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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第五章 神国篇
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57話 過去・現在・未来

《やっぱりさ。……仕組まれてるっぽいよね。》


 ラグナの妹、という第二の門の門番、黒獅子の女獣人、剣神アメノハバキリの神器・剣聖シーナとミリアムが対峙する様子を眺めながら、タクミは傍らに立つクルルに、その握った片手ごしに念話で呼びかけた。


 普段の全体念話とは違い、これはクルルのみに発せられたもので、同様に固唾を飲んで見守る他の仲間達には伝わっていない。


<そうですね。――今、この場まで至って考えれば、私たちにもおかしな点はありましたよね?>


 ちらり、とタクミの方に目線のみ返して、視線をミリアムたちに戻したクルルはタクミの手を掴む手を握り直した。


《雑用扱いのメンバーとして、なんで本人も含めて全員一致でミリアムちゃんを選んだんだって話だよね。他国の王女で次期女王候補で、フープ兄から預かっているだけの身柄なのに?》


<ですよね。――旅慣れてて同じ聖神軍団内の人間で、以前ドワーフ王国に同行して貰ったギュゲスさんやリッティちゃんの方が適任だったでしょうに、なぜか自然に射撃技術指南役として南部方面に行かせてしまいましたし。それ以前に、なぜ雑用というメンバーを作ったのか、という点も>


《神国内には神しか居ないから戦闘力特化の精鋭だけで行く、って話があったにせよ、神そのものの俺らにタギツや神器のティースまで連れてる状態で。……リュカは外せない面子だけど、ミリアムちゃんだけが同行する強い理由がない上にただの人間の女の子なのに、ここまで連れて来ちゃった》


<……で、この中で唯一の純粋な剣士のミリアムちゃんに、相対するのが大陸最強剣士の代名詞である剣聖の称号を持ち、剣神アメノハバキリの神器のシーナさんで、ルールは前回のラグナさんと同じでミリアムちゃんに有利なルール。――こういう風に絵を描いた誰かが居ますよね、多分>


《うん。そして、そいつは今も俺らをどっかで見てる。筋書きの変更がリアルタイムすぎるから。俺らの戦力をやたら強化したがってる風な印象はあるけど、敵味方かが分からないし、今後も注意しとこう》


 念話を伝えるなり、びしっ! と手刀により強制的にクルルと繋いでいた手を切り離され、タイミングの良さに驚いて手元に目を落とすと、不満げに眉根を寄せたククリが、タクミを見上げつつ、タクミからクルルを押し下げようとしているところだった。


「とーちゃん、抱っこ!」


「とーちゃん言うなしっ。どこでそんな言葉覚えてきたのマジで」


 クルルと共に苦笑しつつ、身を屈めてククリを抱き上げ、再度ミリアムたちに目を戻す。


 あまり体力を消費せずに速度に特化したミリアム故に、第一の門でのリュカほどには消耗していないようだが、超速と呼べるほどの速度に達している剣先と全てを切り裂くミスリル銀の宝剣<シャープエッジ>が当たらないことで、戦局は千日手に陥りつつあるようだった。


――――☆


「まだ続けるのか? 代わり映えのない単調な一本調子の速度のみに頼った剣だ、もう一捻りの工夫が欲しいところだな」


「覇王より1,000年を伝えられし我が剣を愚弄するな!」


「愚弄しているのではない、単なる事実だ。素晴らしい剣技だというのなら、ミリアムと言ったか。使い手である貴様がそれを台無しにしている」


「ほざけ!」


 言い捨てるなり、何度目かの超速のミリアムの打ち込み。


 しかし、それも。――これまでと同じく、シーナの持つ巨大な両手剣の、長い持ち手の先端で軽くミリアムの<シャープエッジ>の刃でない部分、剣の腹を鋭く叩かれるだけで剣先は乱れ、弧を描く剣の軌道がブレることでシーナは難なくその「全てを切り裂く剣」の威力から容易く逃れる。


「何度やっても一緒だ。諦めろ。せめて、私が未だかつて一度も見たことのない技でなければな。そうだ、ひとつ伝え忘れていた」


「何をだ?」


「覇王の剣と言ったな? もしムーンディア王国の初代国王マクシミリアン・ハーンのことを指しているのであれば、本気で諦めろ。あれは私の弟子だ」


「なっ?!」


 シーナの吐いた言葉に、ミリアムは動揺を隠し切れず、驚愕の息を吐いた。


 しかし、言われてみれば、ムーンディア王国の建国時期と、建国時点で既に覇王の剣を持っていたとされる初代国王の伝承が脳裏で思い起こされ、眼前の女神器の言葉が嘘ではないのではないか、と思われて来る。


「なるほど、道理で私の技に似ているわけだ。世の剣技が私に迫るほどに育ったのかと思っていれば、まさしく私の技が戻って来ていようとはな。これは懐かしい。……では、古き弟子の子よ。礼に、原初の技を見せてやろう」


 軽く微笑んだらしく、獣面の大きな唇からちらりと牙を覗かせたシーナが軽く身を屈めた瞬間、移動の行程が全く視認出来ぬまま、また、いつ振り下ろされたのかも不明なままで数百キロはあろうかというミリアムの身長の二倍近い巨大な幅広の大剣が唸りを上げて迫ってくる。


「安心しろ、宣言通り当てはしない。私は姉よりも繊細だ。――しかし良く見ておけ」


 その通り、シーナが外さなければ最初の一撃でミリアムの首は宙に飛んでいただろう。自身の顎下数ミリを神速で振り抜かれた大剣は初速を殆ど変えないままに、そのまま回転し再度ミリアムの胴を薙ぐ軌道で迫って――。


 ぎぃん!


「……ほう? 見えたのか?」


 いつの間にか、シーナの両手剣は左手と肩で支えられており、自由になった右手で瞬時に抜き放った腰の後ろに差していたらしい小剣ショートソードがミリアムに向かって、大剣の陰になる死角に小さく突き出されていたのを、ミリアムが故意に一歩進んで<シャープエッジ>で受け止めたのだった。


「見知った技だ! ムーンディア王国大剣儀礼剣技のひとつ、<旋風陰斬>! よもや王国に伝わる全剣技の始祖に相見えようとは、この運命を天に感謝する!」


「ふふ、あの坊主め、片手剣用と両手剣用で私の剣技を分離したな? ――天というか光神は感謝を理解出来る脳をお持ちか既に不明であるが。そしてミリアムよ。そこから何とする?」


「知れたこと! 師を前にすれば弟子の行うことはひとつ、我がオリジナル剣技を見て頂こう!」


「……拝見しよう。全力を見せよ、ミリアム」


「応!」


 叫ぶなり、ミリアムはシーナの短剣を受けた体勢から……、くるり、と半身を翻し、シーナの剣先を背後方向に受け流すと、振り向きざまに両足から風魔法を発動し急加速、そしてシーナの剣技にない唯一の剣技、<回転力で更に加速しつつ、至近距離からの、体術を伴う突き技>を、その腹部に向かって放ったのだった。


「……ふむ。見事である。お前は覇王と私の技を超えたと認める。今この瞬間より剣聖の名を名乗れ、ミリアム・ムーン・シーレンドゥーム」


「有り難き幸せ! 拝命(つかまつ)る!」


『最強の忍者』ライバックから伝えられた風魔法での加速術は伝承者タクミを経て、タクミの超至近距離からの体当たり系統の一手と共にミリアムに伝わり、そこから更に神速の突き技へと変貌しシーナの腹部を刺し貫いていた。


「それと、これもな。これは剣神アメノハバキリの神剣。これの継承を以てミリアム、お前はアメノハバキリの神器となる。以後、次の剣聖を見出すまで、更なる剣の研鑽に励むことを願う。――では、さらばだ。いずれ相見える地にて、マクシミリアン……マックスと共に、待っている。末永く剣に生きよ」


 神剣を渡しながらも、既にその身を透き通るほどに薄くしていたシーナは、ふっ、と笑みを返すと、最後にミリアムの頭をわしゃわしゃと撫で、その姿勢のまま空気に溶けたのだった。


 後には、年相応の少女のように顔をくしゃくしゃに涙に濡らすミリアムの姿が残るのみだった。


――――☆


「でっ。なんで貴方が第三の門の門番なんでしょうねー、猿田毘古(サルタヒコ)っ?」


「数千年ぶりに会う夫君にそのような台詞は不遜でないかのー、我が(きさき)よ?」


「本来はここには最強の門番、イワトワケが居たでしょうっ? どこに行かせたのっ?」


 触れ合えるほどに間近に立ち会いながらも、サルタヒコに相対するクルルの態度は嫌悪感が全開であり、自分に任せて貰う、と言われて送り出したタクミも、初めて見せるクルルの嫌悪の様子に驚きを隠せないでいた。


「なに、退屈してそうだったので開放してやったー。今頃神界で1,000年の門番の疲れを癒やしておるじゃろうよー。猿女君(さるめのきみ)よー、主が来ると聞いたのでなー、わざわざ儂が出迎えに来てやったのじゃー」


「その名で呼ぶなっ! そのままアンタもどっかに消えちゃえば良かったのにっ!」


「連れないのうー? しかしー、この鼻の感触が忘れられんのではないかー? ひぇっひぇっひぇっ」


 赤ら顔に下卑た笑みを浮かべつつ、サルタヒコは真っ赤な色で長く伸びた鼻の根元から先端を両手で交互にしごいてみせた。


 ――と、唐突にその身を仰け反らせて長い鼻を上方に向けると、その鼻があった場所をクルルの猛速の三連回し蹴りが通過するのが確認出来た。


「でっ? アンタが何も考えずにクルルの前に立つとは思えないっ。企みの中身は何っ?」


 着地音も立てずにそっと寸分違わず元の位置に着地したクルルが、更に不機嫌そうに尻尾を立ててサルタヒコに問い質す。


「マタタビも持参するべきだったかのー? 乱れた猿女君は激しいからのー。……いや待て待て、真面目にやろう。――待てと言うに、マタタビなんぞ持って来とらんわ、マジで。……一嗅ぎで全裸になる脱ぎ癖上等酒乱女と話すのに、そのような一撃で対話不能になるシロモノを持ち込むわけがなかろうが」


 もはや残像すらも映らず、ただ拳速が音速を超えた際の衝撃波を撒き散らしながら無表情で攻撃を繰り返すクルルの攻撃を容易く躱しながら、サルタヒコは口調を改めて言葉を続ける。


「ええい、まっこと手の掛かる嫁御じゃ。いや元嫁御じゃ。――<ブロック>が全て解けるぞい? この奥がアマテラスの神域は知っておろう、入る前に双方確かめて準備を整えよ。……コレで良かったかの、オモイカネよ?」


「――私の存在までバラすことはなかったのだが。<この周回>ではわざとだな、サルタヒコ?」


 どこからか響く、聞き覚えのある女性の声に、クルルとタクミはその声の方向を見つめ……、ため息をついた。


 そして、いつの間にか仲間たちを置き去りに、タクミとクルルだけが超加速状態に在ることにも気づく。


「アンタが黒幕か、シンディさん? オモイカネって呼んだ方がいいのか? 神器、じゃなく神の化身そのものなんだな、アンタ。――何のために?」


 停止したかのように速度を遅くした仲間たちから離れ、タクミは光輪の結界内に新たに出現したシンディと、先に入っていたサルタヒコ、クルルの三者の方へと近づいた。


「黒幕ではない。私はこれでも、君の側に在る古神だ。真の黒幕は全12宇宙の創造神、天地開闢かいびゃくを行った天之御中主神アメノミナカヌシノカミだろう」


 いつもの黒ローブ姿で胸に大きく透明な魔導板を抱えたシンディが、同じく結界の中央に居るサルタヒコとクルルの方へ近づく。


「――ただ、気づくのが遅かったので後手後手に回ってしまったのは認めよう。予定調和だったのだろうが、他の案件が多すぎてな。リソースを空けるのに酷く手間取ってしまった。私がこの事態に気づき、そして私だけが最善の対処を行えることに気づいたのは400年ほど前だった」


 言いながら、シンディは普段の快活な笑顔とは打って変わって無表情のままで、タクミの感じる違和感は更に増した。


 その気配は幾度も会ったシンディそのものであり、漏れ出る気配もただの人を大きく超えるものではなく、逆にその事実が、この場所が神域結界内部であり単なる人間が存在出来ない場所で、またいかなる人間の魔法転移術が行使不能な結界であるにも関わらず、他の神の全員が知覚出来なかった、という違和感を際立たせている。


「あんた、ほんとに神なのか? 魔力が小さすぎる、普通の人間でももっとあるだろ」


「神だが、君が思い描くような破壊能力を持つ神ではない。クルルなら私の神力を知り尽くしている、代わりに説明を」


 タクミの訝しげな声に対し、男口調になったシンディはクルルの方をに目線だけを向けて説明を促した。同じく目線だけでシンディを見たクルルが、ひとつ咳払いしてそれに応じる。


「――オモイカネの神力は本来はクルルに匹敵する巨大なものなんですけど、その能力は上に超絶の付く演算と記憶の特化型なんです。

 今この瞬間にも、全神力を駆使して宇宙全体を制御するさまざまな演算を回している状態で、この目に見えているオモイカネはその総力のピコパーセントレベルでしか使用していないんですね。

 極端に魔力や神力を低く感じるのはそのせいです。

 オモイカネが止まったら宇宙が凍りつくんじゃないかってくらいのこの宇宙の最重要神で、原初から神域でその演算に没頭していたはずで。

 ――ここに化身を同時並行存在させていること自体が予想外でした」


「代行説明をありがとう、やはり君に最も信頼があるクルルが説明した方が納得が早いと演算を重ねて確信していた。――さて、サルタヒコの言う通り、あなた方のブロックは既に全て解けている。思い起こして見るがいい、様々に私の思念誘導が働いていた事実に気づくだろう」


 謝辞を含むシンディの示唆に、タクミは過去のさまざまな自身の行動などを思い巡らせ始めた。その様子には構わず、更にシンディは言葉を続ける。


「私のことに思い至らなかったのは、クルルのせいではない、私が思考誘導を重ねてブロックに気づかないようにしていたからだ。

 そうでなければ、早い段階で私は君の近くから排除され、以後、君は幾度も選択肢を誤り、アマテラスによって消滅する世界線がいくつも作られていただろう。

 ――今の君とクルルなら気づいているだろうが、今のこの世界は56億7千万回目の試行錯誤だ。

 私としてもこの案件に縛られ続けるといい加減、他のやりたいことが全く出来ずにストレスに思っているので、そろそろ終わりにしたいところだと思っている。

 質問は?」


「いろいろ質問だらけだけど、帰ってからでいいや(・・・・・・・・・)。サルタヒコさんも、わざわざありがとな。あなたは<一体何回目のループ>なんだ?」


「ほっほっほ。毎度のことながらお優しい御仁ですな、最古の古神ヒルコ様に、サルタヒコがご挨拶申し上げる。

 そうさな、まだ儂は数十回程度ですじゃー。最初からずっと、ありとあらゆる手段を講じて繰り返しておるオモイカネには到底敵わぬですじゃー」


 照れたように頭の後ろを掻きつつ、サルタヒコはシンディの方を指し示した。そちらをタクミとクルルが同時に見やると、オモイカネはなぜか、ん? と小首を傾げた。


「これは宇宙の管理を任されている私の役目だ。それは既にブロックが解かれた記憶にあるだろう?

 順序が逆だが、君……、ヒルコはそのような輩が生まれた際に対処するための最強の盾であり、最強の神力を持つ最後の古神であり、一度ひとたび君が覚醒すれば、スサノオやツクヨミなど、君以降に生まれた神は無条件に君に協力するはずだったのだが。

 ――これまでは力の相性が悪く、君は毎回アマテラスに飲み込まれてしまっていた。

 しかし今回は私が当初から思考誘導することで、全ての分岐でアマテラスの天敵となるように仕組んだ結果だ。これまでの周回で最も確率は高い」


「そういうことじゃないって。ありがとな、オモイカネさん。ってかその姿だとやっぱり俺にとってはシンディさんだな。帰ったら、今度はバニラアイス開発してくれると助かる。バニラエッセンスとかこの世界にないけど、シンディさんならきっと作ってくれるよね?」


 くすくす、と笑い始めたタクミに言葉を投げられたシンディは、暫しその言葉を吟味するように反芻する様子を見せた後、普段の様子に戻って(・・・・・・・・・)返事を返した。


「では、私は一足先に拠点に戻って、皆さんの分のバニラアイスを用意しておきますね? 先程も言いましたけど、私は今回の演算結果には絶対の自信を持って居ますので、出来ましたら今回を最後にして下さいますと、食材が無駄にならずに済みます。お先に失礼を」


 そして、ぺこり、と頭を下げる。


「あ、ごめん、ついでにお願い。あっちのレアちゃんも連れて帰ってくれると有り難い。さすがにこの先は<神域>だからね、エルフ族のレアちゃんじゃ耐えられないでしょ。……泣いちゃうと思うんで寝かせといて?」


 ふふ、と軽く笑ったシンディは、片手をレアを抱くリュカの方に向けると、軽く何か片手のみで印を描き――、そのまま、その場から霧が消えるかのように姿を消す。言った通り、拠点に移動したのであろう。タクミの願い通り、リュカに抱かれていたレアもその場から消失していた。


「では儂も退場することにしようかのー。おっと、毎度のお約束を忘れるところであったー。クルルー? ここに、ここんとこに、濃ゆーいの一発よろしくなのじゃー? 最後になー」


 自身の鼻の頭を両手の人差し指で指し示すサルタヒコに対し、苦笑を浮かべたクルルが、その鼻の先端を掴み……、はっ、とタクミの方を振り返るのが見えた。


「いいよ、やってあげなよ? 俺のことは気にしないで」


「誤解とかしちゃダメですよっ? もうっ、サルタヒコはほんとにいつもいつも、面倒なときに面倒なことばかり」


 口では文句を述べつつも、笑顔を絶やさぬまま、クルルはサルタヒコの鼻にそっと口づけ、ゆっくりと神力を注ぎ込んだ。


「アー、相変わらず気持ちの良い神力じゃー。うむ、今生は満足じゃったー。ではなー、今の旦那と末永く仲良くするんじゃぞー?」


「うるさいっ、余計なこと言わずにさっさと帰れっ!」


 鼻を離すなり前蹴りからのかかと落としを放ったクルルの蹴りを軽々とバク転で躱し、最後にサルタヒコは寄り添うタクミとクルルに笑顔で片手を軽く振ると、そのまま光の分子に分解して消え去った。


「えっと。俺の戻った記憶が正しければ。――<前の>旦那さんだよね?」


「<今の>旦那様は貴方一人ですっ。んもうっ、あれは過去で、ここは現在ですよっ。そして、――この先が、まだ誰も体験したことがない未来ですっ。一緒に帰りましょうね?」


「当然。そのためにここに俺たちは居るんだからさ。あと。そのうちでいいから、俺への敬語もやめてね? ……ちょっと嫉妬したかも」


 寄り添ったそれぞれの側にあった手を恋人繋ぎで固く握り締めながら。


 二人は加速魔法を徐々に解きながら、仲間たちの方を振り返った。



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