45話 鉄輪王国 後編
「これはまた……、酷く懐かしいものを持ち込んだのう?」
無骨な鉄製の玉座に座るムギリが、そんなことを言いながら、ミリアムから取り上げた宝剣を片手に取り出して、興味深そうに眺めている。
「乱暴に扱うな! それは我がムーンディア王国創成期より伝わりし覇王の宝剣! 次期国王の証だ!!」
後ろ手に縛られて無造作に転がされてるオレらの中で、そんなことをミリアムが叫ぶけど。コイツ、マジでヤバイくらいに自分の立場解ってねェな。
「その方らは鉄輪王国不法侵入の罪、並びに災厄を持ち込もうとした嫌疑により捕縛されておるもの。立場を弁えよ!」
……ほら、お付きのドワーフに怒られた。
――ここはドワーフ王国『鉄輪王国』の玉座の間で、周りを囲んでんのは当然、鉄輪王ムギリを初めとする鉄輪王国の重鎮揃いだ。
まあ裁判なんて名目の出来レースで、国家の敵扱いは最初から決まってたんだろうけどな。
唯一の望みってか目がありそうなのは、鉄輪王ムギリの出方次第ってとこか。
国王自らアゼリア王国で単身動いてたのは、たぶんエルガーに関わりの深い神器レムネアの旧知だってこともあったんだろうが。
タクミやオレたちの普段を見て観察調査したかったのと、持ってる技術や軍事攻撃力なんかを見て同盟すべきか国王の目で見極めたかったんだろうし。
オレの見立てじゃ、たぶん国王本人は同盟したがってんだろう、と思う。
でなきゃ、エルガー関連のあんな古い話を話してくれなかっただろう。
初めから殺る気なら、エルフの森に侵入してすぐに取り囲んで連行すりゃ良かったんだし。
だからアレが、オレらをある程度は信頼してる証、と受け取ってる。
あとは、ソイツを他の鉄輪王国民に納得させる材料を目の前に並べてやりゃ解決するんだろうけどよ。
――後ろ手に縛られたまんま大あくびしながら、拘束されてないタギツちゃんをあぐらかいた股の間に座らせてタギツちゃんと何かちょこちょこ話してるシェリカ姉が目の端に入る。
鉄輪王ムギリがほんとにオレらの内情を全部知ってるんだったら、オレらの軍団に居なかったシェリカ姉を拘束するだけで済ませてるのはまあ分かるにしても。
『暴虐神スサノオの愛娘で十束剣の化身』なんて厄ネタのタギツちゃんをあんな風に自由にさせとくのは明らかにおかしい。
……まあ『神の化身』なんだから拘束したところで意味なんかないんだろうけどな。
それに、今、なんか重要性高いみたいに取り出してるあの宝剣と、その持ち主――、ミリアムもなんか別の思惑あるもんだ、と思った。
『鷹の目』フープのお願いだもんな、ここまで計算づくなんだろうなあ。オレ、なんであんな怖い人に告白なんかしちまったんだろ?
あの頃はほんとに噂に聞く憧れの人で英雄譚になりそうなレベルの逸話の持ち主で、鷹の目だって解ったときは興奮しっぱなしだったけど。
告白をすっぱり突っぱねられて、「子供が英雄に抱く憧れの類だから頭冷やせ」なんて言われたときは反発もしたけど、ソレが子供だってんだよな。
幼かったわ、確かに。
それからいろいろあって、タクミとこういうことになって、末弟のタクミから聞く鷹の目の逸話が、なんか英雄譚で聞く鷹の目の虚像とはかけ離れてて。
タクミの口から聞かされる鷹の目フープはすごい情熱家で、それでいて計算高い冷徹な戦略家で、そして自分の身を最初に犠牲にする献身者で。
タクミが心酔してるのがよく分かる人となりで、オレもその関係を羨ましいな、と思ったりしたもんだ。
そんな人がタクミのために人選したミリアムとシェリカ姉なんだから、どっちも何か隠された意図がある、と思って間違いないんだろうな。
タクミにゃ言ってねェけど、タクミの口から聞く鷹の目フープと噂に聞く鷹の目との決定的な違い。
鷹の目フープって『身内にだけ大甘』なんだよな。たぶん。
この人選だって、ぶっちゃけオレらを同行させずにシェリカ姉とミリアムだけでここに到達した方がもっとスムーズに交渉まとまったんだろうし。
今のところ、まとめる材料を持ってるのが『ミリアムとシェリカ姉だけ』だからな。
まあ、オレらも単独で纏められないわけじゃねェけど、ひとまずは様子見、ってとこだ。『シェリカ姉もそのつもりで大人しくしてる』んだろうし。
こういう経験少なくてスムーズに進まないの解ってて傍観者やってるシェリカ姉は昔と同じく厳しいし。
たぶんそういう風に指示してる鷹の目フープも怖えっつか、『指示しなくても思った通りに踊る』って解っててやってんだろうな。怖ェ怖ェ。
「ミリアム、じゃったな? 次期国王の証と言ったが、お主はコレがどういう剣なのか知っておるのか?」
「当たり前だ、それはムーンディア王国初代国王『覇王』マクシミリアン・ハーンが神より賜りし神剣であり王家が神に認められた証であり、国王の座を正当とする宝剣である!」
「……たった1,000年程度で随分とヒト族の都合の良いように『歴史を曲げた』ものじゃの。寿命の短いヒト族ならではの歪め方、と呆れるわ」
「なんと!? 我が血族を愚弄するか精霊族ごときが!!」
「――口は災いの元、じゃぞ小娘? たかだか15歳にも満たぬヒト族の娘が齢1,000歳を超える精霊族であるワシらドワーフ族と対等なものか。
お主らヒト族でも生まれたての赤子を政治の場には上げまい? ワシらからすればお主なぞ赤子以下よ。身の程を知れ。……じゃが」
両手両足を拘束されたまんま、顔を真赤にさせたミリアムがじったんばったん暴れてんだけど。
ホコリが舞うからやめろっつの。隣のリッティなんか露骨に顔しかめてんじゃん。
「コレが1,000年を経てこの王国へ帰還するとはな。これも神の思し召しか、奴の思惑通りか……。まあ良い、小娘。『覇王』マクシミリアンとの約定に従い、お主をこの剣の主と認めよう。
――さすれば、ヒト族の手により歪められ、穢された宝剣の真の姿を見せてやろう。
……まったく、美を理解せぬヒト族のやりそうなことよ、ごてごてと石ころを貼り付けて見た目の豪奢のみでナマクラにしてしまいおって。
剣は振ってこその道具、道具に道具以上の意味を込め使いづらくしてしまうのはただの改悪じゃ」
言うなり、ムギリは顔をしかめておもむろに宝剣の剣身全体を覆う大小の宝石類を手際良くバラバラと分解して床に散らして行く。
隣からミリアムの驚愕と絶叫が響く。反響するからやめろっての。ここ洞窟内なんだからな?
しかし、道具も何もなしで素手で剣の装飾をバラバラ剥がしてくのはすげえ握力だな。魔力使ってる風には見えないから、精霊魔法ってやつなんだろうか?
宝石類を剥がし、宝石が張り付いていた剣身にべったりくっついた分厚い台座も剥がして、その下から現れたのは――。
見るからに鋭い切れ味を持ってんだろう、って思わせる、すげえ圧倒感のある、青い光を放つ銀色の細身の剣で。
「神から授かったじゃと? 馬鹿を申すな、古来より鍛造冶金で我らドワーフの上を行く者なぞ居るものか。
唯一、我らに鍛冶を伝えた祖神にして鍛冶神マヒトツさまのみがそれを可能にする。
しかしマヒトツさまは我らの祖、我らに人界を託し既に実体なく神界にのみ存在する神。
故に、神より賜った、など嘘偽りも甚だしき、ヒト族に歪められ捏造された伝承であると断じる。
何より……、ヒト族が忘れても、我らドワーフは友情を永劫に忘れぬ。
これは我らドワーフが『覇王』マクシミリアンに永久の友情の証として贈ったミスリルの剣じゃ」
隣のミリアムが息を飲む気配。……これ、本人も知らなかったんだろうなあ。ご愁傷様、たぶん鷹の目の手のひらの上だぜ?
「おい、あの娘の鎧もミスリル銀じゃ。『ゴミを剥がして』差し上げろ。古き友人の娘じゃて、粗末には扱うな?」
ムギリの命令と同時に、数人のドワーフが工具片手に、わらわらと寝転がされてるミリアムに群がって。
――いや「騎士として死ぬー!」とか「辱めを受けるなど騎士の名折れー!」とか叫んじゃってんのがなんか場違いに可愛いんだけど。
安心しろって、そんな意図じゃねえから。っつーか、話の流れで理解しろよ。
ムギリよりは手際が悪いのか、五分くらいかかってようやくドワーフたちが作業を終えたみたいで、来たときと同じようにさーっとミリアムから離れてくけど。
そこには、やっぱり青い光を放つすんげえ薄くて軽そうなミスリル銀? っつーんだっけ、『鉄や貴金属で覆われてた装飾を全部引っ剥がされて』青銀の全身装備になったミリアムがびっくり目で、変わり果てた自分の鎧を見下ろして立ってた。
「ミリアム。鉄輪王が手招きしてっから、行って宝剣受け取って来な? ちゃんとお礼も言っとけよ」
ここでなんか勘違いして暴れられっとめんどくせェからなあ。一応そんな言葉かけといたけど、自分だけ開放された理由解ってんのかなコイツ。
……きょっとーんとかしてっから、ぜってー解ってねェよなー。
それでも命令だったら全力で従う性格のせいか、急に軽くなった自分の身体をちょくちょく見回しながら、おっかなびっくりでムギリの玉座に歩み寄ってって。
「軽っ?!」
「当たり前じゃ、ミスリル銀はどんな鋼鉄よりも強く、軽い。余計な装飾なぞごてごてと飾り立てて剣本来の機能を失わせるなぞ、馬鹿者の所業じゃ、恥を知れ」
「これは……、もしかして」
ムギリの叱責を受けたミリアムが一礼するなり、オレらとムギリの中間くらいの位置で、いきなり剣舞を始めて。
あ、これミリアムが言ってた『王家に伝わる剣舞儀礼』ってやつだな。
……でも前に見た儀礼よりも格段に剣速が鋭く速くなってて、それに、なんっつーかすげえ実戦向きだよな?
「やはり! ムギリ……、いや、ムギリさま! 初代国王に直接お会いしたのでございましたら、この剣技、見覚えはございませんか?!」
「無論あるとも。それはまさしくマクシミリアンが永久に変わらぬ友情の証として我らに見せてくれた『覇王の剣技』そのもの。なるほど、武技だけは歪まずに正確に伝わったか。喜ばしいことよ」
「そうです! 私は正規の剣技も修め、この剣技を王家に伝わる『両手剣で行う剣舞』として習い覚えましたが、常々動き方に疑問がございました。
いま、ムギリさまに宝剣の真の姿を伝えて頂き、真の『軽く硬く強き』宝剣を『片手で』振るったことで、完全に理解してございます!
この剣技は本来、片手剣で行うもの、そして剣の持つ斬れ味に任せ速度のみで切り裂くに特化した剣技!!」
「そうじゃ。……その通りじゃ。全く、1,000年も待たせおって、あの坊主。年寄りを泣かせる子は悪い子じゃぞ、ミリアム?
それこそが我らドワーフの技術とヒト族の技がひとつになった証。――われらふたつの種族が力を合わせて到達した、剣の力の証。
その剣舞を以て、我らドワーフ族はミリアム、お主を『長き別れから帰還した真の友人』として迎え入れよう」
「有り難き幸せに存じます! 祖王の名に恥じぬ、新たな友情を育んで参りますことを誓います!!」
なんか纏まったみたいだなあ。ああ、良かった良かった。まさかそんな因縁があったなんてなあ、鷹の目はどこで気づいたんだか。
……で。相変わらず寝っ転がされてるオレらの処遇なんだが。
感極まったみたいで嬉し涙全開で抱きついてるミリアムに、めっちゃ鼻の下伸ばしまくって抱き返してるムギリが、ちらちらオレらの方に視線飛ばして来てっから。
そろそろ、やっちゃっていいっつか。もう『タギツちゃんが我慢の限界』だったみたいでさ。
「タクミさまの奥方でありますリュカお姉さまをこんな風に扱ったり、タクミさまの部下の方々への態度とか、もうっ! タギツは怒ってるのです!」
すくっ、と立ち上がったタギツちゃんが大粒の涙をこぼしながら、大股ですったすたと中央まで歩み寄って。ああ、ドワーフ王国。終わったな。
「父上に言いつけちゃうんですからー!」
タギツちゃんが叫ぶなり、その目の前に『真っ白な光が結集された、人が通れるサイズの大きな楕円の力場』が現れて。
さしものムギリも見たのは初めてだよな? オレらも『戦場で一度しか見たことがない』もん。
いつもタクミが使ってるゲート魔法と原理は一緒。
でもひとつだけ違うのは、そいつは神力結集のゲートで、呼び出す相手は、当然、神そのもの。
「うーちーのーむーすーめーをー、泣かしてんのはどこの莫迦だァ?!」
洞窟全体に響き渡るどころか、全員の臓腑を鷲掴みにするくらいの衝撃を伴うそんな大音量を発しながら、ソイツは『神門』から出て来た。
タギツちゃんのお父上、オレのダンナの魂の兄弟。
三貴神、夜食国国王、『暴虐神』建速須佐之男命、顕現。
――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――
「いや、早かったっすね。あっけないくらい」
「むしろ、全員生きてることが奇跡ではないでしょうか」
あっけらかーんとしてるギュゲスとリッティがそんな感想述べちゃってるけど。まあ、オレも同感。
一応戦闘も有り得るかなって感じで、オレとギュゲスとリッティっていう、かなり閉所乱戦に慣れてるメンツと、戦場経験オレよりも更に長いシェリカ姉と『隠形に長けててずっと隠れて機会を伺ってた精鋭の忍者軍団』が居るんで。
どう転んでも負けはねェな、って感じで安心の布陣なとこに、更に神そのものなタギツちゃんまで居たんで大船に乗っちゃってたのはあるけどさ。
タギツちゃんが切り札っつか厄札切っちゃったのは正直予想外すぎた。もう少し大泣きしてたらドワーフ王国滅亡も有り得たかも。
「オウ、ここがドワーフ王国の心臓、高熱溶鉱炉、って奴か?」
「ハッ、ここに他種族をご案内差し上げるのは1,000年ぶり、これは我がドワーフ王国の秘宝にして心臓、これを以て無礼をお許し頂きたく」
物凄い勢いでスサノオを案内しつつ畏まっちゃってるムギリがちょっと可哀想になってくる。
そうなんだよなあ、アバートラム防衛戦でスサノオが顕現した戦闘とかも全部タクミの功績に混ざっちゃってるもんだから。
実際に戦場に同時に居たオレらでも、先に分身する情報を知ってたから『同一人物ではない』って理解があるんで。
それに、『既にスサノオの外部神核が完成してる』って情報を知ってるのは幹部級のオレらだけだったもんな。
工事の設計協力とかやってるっつっても部外者なムギリが知らなくて当然すぎた。
「アァ? なンだこりゃ、こんな低い温度じゃ神鉄は溶けねェだろ? アメノマヒトツのトコで見た溶鉱炉より全ッ然性能悪いじゃねーか」
「……ハッ、仰る通りでありまして。我らドワーフの操る火の精霊力ではこの温度が限界。故に、ミスリル銀までは溶かせますが、ヒヒイロカネは扱えませぬ。
これ以上は、祖神マヒトツさまの神力にお縋りするしか。
しかし、マヒトツさまがお姿を隠されてより既に1,000年以上を経て、我らにはこれ以上はどうすることも出来ませぬ」
「単純じゃねーか、神力剣ぶっ刺して根っこの出力上げりゃイイんだ。――見てろよ?」
タクミとそっくりの姿でいて、一回り大きな全身に盛り上がる筋肉を蓄えて髭を蓄えた大人の姿になったタクミ、みたいなスサノオの姿を、なんとなくオレはまじまじと見つめちゃってたりして。
タクミが四肢を取り戻して、ちゃんと成長したらこんな姿になるのかなあ?
がっしりした全身に、逆三角形の頑強そうな筋肉を惜しげもなく晒した、長い袖の上着を肩から羽織っただけの半裸姿で。
だぶだぶの下履きを腰のところで無造作に縛って留めただけだから、歩くたびに太ももやひざの強力そうな筋肉が露わになってて。
こんな身体になったタクミに抑え込まれたら抵抗なんか出来ねェんだろうな……、って、オレ何考えてんだよこんなときに!
「こ、これは?! 神剣より発する神力を熱変換されておられるのか?!」
「アメノマヒトツの設計通りに作ったんだろォ? ンなら、マヒトツがやってたのを俺様が真似すりゃ同じ効果が起こって当然ってモンだろォが」
意識を秘宝の溶鉱炉の方に向けたら、スサノオが新しく作り出した神核の神剣を溶鉱炉の真下に突っ込んでて。
さして力を込めたとか思えないのに、溶鉱炉全体が真っ赤に赤熱して、明らかに全体の火力が上昇した、ってのが分かる状態になってた。
「なんで団長がここに来なかったのか、あっしは分かりやしたぜ。――こんな暑苦しくてそこら中で発火してるようなとこ、団長が来れるわきゃねえっすね」
「ですねー。来るんだったら全部消火してからでないと、そこら中歩いてる最中に団長がフリーズしちゃいそうです」
ギュゲスとリッティの言葉に、オレも同意する。
アイツ、迂闊に心構え出来てないときに炎を目にすると、びしぃっ! って感じで行動止まっちゃうんだよなー。
トラウマだから仕方ないんで、そんなこと絶対にないようにオレらがいつも気遣って消火するように努めてんだけどさ。
「そこで取引、って奴だ、ムギリ。俺様のこの神剣は、この世界にあと二本あるんだが。
そいつは今、別のところで保管されてて、俺様の自由にならねェ。
それに、この神剣『フツヌシ』は俺様がこの世界に実体具現化するための依代でもある。だから、オメエらには渡せねえ」
真剣に、ムギリたちとドワーフらが頷くのが見える。……なんつーか、オレらここに居る意味あんのか?
「だからよ? 俺様が昔作った別の神剣なら、オメエらに提供してもいいし、ソイツを俺様が調整して神力送って、この溶鉱炉の性能向上に役立ててやってもいい。で、その条件って奴だが。こりゃ、俺様の相棒からの条件っつか、頼み事と思っていい。命令じゃねェから、断っても神罰、なんてものは下さねェ。解ってっか?」
全力でぶんぶんと頷くドワーフたち。
逆らったら一族郎党どころか国ごと消滅するような力持ってる神相手に対等な交渉って成り立たねえんじゃねェのかな。
スサノオの方はタクミの顔を立てて、なるべく穏便に交渉したいみたいだけど。
「――アマテラスの治める神国に、俺様が過去に作った神剣のうちの一振り、天叢雲剣がある。コイツをオマエらに託す。
何も、ソイツをオマエらに取ってこい、なんて無茶は言わねェ。だけど、そのアマテラスの元に行く俺様の相棒、オキタ・タクミの手伝いをしてやってくれ。
さっきも言ったが、コイツは『神命』じゃねェ、相棒の代わりに言ってる代理のお願いだ。だから、こりゃオキタ・タクミの言葉だと思って聞いてくれ」
さすがに神だからか頭を下げるまではしなかったけど、前代未聞、ってのはこのことだろうな。
神が人の――いや、あいつも一応神なんだけど――お願いを代弁して他の種族に伝えた、なんてのは初めての事例なんじゃなかろうか。
「ええっと。オレは一応オキタ・タクミの妻、って奴なんで、お願いに申し添えると、だ。
オレらにカグツチの影響があるかも、なんて疑いがあったと思うんだけど、もう、それ、ないよな?」
「……無論ですじゃ。カグツチと敵対したスサノオさまの加護を受けるあなた方がカグツチの手先だなどと、無礼にも程があった。お許し下され」
「そりゃ良かった。あと、交易路とか技術交換だとか、そういう話も全部ほんとでさ。
アイツ、ほんっとに裏表とかない奴なんで、穿った見方せずに、まっすぐアイツ本人を見てやって欲しいんだ」
「――逆らうとスサノオさまに滅ぼされるなど、そういった神罰はありませぬよな?」
物凄い勢いでオレとスサノオを見比べるムギリが。いやその心配は分かるけどさあ。
「ハッハァ、精霊族と言えども神力の大きさは測れねェのか。俺様より相棒の方が神力が多い、何しろアイツは本気になったら俺様より強ェんだぜ?
アマテラスでさえ敵わねえよ、世界最強なんだからなァ?
まァ、今は人の意識が強すぎて優しい性格が表に出すぎてっから、そんなつもりなんざ毛頭ねェだろうけどな」
さっすが俺様の娘が認めた野郎だぜ? なんて言葉続けて、タギツちゃん抱っこしていい物件見つけたな、さすが俺様の娘! とか父娘の会話しちゃってんですけど。
驚愕しまくってるムギリさんのフォローは誰がすんだよ。――オレかよ、オレらかよ。
こんだけビビらせまくった後にそれかよ、投げっぱなしじゃねーかスサノオさん。
そんなこんなで、鉄輪王国との同盟は、まぁ、当初の予定とは全然狂いっぱなしだったけど、成った、って思っていいんじゃねーのかなあ?
その後もちょっとした問題あって、すぐにはオレたちはタクミのとこには帰れなくなっちまったんだけど。
その問題解決にゃ、やっぱタクミの力借りるしかねーよな、ってことで。
オレらはここに滞在していろいろ同盟の内容詰めながら、タクミの仕事が終わるのを待つ、ってことになった。
次回からタクミくんサイドのお話でっす。




