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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第五章 神国篇
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56話 第一の門

「いや、最初からこうすりゃ良かったなあ」

「ほんとですねーっ。よく考えたら、魔物退治する必要なかったですもんね」


 ねー、と笑顔で頷き合うタクミとクルルの後ろで。


 ……リュカ、ミリアムが嘔吐を繰り返しているところだった。


「なんでお前ら、あの揺れの中で平気だったんだ……?」


 えっ? と疑問符を頭上に浮かべるタクミたち。


 ――クルルが実体を復活、タクミとクルルのほとんど無尽蔵とも呼べる神力を合同で使用した結果、その場で神鉄を生産することに成功し、この場で突破専用の浮遊戦車作っちゃえ、ということで、ごく大雑把に三枚の神鉄板を接合して横倒しにした三角錐形状の神力で浮かぶ乗り物を形成。


 その内部、底辺尾部付近に八人が乗り込む形で地面形状に沿って60センチほど浮遊させた状態で……、時速150キロ程度で行く手を塞ぐ魔物たちを片っ端から跳ね飛ばしながら問答無用で押し通って来たのが現状である。


 タクミ、クルル、ティースの三者合同神力推進であるからして、破壊力は推して知るべし。ククリとタギツは神力のレベルが低いので参加してなかったが、全員で一気に加速した場合、更に速度が出たであろう。


 ただし、最大の誤算は。


 常時浮遊状態の座椅子に座っているティースと、その膝に抱えられるククリ、レアが無関係なのは当然として。「地面形状に沿って高速であらゆるモノを弾き飛ばしながら強引に進む」関係上、とてつもなく揺れたのである。


 ええ、そりゃあもう、これならカクテルシェイカーの中の方がまだマシじゃねーのレベルで。


 結果。


 耐久力で最も劣るリュカとミリアムが乗り物酔いでふらふらしまくっているのが現状なのだった。


「いや、だってあの程度で酔ってたらねえ?」

「確かに揺れましたけど、せいぜい震度3から4くらいでしたよね? 普通ですよねえ」

「ぴょんぴょん跳ねて楽しかったのですー!」


 地震慣れしすぎている日本人の耐久力恐るべし。約一名純粋に楽しんだようだが。


 ちなみに、この世界では地上に露出した活火山がないので地震は千年単位で発生していない。


 前回の地震の記録は、どこぞの暴虐神と炎神がガチで殴り合った際に発生したときらしい。――未曾有の天変地異として歴史書に記されている。


「でっ。ここが入り口、と思っていいのか? なんだこれ、木か? 変な形の門だなあ」


「――鳥居、ってやつだね。ここでお目に掛かるとは、ほんとに日本の神だったんだなあ、アイツ」


 眼前に見えるのは、何百もの鳥居が少しずつ高度を上げて、霞むほどの遠方、かつ空中へ向かって階段状に浮かんでいる光景だった。


「出雲大社と同じ形式の空中(やしろ)ですねっ。クルルにとっては懐かしいですけど、まずは三柱の門番を通過しないといけないんです。――第二門までは神器が相手しますよ」


「クルルが起きるのが間に合って良かったな。全然前情報なかったからな、助かる」


 言いながら、何気なくタクミは隣に寄り添うクルルの頭を撫でた。


 クルルが頬を染めたのを見て、当然の順番待ちのようにティース、リュカ、タギツ、ククリの順に並んだ様子にタクミが気づき、ぶっ、と吹き出しつつ、全員とついでにミリアム、レアも撫でておく。


「みんなほんとにありがとな。――ミリアムちゃんなんか、こっち方面は縁も義理もなかっただろうに、ここまでほんとお疲れ。ありがとね?」


「いいえ、タクミさまにはお世話になりっぱなしですから、剣の腕ではなかったことだけが残念ですけど――、調理その他の雑用でも同行させて頂いて光栄です!」


 視線を宙に彷徨わせる金髪の女の子が居たが言及すまい。


「――仲の良いことだ。そろそろ、こちらの用向きを伝えても良いか?」


 ずんっ、と臓腑に響くほどの咆哮かとも思われる圧力の女声に、全員が鳥居を振り返る。


 ……先程まで無人であった鳥居の前面に、全身を真っ白な獣毛で覆った180センチ前後の白虎の女獣人と、身の丈三メートル近い、下半身を腰布で覆っただけの屈強な大男が出現していた。


「――お久しぶり、タヂカラオっ。『そっち側』に付くのですか?」


 クルルの質問に、タヂカラオ、と呼びかけられた大男は、苦笑しつつ否定するように片手を顔の前でひらひらと振ってみせた。


「我らはどちら側でもない。ただ腕試しのためにここに在る。――というか、もうそれくらいしかすることがない。このラグナはエルガーに置き去りにされた抜け殻故な」


 軽く肩を竦めつつ、タヂカラオを脇に控えさせ、ラグナ、と名乗った白虎の女獣人は両手の爪を瞬時に伸ばした。


「用向きを伝える。我らは第一の門の門番を務める、剛拳の神器ラグナとその神使、剛力の古神タヂカラオである。タヂカラオを見届人として、一対一の勝負をしよう。勝てば通って良し、また神器の座を譲り渡そう。負ければ門は通さぬ」


 すらすらと口上を述べつつ、決まりごとであったかのようにタヂカラオが大きな巨体で正座し両手を膝の上に乗せた途端、地面から円形に輝く光輪がさっ、と宙に伸びた。


「――名も知れぬ莫大な神気を持つ盲目の拳士、それがアメノウズメとタケミカヅチを率いておる汝らなれば押し通れるかもしれぬが、我ら第一の門の門番ニ柱がお役目に従い全力で阻止する。……むしろ、そちらの方が手加減無用で死命を賭して戦える故に、こちらも楽であるし、そちらを選んでも構わぬ。如何か?」


「作戦タイムお願いしまっす」


 びしいっ! と片手で制止サインを出して、タクミたちはラグナとタヂカラオに背を向けて作戦会議に入った。


「ええっと、すごい予想外なんだけど。あれはぶっちゃけ、どういう人ってか神たち?」


「要するに退屈してるんですっ。かれこれ1,000年ほど門番の役目であそこから離れられない上に、上に居た神器や神はみんなあそこを通らずにゲートで移動してましたからねえ。クルルがここを離れた後にどうだったのかは知りませんけど、たぶん……、ずっと誰にも会ってないし外のことも知らないと思われます」


 タクミの質問に、ううむ、と頭痛に耐えるようにしかめっ面で側頭部を指で抑えつつ、クルルが答える。


「殺される心配とかねえの? ならオレが行ってみたいんだけど。一対一の勝負って模擬戦ってことでいいんだろ?」


「たぶん退屈しのぎですから『殺す意図がない』のは確実ですけど、タヂカラオとその神器ラグナは手加減を知らないですから『結果的に死ぬ』のは十分に有り得ますよ?」


「ゲートで直接抜けたりは出来ない? リュカを危険に晒したくないんだけど」


 タクミの心配そうな声色に、リュカは不満げに鼻白んで見せた。


「ここまで来てふっざけんなよオマエ、アレなんか比較にならねえレベルの神にガチで喧嘩売りに来てんだろうが。あの程度相手に出来なくてどうすんだよ。逆に言や、あいつに負けるようならこの先一緒に進めねェ、ってことだろうが? だから一番弱いオレが行くっつの」


 どんっ、と音が出る勢いでタクミの胸元を銃把棍の先端で突き、光輪の向こうで大股で腕を組んで待つラグナの方へ歩き出そうとしたリュカだったが。


 肩口を乱暴に掴まれた、と思った刹那、強制的に振り向かされ、抗う間もなく口をタクミの唇に塞がれた。そのまま暫し。


「――んっだよ」

「保険。使わなければそれがいいんだけど。頑張って」

「リュカさん。勝利をお祈りしておりますわ」


 タクミの言葉には答えず、ティースを初め、クルルらに軽く拳を打ち合わせながら振り返らず先へ進んでいく。と。どんっ、と衝撃があり、レアが足にぶつかって来たことに気づいた。


「リュカー! ファスタマサ(fastamatha)!」


 会話の流れは分からぬのだろうが、勝負をすることだけが理解出来たものか、涙をいっぱいに溜めた目を潤ませて激励のエルフ語を投げかけるレアに、リュカはふっ、と息を吐いて、しゃがみ込んで両手で拳を打ち合わせた。


「レア、任せとけって、勝つから。トルソン(torthon)。大人しく待ってろよ? ティン(tîn)ダルソ(dartho)? ――タクミ、レアのこと頼んだぜ?」


 そのまま、がしがしとレアの頭を撫でて、再び立ち上がると。長く強く息を吐きながら、リュカはラグナを見据えて歩き始めた。


「本当に仲の良いことだ。実子ではないよな。――ルールの説明は必要か?」


 短い距離を歩いて光輪の境界をまたぐと同時に、リュカは圏内が異空間と同様に隔絶された空間であることに気づいた。内部の戦闘の影響を遮断しつつ、外部からは観戦可能な舞台、といったところか。


「そりゃ必要だろうよ。 オレはただの人間なんだ、神器と力尽きるまで打ち合うなんてもうゴメンだぜ」

「……? 以前同じ経験をしたような言い草だな。まあいいが。ルールは簡単、私に一撃でも当てるだけだ。簡単だろう?」

「軽く言ってくれるよな……」


 軽くその場で片足ジャンプを繰り返すように繰り返した後、ゆっくりと両腕を頭上で交差させる。


 そして両側に振り下ろすと同時に銃把棍を全伸長させ、リュカは一気にラグナに向かって駆け始めた。


 大きく振り被った左腕の銃把棍が、ラグナのサラシを乱雑に巻いただけの大きな胸の脂肪に接触しようとする刹那。


 銃把棍の先端から轟音と共に冷却ガスが噴出され、その反動を横下にずらしたリュカはコマのように軸足の右足で回転しながら背中側に右回転し、ラグナの背後に回る動きでラグナの左脇腹に向かって左肘を伸ばす――と、その肘はラグナの軽く振り下ろされたようにしか見えなかった左肘で叩き落された。


「なかなか面白い技を持つ。オリジナル武技だな? やはりその棍は魔道具か。小兵ならではの涙ぐましい努力が見事だ」


 本当に見事と思っているのか怪しげな不遜な態度で、左腕を抱えて飛び退ったリュカを目で追いつつラグナが告げる。


「どうやらもうひとつハンデが必要なようだ。私をここから一歩でも動かすことでもお前の勝ちとしよう」


「舐めんなクソっ!」


 叫んで、リュカは両腕を一揃えにしたと同時に両腕の銃把棍を同時発射し、高速の重力弾が発射される。が。


 殆ど音速で飛来したであろうその銃弾を、ラグナは片手の甲で軽く振り払うだけで弾き飛ばした。弾き飛ばされた銃弾は周囲を囲う光輪に触れた途端に炸裂し、内部の圧縮された氷結魔法を無人の境界で展開させる。


「面白い魔道具だな。私の知らない武器だ。世界も変わったものだな」

「あんた、いつからここに居るんだ?」


「生まれは西方の密林、村を出て、ざっと1,000年ほどになるか? ここで門番のタヂカラオと出会い、五年ほど戦って認められ、神器となった。

 ここを離れたのはエルガーと契約した三年のみだな。エルガーの死によって我らの門番の使命が復活し、妹と共にここに再度据えられたのが約900年前。

 ……それからずっとここで門番をやっている。

 ――正直疲れ果てているので、お前が私に勝利することを真剣に願っているのだがね?」


 しかし武人の礼儀として手は抜けない、と続けたラグナだった。


「参ったね、アンタいい人……、ってかいい神器だよなあ!」


 叫びつつ、リュカは後方に構えた銃把棍を再度同時射撃し、今度は反動を純粋利用してやや上方に飛び上がる助走と同時にラグナに空中から迫ると、落下の勢いをも利用して両手両足全てを使用した打撃を加えるが、それらは全てラグナの両手で受け止められたのだった。


「そうだな。面白い技を見せて貰っている礼に、私もひとつ技を見せてやろう。受け止められたらお前の勝ちでいい」


 言うなり、ラグナの眼前に着地した瞬間のリュカ目掛けて、疾風のような剛撃がただの一撃、叩き込まれる。


 それは目にも止まらぬまさに疾風の一撃で、咄嗟に銃把棍での十字受けを試みたリュカの銃把棍を粉砕し――。


 ――吸い込まれるようにリュカの腹部を貫通し、背中から鮮血で濡れたラグナの右腕が肘まで突き出しており、腹部と背部からはどくどくと大量の鮮血が噴出し、急速に砂の地面に血溜まりを作ろうとしていた。


 そのままラグナは眼前にリュカの顔が来るように、リュカの身体を貫いた腕を動かして、告げる。


「武王神速貫手、という技だったのだが。……済まないな。まさかこの程度も避けられないとは、どうやらお前の力量を読み違えたらしい――ッ?!」


 瞬時に絶命した、と思われたリュカが目を見開いた、と思った瞬間、完全に油断していたのか、惰性で振り子のように揺れていた、と思われていたリュカの足の先端がラグナの右腕の付け根にぽんっ、と軽く接触する。


「あいっててて……、へっ、一撃、入れてやったぜ? 威力もクソもねェけどな」


「む? これは? ふふ、なるほど。内臓のみ損傷を免れるように体内に神力ゲートを生成したのだな。

 あの瞬時に咄嗟に貫かせる選択を選ぶとは、並みの胆力で出来る技ではない。激痛であろうに、よくも人の身で耐えたものだ。

 あちらの、名も知れぬ神の神力か。なるほどなるほど、あの事前のキスはそのためか。

 なかなかに策も練れるのだな。――いいだろう、約束は約束だ」


 宝物を扱うように、ラグナはゆっくりとリュカの体内を貫く自身の右腕を引き抜くと、そのまま流血を続けるリュカを両腕で抱え、正座していたタヂカラオの元へ向かった。


「タヂカラオ。1,000年の約定が漸く叶った。契約通り、この娘を新たな神器に」


 こくり、と強面の石像のような顔を首肯したタヂカラオが、立ち上がってリュカを抱えるラグナに歩み寄り、両掌に大きな光の玉を出現させる。


「先に傷を癒やすだよ。このまま神器を移したら、傷が永久に治らなくなっちまうだでよ」


 タヂカラオの言う通り、タヂカラオの出した光球はラグナに優しく抱き抱えられる身動き出来ないリュカの腹部と背部に添えるようにあてがわれ、徐々に傷口を癒やしているようだった。


「待てよ、アンタはどうなるんだ? ありゃただのゲームで、勝負はオレの勝利じゃない」


「娘――、リュカと言ったか。……さっきも言っただろう? 『私は疲れ果てている』のだと。そろそろ休ませてくれないかね? エルガーとの約定により、自死も出来ぬ身の上。私がどれほどの思いでお前ほどの戦士を待っていたか、想像できるかね?」


「いや、だってオレは」

「リュカ。武人たるもの、二言はない。確かに、お前は私に勝利したのだ。それとも、お前は私に恥を掻かせたいのかね?」


 口では厳しくとも、ラグナの表情は晴れ晴れと澄み切っており、その目を見て、リュカはそれ以上の抗議を辞めざるを得なかった。


「そうだな。納得行くまいか。では、最後に頼みがある。この上の第二の門を守るのは、私の妹であるシーナだ。願わくば、あの子も救っておくれ。我らの1,000年の悲願を、リュカとその仲間に託そう。では、頼んだぞ、『武王』リュカよ」


 いつの間にかタヂカラオに委ねられていたリュカは、ラグナの薄くなる姿を掴むように片腕を伸ばしたが。


「やれやれ。エルガーを始め、皆を待たせ過ぎたな。酷く怒られるに違いない……」


 その手は空を切り、晴れ晴れとした笑顔のみを残し、ラグナは空気に溶けて消えたのだった。


「……ラグナは満足して逝っただよ。オラからも礼を言っとくべさ。そして、これからは長い付き合いになるといいだな、リュカ。――では、行くでよ?」


 地面に寝かされたリュカが、そんな言葉を告げたタヂカラオの方へ目を戻した刹那。


「なんっ?!」


 両手を組んでひとつの大きな拳を作ったタヂカラオが、大きくそれを頭上に振り上げ、リュカの腹部目掛けて振り下ろすところだった。


 慌ててそれを防ごうと両手を眼前にかざすように上げたが、抵抗などなかったようにそれは神速で振り下ろされ、リュカの癒されたばかりの腹部に見事に命中する。


 ……と同時に、その命中箇所に拳からリュカの体内に吸い込まれるようにタヂカラオの全身が瞬時に消え失せ、リュカの体内に超絶的な神力が漲るのを体感したのだった。


 ――今後は『疾風の武王』を名乗るといいだよ。オラはいつでも中に居るだから、必要になったら呼ぶといいだ。


 そんな声を脳裏に聞きつつ、リュカは新たな『とても恥ずかしい厨二全開な二つ名』に頭痛を覚えたのだった。



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