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幕間8 秘め事

「無理はしないで下さいって、アタシ言いましたよね?! なんですかその傷! 時間経過しすぎて消えないって、医療魔道士の魔力まで削って攻撃に回すとかやりすぎです!」


 自分でもびっくりするくらいの大声で怒鳴りつけちまった。


 ベッドで神妙な顔して正座してるフープさんがアタシの顔色伺うみたいにちらちら上目遣いで見て来るけど。


 ……いや、こういうときは絶対腹の底で何か別のこと考えてるんだって、弟のタクミが断言してたからな。


 今回も絶対そうだろうよ。――アタシの旦那だってのに、なんでアタシゃその愛する旦那を全力で疑ってんだろうな?


「シェリカ、そろそろ僕の足は限界を超えそうなんだけど。……崩していいだろうか?」


「ダメに決まってるでしょう! さあ、申し開きをして下さい! 医療班は負傷者を治療させるために連れて来た戦力外員数で、予備戦力ではない、とあんなに口を酸っぱくして最初に言いましたよね? アタシが居ない間に編成変えてまで前線に出したのはどうしてですか!!」


「いやね、剣で戦うよりも借りた銃棍使った方が損害が少なくて戦果が上がることが解ってね? でも元が騎士団だからやっぱり、僕も含めて射撃可能時間がどうしても短くて。

 そこで目を付けたのが医療班というか、負傷者ほとんど居なくて手持ち無沙汰そうだったから、手伝って? って頼んだら快く……」


「総司令官に頼まれて断れる部下が居るわけないでしょうっ!」


 ぴしゃり、と言葉尻に叩きつけたけどさあ。この人、確かにこの程度じゃ応えてないね、タクミがあれだけ不審の塊になった理由が少しだけ解った気がするよ。


 この人……、フープさんの発想力と応用力、洞察力と注意力は、あらゆるレベルで全てがおかしい(・・・・)


『人知を超えた英傑』って言葉を当て嵌めるなら、アタシはこの人以外に思いつかない。


 銃棍の活用もそうだし、負傷者を出さないなら魔力を(・・・)騎士より(・・・・)余分に(・・・)持ってる(・・・・)魔道士の(・・・・)医療班(・・・)を攻撃に使用できる、なんて発想は普通の人間じゃやらないだろ。


「もしも怪我したら」って発想が常にあるのが人間ってもんだ、それに、そこに当て嵌まるのが自分だったら死んじまう。


「いや、シェリカ、聞いて? 医療班を戦闘に回したのはドワーフ王国が参戦してからだからね? 砂上艦をスサノオさんが撃沈してから、砂漠民の民衆や部族戦士が集まって増員したんだけど。やっぱり武装のレベルが足りないからまともに当てると死傷者が増えるし、ね?」


「ね? じゃありません。――遠距離火力を増して弓の射程外から一方的に数を減らそうとしたんでしょう? タクミに聞きましたけど、『アウトレンジ戦法』って言うんですってね? 何をどうしたらそんな新戦法を戦場で突然閃いて実施してしまうんでしょう……」


 なんだか、言い募ってるのがバカバカしくなってきて、アタシゃもう深々とため息ついてフープさんの顔面をぐるぐる巻きにしてた包帯を解き始めた。


「シェリカ、僕マジでもう限界でね、足、そろそろ……」

「ダメって言ったじゃないですか。なんですかたった一時間程度の正座で。戦場を駆けるよりも全然楽でしょう?」


「いや絶対戦場の方が……」

「動かないで下さいな、手元が狂います。――はあぁ。これ、精霊魔法の傷ですね? 変な精霊力残ってますから、傷跡、残りますよ? 無理に治すと体内の魔力と干渉して副作用が出ますからね?」


 ああ、ちくしょう。アタシが近くに居れば、体内魔力に干渉する前に、皮一枚引っ剥してでもすぐに精霊力取り除いて治癒しただろうに。


 随分長いことそのままにしてたみたいで、完全に小さな風精霊が体中にこびりついちまってる。


「……どうして笑ってらっしゃるんですか? 傷が治らないことが嬉しいみたいに」


「ふふ。いやね、うーん。嬉しいって言えば嬉しいし。不思議な感覚かなあ? あの人の精霊力と死ぬまで付き合うことになるのか。これが運命ってことなら、不思議な縁だねえ。――シェリカ? 二人っきりのときに敬語は要らないって言ったでしょ?」


 フープさんの包帯を剥がす手を掴まれて、そんなことを言われて。


 ああ、もうっ。きっと、この人は今、アタシが赤面したことにも気づいてるに違いない。


「前にも言ったじゃないですか……、じゃねえか。アタシはあなたの前じゃ平静じゃ居られねえ、んですってば」

「慣れようよ? 僕も頑張ってるところなんだからさ? ――ああっ、でも本当に限界なんだシェリカごめんよっ!」


 突然大声を上げた、と思ったら、フープさんがベッドに転がって両足をさすって呻き声上げ始めて。


 えええ? これ演技じゃないんだよな? 西方最強の戦士の弱点って……、正座、ってマジかよ?


「ふっ。ふふっ。あはっ、あはははははは!」

「うううぅぅぅ。シェリカ酷いな、笑うなんて」


「これがっ、笑わずに、いられますか? ここに来るまでに、あれだけの名声を轟かせた、今や大陸最強の戦士の誉れ高いフープ・ディル・アルトリウス侯の弱点が、正座、だなんて!」


「数多の戦場を駆けた僕でも、こんな不思議な関節技を強要されるのは初めてでね。あぅっ、くっ、シェリカ。頼むからつつかないでっ、ぐああああぁぁぁぁ」


 まさか誰も想像も出来ねーだろうな、フープさんをアタシが指一本でやり込めてる様子なんて。


 お腹の底から出る笑いが止まらなくて、笑いながらここぞとばかりにフープさんを虐めてたらやりすぎたみたいで。


 つっつく腕を掴まれた、と思った瞬間に手首から肘、肩の関節を取られたアタシは、後ろ手に腕を極められてフープさんに羽交い締めにされてた。


「ちょっ、体術メインの忍者相手に関節技極めるって、いくら油断してたって言ったって速すぎ?!」


「あのねえ? 僕の師匠と弟が誰だか知ってるんじゃなかったかなシェリカは? これくらいは朝飯前だよ? ――それに、兄にも仕込まれたからねえ」


 あれ? フープさんってあの家族では長男じゃなかったっけ? 兄が居るなんて初耳だけど。


 それを尋ねたら、少し遠い目をして、フープさんはお兄さんの話を話してくれたんだけどさ。


 すごく切なくて痛くて可哀想な話で。フープさんはアタシだから話したんだ、って言うから。


 こりゃ、アタシの胸に仕舞って、墓の中まで持ってくことにしたんだ。


 だってアタシゃ、フープさんの妻、なんだからな。夫との秘め事を軽々しく他人にゃ話したりしないんだぜ、出来た嫁ってのは。


「ああああぁぁぁぁぁ、自分でやっといて何だけどシェリカの体重で倍になった重量が痺れた足にっ……」


「アタシゃそこまで重くないよっ、失礼なっ!!」


 自由の効く極められたのとは逆の手でフープさんの足の方をさっと一撫でするだけで、更に悶絶してた。


 こりゃいいな、今度からお仕置きはコレにすっか。


 これも、夫婦の秘密、って奴だな。


 なんて調子に乗ってたら、アタシもフープさんしか知らない弱点を攻められる感じで。


 まあ、ベッドもあるし二人っきりだし、イイか。


 ここから先は、アタシらだけの時間。



seitakanoppoさんのリクエストで『シェリカさんとフープ兄の夫婦のお話』でした。

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