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幕間12 花見

「オマエら、準備出来てっかァァァァァ?!」


 壇上に立った仮面の男の大きな叫び声に、並居る群衆――全員むさいおっさん軍団――がだみ声で応じた。しかし、仮面の男は呆れたように首を振る。


「アァ? 聞こえないよ? 情けないな、何しに来たんだい? さあ、もう一回、準備出来てるかァァァァァ!?」


 先程より更に大きな怒号が場を支配する。


 首筋から顔面にかけてぶっとい血管を張り出し、全身を真っ赤に染め上げて叫ぶ、お揃いのハッピを着て鉢巻を巻いた男たち――いや、漢たちの姿は『凄絶』の二文字がよく似合っていた。


「よォォォォっし、それじゃあ入場開始だァッ、いくぜ野郎どもっ、合言葉はァァァァ!!??」


「「「「「YesロリータNoタッチィィィィィィ!!!!」」」」」


 ……アゼリア王国王都の桜並木に特設された毎年恒例のお花見ステージは、毎年踊ることになっているスサノオの三童女たちを迎えるために世界随一の建築能力を誇るアゼリア王国自治領所属『聖神軍団』が全身全霊を掛けたステージを毎年趣向を凝らして建設している。


 その会場の客席最前列を埋め尽くすハッピ姿の漢たちは、毎年忙しい職務の間を縫って、時には実力行使でこの日の休日をもぎ取り、中には上司を打ち倒してまでこのライブに駆けつけたという筋金入りのファンたち。


 その三童女親衛隊を率いるのは、世界最強の戦士の異名を持ち、今や世界最大の領土を持つまでに版図を広げた大陸南部の勇、三童女親衛隊会員番号No.01、アルトリウス初代国王フープ・アヴァロン・アルトリウスその人であった。


 なお、三童女親衛隊は結成されて15年で着々と全世界に会員数を伸ばし、現時点では全世界に数百万人の会員登録者が居るらしい。……ぶっちゃけると全世界に支部を持つ冒険者ギルドの冒険者登録者数より多く、目下世界最大の会員組織である。


 残念ながら全会員がこの場に集うことは様々な事情により不可能であり、現在この場に集っている漢たち(一部母性愛全開な仮想お母さんたち含む)は会員のごく一部、十万人ほどとなっている。


「サァッ、三童女たちの入場を、会場のおにーさんおねーさんたちで歓迎しよゥッ! 足踏み、手拍子開始ィッ!!」


 王族が身に着ける豪奢な白銀に輝く鎧に王冠、真紅のマントに王剣を抜き放ったフープ・アヴァロン・アルトリウス国王が、軍勢を率いるが如く、大きく天に向けて振り上げた剣を勢い良く振り下ろす。


 それを合図に、十万人が足を踏み鳴らす音で大地を揺らし、手拍子が空間を切り裂き始めた。


 どんどんちゃっ! どんどんちゃっ! どんどんちゃっ!


 そんな感じのどこかで聞いたようなやたら既視感のある大音量が響き渡る中、ステージの裾からぴょんっ! と白地の上着に朱色の袴、という巫女姿の、身長120センチにも満たない小さな童女がひとり群衆の前に飛び出した瞬間、群衆は瞬時にボルテージを上げ、怒号と歓声が入り混じった驚喜を叫んだ。


「タキリチャァァァッァァァアァァァアアアァァンンン!!」


 名を呼ばれ、にっこりと笑って群衆の居る客席側に向かって両手を振ったタキリの背に、どんっ! と伸し掛かるように二人目の童女がぶつかって来る。


「サヨリチャァァァァァァアアアンンン!!!」


 あまりの声量に恐れたものか、すぐにタキリの背に隠れるように身を隠したサヨリとタキリを押すように、いつもの大人姿ではなく、二人の姉に合わせて幼女化した末妹のタギツが現れる。


「タギツチャァァァァアァアァァンン!」


 三人が揃ったところで群衆の驚喜と狂気が最高潮に達し、三童女は改めて父神スサノオと母神クシナダを称える奉納の舞を舞い始めた。



――――☆



「「ふんふにゅふんふんふーん!!」」


「……相変わらず何語か全く分からない唄ですわね、それ」


 貴賓席でノリノリで口ずさんでいたタクミとアリサに、横目でその様子を眺めていたティースがぼそりと呟く。


 一応この奉納舞はアゼリア王国の花見イベントのひとつで、主催がアゼリア王国なので所属が王国である王権代理宰相ティースが主導、女王と女王親衛隊が列席、自治領大公のタクミとその奥方たちが共に貴賓席に呼ばれる感じになっているのだが。


 なんで同じく貴賓席から舞を観賞するはずのアルトリウス国王や聖神軍団幹部以下全軍団員が率先して三童女親衛隊やって会場を埋め尽くしてるのかはさっぱり誰も理解出来ないのだった。


 やってる本人たちに聞くと「幼女こそ至高にして始原!」とか洗脳されるので、会場周辺は完全に親衛隊たちだけで隔離されている状況が毎年恒例なので危険とかはないのだが。


 むしろ、こいつらが間違いなく世界最強の軍人集団なので余計タチが悪いのかもしれない。こいつらだけで軽く一国落とせるくらいの戦力あるし。


「まさかこっちの世界でこの歌が歌えるなんてっ! アリサちゃん超感動!」


「俺もこっちの世界でこれが広まるなんて思ってなかったんだけどな……」


「えっ?」


「フープ兄――アルトリウス国王たちと一緒に開拓とかで露天風呂ってるときに毎回鼻歌で歌ってたら、いつの間にかアルトリウス王国軍と聖神軍団の全軍に広まってた。……何を言ってるかわからねーと思うが以下略」


「あー、なるほどー。……感染力強いっちゃ強いし、軍人さんたち向けかもですもんねー、足踏みと手拍子だけで歌えちゃうし」


 急に真顔になって告げたタクミに、一応女王親衛隊として列席中なので、魔道騎越しにアリサは言葉だけで応じた。


 なお、ククリ以下他の女王親衛隊たちもノリノリでどんどんちゃっ! のどんどんの部分を捧げ持ったそれぞれの武装で地面を突いている。


 奉納舞ということで、リュカとレアは三童女のステージの次に演武を披露するために既に控室に入っているのでこの場には同席していない。


 旦那が率先して親衛隊を率いちゃってるアルトリウス国王后シェリカとその愛娘のサクヤ姫は毎年恒例の国王との演武の名目で暴走しまくりの王様を張り倒すために控室でスタンバイしているので以下同文。


「……さすがに歌詞込みで歌えるのは頻繁に聞いてたフープ兄とうちの軍団幹部くらいだけど、鼻歌レベルならすごい広範囲で広まってるねえ」


 ちなみに、彼らの最初のふんふーんは大人の事情でそう書いてあるだけで、彼らは完璧に歌唱している。それはもう耳で聞いたらネイティブと間違われるレベルで。でも大人の事情でふんふにゅふんふんふんだ。読者諸氏には納得して頂きたい。


 さあ皆さんご一緒に!(脳内で流れるエレキギターのサビ)


 閑話休題それはともかく


 この花見の催しは一般国民視点では「お花見は毎年楽しみなんだけど、初日に開かれるコレは割りとドン引き」というレベルに達しているのだが、この群衆、落とすお金が凄まじいのである。


 ステージの建築費用、土地使用料は全て親衛隊会員持ち寄りの会費で賄って毎年完璧に前払いで支払われるほか、会員は全て公費ではなく自腹の自費で公共交通機関を使用して一般人扱いで入国し、宿泊費や飲食費用も含めて鬼のよーな滞在経費を落として行くため、王国の年間財政を潤す催し物としてはぶっちぎりのトップレベルであり。


 政治レベルでも公然と国賓クラスの関係国家首脳陣が一同に集まる機会のため、いろんな国家間会議が同時開催される機会にもなってたりして。


 まあ、そんな国家レベルの催し物になっちゃってるとは露知らず、元気に舞い踊る三童女たちはそろそろ終幕し、会場にはアンコールの怒声が響き渡っているのだった。


 ――なんで親衛隊たちがヲタ芸全開で伴奏に合わせて全員一糸乱れぬ練度で三童女たちと一緒に踊れちゃったり掛け声で合わせられちゃうのかは全く謎である。世界の次元を超えて結集したヲタ芸魂の成せる技なのかもしれない。



――――☆



「タギツちゃんと毎年会うのがタキリは楽しみなのです!」


「おっきく育ったタギツちゃんも可愛いけど、たまには小さいタギツちゃんもいいなとサヨリは思うのです!」


「……地味にこの身体の方が楽だったりすることもあったりするのです。普段は胸が重くて重くてですね」


 久し振りの童女姿で姉たちに左右から抱きつかれつつ、タギツは苦笑いでぴょこん、と頭上に猫耳を飛び出させて耳を動かして見せた。


「旦那さんのために姿を変えちゃうとか、タキリには真似出来ないのですー、ととさまはどんな姿に変わってもいいって仰るのですけど」


「サヨリも姿を変えるのは怖いのです。お父様もお母様も、大人になっても扱いは変わらないから、と仰るのですけど」


「父上も母上も全く扱いを変えませんでしたよ? タキリちゃんとサヨリちゃんの大人姿も見てみたいな、とタギツは思うのです?」


 ううーん? と眉根を寄せたタキリとサヨリに向けてにこにこと笑ったタギツに、二人の姉は目を丸くした。


「大人姿、ですかあ。――うーん、想像しても、タキリはかかさまにそっくりになってしまいますねえ?」


「サヨリはツクヨミさまにそっくりの姿を想像してしまいますねえ?」


「タギツはクルルさまを想像したのですが、いざ変身してみるとこうなってしまったのです。――意外と面白いですよ? 曖昧な想像の部分が自分オリジナルになるみたいで」


 見る間に大人の姿に変貌したタギツが、高い位置から膝に手をついて姉たちを見下ろす形になる。


 その両腕に挟まれてぶにゅーるりんっ♪と莫大な質量が強調された胸の脂肪部分を、姉たちは物珍しさから四本の両手でむにゅむにゅっ、と揉みしだき始めた。


「やっぱり不思議なのです? これ、何の役に立つのでしょう」


「枕にするにはちょうどいい弾力かもしれないのです。お父様もたまに枕にしているみたいですし」


 サヨリの言葉に、ぶほぇっ! とか飲み物をむせ返ったお父さんが控室の片隅に。


「あー、そりゃもう少し大人になってから教えてやっからよォ、とりあえず相手の好みに合わせて大きさ変えりゃいいんだぜェ?」


「「相手って?」」


「アァ、いい男見つけたらまず俺様に知らせるんだぜェ? 俺様と戦って勝てる奴がいい男だからなァ? オォ、今宵のフツヌシは血に飢えておるわァ」


「ととさま「お父様「父上、まだお昼なのです?」」」


 なんかやたら物騒な目で抜き身の剣神フツヌシを掲げてる父神スサノオのことを、三人娘は不思議そうな目で見つめていた。




seitakanoppoさんのリクエストで「タキリ、サヨリちゃんたちの現在」でした。

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