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幕間10 電車

次話から第五章開始ですー。

「見て下され、タクミどの!! 遂に完成したのです!」


 ──とか、だくだくの汗を顔面に流しながら物凄いにこにこ顔のムギリさんが俺たちに示してくれたのは。

 二本のレールの上に乗った少し大きめのトロッコで。


「アゼリア王国の魔女と名高いティースさまとクシナダさまの技術協力と、ドワーフ王国の冶金と魔導技術が結集した集大成……、これが、大陸初の『電車』でございます!!」


 ……いやいやいやいや、ちょっと待って待って。


 なんで蒸気機関とかいろいろそんな感じの、間にあるはずの技術をすっ飛ばしていきなり『電車』が誕生してしまうんでしょうか。


 助けを求めるように、俺の元の世界の技術も当然知ってるはずのクシナダさんに目を向けたら。


 俺と目の合ったクシナダさんは、少しだけいたずらっぽく微笑んで。

 てへぺろ! ってな感じで自分の頭をこつん、と拳で叩く素振りをしてみせた。


 付き合い長くなって解ってきたけど、クシナダさんって、意外といたずら好きな神だ。


 ──全力で真面目に長期間かけてやらかしちゃうタイプの。




 ……話は半月前に遡るらしい。


 元々は、雷神タケミカヅチの神器になったティースが。

 ──息をするように簡単に雷球プラズマを生み出せることに気づいたのが発端で。


 雷球なんて今までは攻撃魔法の一種で、雷球にした後は開放して爆発破壊に使用するしか使われてなかったんだけど。


 雷球を簡単に生成できるようになったことで、ティース持ち前の探究心が

「これは一体どんな原理で球状になっていて、中のエネルギーはどこまで上げられるのか」

 という疑問に着目してしまい。

 ──異空間での検証の結果。


 雷球は電磁波によって高圧電気を封じ込めている。

 出力はそれを包む磁場の力に依存している。

 磁場も雷の力の一種、炎もプラズマの一形態。

 なんてとこまで辿り着き。


 そんで、故意に神鉄に強烈に高い神力抵抗を持たせた状態で雷球に突っ込んだところ。

 ……持続的に電力エネルギーとして取り出すことに成功したらしい。

 ──ここら辺からクシナダさんが技術的なあれこれに絡んでるそうだが。

 まあそりゃそうだよな、鬼の超高電圧を封じてる風船にぶすっと穴開けるだけで電気が取り出せるんだったら、現代でも実用化してるだろうし。

 そこら辺をクシナダさんがどうにかしちゃったんだろう、たぶん。


 ともあれ、それでこの世界初の魔導電力バッテリーが誕生したそうで。


 ……そこから斜め上の方向に話が転がっていく。


 俺は電気の発明ってベンジャミンさん? 辺りが避雷針でどうたら、みたいな話しか知らないけど。

 ──発見されてからかなり長いこと電気回路みたいなもんには結びつかなかったはずなんだけどな。


 トロッコの上で操作盤みたいなもんをあちこちいじくり回してるムギリさんと、傍らで派手にろくろ回しながら技術について語り合ってるっぽいティースを眺めながら、俺は隣に並んで立ってるクシナダさんをちらり。


 さっ! って感じで視線を逸らしつつ、笑ってる感じで肩は震わせてるから。確実に確信犯だねこれ。


「……電気回路とかなんかそんな系統の技術を与えたでしょう?」

「……あのふたりに与えればきっと面白くなるだろうな、と思いまして」


 ──まあ、確かに同感なんだけど。

 間違いなく絶対にこの世界の住人で日本なんか見たこともないはずなのに。

 ……あの二人の発想力と理解力っていろいろおかしいんだよな。

 一を知って15万を知るみたいなレベルで。


 ええと。

 それで、引き出された電気を磁石に巻いたら電磁石になってー。

 それを永久磁石の間に入れたら回転するモーターになってー。

 モーターの出力は雷球依存で。

 雷球の出力はこの場合ティースの神力依存で、事実上無限で。


「……なんで地球よりも先に永久機関に辿り着いてしまっているのか」


「……厳密には最後に神力に戻るわけではないので永久機関の定義からは外れるのですけど」

「いや、そんな細かいこといいから」

「レールや荷線から電気を引くわけではないので、レールさえ敷いたらすぐに開通ですよ。工事が簡単でいいですね?」

「──いや、それはそうなんだけど。いいのかなあ……」


 なんだかうきうき楽しそうなクシナダさんを前に、ちょっとだけ熟考してしまう。

 そりゃ、道路工事は俺らの管轄だけど。

 鉄鋼なレールってドワーフ王国の分野だよなあ?


「……この場合、俺らが敷設工事要領をある程度指導したらドワーフ王国の特許になるんじゃないですかね? 俺ら鉄鋼レール作れないし」

「……あら、そうでしたわね? そういえばトロッコの方も作れませんし。では気動車と客車の構造も伝えましょうか」

「……もしかして、クシナダさんって日本じゃ鉄ちゃん……、じゃないか。鉄子さんでした?」

「いいえ? 乗ったことはありませんし。でも走るのを見るのは好きですよ」


 鉄ちゃん、鉄子さん、ってのは鉄道オタクのことで。

 この場合、クシナダさんはどうも見る鉄らしい。

 自覚ないみたいだけど、詳しすぎる。


「こちらが設計を受け持って、ドワーフ王国がレール敷設と車両製造、運用ですか。あら、駅舎辺りはこちらの担当ですね? 軍需物資の輸送に最適ですし、民間でも移動の危険が減りますし馬車と比較して高速性が増しますから便利になりますね。……一度あれ、乗ってみたかったんですよねえ。でも神の身ですとなかなか乗れなくて」


 物凄いわくわくしてるクシナダさんがそこにいらっしゃった。

 こんな嬉しそうなクシナダさんって初めて見た気がする。


「めっちゃ私欲ですよね? ……まあいいけど。最初は軍用オンリーで、他国使用でも料金めちゃくちゃ高く設定しときましょうよ? 馬車や馬関係の業種を圧迫すると思うんで、しばらくは共存できるように。……馬って調教に何年も掛かるんでしょ? いきなり電車実用化、はい馬肉にするしかもうないですよ、は可哀想ですよ」


「ううーん、気動車は新潟式でもいいとして、客車はどうしましょうねえ。最初だしコハ6500形? でも貨物優先ならトキ25000形? いえ、でも」


「クシナダさん? クシナダさーん? 戻ってきてー? おーい??」


 ……返事がない。ただの鉄子さんのようだ。


 うーん? 世の中が便利になってくのはいいことだ。

 とは思うんだけども。

 鉄ちゃんの趣味嗜好は一般人の俺には理解不能すぎ。


 でも。

 あっ。

 電気モーター出来たんだったら、二輪にも応用できるかな?

『やっとコイルが温まって来たぜ!』とか言いたいし俺も。


 そんな風に考えを巡らせながら、俺は魔女と職人の発明品をその後延々数時間も自慢され続けた。



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