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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第一章 冒険篇
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07話 初めてのおつかい

「ふふふーん? ふふふふぅー」


 ニヤニヤ顔でちらちらと俺の顔を覗き込んで来るシルフィンに努めて目を合わせないようにしつつ、俺はしゃがみ込んでせっせと薬草を大きめの袋に丁寧に土を落としつつ詰め込む作業を継続している。


「シルフィンっ、そんなに露骨にしてるとバレちゃいますよっ」


 注意する素振りのクルルも何だか面白がってる雰囲気がバレバレだっての。くそう。


「確かに迂闊にも泣き喚いて世話になったのは感謝してるけどさぁ……、そんな面白がることかよ」


 昨日は親方の温かい指導で不覚にも死んだ爺ちゃんと前世の職場経験を思い出して子供返りしたみたいに泣き喚いて醜態晒しちまったけど。


 仕方ないだろ、両親共働きで爺ちゃんと過ごした時間の方が長くて、俺にとっては育ての親つったら爺ちゃんが真っ先に出て来るくらいには尊敬してる人で。


 そこにあんなに厳しくて優しくてかっこいい親方から指導されたら、そりゃ思い出すし連想するし、もう二度と会えないんだから泣きもするわ。


 そう、これは言い訳や自己弁護じゃなく、当然の帰結ってやつだよ。


「タクミくぅん」


「んだよ」


 相変わらずニヤニヤ顔のまま、作業中の俺の横にしゃがみ込んでまで俺に顔を寄せてくるシルフィン。


「うぅーん、可愛いぃー」


 がくぅっ! って擬音がきっと発されたに違いないくらいの勢いで、俺は思わず採集中の薬草を引き千切りつつ地面に突っ伏した。


「あーっ、タクミくんそれ持ち帰ってから植え直すので、千切っちゃダメですよっ」


「分かっとるわ! 子供のお使いじゃねえんだから、採集クエスト真面目に進めてんだろーがよ!!」


 素で後ろから声を掛けてきたクルルに向き直って、俺は立ち上がって怒声を浴びせた。


「だいたい、薬草採集なんだから手伝うなり周囲警戒するなり邪魔にならないようにするなり、なんかやることあるだろうがよ!」


「えっとっ、だからクルルは周囲警戒中ですよっ」


「あたしはタクミくんに危険がないように頑張ってタクミくんを観察してるからねぇ。忙しいぃー、忙しい」


「忙しいわけあるかー!」


 くっそ、くっそ!! 身体の年齢に感情が引っ張られる、ってのは前々から分かってたけど、昨日の体験でより強く思い知った。


 感情が昂ると精神的にも子供みたいに感受性が高くなってやたら感情が大きく動いて。制御出来なくなっちまうぽい。


 しかも、12歳年齢なのに感情的には6~7歳程度にまでなっちまうような。泣き疲れて寝るとか子供そのものすぎるだろ。


「でもでもぉ、泣き疲れて寝ちゃったタクミくんってすぅーっごく可愛かったしぃ」


「あれはもうっ、永久に語り継がれる伝説級の可愛さでしたねっ」

「意気投合してんじゃねえー! だいたい、なんでそんなに急に仲良くなってんだよっ、最初険悪ムードだったじゃねーか」


 びしっ! と指を指した俺の指摘に、きょとん、とした風にシルフィンとクルルが顔を見合わせて。


「「可愛いものを愛でたいというのは女子の共通心理ですよ」っ」ぅ」


「俺はモノじゃねーし! 可愛いとかいうのもう金輪際禁止!

 神器のお願いって神使は聞いてくれるんだよな!?

 シルフィンは大人なんだからそれくらい判れ!」


 可愛い以外の形容詞……ううん、たくさんありすぎてどれにしようか悩みますよね、とかなんとか全力意気投合中の二人はもう相手にしないことにして。


 ……俺はぜえぜえと呼吸を整えつつ深呼吸一発でこいつらのことを脳内から追い出すことにした。作業がさっぱり進みやしない。


「あっ。接近中の魔物感知っ」


「あぁー、ちょっとうるさくしすぎちゃったねぇー、結構森の奥まで進んじゃってるしぃ」


「だから森に入るときに言ったじゃないですかっ、普通に魔物も出る森だからっ、あんまり騒ぐと危ないですよっ、て」


「主に騒ぐ原因作ったのはお前らだろーが!」


 せっかく整えた息を再度怒鳴り声で消耗しつつ、俺はとりあえず薬草袋をまとめて脇に置き、腰に差し挟んでいた神鉄槍を引き抜いた。


 魔力を通すとしゅっ、と音を立てて伸びる。


「便利だよねえ、それぇ。伸ばしても強度も重さも変わらず、だっけぇ」


「まぁ使いこなせるかどうかはまた別の問題ですけどねっ。長物扱うタクミくんもかわい……キュートですよねっ」


 さり気なく言い直しやがった。まだ教育的指導が必要らしいな。クルル、お前の弱点を俺が握っていることを忘れてるみたいだな。


 ――弱点ってか、撫で回すのは俺がクルルを可愛がる行為になるんじゃなかろうか。どっちにしても喜ぶネタにしかならなくね?


 あれ、俺ほんとに遊ばれてなくね??


 一応の戦闘態勢を整えたものの、クルルとシルフィンは完全に傍観の構えらしい。曰く、


「「これはタクミくんのクエストだから、手伝いはするけど戦闘も採集も全部タクミくんが一人でこなさないと経験値になりませんよ」ぅ」っ」


 だそうで。それなら邪魔せず黙って見守る選択肢はなかったのか。


 ……なかったんだろうな。諦めの境地に至りつつあるな俺。


 頑張れ俺、ちょっと涙出そうになってるけど若い身体のせいだ、そうに違いない。


 そうこうしているうちに、木陰から獣たちの鳴き声とガサガサと木や草を踏み分ける音が迫って来て……、奴らとご対面した。


 犬の頭に人間ぽい手足の身体、コボルトってやつだっけ? 森で定番の魔物。


 言葉を解するんで交渉出来なくもないらしいけど、低知能で畑を荒らす害獣だから倒しても農家関係から別報酬得られるってことで受付のシンディさんは問答無用で倒していい、って言ってた。


「しっかし、言われてた通り、ほんとに数多いなオイ」


 3メートルほど先の木陰から顔を覗かせたコボルトを筆頭に、ひいふうみい……、15匹くらい? まだ森に隠れてるならこりゃほんとに多いな。


 シルフィンみたいに赤外線視力ありゃすぐ判るんだろうけど。


 弱い魔物ほど集団で現れる、とは聞いてたけど、街でチンピラ集団に囲まれる一般人、の雰囲気を醸し出している。


 何だかいろいろ鳴きまくって会話してるっぽくはあるけど、さっぱり聞き取れないな。シルフィンなら語学で言ってる内容判るんだろうけど。


「じゃっ、あたしらは本当に危なくなったとき以外は手出ししないからぁ、頑張ってねぇー」


「タクミくんのかわ……ラブリーな奮戦っ、ちゃんと見てますからねっ」


 口々に言いながら、軽く手を振ってる二人の姿がその場から薄くなって消えてくのが目の端に写った。


 姿隠しの魔法ってやつか。いいなあ、ああいうのいろいろ使ってみたかったんだけどな。


「ほんじゃまぁ、期待されてるみたいだし、いっちょ派手にやりますかっ」


 神鉄槍を構えて……、まぁ殺し合いしたいわけじゃないんだし穂先は収めていいか。先端刃を収納してただの神鉄『棒』にして。


 俺が孤立したと見たのか、背後方向から唸り声を挙げて棍棒で殴りかかってきた一匹をちら見で視界に入れつつ。


 腹部めがけてカウンター気味にどすっ、と一撃。黄色い吐瀉物を浴びそうになって慌てて飛び退いた。


「きたねえ、臭いっ! 俺は汚れないけど服には匂いとか残るんだからな、勘弁しろよ!」


 一斉に奇声を挙げて接近してきたコボルトたちを近寄る端から殴り飛ばす。


 けど、多すぎね?! 習った型なんかすぐに役に立たなくなって、最初の自信とは裏腹にちょっと俺は焦りを覚えてきた。


 一匹殴るごとにすぐ近くまで接近してきて、そいつを殴ろうにも別の奴が振り抜く軌道の間に居たら勝手に当たっちまうし、ハンパな威力で殴ると掴み取られて引っ張り合いになって。


 引っ張り合ってる間にもどんどん殴られ続けるし、身体的には身体強化の魔装作ってあるから痛くも痒くもないけど、服は破れたり傷ついたりで、どさくさに紛れて腰のポーチとかも引き千切られて盗まれたりで。


 悪い、ほんと悪い、俺、正直言って魔物との戦闘って舐めてたかも。前世の喧嘩騒ぎでも、こんな「強盗集団」と戦ったことはなかったし。


 半数の7~8人くらいは殴り倒せたと思うけど、コボルトたちが撤収したときには薬草袋は全部取られて。腰に下げてた小物ポーチも2つほど奪われて、俺の身体は別に傷つかないけど、服はぼろぼろとさんざんな感じ。


「殺さない選択肢をしたのは正しかったですねっ。でも、ほんとは最初に逃げたらもっと良かったかもですっ」


 座り込んで息を整える俺に、クルルが中腰で微笑みながらお説教タイム。


「なんで、手伝ってくれないんだよ」


「さっきも言ったじゃん? 手伝ったらタクミくんのためにならないんだってばぁ」


 したり顔でシルフィンが目の前にしゃがみ込む。お姉さんぱんつ見えてんぞ。風呂場で何度も全裸見てるからもう今さらだが。


「神器さんがよく最初にやるって言うよねぇ、この手のミスチョイス。

 自分の身体が強くなってもぉ、手数が増えるわけじゃないんだから集団戦になるなら逃げを打つかぁ、一対一かそれくらいの捌ける少人数まで相対する相手を減らす手を考えないとぉ」


「馬車走らせて逃げたみたいにか?」


 うっ、と痛いところを突かれたようにシルフィンが唸った。


 今なら判る。シルフィンが初めて会ったときに馬車荷台から追ってくる盗賊を狙い撃ってたのは、一度に襲われる人数を減らすためだ。


 商人が迂闊に外に出て負傷しなければ、別に俺たちが手伝わなくてもあの弓の正確さでいずれ襲撃を諦めさせることが出来てただろう。


「戦略ミスは認める。けど、逃げ出すってのは性に合わないし、勝てると思った」


 自然と憮然とした声になった俺に、シルフィンが苦笑しつつ頭を撫でてくる。


「でも結果的に成果物はぜーんぶ奪われてぇ、元々の持ち物も盗まれてぇ、結果はマイナスじゃん?

 そもそも相手も正々堂々と勝負しに来てるんじゃないからぁ、一人相撲だよぉ」


 相手は盗むことが前提だったから、襲ってきたのは盗みを邪魔されないためだ、とシルフィンは続けた。


 戦いには目的が付き物で、勝敗は目的を達成したかどうかで決まるんであって、倒した人数と結果が釣り合わないなら損だと。


「あとっ。使い慣れない武器に最後まで固執したのもミスですねっ。

 ずっと前からタクミくんの練習に付き合ってたクルルは知ってますけどっ、タクミくんは槍を実戦で使用したことは一度もないしっ、そもそも槍の練習自体もほとんどしてませんでしたよねっ」


「――ああ、それは認める。遊びの延長線上で慣れたもんだし、だいたい現代日本人が槍で実戦経験なんか出来るわけねえだろ」


 <身体強化>で腕力強くなって自由自在に振り回せるもんだから、それでどんな相手でも倒せる気がしていた。


 それは認める。増長してたってやつだ。


「はっ、参ったわ。転生して能力貰って強くなった気がして有頂天になってたけど、全部、勘違いか」


 自分が滑稽すぎて笑えてくる。


 親にいい車やバイク買って貰って、見せびらかしてるけど初走行で事故って廃車にする金持ちのボンボンを地でやったみたいな気恥ずかしさと、情けなさ。


「あーっと、勘違いはしちゃだめだよぉ。タクミくんは確かに強いし、これからも強くなるんだよぉ」


「地力はあるんですっ、それの使い方を知らないだけなんですよっ」


 ずぅん、と気持ちが沈み込んだのが顔に出ちまったのか、少し慌てた感じで二人が慰めに入って来る。


「タクミくんが最も長く練習して身体に染み付いてる技を利用するところから始めましょうっ?

 それと、拳技だけだとリーチが短すぎるので、武器も併用する感じでっ」


「あたしはサブで小剣ショートソード使うからぁ、それなら教えられるしぃ」


「なんでお前ら、そんなに俺のことに一所懸命になってくれんの?」


 すごい勢いでフォローしてくれる二人に苦笑して、俺は疑問を返した。


 神使のクルルはともかく、シルフィンなんか最初に出会った異世界人ってだけで別にそこまで気心知れてるわけじゃないし?


 最初の3回のお試し冒険期間、つっても今回も失敗でもう2回連続でシルフィンに損させてる。負け越しで見放されてもおかしくはない。


「んー、ごくごく簡単に言っちゃうとぉ、あたしも元神器だからだよぉ」


 そのシルフィンの回答は衝撃を受けた。


「えっ、じゃっ、シルフィンも異世界転生者?」


「いやぁ、違くてぇ。神器は神と縁故あって了承得たら誰でもなれるのぉ。

 神さまは大抵気まぐれでそれぞれ性格も目的も違うからそこそこ苦労はあるけどぉ、神器になって神になれなくたってぇ、いつでも中断出来るしぃ」


「――中断、したんだ?」


 悪いこと訊いた気分になって真顔で尋ね返すと、シルフィンは笑い飛ばした。


「普通は神器になる目的って不老不死を得て神になることぉ、なんだけどぉ。

 あたしの場合は元がエルフで不老は最初からだからぁ、ほんとに神様と気が合って一緒に冒険したぁ、程度でしかなくて。

 一緒に旅するんだったら神器と神使でやった方が便利だよね、ってそんな理由ねぇ」


「って、エルフって不老なんだ?」


「そうですよっ。エルフは元々数が少なくてっ、森から出て来ないままある程度の生を過ぎると森の大樹と一体化して生涯を終えるのが一般的ですからっ。

 シルフィンみたいに冒険者やっちゃうくらい元気が有り余ってるのは割りと規格外ですねっ」


「元気が有り余ってるってぇのはなんだか面白い言い方だけどぉ、まぁそゆことぉ。

 だからぁ、神器の後輩なタクミくんには勝手に親近感感じてるのねぇ」


 照れたように笑ってシルフィンは言葉を続けた。


 元神使の神はこの付近の洞窟に住んでるんだとか。


 そこに、明日訪れるのが3回のお試し冒険期間の最終仕上げになるらしい。


「クルルにはちょこちょこ話してたんだけどぉ、そう言えばタクミくんには教えてなかったねぇ。めんごぉ」


「シルフィンの元神使はクルルの親戚でもあるのでっ、ちょっと親近感ありましたっ」


 ほんっとーにあちこちに居るんだな神様って。


 まぁ八百万の神族なクルル=アメノウズメだから、そこらじゅうに溢れてても別に不思議じゃないのか。


「さてっ。反省会も終わったところでぇ、採集作業に戻ろっかぁ。今度はあたしも手伝うからぁ」


 尻を叩いて立ち上がって、シルフィンが草むらに歩み寄って薬草の選定を始めた。


「……あっ、そうか。奪われてそこでおしまい、じゃねえんだよな。もう一度取り直せばいいのか」


「そうっ。目的は採集した薬草で、戦闘とかそういうのはおまけですからっ。

 目的を達成するためには契約が許す限り何度でもやり直していいしっ、時間もいくらでもありますからねっ」


「あ、この報酬はお風呂で洗いっこ、ってことでよろしくねぇ」


「シルフィンあざといっ。それクルルも乗りますっ」


「踏んだり蹴ったりの俺から更に絞り取るの?! 鬼かお前ら!!」


「これはあたしのお財布が目減りするかどうかも掛かってるのでぇ、タクミくんはきりきり働いて貰わなきゃだしぃ?

 タクミくんの成功報酬を得られるかどうかの瀬戸際で冒険者のあたしの手伝いが必要ってことはぁ、雇用契約であたしを雇った、って風に考えたら判るよねえ?」


 最初と同じニヤニヤ笑いを顔に貼り付けて、シルフィンがこっちに視線を投げて来る。


 くっそ、少し良い奴かって思ったけど、実は二人して俺を弄びたいだけなんじゃねーのかよ。


 不承不承ながら頷くと、シルフィンとクルルが手に手を取って喜ぶのが見えた。


 だんだんこのおかしな環境に強制的に慣らされて行ってる気がしてならない。


 俺は正常な男子なんだぞ、一応。危機感とか持てよ女子なら。


 まぁ確かにこのメンツじゃ最弱なんだろうけどさ。


 日もとっぷり暮れてからシルフィンの暗視に頼りつつも、俺は一応目的の量の薬草採集を終えることが出来た。


 これで3回中1失敗1成功、残り1回はどうなるやら。



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