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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第一章 冒険篇
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05話 憧れの冒険者ギルド登録

 街の入口で同乗させて貰った商人馬車の人たちと別れて、俺、クルル、シルフィンの3人はシーンの街へ入った。


 シルフィンは減額されたものの正式な報酬を受け取ったので路銀はそこそこあるし、俺も一応襲撃を防ぐのを手伝った、ってことで、冒険者ではないけど報酬を貰っている。本当は違法らしいんだが。


「これはねえ、子供にあげる大人のお駄賃みたいなものだから。おじさんはすごく感謝してるんで、受け取って貰えないと悲しくなっちゃうな」


 …とまで言われちゃ受け取るしかない。シルフィンが受け取るはずだった満額報酬から差し引いた分らしいし、そのシルフィンは減額に納得してるし。


 商人さんたちは元々の報酬から金額が出っ張ったわけじゃないし、負傷者はもう完治してるし、これが三方良しってやつなのかな。


 とりま、誰も損してないってことでそこは素直に受け取ることにした。


 満面の笑みでわしゃわしゃと頭を撫でられるのは勘弁して欲しかったけど、27歳にもなって頭を撫でられるのがちょっと嬉しいと思ったことは内緒だ。


 なんてーか、肉体年齢に精神が引っ張られてるというか、思考や感情が子供じみて来てる気がする。


 クルルやシフォンとのやり取りの間で、常に子供扱いされてるからだろうか?


 実際、この世界じゃ子供そのものだし、今のところ前世の知識が役立ったことはないから仕方ないのかもしれないが。


「いやぁー。あたしの報酬がタクミくんのお小遣いに化けるとはぁ、これはお天道様てんとさまもびっくりに違いないねぇ。

 ところでタクミくん、あたし新しい弓弦が欲しかったりしててさぁ」


「タクミの報酬はタクミの正当な働きの報酬ですからっ、あなたの要望を聞く義理はないんですからねっ」


「いやいやいやぁ、それはどうかなぁ。

 正式な報酬って言ってもギルド依頼通してないから出るところに出たらタクミくんが怒られるんだし?

 それにあたしはタクミくんより年上でお姉さんなわけだからぁ、タクミくんのお小遣いの使いみちを考えてあげてもいいと思うのよぉ?」


「年上だったらあたしはあなたよりも遥かに年上の最長年齢なんですからっ、お子様な娘っ子の過ちを正しても問題ありませんねっ」


 女三人寄ればかしましいと言うけど、二人でこれだけやかましかったらあと一人増えたらどうなるんだ。


 ……と言っても、一方的にクルルがシルフィンに突っかかってるように見えるんだけど。


 俺を取られるように思ってるのかもしれないけど、前世からの縁があるクルルと初めての異世界で出会った非人間種族、って部分である種の物珍しさで興味が湧いてるシルフィンとじゃそういう比較にはならないよ。


 ――それを直接伝えるとまたひと悶着ありそうだから言わないけどな。


 なるべく二人の言い合いには絡まないようにしつつ、報酬として手渡された重みのある小袋をポーチから取り出して、中身を手に出してみる。少し厚みのある銀色の硬貨が20枚。


「銀貨一枚がニ千円くらいだっけ? じゃあこれは二千円札か」


「センエンが何かは知らないけどぉ、街で普段使われてるのは銅貨だからぁ、半分残して残りは銅貨に両替しておいた方がいいよぅ」


 クルルに話しかけたつもりが、シルフィンが濡れた目を潤ませて答えてくれた。――視線を合わせるとみんなこうなっちまう。


 そんなに俺の顔って破壊力あるのか? この世界の美意識基準ってどうなってんのやら。


 銅貨一枚が二百円、銀貨一枚が二千円で、まだ見たことはないが金貨一枚が五万円、白貨――白金プラチナのことらしい――が五十万円、って聞いてる。


 これ以上の価値のものは宝石取引になるそうだ。今の手持ちは、銀貨20枚だから四万円か。


 金貨なんかの貨幣偽造は魔法職で錬金術師なら割と簡単なので、錬金術は禁呪、外法として厳しく取り締まられてるんだとか。


 それに、ホントの貨幣は絶対に傷つかない魔法加工がされてるんで、見分けは付きやすいそうで。


「両替商も銀行も強盗被害に遭いやすいからぁ、ふつーは冒険者ギルド内に併設されてるよぅ。

 ここら辺は護衛雇って厳重警戒しなきゃいけない盗賊ギルドとは盗賊ギルドなんかよりも洗練されてるねぇ」


「盗賊ギルド内にそんなもの置いたら護衛の雇用が減るじゃないですかっ」


 盗賊ギルドの登録者、と判明しているクルルの方をちらちらと見ながら、シルフィンは優越感たっぷりにこれ見よがしに自慢げな口調で話す。


 みるみるうちに不機嫌になって頬を膨らませるクルルがかわいい。


「両替ってか買い物も初めてだし、貨幣貰ったのも初だし、最初の買い物は決めてあるんで先に冒険者登録からだな」


 これは本当だ。前世で就職して初任給での買い物も同じことしたし、俺にとっては「初めての稼ぎの使い道」は既にテンプレとして自分の中で決まっている。


 しかしそれはそれとして、とりあえずは街に来た最初の目的、を果たさねば。


「先に街で宿取ってからでもいいんだけどぉ、そういうことならぁ、冒険者登録が先だねぇー。

 冒険者ギルドはぁ、あそこに見えるぅ、あれにございまぁす」


 芝居がかった調子で指差すシルフィンの指の先に、街の中央からやや外れた場所にある特徴的な剣の形を模した尖塔が見える。


 ショッピングモールみたいに、さっきシルフィンが言ってたみたいにひとつの大きな建物内にいくつもの冒険者ギルドに関わりの深い店舗が入っている形になってるらしい。


 冒険者向けの武器防具屋、武器防具の素材になる素材屋、冒険者が持ち帰った素材を鑑定する鑑定屋、金銭両替の両替屋、ある程度以上の金額を預かって記録したり金銭が必要な冒険者に融資する銀行、などなど。上層階に部屋を買って定住することも出来るらしい。


「あとぉ、冒険者ギルドそのものの護衛として冒険者ギルドに雇用されることも可能なんだけどぉ、これはある程度冒険者として成功して引退しちゃった人たちがやってるねぇ。

 それと、護衛じゃなくて冒険者指南役として武術や魔法とかを教えてくれたりもしてくれるのよぉ」


「冒険者ギルドってかひとつの小さな国みたいなものなんだな。冒険者ギルドと出先の往復だけで生活が成り立つように聞こえるんだけど」


「それはあるかもねぇ。冒険者自体が普通の街の住人からしたらはみ出し者みたいなものでぇ、嫌われ者ってほどでもないけど街と密接に関わってるわけでもないから好かれているわけでもないしぃ」


 街が少し入り組んでたせいで長く歩くことになったが、ようやく冒険者ギルドの入口に到着だ。


 確かに、中央からは外れた外壁近くの立地と、街の住宅街や商業地からはそこそこに距離があるし、街の変人区画、として隔離されているような印象は強い。


 周辺のそこかしこでなんかクマっぽい毛皮被った戦士っぽいおじさんが闊歩してたりべろんべろんに酔っ払った魔術師ぽいおっさんがホログラムみたいな美女の幻影に話しかけてけたけた笑ったりしてるし。


 いやっ、俺はこんな冒険者にはなるまいっ、異世界小説で憧れた屈強な筋肉の魔法戦士になるんだ!


「はいはい、シルフィンさんの紹介冒険者ですねー。

 あらっ、男の子なんて、ここのギルドじゃ最年少登録かもですよっ、きゃー、かわいいー」


 シルフィンの案内で門を潜って内部に入って受付まで来たら、受付のお姉さんにまで子供扱いされた。いや確かに子供の身体だけどさあ。


「ああん、そんなに見つめないで下さい、お姉さん困っちゃいます。

 では、受付のシンディが案内申し上げますね。分からないことがあったらその場でお申し付け下さい。

 とりあえずは冒険者カード登録ということで、仮カードをお渡しします」


 シンディさんから渡された白紙のカードを受け取る。前にシルフィンに見せて貰ったのと同じものだ。ただ、数値や名前がまだ空欄のもの。


「これはこの状態で、そうですね、とりあえず手持ちでもいいですしどこか入れ物に入れておいてもいいですから、案内が終わるまでの間ずっと肌身離さずに居て下さい。

 内容はあなたの回答や体内魔力を読み取って自動的に数値化されます。

 数値化内容はこの場に居る登録同行者お二方と、受付の私シンディが全て閲覧出来ますが、私シンディは創始者レムネアの名に誓い、登録完了後は全ての数値記憶を抹消することをここに宣誓します」


「創始者レムネアってそんなに偉いんだ?」


「創始者レムネアさまは盗賊ギルドの創始者の実娘であり、盗賊ギルドに異を唱えて冒険者のためだけの冒険者ギルドを創始した最初の冒険者幹部ですね。

 今は中央アゼリア王国の方で傭兵ギルド運営を行っていらっしゃいますよ」


 シンディさんは俺の疑問にすぐ答えてくれた。


 ……答えながらも、なんか液晶タブレットみたいな透明な板? 結晶? 魔法具? をちらちら見つつタッチパネルのような操作でちゃかちゃかと何かを入力している。


 ちらっと受付から身を乗り出して覗いてみたけど、アルファベットに似ても似つかない文字で読めない。


 というか、ここで気づいたんだが。俺は一体何語を話してるんだそういえば。


「あらっ、異世界転生者なんですね。オキタ・タクミさん? この場合は東方命名規則でオキタ、が名字ですわね?」


「そうそう、タクミって呼び捨てでいいよ。そんなことまで判るのか」


「本人の魔力の源を解析する過程で、どの神の加護を受けているのかが波長で判明するんです。

 異世界転生者はこちらの世界の肉体と魂の波長が二重になる傾向があるので判明しやすいんですよ」


 シンディさんがぱたぱたとタブレットの表面を手早く叩くたびに、俺の持ってる冒険者カードに内容が反映されていく。これは面白いな。


-----------------------------------------------------------

PARTY :【ON】

登録名:オキタ・タクミ

種族名:神器 / 12歳

HP/MAX:160/160

MP/MAX:1900/1900

クラス:スピアLv.2

   :拳術パンチングLv.6

筋 力:70

知 力:130

俊敏性:170

耐久性:120

抵抗力:30

魔属性:身体強化Lv.1

言 語:共通語

固 有:状態変化無効

-----------------------------------------------------------


「このカードは現在の状態を擬似的に数値化したもので、カードそのものは神の加護を得ているのでこの世界のどこに居ても加護ある限り内容は常にタクミさん……タクミくんの状態を常に読み取って数値変化します」


 シンディさん何故言い直したし。その潤んだ眼差しを向けるのはやめて頂きたい。


「こほんっ。ただ、神器さんですから固有能力で状態変化無効をお持ちですけど、精神的な疲労による相対的な能力低下を避けられるものではありませんし?

 HPやMPほか、能力数値はごく普通の一般人の所持能力を全て100とした上での相対数値でしかありませんから、状況によってはマイナス化したりすることもあります。

 ですから、これは参考値として考えて下さいね」


「うっ。てことは、俺の筋力や抵抗力はそこら辺の一般人以下なのか……」


「今はこの場限りの仮パーティ状態で全員が能力値を見れますけど、普段は隠しておいた方が交渉はしやすいでしょうね」


 苦笑しながらシンディさんが教えてくれた。


 そうだよなあ、お金払って雇う側からしたら、高い能力値のある冒険者を雇いたいだろうし。


「別に冒険者としての価値は能力値だけで決まるわけではなくてっ、クラス技能や魔属性なども関係しますしっ、何よりクルルがいつも守りますからっ」


 クルルが俺を背中から抱き締めて来たけど、シルフィンとシンディさんは同時に困ったような表情を浮かべて見せた。


「クルルさんは神使のようですが……、神使と神器が一心同体なのは存じておりますけども、冒険者ギルドとしては冒険者登録のない方を冒険に同行するのは許諾し難く……。

 ええと、クルルさんの所属にも関係しますし」


「むむっ。確かにっ、そうだけどっ……。所属はクルルの一存では変えられないしっ」


「重複登録って出来ないん? 別に良さそうなもんだけど」


 俺の差し挟んだ質問に、今度は全員が困ったみたいだ。


「神使は神の眷属ですから、登録時点で間違いなく上の方に伝わるんですね――神に」


「ここでは実体として実在してる神とぉ、そうでない精神体だけの神が居るのは知ってると思うんだけどぉ」


「実体化してる神同士は割りとお互いに干渉し合ったりもするんですがっ。

 神同士の干渉って言ってもっ、使われる神力がハンパなさすぎるのでっ。そのっ、影響が莫大すぎてっ」


「あっ。判った。『出来ないことはないけど、後々どう考えても面倒事の種になる』ってやつだ」


 俺のまとめに皆が深く頷いた。しまったな。俺のわがままでめんどくさい感じの状況を招いたのか。


「でもまぁ、最初の3回のお試し期間だっけ? それでクルルも同行出来るような依頼? を選んだりしたらいいんじゃないのかな」


 脳裏にあったのはモン○ンの依頼掲示板のイメージだが、そういうのはここにはなくて、全部受付から手続きするみたいだ。


 一列に並んでる他の受付を見てると、番号札みたいなもんと引き換えに色別のカードを手渡された冒険者風の装備の個人やチームがそれを手に別の場所へ向かってるのが観察できた。


「仕事の内容に干渉しない形の依頼なら同行出来なくもないですが……、そうですね、例えば街の中の仕事の手伝いみたいな人足系のものとか」


「おっ? 日雇い肉体労働者系の? それは俺の天職かもしれない」


 八歳で爺ちゃんに連れられて実家の棟上げ式で屋根に立って以来の俺の天職がここにも存在したかっ。これは経験して置かなければなるまいっ!


「えっ、肉体労働系やるんですか?? タクミくんのその身体ではちょっとお勧め出来かねるんですが」


「まぁ、最初の3回はお試しだし、やりたいことやらせてあげたらいいと思うんだよねぇ。儲けも損害もあたしが世話するからっ、ねっ」


 不安気に俺とカードを交互に見るシンディさんに、シルフィンが頼み込んでくれた。


 前世の記憶の方も当たり前の知識なのかは聞きそびれたが、俺の記憶の中では金銭は汗水垂らして得るもの、筋肉は男の憧れ、絶対正義だ。


 この身体じゃ筋肉は無理っぽいけど、せめて職業くらいは筋肉に関係してるものにしたい。


「ううーん。街中だから神使さんも同行出来るし危なくはないと思うんですが、職人さんはものすごく気難しいですから、十分に注意して下さいね?」


「成功しても失敗してもぉ、報告で必ずギルドに戻らなきゃだからぁ、そのときに反省会したらいいと思うんだよねぇ」


「それって俺が失敗すること前提じゃね? 成功して成功報酬で祝賀会やる流れに変えてやるから、まぁ大船に乗った気持ちで?」


 俺の自信を初心者故の無根拠自信だと思ってるらしい二人に、責めるような目を向けながら俺は自信満々に胸を張りつつ、シンディさんから依頼の書かれた紙を受け取る。


「教会の屋根の張替え業務」、おおっ、これこそ前世の現場作業経験を活かせる依頼じゃん!


「まぁとりあえずぅ、登録は終わったんだしぃ、仕事も請けたしぃ、あとは宿取ってゆっくりしよぉ?

 タクミくんはお姉ちゃんとお風呂入ろうねぇー」


「タクミくんを洗うのは私の役割ですっ。これは譲れませんっ」


「ていうかその流れだと三人同室が決まってんじゃねーか。なんでこの年までなって風呂まで一緒なんだよ。

 てか状態異常無効があるんだから風呂って要らないんじゃ?」


 毎日お風呂は使命ですから! で押し切られたが。そういうもんなんだろうか。


 ともあれ、今日の残りは宿取って風呂と飯、ってことになった。


 ……順番逆じゃね?



タクミくんは脳筋なのであまり深く物事を考えません。

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