覗き見て感嘆の声を上げる。


 クラススキルレベルが10に達しているのはシルフィンだけで、他は中堅どころの冒険者でありこの地を出たことはない。


 シルフィンはこの地に落ち着いて未だ10年程度で、それまでは大陸全土を旅した経験を持つ、と常々話していた。


「フープも戦斧レベルもうちょっとじゃーん、頑張りなよぅ」


「頑張るって言っても限度ありますでしょうよ、僕だってサボってるわけでもないですし、だいたいそんなすぐすぐ上がりませんって」


「あたしだってぇ、ここまで100年くらいかかってんだしぃ」


「……つくづくエルフずるいって思いますわ」


 薄茶色のローブを身に着けた若い女子――ティースが難しい顔をしてみせる。


「何年かけたらその域に到達出来るのやら。

 まぁ魔法系統も違いますし、羨ましくは思っても嫌うほどではありませんが」


「羨んで風属性使えるならあたしだってティース羨むわぁ。160年かけて水以外に適正ないんだからねぇ。エルフの落ちこぼれだしぃ」


「わたくしは器用貧乏ですから」


 冒険者やる魔術師が器用貧乏でなくてどうすんだよ、と一同から総ツッコミを受けて、皆が一斉にタクミのカードを覗き込んだ。


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PARTY:【ON】

登録名:オキタ・タクミ

種族名:神器 / 12歳

HP/MAX:160/160

MP/MAX:2600/2600

クラス:短剣二刀ツインダガーLv.1

   :拳術パンチングLv.6

筋 力:70

知 力:130

俊敏性:170

耐久性:120

抵抗力:30

魔属性:身体強化Lv.1

言 語:共通語

固 有:状態変化無効

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「ほらほらぁ、ここに正真正銘の反則級な子が居るんだしぃ、あたし程度ふつーだってばぁ」


「姐さんも神器の頃はこうだったんでしょうよ」


 シルフィンの前歴を知るフープが苦笑しつつツッコミを入れる。


「てか、槍やめて短剣ダガーにしたんだねぇ? 両手持ちぃ?」


 肩をすくめて、タクミは腰の後ろに互い違いに斜めに差した短剣二本を取り出して見せた。


「ああ。背伸びはやめたんで、一番慣れてる拳技の延長で同時に使える武器、つったらこれしか浮かばなかった。

 特にこれを練習した、ってわけじゃないから、手に武器持ってやる拳術、以上の意味はないけどね」


 武器屋の親父さんに相談しつつ見繕って貰ったに過ぎないので、華麗な剣技、なんてものとは全く無縁だが。拳技メインで大きな違和感なく使える武器を選んだらこれしかなかった、と言った方が正しい。


「まあ武器を装備するのは正しいよ。直接触れるだけでダメージ受ける魔物も多いからね。スライムなんか特にそう」


 前世で小説で読んだ最強のスライムのことを思い出しつつ、タクミはフープの言葉に頷いた。


「武器屋の親父さんも言ってた。神使に頼めば作ってくれるんだけど、最初だしまた別のに変えるかもだし、本職さんに聞いた方がいいかなって」


「その選択は正しいですわね。神使が何でも作れるとは言っても、固有神力の魔力変換と同時なのでなかなか疲弊すると聞きますし」

「えっ、そうなんだ? あんまり疲れた様子なかったけどなあ」


「それは相当、位の高い神使なのかもしれませんわね」


 ティースの話に驚きつつ、タクミは皆と同じくカードをポーチにしまおうとした。――その手を、フープが止める。


「おっと。タクミくんは初心者だから、これはここに置いた方がいいよ」


 用意してあったらしい粘着テープで、手慣れた様子でカードをタクミの右手内側に貼り付ける。腕を上げればカードが見える状態になった。


「慣れたら数値の増減とかが自分の感覚で判るようになるんだけどぉ?

 このメンツでダメージ受けるってことはまずないと思うけどぉ、特に神器は状態変化無効で疲労感とか倦怠感とかと全然無縁ってのも逆に考えると状況変化に気づきにくい弱点になるからぁ、ちょくちょく確認しておくといいよぉ」


「僕にはさっぱり分からないけど、まあ神器の心得を大先輩から有難く頂いたところで、タクミくんにはこれを持つ栄誉を与えよう」


 シルフィンの言葉に続けて、フープがタクミに手持ちランプ――ランタンを渡した。


「僕は松明トーチ持つから、タクミくんはこっちねー。

 まずないと思うけど狭いとこや空気の悪いとこだとトーチ消すんで、タクミくんのみが唯一光源になるんでよろしく」


「じゃ、<永久光球コンティニュアルライト>入れときましょう」


 ランタンを胸に抱えたタクミに向かってティースが呪文を唱えると、内部に真っ白に輝く魔法の光球が現れた。


 タクミが不思議そうな目でティースのワンドとランタンの中身を何度も見比べる。


「あら、タクミくんは魔法に興味ある感じなのかしら?」


「っと、魔法は一応教わったんだけど、才能ないみたいで。<身体強化>しかダメだった」


「あらら、それは残念。時間かければ使えるようにはなるはずですけども、神使は生まれついて神力使えちゃいますから、魔法術式の基本は魔術も併用して使用できる神族に教わったら覚えられるかもしれませんわねえ」


「さて、自己紹介も終わったしぃ、あとは進みながら話そっかぁ?

 あたしらは毎度のことだけど、タクミくんは初心者で慣れてないからぁ、なんか疑問あったらその場ですぐに聞いてねぇ」


 雑談に花が咲きそうになったティースとタクミの間に割り込んで、シルフィンが先頭に立って洞窟に踏み入った。


 元々暗視視力のあるシルフィンに光源は必要ないので、入り口から既に薄暗い内部を迷いなく進んで行く。


 フープがやれやれ、とため息をつきながらティースとタクミを両腕で抱いて、残りのメンバーも後に続いた。



――――☆――――☆



「てか、さっきシルフィンが言ってたけど、毎度のことってパーティ探索のこと? それともこのクエスト?」


 曲がりながら下っていく道筋の先頭をフープと歩調を合わせて下りつつ、タクミは隣を歩くフープを見上げて尋ねた。


 180cmを大きく超えるフープは中腰になったりして低い天井の突起物を避けたりしつつ、タクミに笑顔を向けて質問に答える。


「このクエスト、だね。ここが龍神のねぐら、って呼ばれてるのは知ってると思うんだけど。

 最下層にほんとに龍神さまが住んでいらっしゃってね?

 ここはこの近隣の地下水脈の要なので、そこに異物や毒物が混じらないように管理してくれていらっしゃるんだけど」


「場所がかなり地下深いとこにいらっしゃるので、管理外の上層に魔物が住み着くのは自然の理、ですわね。

 住み着くだけなら放置しておいても構わないんですけども、近所の森や畑で作物の食害などを行うのが常態化していますから、定期的に退治しないといけませんの」


 タクミののすぐ後ろを歩くティースがフープの説明を継いだ。


 続けて、ティースは貴族の家の末っ子で、家で農家に土地を貸してる関係で作物の収穫が落ちると領地経営実績に響くことを話し、不機嫌そうに眉根を寄せる。


「でっ、定期的に退治に出向くんだけどぉ、龍神様ってのがあたしのお師匠様だからぁ?

 あたしがいつもメンバー集めて掃除しに来てるうちに、ここ数年はこのメンツで固定されちゃってる、って感じかなぁ」


「龍神ってのはやっぱ龍の姿してるのかな?」


「普段は龍の姿だと影響が大きすぎるから人間サイズに縮んでるよぉ。

 同時に分身して存在することも出来るけど意識が割れてめんどくさいって言ってた」


「同時に存在ってのがまずいろいろおかしいよな」


「神様に人間の常識は通用しないってことだね。タクミくん、ちょっと下がってな」


 坂道の終端を下り切る直前で、フープが前に出て壁に手を付きつつ、少し広くなった広場の中央にトーチを投げ入れた。


 炎が放物線を描いて中央部に落ちるのが見える。


「ここはもう何度も来てるからやらないけどぉ、ほんとは経路をマッピングしたり目印つけたりで盗賊や魔術師が働くこともあるんで、こういうとこじゃ前衛のタクミくんはこういう周囲確認の方法をいろいろ覚えてねぇ」


 手慣れた様子でシルフィンが弓に矢を数本同時につがえつつ、タクミの左前に出る。そこで最後尾にタクミを置きつつ、皆は菱形の隊形に移行した。


「あれ、俺って前に居ないとダメなんじゃ?」


「ああ、広場に出たから、全周方向警戒態勢なんだよ。

 入り口からねぐらに戻ってきた敵が居たら、後ろから襲われることも有り得るからね?」


 まあ、最強火力のシルフィン姉さんやティースの洗礼を受ける羽目になるんだけどね、とくすくす笑いを含みつつフープが答えた。


「俺、ほんっと役立たずだなあ。迷惑かけてるみたいで、悪い気がする」


「それは違いますわよ。迷惑って言ったら、いちばん体力のないわたくしなんか力仕事ダメ、魔法使う場面なければ仕事なし、でほんとに何にもしないまま探索終わることだってありますし」


 菱形隊形で警戒しつつ、役に立たない人間などいない、とティースは続けた。


「たまたま仕事がないだけで、仕事があれば必ず働くんですし、だいたい、戦闘とかそういうのはない方が楽じゃないですか」


「うんうんっ、ティースいい事言ったぁ。楽して儲ける、これが一番ねぇ」


「……なんかティースさんが言うと説得力あるのに、シルフィンが言うと全部台無しに聞こえる」


「ええー、そりゃないよぅー、タクミくんのいけずぅー」


 不満げな声を上げたシルフィンの耳が、びくんっ、と跳ねた。


 シルフィンの反応を見て全員がその場に停止する。フープがゆっくりと腰の戦斧を取り出し戦闘準備に入る。


 瞬間、瞬時に引き絞られたシルフィンの矢が奥の闇へと向けて放たれた。


「戦闘態勢っ! コボルト15以上接近中、3体仕留めた、奥から更に大鬼ホブゴブリンっ!

 ティース、光源確保っ! フープ、タクミくんフォローでティースに近づけさせるなっ!」


 普段ののんびり口調からは想像も出来ないほど鋭い命令がシルフィンから発せられる。


 呪文を唱え始めたティースを中心に、即座にシルフィンとフープが前後を挟む。


 タクミはフープに腕を掴まれ、有無を言わせずフープの隣に引っ張られた。


「さあタクミくんっ、お待ちかねのお仕事タイムだよっ!

 仕事は簡単、常に僕の隣に並んで、ティースを守り抜くだけ!

 右半分はこっちでやるから、左側はよろしく、相手は敵だから何やってもいい、手が足りなくなったらすぐに叫んで!

 返事は?!」


「はいっ!」


 慣れないため手間取りながらも、ダガーを取り出し両手に構え、右手をやや前上に、左手を下げた拳闘の構えを作る。緊張で全身が震えるのが見て取れた。


 その間にも次々にシルフィンが矢を放ち、悲鳴と共にばたばたと重量物が地面に落ちる音が続く。


「コボルト更に4体撃破! 奥からまだ来る!

 くっそ、繁殖力ほんっと強いなこいつらぁ!

 ティース光源急げ!」


 シルフィンの叱責に、目を閉じたまま額に汗を浮かべたティースの呪文が完成し、巨大な<光球ライト>が頭上に浮かび上がる。


 暗がりの洞窟を煌々と真っ白な強い光で照らし出す突然の光球出現に、大光量をまともに目に入れて目を痛めたらしい魔物の群れが悲鳴を上げて顔を背けた。


「ティースよくやった偉いぞいい子っ!

 フープに<身体防御ボディプロテクション>、タクミくんに<武器強化エンチャントウェポン>、それが済んだら休息挟んで支援戦闘!

 いつもどーりのいつものやつっ!」


「姉さん人使いほんと荒い……、フープ、タクミくんごめん、ちょっと息整ったらかける」


「気にするなティース、今日はタクミくんって強ーい味方が居るから何も問題ない」


 流れるように進む戦局に慌てながら、タクミは隣に立つフープと共に少し前に出て押し寄せるコボルトの群れへ打撃を加え続けた。


 圧倒的にフープの方がリーチが長いため、フープよりも相手にする敵は少ないものの、打撃を受けたコボルトはタクミよりも体重が軽いせいもあってか一発一発ですぐに動きを止め、そこに狙い済ませたようにシルフィンの矢が命中するために、圧倒的に多人数の敵と相対しながらも囲まれるような状況には陥っていない。


「タクミくんごめんねぇ、ティースは見ての通り体力ない子ちゃんだからぁ、これ終わったらティースのこと好きにしていいからねぇ」


「いくら姉さんの命令でもそれはダメですわっ! わたくしショタじゃありませんしっ、支援魔法行きます!」


 ティースの声と同時に、フープの身体とタクミの短剣が真っ白な光に包まれる。


 魔法の効果に驚きつつ、タクミが突き出した拳の一撃で短剣に触れたコボルトは紙を切るかのように安々と腹肉を切り裂き、盛大に黒い血と臓物をぶちまけつつ倒れ伏した。


「敵残りホブちゃん2とコボルト3、ティース予定変更、<雷撃ライトニングボルト>準備ぃー。疲れたこれで終わらすぅ」


 弓構えを解き、金色に目を光らせながらシルフィンが呪文を唱え始める。


 錆びた大剣グレートソードを構えて咆哮を上げたホブゴブリンが接近するのを迎え撃とうとしたタクミは、服の背をフープに引っ張られてシルフィンの隣まで後退させられた。


「お師匠様直伝っ、なんでか知らんけど範囲魔法になっちゃう不思議な霧、喰らえっ!」


 掛け声と共に、ホブゴブリンたちが粘つくような乳白色の濃い霧に包まれる。


 一瞬で姿が見えなくなったホブゴブリンたちに向けて、タクミの脇を掠めつつティースが前に構えたワンドから爆轟音と共に電撃が吹き出した。


 霧に直撃した瞬間に雷球が出現し、内部で真っ黒に感電し焦げた魔物たちが飛び出して来る。


 しかし高威力の電撃に触れたタクミは感電の衝撃で吹き飛ばされ地面を滑り、段差で見えていなかったが速い水流で流れる地下水脈に落下した。


 状態無効を持つためダメージはないが、衝撃そのものを無効化は出来ないためだ。慌てて段差に掴まろうとしたものの、水流の流れは速く。


 ――あっという間に水流に飲まれてティースの出した光源の範囲外で闇に飲まれる。


 そこで、慌てすぎたためにタクミは溺れることになり。


 そのまま、水流は意識を失いつつあるタクミを地底深くへと押し流した。



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