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03話 落下

「おっと! お風呂上がり? なんか、普段と違った格好も新鮮だなあ。ええっと……アリサちゃんかな?」


 がしがしと濡れ髪をバスタオルと両手で拭きながら、夜着ナイトローブに着替えた赤い目のアリサ=フィーナが王宮備え付けの女子風呂で入浴を終えて中庭工房の寝室に戻る途中に、今まさに書類を抱えて中庭から外に出ようとしたハヤヒと鉢合わせたのだった。


「はい、アリサです。えっと、目の色で解りますよー。あたしが赤色で、フィーナのときは緑になるので。なんで色が変わるのかは判んないんですけどねっ」


《アリサ、アリサ、やばいってば。まずいまずい、早く戻ろ?》


 アリサの脳内でフィーナの焦り声が聞こえて、アリサは不思議に思いつつ脳裏に疑問符を浮かべた。


 ――やばいって、何が?


《ああんっ、もうっ、アリサいま、自分がどんな格好してるか解ってる? お風呂上がりであとは寝るだけだから、夜着の下は何も着けてないのよ??》


 それを証明するかのように。


 中庭の長方形の空間をぐるりと巻くように吹いた一陣の風が、アリサの夜着の裾の下に入り込んだと思った刹那、盛大にぶわあっとアリサの着るゆったりとした夜着をアリサの視界がなくなるほどの全開でめくり上げて、そのまま通り過ぎて行ったのだった。


「……見えちゃった?」

「……すごく、綺麗だったよ」


 すっぱあああああん!


 アリサの言葉に至極正直に答えたハヤヒの頬に鮮明な赤い紅葉形を残し、赤面しつつアリサはその場から駆け出していた。


 ――やっば、やばい。何これどきどきしてるし。綺麗とか、フィーナの身体なのになんであたしが。


 駆けながら、何故か裸身を見られたことではなく、ハヤヒの言葉の内容に盛大に胸が高鳴っていることに気づいたアリサが焦りを覚えつつ胸中で自問自答する。


 それを裏側で聞きつつ、同様に自身の生身をハヤヒに見られたことに非常な羞恥心を覚えながらも、フィーナは何故か胸の奥底が、ちくん、と痛んだことを不思議に思っていたのだった。


――――☆


「おー、これが新型の<魔道騎>かあ?」

「ほっほー、一人乗りにまで小さくなったんだなや」

「中身は娘っ子だってなぁ? 大丈夫かお嬢ちゃん、きつくなったらすぐ休むんだでよ?」

「あっ、えっ、はいっ!」


 タンクトップ一枚にだぶだぶの下履きに地下足袋、腰にローブを下げてヘルメット姿、という典型的なとび職のおっちゃん連中に周囲をぐるりと囲まれつつ、心配する言葉を投げかけられて、身長150cmに届かないほどに小さく、かつ装着した一回り大きい魔道騎を装着した状態でも160cmをやや超える程度、というアリサ=フィーナは初現場の緊張に身を縮める思いで返事するのが精一杯だった。


「心配しなくていいよみんな、それドワーフ王国の神鉄ヒヒイロカネ製で、ぶっちゃけ俺がぶん殴っても中身にダメージ通らなかったくらいだし」


 笑いながら作業員を掻き分けつつアリサ=フィーナの前まで進み出て来た180cm近いタクミが、物珍しそうな作業員たちの注目の的になっていた「2トン以上の重量がある」アリサ=フィーナの<魔道騎>を軽々と両手でお姫様抱っこ状態で抱えると、そのまま皆の前で振り返って作業工程の説明を始める。


 ――一応給与出してる関係上、何でもいいので<魔道騎>以外の仕事も覚えて、将来自分に合う業種を見つけて欲しい、というタクミの言によって、とりあえず王宮からあまり離れない範囲で王室関連の仕事の各種を一通り体験することになり。


 ちょうど、王都アグアの中心部にそびえ立つ全高150メートルに達する『先代宰相レムネア・レイメリア石像』の補修改築作業を受注しているクーリ公国のタクミが部下を率いて補修作業に来ていることもあって、まずはそこから体験、ということになったのだった。


「15歳の女の子の初仕事が土木作業ってどうなんですかね?」


 という専属整備士のハヤヒが、


「15歳でアバートラムの決戦戦った俺の嫁と同じで前線に出すかい? ちょうど傭兵要請が北の方から来てるけど」


 というタクミの言葉で敢え無く撃沈したおまけもついている。


 そのハヤヒはと言えば、作業員たちがタクミと、抱き抱えられるアリサ=フィーナを注視している輪の外側で、やや不機嫌そうにタクミを注視しているのだった。


 ――フィーナ。声に出さないでね。……なんか、ハヤヒさんってやたらタクミさんに突っかかってる気がしない?


 お姫様抱っこ状態を恥ずかしく思いつつ、<魔道騎>の内側でちょうどタクミの腕に頭を預ける格好となっており、そこからタクミの横顔を見やりつつ、視界の外にハヤヒの表情も同時に把握していたアリサが<魔道騎>中枢に移っているフィーナに尋ねる。


 フィーナも声には出さず、アリサの目の前に出したディスプレイ画面の中に『うん、そう思う』とメッセージを出すことで同意した。


 ――最初はそうでもなかったように思うんだけど、だんだんハヤヒさんがタクミさんと一緒にいるときの不機嫌具合が増してるっていうか……、タクミさんと会う機会も増えてるっていうか。なんでだろうね?


「じゃっ、そんなわけでー、今日も一日ご安全に?」

「「「「「ご安全にっ!!!!!」」」」」


 タクミの作業説明が終わり、締めの言葉で一斉に作業員が唱和し、作業開始となったので内部での内緒話はそこで打ち切られ、作業に従事することとなったのだった。しかし、最後のフィーナによる『気をつけてた方がいいように思う』というメッセージは、アリサの中で何故か不安を覚える要素となったように感じられていた。


「でっ。アリサちゃん。作業内容、理解出来た?」


「――全っ然分かりませんでした!」


「ハハッ、素直でよろしい、減点10! まあ、今日は作業従事させないんだけどね。

 周りがうるさいんで俺の一存で引っ張り回す感じになってるけど、その<魔道騎>の習熟の一環だと思って気楽にやっていいよ。でも作業員の邪魔はしないでね、マジで。

 ――アレ(・・)のてっぺん上がったことないでしょ? めっちゃ気持ちいいよ、あれより高い人工建造物ってそうそうないからね」


 軽く画面の中央、タクミから見れば兜の前の、赤い光を放つ目の部分に相当するパーツを軽く中指で弾かれて、痛くはないのだがアリサは軽く嬌声を上げて叩かれた部分を<魔道騎>の両手の掌で押さえた。軽くそこを擦り、そのままタクミが指差すアレ(・・)――先代宰相レムネア・レイメリア像を見上げる。


《……「先代宰相への国民総出での嫌がらせで建てられた」って言われてますけど、本当なんですか?》


「うん、本当。つーか、作ったの俺ら聖神軍団だし。俺ら、ほんとは建築作業メインの大工なのよ? 誰も信じてくれないけどね」


 ふふっ、と軽く笑ったタクミが、作業員らが器用に像のあちこちに突き出した作業用の鉄杭にロープを引っ掛けてどんどん登っていくのを見やりつつ、フィーナの問いに答える。


「嫌がらせでこんなに巨大な像を作っちゃうって、この国の人たちってなんかズレてる気が」


 小首を傾げるアリサに、タクミはぶっ、と吹き出すように笑い始めた。


「ハハッ、確かに! つか、亡くなったときが戦争中でね、終わってから盛大に国葬だな、って思ってたら遺言で『国葬禁止、ボクのためにみんなが泣くなんてゴメンだい、お役御免なんだから笑って送ってよ』なんて言葉があったんで、国葬できなくてね――」


 言葉を切ったタクミが、どこか懐かしげにレムネア像の顔部分を見つめた。


 巨大な像は、今はククリ女王が引き継いでいる赤竜由来の竜弓を大きく引き絞った姿で、その狙う先は南のアルトリウス王国の都市フィールに向けられているのだ、と説明されていた。


 そこが、アゼリア王国の初代国王が落命した場所らしかった。


「うん。国葬出来ないんだったら、『嫌がらせ』ならやってもいいよな! ってことで、国民総出で嫌がらせで建ててやったぜ。

 生前のあの人がいちばん嫌がりそうなご立派な石像。しかも、すっげーかっくいい立ち姿で。

 あと、最低でも500年は保たせて伝説化させようぜ、ってことでおっそろしく頑丈にしてやったぜ、フハハハハ」


 心底邪悪な笑みを浮かべたタクミに、既に腕から降ろされてタクミの横に並び立っていたアリサ=フィーナはドン引きでじわじわとタクミから距離を取ろうとしていた。


「他にも先代剣聖や先代の剛拳みたいな英雄像が町中や郊外にあるから、暇なときに見物がてら歩いてみるといいよ。

 今日は、作業手伝いってことになってるけど、まあ落下と飛行をちょっと試してみようか、って話ね。

 ――さてと」


 言うなり、がしっ、と右腕一本で軽々とアリサ=フィーナを抱え上げたタクミは、上に伸ばした指先から極細の神鉄触手をしゅっ、とレムネア像の構える竜弓の突端に向けて伸ばした――と思った刹那、ぐんっ! と引き上げられるように、その突端に向けて突進を始める。


「えっ、うわっ、ちょっ、やばいやばいやばい速すぎ!!」


「速すぎってこたないっしょ、いいとこ時速200キロくらいよ?」


《嘘ですぅ、時速234キロ出てますぅー、きゃあああぁぁあぁぁ!》


「あっ、やべえ女の子の悲鳴って気持ちいい。もっと速い方がいい?」


「《……》」


 途端に無言になったアリサ=フィーナに苦笑を返し、前方に迫る弓の突端に身を翻しつつ、重力魔法によって減速し着地したタクミは、小脇に抱えたアリサ=フィーナが硬直してしまっていることに気づく。


「あれ? フィーナちゃんはともかく、アリサちゃんはこれくらい見慣れてない?

 池袋や新横浜にある高層ビルの屋上くらいなんだけど。飛行機から見る地上より全然低いでしょ?」


「ひっ、飛行機は落ちないですしっ。ビルの窓から下を見たときだって、ちゃんと床はありますしっ」


《高い怖い高い怖い高い怖いうえええぇぇぇぇん》


「……あるぇ? 現代っ子だからこれくらい平気かと思ってたんだけどな。

 ……まあ、パニックになっちゃう現地の子たちよりはマシだってことは証明されたし、いいや。じゃあ、慣れればおっけーってことで。そんじゃ、行っくよー」


 何を、とは聞けなかった。くるり、と身体を回したタクミが、その勢いのままで地上へ向けて斜めにアリサ=フィーナの乗る<魔道騎>を投擲したからだった。


「《きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………!!》」


「おおっ。あんなに喜んでくれると、訓練し甲斐があるなあ」


 タクミはそんなことを呟きつつ、遠ざかっていく悲鳴と、小さくなっていく<魔道騎>の後ろ姿を見送ったのだった。


「《…………ぁぁぁぁぁぁああああああああ!?》」


「うるせェ、二人同時に喚くな。あっ、やっべ、石畳めくっちまった。あとでタクミに怒られるなこれ」


 数秒の滞空体験を経て、まさに公園のその石畳に激突しようかという瞬間に、時速数百キロの勢いで投擲されたアリサ=フィーナを軽々と受け止め。


 アリサ=フィーナに受け止めた衝撃が及ばないようにか、その場でくるくると回転して勢いを殺した、剛力神タヂカラオの神器『疾風の武王』リュカが片目をしかめて呟いた。


「その<魔道騎>は壊れねえし中身も心配ねえよ、ドワーフ王ムギリさんのお墨付きだぜ? そいつに傷付けられるのはオレら神器クラスじゃねェと無理だっつの。……で、慣れたか?」


 無骨な<魔道騎>がぺたん、と女座りになっていやいや、と首を振りつつ必死で拒絶の意を両手で示す様子はなかなかシュールだった。


「あのバカまた言い忘れてんじゃねーのか? これ、オマエらが自分で飛行パック使って飛ぶまで繰り返すらしいぞ? ……じゃっ、頑張って行って来いよ!?」


 あわあわと四つん這いで逃げ出そうとするアリサ=フィーナの首根っこを問答無用で大股で歩み寄ったリュカが掴み、振り向きざまに、遥か遠方の、巨大な竜弓の突端位置にゴマ粒のような大きさにしか見えないタクミの方へ向かって再度片腕で軽々と<魔道騎>を投擲し、真っ直ぐに投げ戻す。


 ――結局、飛翔中にアリサ=フィーナが飛行パックに魔力を通して自在飛行出来るようになったのは、タクミとリュカとの間を七回ほど往復した後だった。



――――☆



「トラウマになりますよ、あんなやり方っ!」


「違ェよ、トラウマにするんだよ」


 会議室の机に両腕をばんっ、と叩きつけつつ叫んたハヤヒに、奥でタクミと並んで座りつつ腕組みで足を組んでふんぞり返ったリュカが応じる。


「一般人を乗せたときの事故を忘れてないだろ?

 <魔道騎>で高所の恐怖心がなくなった代わりに、生身で高所注意の心構えを忘れて落下事故起こしたやつ。

 アレは俺の現場だったからすぐ助けられたけど」


 タクミが声に棘を持たせて返事をした不機嫌そうなリュカの頭を軽く撫でつつ、言葉を続けた。


「あの子たちが飛ぶ空はもっともっと高いんだし、魔力無限っつっても、両方ともにそれを使う意思がなかったら落下することが判ったし。

 だから、落下前に飛行パックを緊急展開する練習、かな。

 ついでに、『地面に高速で激突する恐怖』も教え込みたかったけど、それやると補修が大変だからリュカに地面すれすれで受け止めて貰ったし」


「だからって、あのやり方はっ!」


「俺のトラウマはみんな知ってるよね?」


 更に激高して声を荒げたハヤヒの言葉を遮るように、静かにタクミが告げた。


「――『業火で焼かれて死んだ経験』からの、あらゆる炎に対する恐怖心、ですよね。

 だから、王国全土で基本的に炎を使うことは禁止されてますし、代わりに熱を発生させる魔道具の無償配布で置き換えられています。それが何か関係が?」


「あるよ。俺は確かに炎が死ぬほど怖い。怖いけど、意志の力でそいつを抑え込んで戦うことが出来る。

 ――逆に言うと、少しの炎でも物凄い勢いで反応する俺は、炎の危険にめちゃくちゃ過敏ってことでもある」


「……落下訓練を繰り返すことで落下に対する恐怖を植え込むと?」


「『制御出来ねェ落下』がダメなんだよ。途中でちゃんとあいつらは飛べることに気づいたぜ?

 あれでトラウマになったかまでは分からねえけど、少なくとも、自分の持ってる能力の全力を使えば落下しない、回避できる、ってことに気づいただけで上出来だろ。

 どんなに言葉で教えたって、七回も往復するまで出来なかったことが、訓練が有効だった、って証拠になんだろ」


「喧嘩しないの、リュカ。ハヤヒもリュカもあの子達を可愛がってるのは分かるんだけどさ。

 ――戦争が近いから、始まったらあの子達は前線に引っ張り出されるよ。そういう風に利用されるレールが敷かれてんだもん。あれだけの魔力持ってて神器――神の使徒じゃないのが致命的だし」


 困った、という風にタクミは神鉄製の硬質な両手の義手の指を組み合わせ、大きくため息をついてみせた。


「俺ら神や神器が戦に参加したら半端なさすぎるから前線に呼び出されないのは解ってるよね。

 まあ呼び出そうにも料金めっちゃ高いから一回の戦闘で国家財政吹き飛ぶだろうけどさ。

 でも、あの子は周辺国家から注目されまくってる危険株なんだもん。

 裏で諜報戦まで始まってるくらいで、俺らがいろいろ手回して保護したけど、それくらい『人間の身で神以上の魔力持ち』ってのは危ない存在だし。それに」


 神酒ソーマの注がれたカップを傾け、口の中を清涼感で満たしたタクミは、更に言葉を続ける。


「魔道士ギルドが調査中だけど、魔力がちょっと高いだけの一般人が誘拐される事件が周辺で続いてるし、たぶん盗賊ギルドの残党だと思うし、銃棍の密輸、違法製造に不法所持とか王国内ですら問題が山積み。

 こんなんで国外に派遣命令下ったらそっこー誘拐されるんじゃないかな、あの子たち。

 護身術さえ未熟だし、よく単身で王都まで辿り着けたもんだって感心しちゃったよ」


「さっさと神器にしちまえば解決すんのに、オマエが嫌がってるからタクミが王都に張り付いてまで守ってんじゃねェか、大概にしとけよ『照彦(テルヒコ)火明(ホアカリ)櫛玉(クシタマ)饒速日(ニギハヤヒ)(ミコト)』?」


 リュカの鋭い指摘に、ハヤヒは苦しそうに自身の長衣の胸元を掴んで顔を歪めた。


「あなたは……、リュカさまは古神タヂカラオさまの神器、神位の高い神器であり格闘の神でもあり満足でしょう。

 しかし僕は、ただ速く飛ぶためだけに神力特化した何の力もない神で、あなた方のように神器を護る力すら持たない末席の神です。

 それで神器契約しても、僕はアリサを護りきれません」


「まあ、この話はまたそのうちいずれ。

 ……どっちにせよ、あの子たちを保護した最初もそうだったけど、いちばん治安がいいはずのこの王都ですらならず者がうろうろしてるってくらい北東の戦争の影響が出て来てるし?

 あの新しい帝国――炎神カグツチの国は強い。いずれ、あの子にも何らかの手は伸びるよ」


 タクミが片肘をついて、立ち尽くすハヤヒに未だ敵意を向けるリュカの腕を少し乱暴に引いて自身に抱き寄せた。


「同郷の子が生身で戦場に出て死ぬ、なんてのは俺も寝覚めが悪いし、俺の力でなるべく守ってやるし、すぐに実戦配備されないように徹底的に戦争から程遠い技能ってことで空を飛ぶ<専用魔道騎>のテストパイロットに推してるけど。

 あんまり王都の政治や人事に、厳密に言えば他所の公国の神な俺やリュカが出しゃばるのも人間の怒りを買うから、そろそろ潮時かな、って思ってる。――けど」


「けど?」


 オウム返しに尋ね返したハヤヒに、しつこく自身の左腕から逃れようとするリュカを問答無用で両腕で身体の前に抱え込みつつ、タクミは目を合わせずに告げた。


「前々から言ってた、ククリの女王親衛隊を全員ドワーフ王国特製の<二人乗り魔道騎>に乗せる算段がついたんで、近いうちにあの子たちの身柄はそっちに移すよ。

 それで暫くは議会の追求は躱せるだろうし――」


 一瞬言い淀んで、それから全力で腕から逃れようと四苦八苦している様子のリュカの耳を弄ぶことを始めつつ、タクミは苦笑して見せた。


「もし呼び出されてもククリ付きの専属侍女扱いだから、ククリが率先して戦場に行くなんて言い出さない限りは大丈夫だろ。とりあえず、これくらいで勘弁してくれないかな、ハヤヒ?」


 俺も他所の現場放り出してこの案件掛かりっきりなんで、ちょっと急ぎたい、と言葉を続けたタクミに、ハヤヒは不承不承ながら軽く頭を下げたのだった。



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