04話 エルフってすごい
冒険者カードの表記内容を変更しました。
「へぇー。ってことは、二人、ってか二柱? は神族で、タクミくん?
タクミさま? は神様修行の真っ最中なんだぁー」
「ただのタクミでいいよ。シルフィンは冒険者なんだってな。冒険者についていろいろ聞きたいんだけど」
「いいよぉー。まぁ、冒険者カード見れば早いんだけど」
シルフィンが腰のポーチから取り出したカードを受け取って、眺める。
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PARTY :NONE
登録名:シルフィン・フェイ
種族名:エルフ / 161歳
HP/MAX:110/---
MP/MAX:260/---
クラス:弓Lv.--
:小剣Lv.--
筋 力:---
知 力:---
俊敏性:---
耐久性:---
抵抗力:---
魔属性:---
言 語:エルフ語、古代魔法語、共通語、妖精語、精霊語、ホブゴブリン語、オーク語
固 有:暗視・熱源視力、精霊魔法、麻痺耐性
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「これってステータスカードってやつ? すげえな数値化されるんだ。部分的に表示がないのはなんで?」
「同じパーティじゃないからだよぉ。上の、ここんとこがパーティ組んだら表示変わるんだけど、冒険者同士でカードを重ねたらそのカードの持ち主だけが見えるようになるのぉ」
「カードに魔力回路が仕込んであってっ、所有者の魔力波長を読んでるんですっ。他にもっ、いろいろ機能はありますねっ」
さっきの戦いであまり出番のなかったクルルが話に混ざってくる。
負傷者はとっくにシルフィンが水魔法で応急処置したもんで、合流前も合流後も殆ど出番がなかったから拗ねてんのかな。
「ふふっ、大丈夫だって。お姉さんタクミくん取らないからぁ。お似合いさんだねぇ」
べったり俺の右腕を両手で抱き締めてきっ! とシルフィンを睨んでるクルルに、シルフィンが苦笑を向ける。
てか、お姉さんってほどお姉さんにも見えないんだが。150cm弱の俺やクルルと並んだら10cmも変わらないんじゃないか? 年齢か?
「エルフっていろいろすげえんだなー。これは種族特性ってやつ? 固有のとこもそうだけど」
「そうだよぉー。エルフは森の種族、木々の化身って言われてるかなぁ。木々の精霊の声を聞いて木々の助けを得られる森の眷属」
ステータスカードにある通り、エルフには種族固有能力で暗視・熱源視力があって、それで視力切り替えで物陰に隠れたものを見つけ出せるらしい。
温度が高いほど赤く、低いほど青く見えるんだとか。赤外線監視装置みたいなもんか?
「水魔法とか精霊魔法とか、喋れる言語の数もそうだけどエルフってすげえよなー」
「ふふふ、もっと褒め称えてもいいのよぉ?」
ドヤ顔でシルフィンが胸を張る。しかし、これは本人には伝えられないが、身体はそれほど大人には見えないよな。
小さいし、揺れないし。いやどこがとは言わないが。
「で、最初の話に戻るけどぉ。タクミくんは神様修行してるんだよねぇ? 良かったら一緒に冒険者やらないぃ?」
「神様修行ってか、まあ他にやることもないしクルルには恩があるから付き合ってもいいかって感じで……。
冒険者ってそんなにすぐなれるもんなの?
てか、神様修行ってやってる人多いの?
全然疑ってないみたいだし」
聞けば、ほんとに神様修行やってる奴ってのは伝説に残るほど居るんだとか。
前にアマテラスが言ってたみたいに、他のバイオスフィアから来た神候補が、あるときは大災害の原因になったり、あるときは奇跡を起こして信仰を集めたり、国家を建国した英雄になってみたりと数千年の歴史の中でほんとにやりたい放題やってるらしい。
だから歴史や神話のあちこちに名前が残ってるし、神の眷属自体もふつーに人間と同じく神候補と一緒にうろうろしてるんで「恐れ多く崇め奉る」って感覚はあまりないんだとか。
そもそも信仰対象でなければすごい能力のある人、いや神、って感覚でしかないと。
それと、ある意味笑い話として名前を残すような神や神候補も居たらしく、不死身に近い肉体を得て光の神に挑んだ無謀な奴が不死身を逆手に取られて1メートル四方の小箱に密閉され、街角に放置されて脱出も出来ずにかれこれ1,000年はそこで反省してる、とか言う話も聞いた。
神の力で閉じられてるんで誰も開けられないけど、話しかけたら普通に会話は出来るらしい。「箱語りの愚者」って名前らしいが。そこは行ってみたいな。
「冒険者ギルドに行ったら私の紹介で冒険者登録出来るよぅ。そっちのクルル? さんも良かったら一緒に?」
「私は盗賊ギルドカード持ってますからっ。ていうか冒険者ギルドは厳密に言うと対立組織ですよっ。馴れ馴れしいっ」
「盗賊ギルド? ってクルルって泥棒さんだったん?」
「いえっ、創始者が盗賊で盗賊互助組織を元に始まったので初期の名前が残ってるだけで。
冒険者ギルドよりももっと以前からある由緒正しい冒険者互助組織ですっ。
冒険者ギルドとかっ、新参なのにどんどん範囲広げてっ」
クルルがずっと機嫌悪いのは所属のせいなのかな。
あまり雰囲気悪くされても困るんで、片手で首の後ろ掴んで撫で撫でー、しつつ後ろから抱きすくめてお腹撫で。これが2点責めってやつか。たぶん違うけど。
「まぁ、だって、盗賊ギルドは幹部以下は上納金制度あるからねぇ。払えないと借金のカタに酷いことされるしぃ」
シルフィンが肩をすくめて首を掻き切るジェスチャーをした。怖いな、それってまんまヤ○ザなんじゃ?
「うん。俺みたいな善良な一般人には盗賊ギルドは敷居が高いみたいだ。なんかやろうとは思ってたし、冒険者ギルドの方で登録するわ。って、冒険者ギルドは上納金みたいなのはあるの?」
「上納金はないけど依頼1件ごとにマージンは取られるよぉ。依頼のランクにもよるけど、最大でも15%程度だから大赤字で借金でも抱えてない限り全然問題ない感じぃ」
まぁ慈善団体じゃないんだからぁ、収入源ないと組織運営成り立つわけないし、とシルフィンは続けた。
そりゃそうだよな、赤十○やユネ○コだって募金受付してもその募金額の中から募金自体を現地に運送するための必要最低限な運送料は徴収するって話だし。組織の人数や規模が大きくなればそういう運営資金も必要額が増えるだろうし。
「誰でもすぐなれてぽんぽん依頼失敗されると冒険者の格が下がるってことで、初期登録が紹介制なのねぇ。
初回から3回までは紹介者とパーティ組んで、3回分毎回の依頼から紹介料で5%が紹介者に入る寸法。
ってわけで、私にも美味しいのよねぇ?」
だからお願いっ、とシルフィンに拝まれた。
ここの商人馬車に雇われて護衛してたけど、盗賊に襲われて負傷者出したので報酬額が下がるので、その補填も目論んでるらしい。
隠さずにこういう恥になることを率直に言う人間ってのは、割りと好みだな。断る理由も最初からないし。
「いいよ。冒険者登録するする。で、どこで何したらいい?」
預かったままだったステータスカードを返すついでに、シルフィンに歩み寄って見上げる。
俺の身体からすると160cm弱のシルフィンはやや見上げるくらいの位置に顔があるからだ。
しかしまともに目が合ったシルフィンは、なぜかぱっと顔を赤らめてカードを受け取りつつも目を背けた。なんだ?
「って、タクミくんは女の人と目を合わせない方がいいと思うなぁ。
目力ありすぎってか、可愛すぎで見つめられるところっと落ちそうだわぁ。視線に魔力込めてるんじゃないのぉ? そういう傾向の。
私ってばショタ属性はなかったはずなんだけどなぁ」
「どんな魔法なんだよそれ。てか残念ながら魔法の方は落第生だ。魔力の放出方法が覚えられない。
代わりに身体強化だけは出来るけどな。前衛って言うんだっけ? それ専任だよ」
「ほえぇー。いや、身体強化だけっていうけどぉ、それってかなり珍しいタイプの魔法だよぉ。
普通の人なら戦闘するくらい身体動かすと精神集中が途切れて魔法使えないから」
「へえ? それは教わってなかったな。まぁさっきの箱語りの愚者って話と同じで身体は不死身なんで、ガチ前衛は任せてくれ」
「神様すごいねぇ。あ、神候補だっけ。ところでぇ」
話を中断して、びしっ! とシルフィンが俺が撫で回し続けてるシルルを指差した。
「そろそろその子は限界だと思うのでぇ、ていうか見てて可哀想になってきたので開放してあげてぇ?」
「ん? あっ。しまった」
猫を撫で回しすぎると猫の反応が怪しくなる。そんな経験をしたことがないだろうか。
そう、歩き方がおかしくなったり、ぴくぴく痙攣が続いたり、だらだらよだれ垂らしてたり。
そんな感じの反応の数々を大集合させたクルルは見た目からしてもう完全に結構やばい感じになってて。
やらかした当事者の俺も若干ドン引きな醜態になっていた。
「まぁ、ちょうど川べりだし。そりゃっ!」
見た目の割に軽い身体を抱き上げて、浅瀬の水たまりに落っことす。正気に戻すならこれが最速。
「ぶはぁっ?! タクミくん酷いですっ、クルルにあんなことまでしといてこんな終わり方っ!!
今晩はもう許してあげませんからねっ?!」
派手な水しぶきを上げてちょっと深かったらしい水たまりに腰まで浸かったクルルが、怒り顔で俺を見上げて来る。
許すも何も、俺がクルルに何かしたことは何もないはずだが。
何しろ欲情とは無縁な身体なんで、そういうことやろう、って気持ちがまず起きない。
「まぁとりあえず、日も暮れて来たし、今日はここで一泊して明日は街の冒険者ギルドに行こうねぇ」
背後から掛けられたシルフィンの声に、俺は頷いてサムズアップサインを返した。