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01話 魔道騎

挿絵(By みてみん)

1. アゼリア王国 - 王都アグア

2. クーリ公国 - クーリ

3. 鉄輪王国 - 鉄都ローンドーフ

4. アルトリウス王国 - 王都アヴァロン

5. ムーンディア王国 - 月都セレスティア

6. ファーラン王国 - ファーマ

7. クラウティア共和国 - パスティア

8. ディルオーネ王国 - ハルトフォース

9. ラハト王国 - ハノウ

10.アスラ王国 - ラ・ミディ・アスラ

11.ティシア都市連邦 - ティシア

12.トゥティーナ共和国 - ラックヒル

13.シャトーザッハ共和国 - ディシオ

14.獣王国 - ラ・シェファイーン

15.エメリアス共和国 - エル・エメリアス

16.サン・ジェリト共和国 - ジェリト

17.ヒノヤギハヤ神聖帝国 - 焔都ホムスビ



「えーっと。先に説明させて貰っとくと。この王国に任官求めて来てんだから当然知ってると思うんだけど、俺はこの王国を守護する『神』なのね。んで、アリサちゃんなら俺の正体には見当ついてる、と思うんだけど。どう?」


 そう言って、軽く鋭い尖った爪の両手の義手の指全部を滑らかに開閉させながら、アリサの目の前に座った眼帯の青年……、アゼリア王国自治区クーリ公国領主、オキタ・タクミ公爵は、アリサへ真っ直ぐに顔を向けて笑ってみせた。


「……日本人、ですよね? だって名前がそれっぽいし。でも、正直、あたしの『日本の常識』だと、『神になった』とか『大地を割った』とか、『神を殺した』とか信じられないっていうか、作り話とかおとぎ話だと思ってました」


「正直でよろしいっ。うん、俺も信じたくないけどやらかしちゃったものは仕方ないので、信じなくてもいいけどそういう神だと思ってて。で、本題です。――空、飛んでくれる?」


「……なんであたし『たち』なんでしょう?」


 隠しても無駄、と悟ったのか、アリサはあっさりと、ひとつの身体をフィーナとアリサのふたつの魂で交換して使用している、特殊な自分たちの現状を語った。


「ごく簡単に言ってしまうと、俺のミスでこっちに転生しちゃった、というか、修正しきれなかった数兆分の一の確率で転生してしまった、というか、そんな感じでね。――先に謝っとくわ、ごめんねっ!」


 突然両手を合わせて頭を下げながら拝んで来るタクミに、アリサは驚きを覚えつつ仰け反った。


「俺はアリサちゃんと同じように、地球の第三次世界大戦で死んだ身なんだよね。そんで、こっちの世界に来てから力をつけて、神として覚醒した後に、時間軸を遡って、第三次世界大戦が起こった原因を丹念に取り除いて戦争が起こらないように修正した、はずだったんだけど――」


 言葉を切って、タクミはアリサの反応を伺うようにじっと真正面から見据える。アリサはタクミの分厚い眼帯越しに全身を射抜かれるような居心地の悪さを感じ、佇まいを正した。


「あたしは眠ってる間に死んだらしくって、目覚めたらフィーナの意識下に入ってました。最初は大混乱でフィーナとの意思疎通も出来なかったけど、だんだんここが異世界なんだ、って解ってきて、それにフィーナとも仲良くなれたし、今は姉妹みたいな関係だし。……元の世界でいじめられてたのもあるけど、フィーナと離れたくないので帰る気はないですよ?」


「……うん。ていうか、事後承諾みたいで悪いけど、帰るって言われてもアリサちゃんが帰る先はないんだよね。さっき言った通り、俺たちが元いた日本は俺が歴史修正して戦争をなかったことにしちゃったんで、本来のアリサちゃんは歴史が変わった日本で普通に生活して結婚して子供も産んで、30歳で一児の母、っていう幸せな世界になってるんだ。――君はね、元のアリサちゃんから複製されちゃった、別の時間軸のアリサちゃん、ってことになっちゃってる」


「ふえっ?!」


 驚きの声を上げたアリサに、更にタクミは済まなさそうに軽く頭を下げた。


「これがほんとに偶然の結果で。こっちの世界と元の地球はカードの裏表みたいに繋がってて、本来なら時間軸も同じように繋がってるんだけど。……俺が時間軸に分岐を作ったとき、元の戦争が起こった地球は滅亡して止まった未来だったんで抹消されちゃって、俺が歴史修正した『戦争が起こらなかった地球』の方に全部がシフトする形になったのね」


 タクミは両手を握って片方をぱっ、と開き、もう片方の固めた拳を軽く振って見せ、更に言葉を続ける。


「で、元の地球で亡くなった人間の魂も、今の時間軸の方にいる『戦争で死ななかった自分』の方に融合しちゃった。はずだったんだけど。俺の神覚醒が結構時間かかっちゃったんで、既に転生が終わってた人は元に戻る先がないってか、複製された状態で、しかも、他の地球に戻った人たちの魂がこの世界で持つはずだった固有魔力量を全部移譲されて、その上、その子は元々こっちで生まれてた子供の魂と結合して『魂の双子』になっちゃってた」


 そこまで告げて、タクミは座った姿勢のままで前傾しアリサに顔を寄せた。


「――もう分かるよね? それがアリサちゃん、君なんだよ。そして、それが『空を飛んで欲しい』って理由に繋がるわけ」


「――お話が難しくてさっぱり分かりませんでしたっ! なので、フィーナに『代わって』いいですか?」


 真剣にタクミを見返しながらアリサの口から出たそんな言葉に、タクミと、側に控えていた甲冑姿のハヤヒが盛大にコケた。


 どうやら、頭脳労働派のフィーナと肉体労働派のアリサで担当が別れているらしく、アリサには難しい話が理解しづらい、ということで、以後はフィーナと話し合うことになったのだった。


――――☆


「ええっと、フィーナ、です。平民の孤児なので名字はありません。ムーンディア王国の孤児院出身です」


「僕はハヤヒ、この王国工房でいろんな兵器や道具の整備や調整を担当してる整備者だよ。実は、君に空を飛んで欲しい、っていうのは、僕がタクミさんに頼んだんだ」


 別の仕事がある、ということでタクミが退出し、場所もハヤヒの居住する王国工房の一角に移動し、フィーナとハヤヒはそのガレージの一角で温かい飲み物と甘味をつついてるところだった。


「あ、自由に食べて貰っていいよ? この甘味は魔道士ギルド長で、実家のクレティシュバンツ商会も経営してるシンディさんが作った試供品でね、反応が良かったら市場に売り出すってことで王宮内では無料で配布してるものだから、遠慮しなくても大丈夫」


 言われて、おずおずとフィーナはテーブルの上にある自分用のショートケーキを小さなフォークで切り分け、小さな口に運ぶ。――ぱくり、と口に入れた瞬間に、驚きで目を丸くしてしまった。


「甘い! でもただひたすらに甘いんじゃなくて、たぶん卵白から作ったこのふわふわの生地とその上に乗ってる牛乳を分離したクリームと、酸味を含んだ果実汁? と程よく混ぜられた甘味とのバランスが絶妙!」


「すごいな、舌でも解析出来るのか。――あ、君の魔道士ギルドの新入試験結果を見てるんだよ、僕ら。……君『たち』の試験結果が他の一般人受験者たちと凄く違ってたんで、合格は当たり前だったんだけど、その後に『どこの部署で引き取るか』で、こっち側でちょっと揉めちゃってね?」


 初めて食べる甘味――ショートケーキの衝撃に思わず叫んでしまったことを恥じたのか、口元を片手で押さえつつももぐもぐと可愛らしく小動物のように咀嚼し口内で味わうことをやめられない、やや赤面してしまったフィーナに対し、ハヤヒはくすくすと笑いながらそんな言葉をかけた。


「君たちは、僕が居るこの工房での専属試作兵器試験者、って待遇になってるんだけど。実のところ、ここは王宮に住んでる関係者の息抜き場で、完全に外部から隔離されちゃってる無礼講の場なので、そんなに深く気にしなくていいよ」


「でもわたし、魔道士ギルドに行ったら不合格通知を受け取ったんですけど……、あれ、正式通知ですよね?」


 言いながら、フィーナはローブの下、腰の位置に差した縦長の小袋ポーチから取り出した片手サイズの<魔道板>の透過結晶画面を慣れた手つきで片手操作して、受け取った不合格通知書類の画像を提示して見せる。それをひと目見たハヤヒは困った面持ちで返答を返した。


「っていうか、第一志望が魔道士ギルド付魔道士、第二志望が聖ヴァルキリア砲撃騎士団、第三志望が聖神軍団になってたけども、僕らの判断で落としました。……それがちょっと手続き不備で『不合格通知』になっちゃったんだ、ごめんね?」


「落とした、っていうのは、能力不足、ってことですか?」


「いや、逆。能力が高すぎるんで、新兵期間を短縮してでも最前線に送られる可能性が高かったから。知っての通り、ここ、アゼリア王国は傭兵国家なので、一度魔道士ギルドや騎士団とかに登録されたら軍人扱いで、派遣要請を断るのは命令拒否で処罰対象になるんだよね。――あれ、知らなかったかな?」


 再度驚いている風のフィーナを見やり、ハヤヒは困ったように頬を掻いた。


「――知りませんでした。てっきり、魔道士ギルドで魔法の勉強したり新しい魔法を修行したり、っていうようなことを想像してて」


「うーん、15年くらい前の魔道士ギルドだったらそうだったんだけど。今は完全に魔道兵として王国傭兵になるための軍事教育組織に代わってるんだよねー。新しい魔法を開発しても、それ自体が軍事機密だから一般兵や一般魔道士には教えられないのが理由でね」


 言いながら、ハヤヒは少し冷めてしまったフィーナ用のカップに保温ティーポットから熱い紅茶を注ぎ足す。


「それで、いくらなんでも15歳の女の子を少女兵士として最前線で戦わせるのは酷すぎるだろう、ってことになって全却下して。しばらくここで必要知識を覚えたり経験したり、それのついでにまだ民間に出せないいろんなものを試験して貰おう、ってことになりました。甘味、足りなかった? まだたくさんあるんだけど」


 話を聞く間にも瞬く間にショートケーキを手を休めることなく完食してしまったフィーナにハヤヒが声を掛けると、フィーナは恥ずかしそうにしながらも、こくり、と小さく首肯し、ハヤヒは了解の言葉を投げかけて、どうやら保冷魔法の効果があるらしい金属製の開き戸の中から新しい甘味を取り出してくれたのだった。


「で。試験結果を見たけど、あれはアリサちゃんと交代しながら試験を受けた結果だよね? この国くらい魔道士が一般に浸透してる国では、大きな魔力を使うときに瞳の色が変わる魔道士は珍しくないから試験官や他の人には気づかれなかったと思うけど」


「――そうです。国ではそれで気味悪がられて孤児院に預けられてしまって。でも、試験のときには他の人も瞳が光ったりしてたので、アリサが交代してもバレない、って言うので」


「まあ、僕らにとっては嬉しい結果だったけど。肉体能力はこの国で最強な聖神軍団幹部並み、魔力容量は測定不能、解析、理解力は今すぐ宮廷魔術師になれるレベルだ、ってみんな褒めてたよ」


「……みんな?」


 新たな甘味を口に運ぶ手を止めないフィーナの口元がシュークリームのシューで汚れていることに気づいたハヤヒが、そのシューを指で拭うと、そのままそれをぱくり、と口に運んだ。それを見て、盛大にフィーナが赤面したのだが、どうやら致命的に鈍いハヤヒはその様子が先程の賞賛に照れたもの、と勘違いしたようだった。


「さっき会ったタクミさん……、女王ククリヒメ陛下の父でクーリ公国自治領主、『暗黒神』魔王タクミさんとか、王国宰相や聖神軍団の団長さんやタクミさんの親衛隊の人たち、ヴァルキリアや魔道士ギルド長に宮廷魔術師とかね」


「えええ??」


「それだけ、みんな君に期待してるってこと。で、とりあえず、君に試験して欲しいのはコレなんだよね。さっき僕が着てたから分かるよね?」


「えっと……、ドワーフ王国王妃さまの結婚記念祝賀パレードで見たことあるだけなんですけど。魔道甲冑……、<魔道騎>ですよね? でも、普通の<魔道騎>は二人乗りでは?」


 立ち上がったハヤヒが、ソファの横に無造作に脱ぎ置かれた<魔道騎>と呼んだ全身甲冑を差し示し、フィーナも遅れて立ち上がって、ハヤヒの隣に歩み寄って<魔道騎>を観察した。


 それは前屈みに両膝を着く姿勢で居ながら、背中と胸の部分は身体の横付近で分割されて前後に分かれており、背中の部分と腕部分は一体化した状態で背中側に大きく反った状態で待機姿勢になり、また頭を覆う兜の部分は大きく背中の方に跳ね上げられて背中の後ろに後頭部を覆う装甲板だけでぶら下がる状態になっていた。


 そして、中央部にはハヤヒの体格に合わせてあったのか、複雑な形状の触手のような大量の鉄線が針金細工の人間のように自然な姿勢で直立しているのが見えた。


 通常の<魔道騎>と大きく違うのが背面部で、本来ならそこに魔力供給を担当するための魔道士が入る背嚢バックパックと、魔道士用の魔道飛び道具各種がセットされているはずの位置に、左右に大きく広がるらしい、金属製の折り畳み翼が装備されている。


「あ、とりあえずコレで体験してみようか? ローブ脱いで貰っていいかな? ……うん、ありがと。あ、腰回りの貴重品とかも全部お願い、ここに置いとけば誰にも取られないから大丈夫だよ。ああ、そうだ、許可証!」


 フィーナはローブを脱いで極度に丈の短い短衣チュニックとスパッツのみの姿で、突然大声を出したハヤヒに驚いて身を縮めた。


「そう、工房正式試験官待遇で王宮で受け入れるから、滞在許可証代わりの君の冒険者カードが発行されてるんだ、忘れてた。冒険者カードは何だか分かるよね?」


「冒険者登録するときに貰えるカード、ですよね? そういえば、大陸全土の冒険者ギルドの総本部ってこの王都にあって、アゼリア王国の管轄でしたね」


「うん、そうなんだけど、これは実は持ってる人間の全ステータスを数値化する神の加護が掛かったカードでね」


 ハヤヒは手のひらサイズのカードの端を人差し指と親指のみで支えるように立てて表面を見せながら、緑目のフィーナの画像と共に、小さな文字がたくさん記入されている表面コーティングがされているカードを示して見せる。


「これは一人一枚しか持てない偽造不能な特殊カードなんだ。魔道二輪とかの魔道具の購入にも使用する身分証明書だから、肌身離さず持っててね?」


 言われながら、渡された小さな冒険者カードをフィーナは両手で受け取った。


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登録名:フィーナ=アリサ

種 族:ヒト(♀)15歳

所 属:アゼリア王国試作実験工房

体 力:220(220)

魔 力:65,535(65,535)

戦闘力:水属性魔法Lv.4

   :七星蟷螂拳しちせいとうろうけんLv.5

筋 力:110 / 190

知 力:260 / 70

俊敏性:60 / 240

耐久性:70 / 120

抵抗力:330 / 100

魔属性:水 / 風

言 語:共通語、エルフ語、日本語

固 有:人格交代

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「うわっ、すごい……! アリサの分まで数値が出てる?!」


 初めて見る冒険者カードの内容に、フィーナが驚きの声を上げる。


「うん、数値は今は自分以外見れなくなってるから気にしなくていい。自分が見せようと思って念じたら他人も見れるように変化するしね。――で、このカードはフィーナちゃんもさっき言った通り、身分証代わりにも使えるんで、ここで使います。そこの、針金細工の内側に立って?」


 ハヤヒに言われた通り、フィーナはおずおずと針金細工の人体の前に立って、針金細工の内側に両手両足を預ける形の姿勢を取る。


「で、今渡したカードを、そこの前倒しになってる甲冑の胸のとこのスリットに挿入して。――驚かないでね」


 最後の言葉には従うことが出来なかった。スリットにカードが飲み込まれた途端、針金細工がフィーナの全身に巻き付き、それにやや遅れて甲冑部分がフィーナとアリサの共通の魔力を吸い取りながら起動し、フィーナの全身を覆うように自律的に装着されて行く様子に、フィーナの口からは甲高い悲鳴が漏れ出たのだった。


 最後に、背中側に折れ曲がっていた兜がゆっくりとフィーナの頭部を覆い、フィーナの全身は甲冑に包まれた状態になった。


「……えっ、軽い?! こんな金属の塊なのに!?」


「体感的には普段と一緒の感覚だけど、装備中は魔力を消費して動いてるから、力加減に注意してね。それを装備してる間は<身体強化>の魔法が常時効いてる状態だから、普段の自分の何倍もの力が出るので。……で、悪いけどフィーナちゃん、アリサちゃんに代わって貰える? それで、『アリサちゃんの裏側から頭部の兜に魔力でアクセス』してみて欲しい」


 ハヤヒの言葉にわけも分からぬまま、フィーナは曖昧に頷き、身体の操作権をアリサに交代して、脳内から真っ暗な頭部の内側に魔力を込めてみる。


 交代すると同時に、甲冑の目部分の光が緑から赤に変化し、そして――。


「えっ、ちょっとちょっと、フィーナ何したの!? あたしの視界が、なんかゲーム画面みたいに??」


《ゲームって何? わたし、ハヤヒさんに言われた通り頭部にアクセスを……、えっ、これってわたしの『声』が外に出てる!?》


 本来ならば外部に貫通する覗き窓が存在しない兜である故に、実際に最初にフィーナが被ったときは真っ暗だった兜の内部で、アリサに交代しフィーナが脳内からほんの少し魔力を兜に通した途端に、アリサの視界は兜など存在しないかのように空間の隅々まで広がり、また、その視界の上にはさまざまなステータスやロックオンターゲットマーカー、残り魔力量や体力量のゲージ、方角や高度表示などが重なったゲーム画面のような表示になっていた。


「ははっ、さすが若い子は適応力すごいね、最初の一回で起動成功しちゃったし、人格分離もスムーズすぎる!」


 驚くフィーナとアリサに、感動に打ち震えるかのように大きな声をかけたハヤヒだった。


「フィーナちゃん、アリサちゃん、それがその、君たち専用の<特殊魔道騎>の機能だよ? これは有り余ってる君たちの魔力を利用して、この王国の守護神な神々の能力を部分的に使用出来るようにした機体なんだ。――フィーナちゃんの声が聴こえるのは、フィーナちゃんの一部が<魔道騎>の制御中枢に移って、兜に装備されてる外部スピーカーを通して発声してるからだね」


 驚かせないようにゆっくりと甲冑の前に歩み出たハヤヒがアリサの視界に入ると、ほとんど瞬時にその姿の上にロックオンマーカーが移動し、身長や体重に名前などの情報ステータスがずらりと表示される。これも、フィーナが殆ど無意識的に認識した情報が全て文字数値ステータスとして表示されているらしかった。


「アリサちゃんが見てる視界は、フィーナちゃんが頭部に装備されてるさまざまな魔道センサーに魔力を流して制御してる結果。<魔道騎>に慣れるまでは、出来る限りいつも装着しててね」


 頷きながら、アリサは目を落として自分の両手を見る。甲冑に包まれて金属製の指が映し出され、確かに甲冑に身を包んでいることは間違いないらしいが、最初に全身に巻き付いた針金の効果なのか、装着している重さが全く感じられず、逆にそれに不思議さを感じてしまう。


 試しに蟷螂拳の基本型である螳螂捕蝉式の構えを取ってみたが、やはり全身の感覚に違和感はなく、敷いて言えば肩周りに多少の動きづらさを感じる程度だった。


「あー、背中に飛行ユニット背負ってる関係で、肩周りは少し動かしづらいかもしれない。そういう不具合はどんどん専属整備士の僕に教えてくれると有り難いな、どんどん改良してくから。で、寝泊まりもここでして貰っていいからね? ここの一角に君たちが住むことは了承されてるから」


 にこにことアリサの纏う全身をぽんぽんと叩きながら、ハヤヒが説明を続ける。さすがに甲冑を触る感覚はなく、それでようやくアリサは自分が甲冑を纏っている感覚、というものを掴みつつあった。


「王宮内施設も全部使っていいよ。冒険者カードが銀行通帳代わりにもなってるし、とりあえず初任給で白金プラチナ貨500枚分入れといた、ってタクミさんが言ってたけど……」


「《ええええ!?》」


 ハヤヒの説明にアリサ=フィーナが同時に驚愕の声を上げた。なお、地球の価格に換算するなら、白金貨一枚を五万円とすれば2,500万円になる。


「……まあ、基本的に王宮勤務者の王宮施設使用は無償だから、そう簡単に減ることはないと思うよ」


 アリサ=フィーナの驚愕に苦笑を返しながら、ハヤヒは説明を続ける。


「ああ、馬房に魔道二輪預けてる、って言ってたよね? あれはこちらで引き取って場内の外郭馬房に入れてあるので、使うときは門番さんに一言声をかけてね?」


 ハヤヒの説明の間も、アリサは新しく手に入れたおもちゃを扱うことが楽しいかのように、さまざまな動作を試しており。フィーナの方も、視界に表示させる各魔道センサーの機能や効果を試しているらしかった。


「――楽しそうだね。背中の飛行パックの説明は、その<魔道騎>で動くことに慣れてからにしようか」


 ふっ、と子供に向けるかのような優しい笑みを浮かべて、ハヤヒは<魔道騎>で遊び続けるアリサとフィーナを微笑みながら見守っていた。



【2017/03/30】魔導機 ⇒ 魔道騎 に固有名詞を変更しました。

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