46話 舗装現場工事
「ほい、掘削終わりー! タキリちゃん砕石入れてー? 終わったらサヨリちゃん粒調ねー」
「はいなのです! 砕石どーん!」
「粒調準備出来てますう!」
うーん、俺って本職は鳶職人なんであって、こういう舗装は実際は専門外なんだけどなあ。
バイトで舗装業の方にもよく行ってたから工程と作業の目的自体は分かってるんで出来るけどさ。
今やってんのは、「元々敷かれてた大陸公路の上に分厚く乗っかっちゃった砂の層」を俺の力任せの重力魔法でざっくり引っ剥がして。
同じく重力魔法の壁を作ってぽっかり四角く空いた穴の中、元々の大陸公路の石畳な路面が見えてるとこに、拠点の地均しのときに出てきた馬鹿でけえ砂岩盤を砕いて作っといたごろごろの石材を、タキリちゃんの神力収納に入れて運んで貰って。
で、それをおおざっぱに石畳の上に敷き均したら、隙間にサヨリちゃんの神力収納で大量に持って来て貰ってる、粒の大きさを調整した砕石……、通称「粒調砕石」を間に入れて隙間を潰してだな。
「レイリー兄ちゃん、転圧よろしくー! 硬めで三回往復っ!」
「アイヨー! 野郎ドモ、行くヨー?!」
おおぅ! なんて豪快な掛け声で、いつもの黒革鎧にヘルメットな我らが聖神軍団の幹部連中がでっけー重力魔法を展開しながら、サヨリちゃんが万遍なく撒いた砕石の上をいい勢いで駆け抜けつつ、怒涛の超重力ででこぼこしてるのを綺麗に水平になるまで敷き均して。
その間に、俺はみんなが転圧掛けてる現場の左右に砂崩れが起きないように張ってる矢板フィールドな重力場を二重に広げて。
そこにセメント粉を流し込みつつ神力の元素変換で作り出した純水を混ぜてモルタル層を作って、タキリちゃんの石材で地中の支柱壁になるように石材を入れつつ調整を。
この舗装面の左右に伸びるセメント層は、路盤の上を通過する圧力が掛かったときに、その下にある石や砂が左右に逃げられないようにする支持壁層なんで、これがないとどんどん路盤が沈下してっちゃうんだよね。
そう、古い大陸公路が今みたいに地盤沈下しちゃってんのはそれも理由のひとつで。
「転圧終わりヨ、タクミ団長!」
「あーい、んじゃ石畳と目地抜きで表層敷き均しちゃってよろろー、あと左右に植林もねー。俺ら掘削班は先に進み……。
――進んでいいのかな、フープ・ディル・アルトリウス侯?」
「もうちょっと待って欲しいっ! せめて拠点から交代が来るまでっ! 左翼突撃、右翼引いて補給と交代! 中央弾幕薄いよ何やってんの!!」
「うーい、交代待ちだってよー? んじゃ余った人間は石畳並べと目地抜き手伝っちゃってー」
……初期の銃棍持ったティースと対戦したことあった、っつっても初めての武器だろうに、すげえ勢いで使いこなしちゃってんなあ。
ほんとに指揮の天才だよなフープ兄。
結局、舗装路面上を馬が走れて敵の襲撃がそこに集中する、つっても、馬が走り回れる範囲が狭すぎる、ってことで、基本的な戦術として、馬の突撃戦法自体はもう封印しちゃって、俺らの持ち込んでた銃棍を予備まで含めて諸王国連合に提供して。
それで近接弾幕戦闘で躱すこと、が基本戦術に。
近接、ってのは、いくらなんでも六万に達する諸王国連合軍全員に提供するには俺らの銃棍の数が足りなさすぎたし、ヴァルキュリアの大砲を鋳潰してまで提供する義理はないし、で。
提供した銃棍をばっさり三分割して三倍に増やしちゃったんだよね、フープ兄。潔いっつか、なんつーか。
すごい短くなったんで反動は殺せないし狙いも悪くなって命中精度ガタ落ちしたのを、騎士の馬鹿力で押さえ込むようにして使って。
それで一斉射撃で面制圧兵器として使用することで「ひとりひとりに命中させるんでなく、射程範囲内に居た奴らの身体のどこかしら一部にでも命中すればいい」っていう、ある意味すごい大雑把な使い方に特化されちゃって。
でもまぁ、想定外だったのは諸王国連合軍の騎士に射撃に耐えるほどの魔力持ってる騎士が凄い少なくて、まぁフープ兄もその一人なんだけど。
仕方ないので「撃てるだけ撃ったらすぐに他の歩兵騎士問わず魔力持ちな誰かと交代」っていう使い方になっちゃって、その面でも舗装路面は魔力使い切っちゃった人が退却したり、十分休息して魔力戻した人員が復帰する通路として活用されてる。
敵の襲撃がやっぱ砂漠を走れる動物なラクダを駆っての突撃に集約されてるのも「こっちの助けになってて」。
なんぼ砂漠で人より速く走れる、つっても弾幕射撃の敵じゃないし、目標地点が俺ら最前列で工事してる現場作業員に集中してるんで行動予測が楽なんだよね。
でも、工事が進めば進むほど、防衛線が伸びてくのは当たり前っちゃ当たり前なんで。
遅れ馳せながら、俺の神力収納な異空間で時間進めて高速育成した樹木を、根っこに海水から塩抜きした水をたっぷり含ませた藁団子を括り付けて舗装路の左右にずんどこぶっ立てつつ、砂地のそこら中に藁や粘土撒いて地面の吸水力高めて植林して、敵ラクダの突撃阻害用障害物にしてる。
あんまし先頭に近いと弾幕射撃とかで傷ついちゃうんで、これはけっこー舗装工事から遅らせて施工してんだけどね。
完成したら緑化の起点にして、一般人にも手伝って貰う予定。拠点の水源から管路引いて定期的に散水すれば、より緑化が進むだろうし。
あとは、先に拠点の周囲を防砂林の形で囲ったんだけど、いい塩梅に風と砂を防いでくれるって解ったんで。
防砂林が安定したら、根っこ伸ばしてくれるんで地盤の安定にも繋がるし、風が弱まれば強風が四六時中吹かなくもなって、作物とか育成出来るかもだし。
それに、防砂林を立ててる途中くらいから砂漠民の隊商や遊牧民みたいな一般人たちが立ち寄るようになって来てて。
蛇口って概念を考えなかったんで、地下から噴出してる水を掛け流しにしてるからなー。新オアシスって言えばそうだし。
定住拠点の提供も嬉しいけど、生活の基盤が牧草地探して遊牧生活する基本、ってことも解ったんで。
郊外に牧草地作って開放するって話したら大喜びで植林手伝ってくれる、って話がついて広めて貰ってる。
フィーラス帝国側についてる最大の理由が、家族を水場の側に住まわせてることもあるそうだけど。
少ないオアシスを全占有されてて牧草地とかも占拠されてて言いなりになるしかないから、ここの拠点みたいに代替手段が出来て生活拠点を移せるんだったら基本的には大歓迎、らしい。
それもあってか、工事を妨害に来る敵兵も、積極的に何が何でも邪魔しに、って気概がないってか戦意めっさ低いんだよね。
騎兵は帝国兵だからか、すげえ勢いで突っ込んでくるけど、歩兵は近寄っては来ても何もせずに帰ってったり、舗装終わった路面とかしげしげと眺めるだけだったり。
なんか、約束組手でもやってる気分。大戦闘してるふりだけー、みたいな。
そして予想外そのニ。
フープ兄率いる諸王国連合軍が俺ら工事作業員の護衛してくれる、って前提で工事してんじゃんね。
しかし。進捗速度が予想外の高速っつーか、諸王国連合軍の魔力回復が遅いっつーか。
交代が間に合ってなくて、どうにも諸王国連合軍が俺らの前進速度の足を引っ張ってるー、みたいな。
究極にぶっちゃけると「俺ら工事作業員に護衛は要らなくて、自前の火力で応戦出来る」んだけども。
それやると俺らだけが単独で諸王国連合軍より先にテテルヴェアに入ることになっちゃって、諸王国連合軍のメンツ潰しちゃうからねえ?
フープ兄もそれ分かってるからいろいろ急がせたり戦術変えたりしてるのが分かるだけに、なんかもどかしい感じ。
あとは、疲労度の蓄積とかもね。
俺ら作業員は割りと高熱・寒冷地での現場作業に慣れちゃってるから、確かに暑いのは暑くても一日働いて翌日も、で連日重労働お手の物、で。
それに俺ら、一応傭兵団でもあるんで自分らの防護に抜かりはなくて、弓矢とかの遠距離攻撃に対しては常に上空に最低二人以上が重力防御幕展開して被弾避けてんだよね。
でも、諸王国連合軍は戦闘員な騎士歩兵つっても、「二週間連続ぶっ通しで最前線で毎日八時間以上戦い続ける」なんて大苦戦状況に陥った経験って少ないみたいで。
今まで連戦連勝してたツケなのかもなあ、流石に一週間も経過した今じゃ、最初に会ったときみたいに重量級の全身鎧着用してる騎士も減ってきてるとは言え。
「歴史ある王国騎士かつ体面と誇りが命より大事!」な騎士さんは脱ぐことに抵抗あるみたいで。
俺も鳶服や地下足袋脱げ言われたらすげえ勢いで嫌がるだろうから気持ちは分かるだけに強制も出来ないし、ううむ。
そんなこんなで、まぁ予定より遅れてるつっても夜間にちょくちょくこそーっと残業しながら舗装距離伸ばしてたら。
どうやら別行動でドワーフの鉄輪王国の方に交易路交渉目的で旅立ってったリュカたちの方で動きがあったみたいで。
なんで解ったかって? いやもう、物凄い簡単でさ。
『ウチの娘泣かしてる莫迦が沸いたみたいなんで、潰して来るわァ!』
『待って待って、潰しちゃダメだから!? ああ、そう、タギツちゃんは後で帰って来たらたっぷり可愛がってあげるんで、せめて脅す程度に留めといて?!』
『アァ? 本当だろうな? タギツにそう伝えっからな、ちゃんと約束守れよ、相棒?』
……なんていうやり取りの後で、俺の中から『暴虐神』スサノオさんが出来たばかりの新しい神核剣と一緒にご出立召されたからで。――大丈夫かなドワーフ王国。
究極、ドワーフ王国は(タギツちゃんを泣かしちゃったからには)滅びても仕方ないんで、リュカたちは無事に生きて返してね?
タギツちゃんが懐いてるシェリカさんも一緒だし、別にリュカとタギツちゃんは仲悪いわけでもないから大丈夫だと思うけど。
――しかしまあ、これで、俺の最強の嫁で正妻なクルルが戦闘参加出来るから。
明日は、新戦力のお披露目、で工事進捗大幅に伸ばすべっ!
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『はい、親衛隊レイリーさんとミラちゃん組ー、三秒後に進路右32度方向、仰角15度で三連射ですっ。
目標は撃ったときにはその場に居ないので適当でいいですー。
それから親衛隊ルースさんとクーナさんは補給に戻ってくださーい、1番隊ユーラさんとサーシャちゃんはその場待機、20秒後に2番隊イラーヴィルさんとマニちゃんが通過したら後ろにくっついてくる騎馬隊に散弾よろしくですっ』
……なんつーか。楽になりすぎて、これでいいのかな的な。フープ兄が苦笑しちゃってるよ。
クルルが復帰して俺とワンセット戦闘出来るようになったんで、衛星視点も駆使してのリアルタイム戦況指揮やることになって、それで俺の聖神軍団の中で幹部クラスを二隊に分けて、虎の子のヴァルキリア呼んで。
重力魔法でのホバークラフト状態にした簡易台座に、幹部ひとりとヴァルキリアひとり、それにヴァルキリアが装備してる大砲をワンセットで「浮遊戦車」みたいなもんを作ってね。
お互いが移動してる状態で射撃を命中させる、ってのは射撃に特化したっつってもまだまだ素人の集団なヴァルキリアには厳しすぎる、ってことで。
全員念話で繋いだ状態で全部隊の指揮をクルルに一任した状態、ってのが今の戦況なんだけども。――工事開始してから数時間で敵の騎馬隊が全滅しかかってる。
タイミングの神ってのはほんとにハンパねえ。
戦場内全域全部の部隊移動速度と距離、大砲の射程と飛翔速度とかそういう命中に必要な諸々を完全把握してんのな、一度見ただけで。
同じ神だ、っつっても俺にこんな計算能力はあと千年待っても身に付きそうにないんだけど?
『タクミくんはただ、クルルちゃんを愛してくれるだけでいいんですよぉ?』
――念話中で全軍に通じてんだからやめなさいっ!
『えっ、今晩はたっぷり愛してあげる? いやーんタクミくんこんなオープンチャンネルで大胆ですぅ』
『言ってねぇよ一言も! リュカが後でマジ怖ェんだからやめろよ捏造!』
……あっ。みんなに指差して笑われちゃったぃ。
「俺の中にもう一柱、別の神が居る」ってのをこの念話で初めて知った諸王国連合軍の人たちも居たみたいで、なんか俺のことを驚愕の目で見てきたり、尊敬の眼差しに変わっちゃってる人たちも出て来たりで。
それはそれで今後俺のことはともかく、部下やリュカたちのことを馬鹿にしなくなってくれたら嬉しいかな。
『あー、微笑ましい空気を邪魔して悪いかな、って思わねえでもねーんだが、こちら3番隊ファラージュ、ムームー組。
俺の目の前に信じられねえもんが居るんだが、そっちでも確認出来てるだろうか?』
そんな念話が飛び込んで来て、俺はファラージュたちが居るはずの方向に視線を向けると、クルルが視界の倍率を超絶に上げてくれて。
……くっそ、油断してたっつーか、そういう可能性も考慮しとくんだった。
確かに、いい仕事してくれるぜ、ライバックさん! 本気で敵だったんだよな!
俺の視線の先には、砂塵を巻き上げて怒涛の勢いでこっちに向かって突進して来る、『砂漠の上に浮かぶ、帝国の旗をはためかせた30メートル級の巨大な船』――。
『砂上艦』が大写しになっていた。




