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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第四章 帝国篇
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53話 仲睦まじい夫婦の絆

つぎで四章終了のはず……。たぶん。きっと。

「レア、ほら」


 わんわんと声を上げて(・・・・・)泣き続けていた(・・・・・・・)、レア、と呼ばれたエルフ少女は、傍らに寄り添うように立ったエルフ女性に促され、ようやく全身を包帯まみれにしたリュカの首に回していた両腕の力を緩め、身体を離した。


「ひっく、ひっ。……ハンノン(Hannon)(le)ゴヘノ(Goheno)ニン(nin)。――イム(Im)エネス(eneth)ニン(nin)。……レア」


「ん? あぁ? エルフ語か? 悪ぃ、お姉ちゃん分からねえんだわエルフ語」


 首元に巻いた血を滲ませる包帯の上に片目をしかめつつ上から片手を添えたリュカが、目の前で大粒の涙をぼろぼろとこぼし続けるレアに、苦笑しつつ言葉を返す。


 しかし、大きく頭を振ったレアは、今度は自分の胸に片手を当て、再度言い放った。


イム(Im)エネス(eneth)ニン(nin)、レア!」


 言葉の勢いのまま、自らの胸に当てていた手をリュカの胸に押し当て、言葉を続ける。


マン(Man)(i)エネス(eneth)リン(lin)?」


「いや、分からねえって……、もしかして、名前を聞いてんのか? えーと。なんつったっけ。いむ・えねす・にん、リュカ。……合ってんのこれ?」


 傍らに立つエルフの森から来て貰ったエルフ女性に疑問を向けると、エルフ女性は微笑みながら大きく頷いてくれた。


「リュカ? ――リュカ! アミーン(Amin)メラ(mela)(lle)!」


 叫ぶように告げるなり、何故か頬を紅潮させたレアは、両手で顔を塞ぐようにしてリュカが寝かされているベッドから飛び降り、エルフ女性の後ろに隠れ、ちらちらとリュカを伺う様子を見せた。


「??? いやマジでさっぱりわかんね? 何か言ってくれたんだよな? ――通訳お願いしても?」


 リュカの言葉に、恥ずかしげに顔を隠すレアとを見比べたエルフ女性は、そっと横になったままのリュカの耳元に口を寄せ、囁くように告げてくれた。


 ――リュカを、大好き、という意味だと。


 なるほど、と苦笑したリュカはレアを手招きし、自由の効かない左腕ではなく右腕で抱え上げ、軽く頬にキスをすることでそれに応えたのだった。


――――☆


「ごめんな? ここまで大事にするつもりはなかったんだけどさ、オレも」

「心臓止まるかと思った。――もともと動いてないけど。無理すんなよ、一人の身体じゃないんだよ? 俺、リュカが居なくなったらマジ泣くよ? 喚くよ? 叫ぶよ?」


「だああぁぁ、恥ずいやめろっ。他の人が見てんだろバカぁ」

「あーあー聞こえなーい。俺が俺の奥さんにこうして何が悪いの、文句言う奴は全殺し」


 言いながら、自由の効かない身体のリュカを軽く押さえつけたタクミが覆い被さるようにして、頭を振って避けようとするリュカの顎を片手で掴まえ、半ば無理やり、といった体で唇を自らの唇で塞いた。


「んー、むーっ、むむむーっ!」


 自由の効く右腕を振り回してタクミの全身を叩くが、無論本気のはずもなく。


 諦めた風のリュカが、暫くの時間の後に、とんとん、と軽く肩を叩くことで、やっとタクミは唇を離したのだった。


「オマエ、神力、注ぎすぎ。破裂すんぞオレ」

「暫くまた居ないから、前渡し分も含めて。愛してるから、俺を置いて行かないでよ?」


 肩で息を行いつつ、やっとの思いで切れ切れに言葉を吐き出した風のリュカに、しれっとタクミが応じる。


「もぅー、このバカっ。女の台詞じゃねーか、かっこ悪い」


 赤面しつつ、今度はリュカの方から求めて再度のキス。


 ぺちゃ、くちゃ、ちゅっ、じゅるるっ。などと音を立てての熱い応酬に、「相席した全員が微笑ましいものを見る目つきで、愛し合う男女を見下ろしていた」。


「あー、仲睦まじいとこ悪いんだが、タクミ。リュカをそろそろ安静にして寝かせろ。傷は全部塞いだけど、血が足りてねえから興奮させたら貧血起こすぞ?」


 盛大に苦笑したシェリカに掛けられた言葉で、はっ! と現状を認識したリュカが、羞恥に震えて掛け毛布を片手に頭まで被せて潜り込む。


 肩を竦めたタクミは笑顔のまま、毛布の上からリュカの頭をぽんぽんと数回軽く叩くと、皆を連れてリュカの病室を後にしたのだった。


――――☆


「で? なんであんなことに?」

「リュカがちょっと張り切りすぎてな。タクミが連れて戻ってきた奴隷の子が居ただろ? エルフの子の」

「……ああ。さっき森の方のエルフ女性が連れてた子ね。ちゃんと治してくれた?」


 病室からやや離れた場所で、会議室に向けて並んで歩くシェリカにタクミが疑問を投げかけていた。


「たぶん正気に戻った、と思う。心の傷は残っただろうけど、そりゃアタシらには癒やす術がない。時間の解決に任せるしかねーな。

 今更言っても仕方ねえけど、オメエにも責任の一端はあるんだぜ?

 状況確認がなかったんでどこから連れてきた子か分からずに普通に応急処置で対処してたら、何のショック受けたんだか声が出なくて。

 信頼できる仲間も周囲に居なくてたったひとり、って状況にパニックと不安の極地が爆発したみたいで、自傷を繰り返してな。

 リュカが体張って止めてるうちに頸動脈切っちまって、出血多量で死にそうになってるリュカを前にして。

 あの子が正気に戻ってリュカの助けを呼んだ、っつー顛末」


 ――主に虐待のトラウマやフラッシュバックだろう、という話に、タクミは顔をしかめて立ち止まり、廊下の壁に背を預けた。


「あの子はたぶん、砂上艦に風精霊を使うための奴隷として乗せられたんだ、と思う。一緒に捨てられたエルフの女性はみんな死んでたし。――リュカにも何か影響あるのかな? リュカもなんかショック受けてる感じだった。普段以上に甘えてる感じがしたし」


「あいつもトラウマだ。あいつは自傷する子供のあの子の血を見て、弟のロッドの死体を見つけた瞬間がフラッシュバックしたんだろ。

 ……たぶん自覚してねえから直接つつくなよ。普段から全くロッドの話題を出さないのに、思い出すと人が違ったみたいに激高するのも原因はそこだろう。

 タクミの顔を見て、あいつもあのエルフの子と同じくらいに緊張の糸が解けて安心しきったんだろうよ。愛されてるねぇ、旦那さん?

 ――だからあの子に執着してる。レアっつったっけ、あの子もリュカに懐いたみたいだし、しばらく一緒にしたらどうだ? それと」


 言葉を切って、腕組みして壁に寄り掛かるタクミの隣に並び、同じように壁に寄り掛かりつつ両手を頭の後ろで組んだシェリカが続けた。


「シルフィンのことはいつ伝えるつもりなんだ? 弟の復讐を原動力にここまで来ちまった奴だからな、リュカは。教えたら仇がいない、ってことで目標失って抜け殻になるかもしれねーぞ?」


 タクミがクルルによる強制転移直前まで戦っていた砂上艦の指揮を取っていたのがシルフィン・フェイであり、フープにより討ち取られたことは既に遠く離れたドワーフ王国のこの場所まで伝わっていた。


 ドワーフ王ムギリがこの場所を離れて負傷後退したフープに代わり、正式に鉄輪王国として帝国に宣戦布告とアゼリア王国、西方ディルオーネ諸王国連合との同盟を発表、現在は帝国首都である帝都エル・フィールへの侵攻の矢面に立っている状況でもあり、懸念であった北部の抜け道は確認出来たこともあって。


 正直、この場所にタクミらが残っていてもムギリが戻るまでは何も出来そうもない、というのが結論だった。


「――俺から話すよ、二人っきりのときに。それで、リュカが戦いをやめても仕方ないと思う。家でレアちゃんだっけ、あの子と、リュカと、ティースとククリで俺たちの帰りを待っててくれてもいいな、とも思うし。まだ、『俺と幸せな家庭を築く』って目標が残ってんだから、隠居は早すぎるよ」


「子供出来るとこうも変わるのかねえ? アタシもフープさんの子供欲しくなって来ちまったよ、しばらくは忙しくて無理っぽいけどなー。あの人ほんっとに仕事一辺倒でなかなかそういう機会もないしさあ、なあタクミ? どうやったら一発で当てられるのか秘訣を教えてくんねーか?」


「うえぇ?? そんなん、女医なシェリカさんの方が詳しいっしょ?」


「いやいや、オマエの結婚時期とティースの出産時期を逆算したらな、あれ、結婚式直後の初夜で一発で当てた、って計算になるんだぜ? そんな見事な命中率かましたオマエは確かに神がかってるし、なんかそういう魔法とかねえのか? ちょっと教えてくれたら助かるんだけど、子供出来たらあの人の行動もちょっとは大人しくならねえかなって」


「そんな計算しなくていいっつの! ったく。――そうだね。一度拠点に戻ろう」


 大きく息を吐いて、タクミは会議室には向かわず、踵を返して来た道を戻り始めた。シェリカもそれに倣う。


「テテルヴェアは占拠終了してんでしょ? なら、俺らは当初の予定通り街の住人集めと、貿易路の舗装整備構築をやるよ。

 あと、砂漠の緑化ね。さっきのエルフ女性もそうだけど、エルフは植物の成長育成を手助けする水の精霊魔法使えるんだってさ?

 それで、大陸中に散ってるエルフに呼びかけて手伝って貰おう、って話もしてた」


「新大陸公路もテテルヴェアから帝都までと、廃都フィールや南海岸の方にも伸ばすんだってな。あと、ここ……鉄都ローンドーフにも繋げるんだって? オマエらほんとに傭兵団なんだか土木屋なんだかわからねーよな」


「まあ、道が出来れば軍民どっちも助かるんだし、俺らはこれがやりたいんだからいいんじゃん? 砂漠の遊牧民たちも、グロールさんの知名度もあってどんどん集まってくれてるみたいだし。 先の心配はあまりしてないな。――ところで、シェリカさんの『別の用事』はまだ終わらないの?」


 普段と変わらぬ口調で続けられた質問に、シェリカは即答しなかった。代わりに。


「――はっ、さすが鷹の目フープの弟、ってとこか。いつ気づいた?」


「俺だけじゃなくてクルルの分析も含むんだけどね。……トーラーさんがどこにも居ないし、シェリカさんが単独で『影』だけ連れてここで動いてるってことは。

 トーラーさんたち忍者軍団がなんか秘密の別命令系統で動いてるってことでしょ? なんで俺らや諸王国連合軍にも伏せてるかってーのは、ライバックさんみたいなスパイを警戒したんじゃないかな、って予想」


「当たり、だ。親父様は、ドワーフ王国侵入してから山脈越えルートで神国内部を探ってるとこだ。あそこは数百年単位で人間も神も出入りがない、盗賊ギルド本部があるって話も眉唾になって来ててよ。

 実際のところ神国内部から出てきた人間が一人も居ないんで、フープさんが睨むところじゃ、実質シルフィンやシフォンが自由に動かしてたんじゃないのか、別のとこに拠点があるんじゃないか、って疑問が出て来てな、その辺もだ。

 まあ、アタシらは神国とは国境を接しても内部には入らないから、タクミ、あんたのためなんだぜ? こりゃフープさんには内緒だけどな、アタシが教えたなんて言うんじゃねえぜ?

 ウチの親父殿以下、任務に就いてるウチの軍団も納得済みだしな」


 いたずらっぽく笑いかけたシェリカに、タクミは足を止めて大きく嘆息した。


「……うん、だいたい予測ついてた。諸王国連合軍の侵攻目的がフィーラス帝国への反攻なんだから。帝国攻め滅ぼした後もトーラーさんたちが居ないのは変だから、このタイミングなんだよね。ほんとはあの人、ドワーフ王国と同盟しなかったらここをあの手この手で攻め滅ぼすくらいは軽くやっちゃうこわーい人だし」


「たまたま国元で暗殺計画のあったミリアムを預かってたら、諸王国連合軍内部にもその計画に乗っかってる王侯貴族が紛れてて。さすがに王女つってもたかが辺境小王国でしかねえからアタシらが他の貴族の不興買ってまで守る義理もなかったんだけど。

 まあフープさんがなんでかすげえ気に入ってたみたいだし、ちょっと危ねえかもな、って話があったんでな。で、まあ、そんな理由で、ほんとはここに来なくてもあの子はタクミのとこに出向させるつもりだったんだよな、ミリアムについては」


 述べながら、シェリカが肩を竦めつつ、通路から少し広くなったドワーフ用に作られた石壁造りの談話室に入り、テーブル上に放置されていた手持ちサイズの酒樽の栓を開け、中身を口に含んだ。


「ぶはっ! 旨えんだけどすーっげえ強えなこれ。何混ぜてんだか、さすが酒精の異名取るドワーフ製ってとこか。

 ――ミリアムをこっちの任務につけたのはマジに偶然で、親父殿が宝剣の先端がミスリル鋼製ってことに気づいてな。

 そこから宝剣の歴史に探り入れたら、フープさんが宝剣の伝承とムーンディア王国の建国話が人為的に歪められてるって痕跡に気づいてなー。

 あの人の頭ん中は一体どうなってんだろうな? アタシらにゃ全然分からなかったぜ、同じ資料に目を通したってのに。

 そういう事情もあって、フープさんはここに宝剣と伝承の鎧着せたミリアムを送り込んだら、あとは勝手に話が纏まるだろ、って目論見があったそうだ。

 ……ときどき思うんだけどよ、あの人、ほんとは人間じゃなくて神なんじゃねーのか? おかしいだろあの洞察力」


「それは俺も同感。――酒なら大丈夫かな? シェリカさん俺にも一杯」

「コップねえみたいだから回し飲みだぞ。ほれ」


 軽く栓をして投げ渡された手持ち樽を受け取り、栓を開けてぐびり、と一杯。


「ぶほぉっ! ウィスキーにも似てるけどすっげえなこれ、五臓六腑に染み渡る、って感じ。――これも交易品にならないかな?」

「ああ、そりゃいいな。そうだタクミ、帝国領土内の残敵掃討戦終わったら、フープさんの国の方にも舗装路伸ばしてくれよ。カネはちゃんと出るからさ」

「いいけど、なんで?」


「タクミたちが敷いた道を見たけど、仕上がりが昔の大陸公路とは比較にならねえくらい綺麗だし。

 あの道路の上なら馬車の交易速度が格段に上昇するんじゃねーかって思ってさ。

 商人の往来速度が上がるってな、要するにヒトとモノとカネの動きが加速するってことだろ?

 フープさんが帝都滅ぼしたらそこにフープさんの王国を作る、ってのは実は遠征軍出発前からの決定事項でな。

 でも、砂漠の国で王国作ったってせいぜい岩塩とチーズくらいしか売るものねえんだから、道路と緑化と耕地は再重要課題だ、ってフープさんが言ってたんで思い出した」


「……っはー。さすが鷹の目の奥様、ちゃんと考えてるんだなあ。俺、俺らが満足する出来の綺麗な道路敷いて緑化することしか考えてなかった」


 もう一度酒樽の中身を傾けて、タクミは口を拭いつつ、シェリカの対面に座って手渡しで酒樽を戻した。


「そっちと違ってこっちにゃ使える人材が少ないからな、頼みの親父殿は出かけてるし。

 フープさんの連れてる貴族どもは一部を除くと私利私欲の権化で戦功を持ち帰って出世することしか考えてねえ。

 だから、何十年かしたら、もしかしたら諸王国連合と戦争になるかも、ってとこまで考えてたな。

 エイネールを覚えてるだろ? 戦災の影響受けてあれだけ荒廃したのに、王国からは一度も救援が来なかった。

 民衆から高い税金取り立てるだけで何もしちゃくれねえ、ってのはくそ国家だ。そんな国は滅びていい」


「エイネールから神殿やお墓を空間超えてこっちに移設出来るかもよ。俺の無尽蔵の神力使えば、神殿一個まるごと転移も出来なくはないし。

 水場が遠くなるとクラさんが困るから、先にオアシスを拡張しないとダメだろうけどね」


「ああ、いいなそれ。しばらくは忙しいだろうけど、頼みたいわ。アタシももう帝都から――フープさんの側を長く離れるって出来そうもないしな」


 話だけ聞けば荒唐無稽な話ながら、決定事項のように二人は頷き、笑いあった。


「そういや、聞いてるか? アゼリア王国のレムネアさまが身罷られて、新しく生まれた神子に跡目を譲られた、って話だけど」


 がたん、と音を立てて立ち上がったタクミの表情で、シェリカは初耳であったことを察した。


「オマエんとこにも新しい諜報機関が必要だな。アゼリア王国の前の諜報機関はウチの元副頭領なライバックが完全に潰したらしいし。

 あと、たぶんこりゃクルルたちがオマエのことを考えて口止めしてたんだろうけど、戦況も落ち着いたから、アタシの一存で教えてやる。

 ティースは一時ヤバかったけど、持ち直したらしいぞ」


 シェリカの言葉が終わる前に、タクミはゲート魔法で既に移動を開始しようとしていた。



エルフ語は一応シンダール語準拠。

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