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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第四章 帝国篇
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44話 鉄輪王国 前編

長くなりすぎたんで分けます。後編は明日。

「うむ、調理法もさることながら、味の方も忘れられぬ味であったの。交易路が設定されたならば、是非に貿易品目に加えて頂きたい」


「そういうこた担当の方と話してくれ、オレの管理じゃねェんだよ。だいたい、ありゃまだ試作品なんでオレらの軍団しか食ってねェしな」


「ホッホッホ、では正式化の際にはこのムギリが絶賛していたと書き添えて頂こう。病みつきになる味、とは正にこのこと」


 確かに、病みつきだったんだろうな。


 多めに持って来てたけど、三人分をぺろっと完食した上に、食べきれなくて残したリッティの分まで食っちまってたし。


「さて、どこまで話したかな。そうじゃ、『何故、エルガーたちの疑問と功績が失伝したのか』か。

 それは、『エルガーの最後と、エルガーを失った仲間たちがその後どのような道を歩いたか』に密接に関係がある」


 シーシーとか歯の隙間を細長い金属棒で掃除しながら、ムギリさんが話を続ける。


 ――それどっから出した? さっき靴の隙間掃除してた針金と同じ奴じゃねェのか?


「結論から言えば、じゃな。エルガーはエルフ王国に裏切られて死んだ。

 ……というか、エルフ王国の女王と双子の王女、殆どの一族はエルガーが双子の王女を連れて大陸全土を巡り、世界を統一する旅に賛同し歓喜しておった。


 予言の内容の是非はともかく、双子の王女はエルガーのことを好いておったし――。

 というか、エルガー以外の全ての仲間は女子でな、皆がエルガーを愛しておった、とされておるが。これは些事か。


 ――それはともかく、エルガーがエルフ王国を訪れたのは最後の方でな、そのとき既にアゼリア王国では『神成りの秘術』が発動しておったのさ」


「なんだそりゃ? 聞いたこともない術だな」


「エルガーは『人界の王』ではあったが、それは単なる二つ名だけのこと。

 故に、エルガーを真の神の末席とすべく、複数の神々の同意を得て、ヒト族であるエルガーを神族末席に据える儀式であった。


 既に当時の時点で神々の同意は得られており、それはエルガーの仲間に三柱もの神器が居たことでも明らか。

 竜弓の神器レムネアの身体を依代に莫大な神力を降ろし、それをエルガーに注ぎ込む秘術であった、と伝えられておるの」


「結論から言やあ、失敗したんスね?」


 横抱きにしたリッティの身体が眠りやすい体勢にそっと移動しながら、こちらに目線を飛ばすこともなくギュゲスが口を挟む。


 暗い顔で、ムギリさんは大きく頷いたのが見えた。


「傲慢で愚かな若きエルフ娘の許しがたき罪。

 ヒト族の身で我らエルフ、ドワーフの精霊族を差し置いて神に成ることを不遜と考えた若きエルフ娘のひとりが、エルガーの食事に毒を混ぜた。


 それによりエルガーは死することはなかったものの、永久に眠りに囚われ目覚めなくなった。

 双子の王女と仲間たちは悲しみと慟哭、怒りと復讐心に囚われた。

 ――それはエルガーが喜ばぬと知っておったはずなのにな。

 我らドワーフ王国もまた、誤った。


 あの大きく偉大な器がそれを望むはずがないと知っていたのに、エルガーを卑劣な罠にかけたエルフ王国と敵対し、戦端を開いた」


 深く長く続くムギリさんのため息が、後悔の大きさを示しているようで。


 数百年分の後悔なんて、ただのヒトのオレたちにゃ想像もつかねえけど。


 たぶん、ムギリさんはそのときからずっと後悔し続けてんだろうな。


「そこからは、さしものワシも記憶があやふやじゃ。……何しろ、多くの出来事があまりにも同時に起こってのう。分かっている順に並べるならば――」


 そこで語られた内容は、確かにごちゃごちゃすぎて、どれがどんな順番で起こったのか、なんて当事者たちですら分からなかったんだろう。


 エルガーを目覚めさせようと尽力していたエルフ族が損傷を恐れて身体の引き渡しを拒絶したことと、それによるドワーフ王国との戦争。


 エルガーの肉体蘇生に失敗したシルフィンが崩れて灰に変わるエルガーを見てその場で発狂し、レムネアが殺害したと思い込んだこと。


 エルガーの蘇生に失敗したことを知らないシフォンが別行動で邪神カグツチに身を捧げて、炎神の神器となり記憶を奪われたこと。


 タケミカヅチが神力を暴走させてまでエルガーに対し反魂法を使用したことで、アゼリア王国で秘術実施中だった神器レムネアに影響が及んだこと。


 タケミカヅチの外部神核を秘術に使っていたことで依代のレムネアに影響し、レムネアは永久にアゼリア王国国土に縛られて出られなくなったこと。


 暴走したタケミカヅチが実体を維持出来なくなって現世から消滅したこと。


 エルガーの消滅を知らない『剣聖』と『剛拳』は共に助力を求めて神国に赴き、なぜか、神使共々とうとう戻らなかったこと。


「発狂したシルフィンと、記憶を奪われ炎神の配下になったシフォンはカグツチが得た駒としてよく働いた。

 シフォンはシルフィンと協力し、カグツチが転がされていたエルフの王都フィールを始めとして国土全土を焼き、現在の砂漠になるきっかけを作った。


 我らドワーフ族は、エルフ女王に頼まれてエルフの民とエルフを産む世界樹の一部を保護するのが精一杯じゃった。

 多少は理性があったのか、王女シルフィンらは鉄都ローンドーフ以北に僅かに残る森までは焼かなかった。


 ――しかし、焼かなかっただけ、じゃ。

 そこ以南の森は完全に焼き尽くし、豊かな森林の王国エルフィードは滅びた。

 女王は焼き滅ぼされる王都フィールと運命を共にしたと伝わる」


 大きく息をついて、ムギリさんはどこからか取り出したアルコール缶の蓋を開けて一息に煽った。


 つん、と鼻を突くアルコール臭が、かなり強い酒だ、ってことを伺わせる。


「現在でも、シルフィンら双子の王女が持つエルフ族への憎しみは健在でな。


 このドワーフ王国で保護しているエルフ族も、発見されれば捕獲され、現在旧エルフ王国だった地を支配するヒト族の帝国、フィーラス帝国に売られて最下級の奴隷として死ぬまで慰み者にされる。

 そのような制度を敷いたのはシルフィンら双子の王女で、アレらも邪炎神カグツチの被害者である、とも言える。

 もしかしたら、エルガーの死にもカグツチの暗躍があるやも、とも言われておるな」


「んなワケあるかよ! 仮にそうだったとしたって、オレの弟はシルフィンに殺されたんだ、無残に、血まみれで、全身をズタズタにされて!! 許せるワケねェだろ、そんな与太話だけで!」


 自分でもびっくりするくらいの大声だった。こんな大声出したのは――、ロッドが死んだとき以来だ。あんときゃどうやって収めたんだっけ。


 ああ……、ティースが眠らせてくれたんだった。でも今ここにゃティースはいねェし、収まりが付きそうもない。


「フザケてんじゃねェってんだよ、アイツらが被害者だなんてオレは認めねェ、じゃあロッドの魂はどこに、ロッドはどうやって鎮めろってんだよ!」


「リュカと言ったか、ヒト族の娘よ。では、お主が今まで戦場で屠ってきた者たちの魂を救うためにならば、今すぐお主は死んでも良いのか?」


 ムギリの質問で、オレは返答に詰まった。戦場で戦うからにゃ、恨み辛みで殺すな、って。誰かが、前にオレに。それは。


「戦場で戦うからにゃ、恨み辛みで殺すな、復讐を連鎖するな、冷徹に計算で殺せ、そして潔く死ぬな、最後の最後まで足掻いて死ね。――傭兵の不文律だろうが、バカヤロウ」


 オレの頭を後ろから誰かが乱暴にひっぱたいて来たんで、すっ、と頭が冷えた気がした。


 そうだ。初陣で仲間が死んだとき、復讐に燃えたオレに、シェリカ姉が。


「『オマエ、自分の立場がどうなってんのか、解ってんのか?』 最近の口癖だってな、リュカ? そっくりそのままアンタに返すぜ? リュカ、アンタどこの誰だい、アタシに言ってみな?」


「……アゼリア王国アバートラム領主オキタ・タクミ侯爵第()夫人、アゼリア王国南部方面アバートラム要塞所属聖神軍団副団長、オキタ・リュカ」


「なんで嫁が二人で数が三番目なんだろうね……。まぁいいや、頭は冷えただろ?

 じゃ、副団長リュカさま、お仕事だよ。――表に出な」


 ――ありがと、シェリカ姉。マジで冷えた。オレの個人的なことは最後でいい。まずは、タクミに託された仕事を果たしてからだ。


 そこまで考えて、改めて周囲の気配を探ったら。囲まれてる気配?!


 慌てて外に飛び出したら、完全重武装のドワーフ兵士たちに、一分の隙もなく周囲一帯を固められていた。


「リュカよ。なかなか魅力的な話であったし、交易路、技術交換、なかなかに興味をそそる話でもあった。

 ――しかし、我ら鉄輪王国は先の話の通り、ヒト族を信じ姉妹であるエルフ族と戦った歴史を持つ故、お主らの話のみでこの先を進むには根拠が弱い。


 また、お主は復讐心に囚われ過ぎており、それはシルフィン、シフォンの双子の王女と同一のもの。であれば、それはカグツチの影響を匂わせる疑いが強い。

 故に、お主らの身元を拘束し、我らドワーフの審議に掛けて真実を探ることとする。


 ……ああ、言い忘れておったな。麺は美味かった、ごちそうさま、じゃ。味の方は鉄輪王国の名にかけて、鉄輪王ムギリが保証する」


 口元は笑いながら、目は鋭く細められたムギリさんが、後ろに鉄仮面に全身鎧で長柄戦斧ポールアックスを構えたドワーフの戦士たちをずらっと引き連れてて。


 クッソ、ハメられた。オレは腰の後ろから取り出した銃把棍ガントンファーを取り出して、腕に装着はせずに大人しく地面に投げ落とした。


 タギツちゃん以外の全員が、武装解除されてる光景がオレの目の前に広がっていた。



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