41話 緑化計画
「来月にはわたくしも戦線復帰しますからね?」
……なんてティースの毅然とした言葉に、俺はたぶんめちゃくちゃ眉を寄せてたと思うけど。
ティースの言う通り、ティースとクシナダさんのふたりがどちらもアバートラムから動けなくなってることで事務処理関係が全部滞っちゃってるから、作業進捗にも影響出まくりなのは認めるけどさ。
――フープ軍の駐留拠点構築なんか四日遅れになってぎりぎりだったもんな。資材補給路マジ大事。
「……ククリちゃーん? お父さんでちゅよー、あばばばば?」
「ごまかさないで下さい、タクミさん。ククリは置いて行きますよ? クシナダさんが残ってくれますし。
――どのみち、本国との連絡補給路を確保して連絡を密接にしないといけませんから、わたくしかクシナダさんかどちらかがここに残らないといけないのですけども」
まだベッドから起き上がれもしないのに、無心にティースのおっぱいに吸い付いてるククリちゃん抱えたまんま、そんなに仕事のこと気にしなくてもなあ。
「大丈夫だよ? 確かにいろいろ進捗遅延出たけど、みんなで頑張ってティースの居ない穴は埋めてるよ??」
ため息ついて、俺はティースの寝てるベッドの傍らにゆーっくりそっと腰おろして、背中に枕入れてやっと半分起き上がる姿勢取ってるティースの肩を抱いて。
「俺は全然お産のことなんかわかんないけど、初産で大変だったんでしょ? もう少し身体休めようよ? まだ三週間しか経ってないんだよククリ生まれて」
「……まだ帝国の本格反攻が始まらない時期に戦闘以外で進捗遅延が出てしまっていることが問題なのです。
それに、タクミさんはわたくしの様子を伺いに毎日ゲートで駐留地から帰っていらっしゃいますけど。
……遠征軍総大将がそのように妻に執着している様子を見せてしまうのは対外的問題ではないでしょうか?」
「あー、もう。俺はティースを愛してんだから一緒になったんだし、護ってやりたい女性の様子を毎日見に来て何が悪いの。言いたい人には言わせとけばいいし?
第一、遠征軍の総大将はフープ兄で、俺らは王国通して雇用されて下についてる傭兵軍なんだから、扱いとしてはフープ兄の率いてる諸王国軍と同列なんだってばさ。
そもそも、あの人が積極的に身内贔屓するような人じゃないのは俺たち『姉弟』どっちもよーく知ってんじゃん?」
そう。アゼリア王国ってのは本来「傭兵王国」で、王国の主要収入源って「戦力の貸与」、つまり傭兵派遣なんだよね。
冒険者ギルドから出発した王国だからってことだけど、だんだん規模が大きくなって国家相手に傭兵軍団貸し出すようになったらしい。
貸し出された先で同じ王国民同士でかち合って戦闘やる羽目になることもあるけど、そこは契約上許されてる範囲で拒否ってか避けてもいいことになってて。
――全力ガチで王国傭兵同士で双方全滅するまで徹底的に戦った前例もあるそうだけど、俺たちはそこまで王国に忠誠誓ってるわけでもないしなあ。
同じような状況になったら雇用契約も契約金もかなぐり捨てて全力脱兎だよなー。
あと、「土木建築組合」として貸し出されたのは俺らが初の事例らしいけど。
一応現時点最強火力集団のヴァルキリア連れて来てるのは戦闘参加も考えられたからなんだけどさ?
本来の雇用目的は拠点管理と補給路護衛だから、最前線に出て戦争頑張るのは最初からフープ兄とアゼリア王国との契約条件に入ってない。
てか、俺や王国……レムネアさんとしてはフィーラス帝国と喧嘩しなきゃならない切迫した理由がないからなんだけどね。
王国的には昨年の国境防衛戦の仕返しも、フィーラス帝国との国境破ってここまで出張って拠点構築したことでもうお釣りが出てるし。
ここら辺は地形的には特に旨味があるわけでもない土地柄で、砂漠が近いせいでやたら乾燥してて飛んでくる砂が多いんで砂対策のシーリングがすっげ大変なんだけど。
ここを抑えてたら東のドワーフ鉄輪王国との交易路が陸路で開けそうなんで、西からフープ兄が侵攻してくるのに合わせて国境超えて南侵政策取ったのはレムネアさんたち王都貴族院の判断もあったりして。
だから、今いる前線拠点も一時的なもんじゃなくて、将来的には新しい街になるように街路や建造物配置はティースやクシナダさんの考えた都市計画に沿ったものとして作ってる。
……そこまで説明しても不満顔で俺から目を逸らしておっぱい飲んでるククリに目を落としてて。
うーん。まーだ納得行ってないっぽいなあ? 実はなんか別の不満があるような。――あっ。もしかして。
「確かにティースとククリを置いてクルルとリュカは連れて出てるけど。なんつーか、『夫婦の営み』みたいなもんは一度もやってないし、クルルとリュカは『奥様会議』の決議に従ってティースが完全復帰するまではお仕事優先にするんだ、って言ってたよ?
俺、その会議の内容知らないんだけど……。
まあ、だから、ぶっちゃけ夫婦の会話してる時間は圧倒的にティースとの方が多いよ。
――このあと駐留地戻ってリュカと会話するけど仕事優先で怒られっぱなしだし、クルルはスサノオの神核が追い込み作業で奥から出て来ないし」
ティースがびっくり目で「えっ!?」みたいな表情したんで、これが当たりだったかなー、と。つまり、嫉妬?
「心配しなくたって何も変わらないよ、ほんと。みんなでティースの居ない穴を一所懸命埋めてくれてるから、ティースも俺らを信頼して任せてみてよ?
……あと、事務関係はレムネアさんから人材借りたんで、これから役に立って貰う予定でね」
それで、入り口付近に控えてた三人に手招き。ぺこり、と一礼して三人の女性たちが近寄ってくる気配。
「シンディさんは知ってるよね? 前にシーンの村で受付嬢やってた方で。
今回、ティースとクシナダさんが揃って俺ら本体から離れることになったってことで、レムネアさんの方の申し出で駐留拠点の事務処理関係を引き受けてくれることになりました。
前職はレムネアさんとこの筆頭秘書ってお墨付きの人材ね」
なんでそんな超絶優秀な人材を貸し出してくれるのかは全然分からないんだけど、貸し出しokって返事したらレムネアさん小躍りして喜んでたのでなんか確執あったのかもなあ? 知らんけど。
「ご紹介に預かりました、シンディ・クレティシュバンツです。ティースさんお久しぶりですね?
前線の方にはフープさんもいらっしゃるそうで、シーン村で知り合った方々が複数いらっしゃることで私シンディも安心して出向することが出来ます。
こちらの二人、イーニーとミーニーは双子の姉妹で、魔道士ギルドからの実務経験を積むための研修制度で。第一期研修生として冒険者ギルドの方で預かる形で私シンディの補佐を担当している者たちです。
魔道士ギルドに関しては、ティースさんの方がお詳しいですね?」
おおっ。ティースの困惑顔って久しぶりに見た気がする。ヴァルキリアの軍団長就任してから苛烈超然って外面してる時間長かったからなあ。
女の子集団率いてると、どうしても軋轢多くなるもんね。
「調べたのですか? シーンの村だけでも入れ替わりの激しい冒険者組織ですから延べ人数で言えば数百人近い冒険者登録数でしたし、わたくしが魔道士ギルドに籍のみ置いている話をしたことはなかったような」
「いいえ、クラオカミさまも含めた雑談の中で一度お聞きした覚えがありますよ?
私シンディは、一度見聞きしたことは絶対に忘れませんので」
あっ。ティース驚いてる驚いてる。そう、このシンディさん、レムネアさんちで秘書採用されてからも物凄い勢いで筆頭秘書官になった理由ってのがちゃんとあって。『瞬間記憶能力者』なんだよね。
魔法技術とか神術とかそういうんじゃなくて、『生まれてから見聞した光景や言葉が全部映像状態で脳内に記録されてる人』なんだって。
だから、例えば12年前の○月×日の昼に食べた昼食の献立と、そのとき話してた内容、なんてのがワンセットで記憶の引き出しからすらすら出てきちゃうっていう特殊能力者。
脳内に大容量HDD積んで、常時録画してるような状態の人。そりゃ事務職最強人材だよね。
……っていう説明をした上で、実際にティースが扱ってた書類を一瞬だけ見せて数値を暗唱して貰ったらやっぱり全部正解で。
マジすげえよなこの能力。真似しようがない固有能力だしなあ。
この能力に興味を持ったクシナダさんが、似たような能力を実現する魔道具として『魔導板』を作った、って裏話があるらしいんだけどそれはまた別の機会に。
「でっ。そういうことだから、心配はなくなったよね? 撤回して貰える? ここで大人しくククリを護って待っててよ?」
「もうっ。ここにシンディさんを連れて来たのは、最初からそのつもりでしたね?
シンディさんを同行させる根回しはもっと以前から行っていらっしゃったでしょう?
誰でしょうねそんな悪知恵を仕込んだのは」
――あなたの横でしれっと目を逸らしてる、あなたと同じうちの組の参謀なクシナダさんですよ、とは言わない約束で。
まあ言わなくても気づいてんだろうけど。じとーっ、って目線でクシナダさんの方見てるし。苦笑しまくってるけど。
ほんとに仲良くなったよなー、この二人。
それから満腹で眠りに入ったククリを起こさないようにして、無理しないようにティースに念を押して、軽くキスして。
俺はシンディさんたちを引き連れて、ゲートで駐留地に戻ったのだった。
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「あのね、タクミくん。――自分たちが持ってる土木技術が、高度な軍事技術だって自覚を持った方がいいと思うよ?
……そもそも、この拠点、いろいろおかしい技術が使われすぎてるからね?」
「ほえ?」
戻ってグロールさんにシンディさんたち三人を任せて、現場作業に復帰しようとしたら、シェリカさん連れたフープ兄からそんな言葉を投げかけられて。
思わず口から間抜けな声が漏れた。
「……ていうか、一応大貴族になったんじゃなかったっけタクミくん? だいたいその格好は何なの、まんま土木作業員じゃないか」
「――いやだってほんとに作業員だし? これから新しい井戸掘るんだから、そんなびらびらな貴族衣装なんか着てたら五分でどろどろだよ? ぶっしゃぁぁぁぁーって水噴き出すからね」
ドカヘルに鳶職伝統の鳶服に地下足袋、軍手に安全帯。鳶服はこの世界になかったんでわざわざ特注で仕立てて貰ったもんだけど、めちゃくちゃ分厚く頑丈にして貰ったんでうちのお針子さんたちには感謝しまくり。
貴族就任式典からこっちお世話になりっぱなしだし、そのうちなんか特別手当出さないとな。
「うわ、作業見学しようかとも思ってたけどそれは近寄れないな。配下にも言い含めておこう。
……いや、それはともかく。井戸掘る水脈探したりとか、そもそもここの水道設備の水源とかはどこから引いてるの?
灌漑設備みたいな構造物は見当たらないみたいだけど」
「俺が地面の広範囲に魔力波飛ばして、反射で流水のアタリつけて掘ってるよ?
ここら辺っつか、ここいらの砂漠は全部地下水脈の上に砂が乗っかってるだけなんで、少し掘ったら水源だらけだよ」
俺はそんな風に答えたけど、納得行ってないなこれ。すごい頭抱えてるし。後ろのシェリカさんが含み笑いしてるのがなんとも。
「『少し掘る』の少しの概念がもうおかしい。垂直堀りで百メートル以上掘るんだってね?
どんな技術かは土木建築に詳しくないから知らないけど、普通の井戸っていうのはいいとこ10メートル程度だよ?
それ以上掘ったら井戸壁が崩れる。そんな深さの水脈に到達出来る技術があるだけで国家機密レベルだろう、秘匿しないと」
「いや必要ないって。掘れる技術だけあっても、下に砂岩盤あるからそこ貫通出来ないとダメだもん。今んとこ、そんな硬い岩盤貫通出来る穴掘れるの東のドワーフ王国だけっしょ?
だからうちの組が出来ても驚異的ではないよ。珍しいのはそうだろうけど真似してすぐ作れるような生半可なもんじゃないから」
そうなんだよね。俺は前の世界の知識あったから「ダイヤモンドドリル」なんて発想がすぐ浮かんで、クルルに手伝って貰って神力全開な重力圧縮で人工ダイヤ粉末作ってそっこー岩盤ドリル自作出来たし。
あとは、銃棍作りまくった実績で中空鉄管生成が慣れてるんでドリル後端に繋ぐ形でごりごり回しながら中空管を後ろに繋いで掘り下げてくボーリング技術まで発展出来たけど。
ドワーフ王国でどんな技術で掘ってるのかはまだ知らないけど、技術提携する契約済んでるから後々のお楽しみってことになってるし。
――そう。国境越えて南まで進出して街作ってるのは、フープ兄たちの後方補給拠点としての役割やドワーフ王国との陸上交易路を敷くための理由も上の判断のひとつとしてあるけど、俺らの方でもここの世界の技術を吸収させて貰いたいな、ってのがあって。俺らにも俺らなりの旨味があるんだよね。
俺やレイリー兄ちゃんはそこそこ大工とかの建築職はそれなりに修めてるけど、それが設計や道具や金属鍛錬な冶金分野になると結構お手上げなとこもあって。
要塞の図面も実を言うと北国境付近で鉄鉱石掘ってたドワーフ王国出身のドワーフさんが内容改めてくれて、それで早期建造に繋がったのもあったし。
――鉄なら元素記号Feなんだから、鉄元素だけ集めりゃすぐに出来んじゃん! とか思ってた時代が俺にもありました。
実際にやってみたらば。「鉄元素おんりーの純鉄!」って、「粘土みたいにめっちゃくちゃに柔らかい」のな。びっくりした。
あと、空気中の水分と反応しまくってあっという間に表面赤錆だらけの酸化鉄になった。びっくりしまくりすぎたわ、あの体験は。
ドワーフさんに笑われたけど、鋼鉄っていうのは木炭とかに含まれてる炭素を適切に配合して混ぜることで固くなった鉄なんだってね。
硬い鉄=徹底的に不純物を取り除いた鉄、ってイメージだったから目鱗すぎた。
それに付随して、水も水素プラス酸素なんだから魔法で元素集めて作ればいいじゃん、って簡単に考えてたけど。
それで出来る水って純水だから「栄養もミネラルも何も含んでない、何の栄養にもならない無駄な純水分子」で。
逆に周りの栄養素を奪って普通の水に変化するから『水が栄養を持ってくる』んじゃなくて『純水が元々あった栄養を奪う』ので害になる」ってクルルに言われて。
「不純物を全く含まない単一物質」よりも「不純物を多く含んでる複合物質の方が利用価値が高い」って解って、それも目鱗だった。
逆に言うと、だから元々存在してる物質を集めるならまだしも、純水や純鉄みたいなもんを魔法で元素から直接作り出すっていうのは弊害やその後の苦労の方が大きかったりするんだ、って理解に繋がったりして。
やっぱり、餅は餅屋っていうか、専門技術持ってる専門職の人たちの存在って大きいよなあ。
生前設計事務所経営してた親父にもっと教わっとくんだったな、とかちょっと後悔ノスタルジーに浸ったりもしたけど。
それくらい専門知識持ってる人がやる基礎設計って大事なんだなあ、と改めて痛感した。
基礎設計がダメだと上に建造物が乗っかっちゃった後じゃ生半可なことで修正が効かないから、地盤調査から何からすっげ時間食うんだよねー。
それで俺が魔力の地下反射エコー使った地盤調査技法や、ばか長い延伸鉄杭打つ耐震技術とか開発したのはまあ些事なんだけども、あとひとつ、フープ兄たちの目的とは全然違っちゃってる目的が俺らにはあって。
「まあ、この後の計画には絶対必要な技術だからさ、しばらくその手の技術はどんどん開発してくけど、生暖かく見守っててよ?
ただ上っ面の技術盗んだって絶対使いこなせない高度魔法だからそこまで心配することはないと思うけど。
そもそも戦闘技術とほとんど関係ないしね」
「ああ、一応計画報告書は上がって来てたけど……。本気で『砂漠緑化』なんてやるのかい?
よくもまあそんな予算を小国のアゼリア王国が出せたものだね」
「いや? これ俺らの組だけで単独予算だけど」
ぶはっ! とか並んで歩く隣のフープ兄が吹いたのが見えた。
「おお、珍しい。『鷹の目フープ』が噴き出すなんて」
「いや、そんなことどうでもいいから!
……街作って緑化する井戸掘ったり、僕らの後方補給拠点のための補給路整備するための予算を小国の地方貴族が一人で賄ってるって?
どんな金脈抱えてるんだい??」
「あー、金脈っつか錬金術つーか。ここら辺の砂漠出身なグロールさんたちにも聞いたんだけど、ここら辺って神国発行の貨幣じゃなくて砂金や金塊そのものが物流のメインなんだって。
なんで、基本的に海水にはそういう金属成分が大量に溶け出してるもんだから、海岸の海水から砂金抽出して軍資金にしてる。――一応軍事技術だからやり方は教えないよ?」
溶け出してるっつってもほんとーに微量で、俺の重量魔法駆使した使用魔力量度外視な力任せの大規模抽出でなきゃ元が取れないんだけどね。
俺は神力の魔力変換やったら殆ど無限に抽出作業に使うエネルギーを供給出来るから元とかそういうの考えなくていいし。
長期視点で見たら金の流通量がおかしくなって金相場が下がるから湯水の如く使い倒す、なんて使い方しちゃいけないらしいんだけど。
まあ、そこら辺は全部参謀なティースとクシナダさんに任せてる。
ていうか、自分らで相場操作出来た方が物流価格が安定するんで、だんだん神国発行の大陸公用金貨や白貨な貨幣基本制から外れつつあるんだよねアゼリア王国。
そのうち自国貨幣で流通やり出すのかも?
他所の国の内情関係なしに自国内だけで両替比率や流通貨幣の枚数調整出来るのが相場安定の秘訣みたいだけど、経済は詳しくないからよくわかんない。
「そうか、盲点だったな。軍隊内だけで通じる軍用手票みたいなものの拡大版か。
神国金貨に依存しないから発行流通量で国内情勢のみに配慮した相場操作が出来るし、相場調整そのものが外交の切り札になる。
相場が崩れたときの調整が難しいけど、短期的に神国依存の貨幣経済から抜け出す前準備としては適切か。
……ティースの発案かい?」
「そう。やっぱ兄妹だからか思考が似てるんだな……、一応俺も末弟のはずなんだけど」
「タクミくんはそのままでいい、経済戦争まで手を付ける気はないんだろう?
そういうところは僕らの領分だよ。僕らはフィーラス帝国と、徹底的にとことんやり合うつもりでここまで来てるんだからね」
「うん。……俺の目的は神国へ行くことで、帝国っつか、裏で糸引いてるっぽいシルフィンとやり合うのはフープ兄に任せるつもり。もちろん、全力でバックアップはやるけどね」
「後方補給路を安定させてくれたのは大きいよ、そろそろ補給線が細長く伸び切っちゃっていつ分断されてもおかしくなかったからね。
これで補給線が複数に増えたし、東のドワーフ王国との折衝は任せられるから、僕ら諸王国連合本隊は南進に専念出来る。
……一か月で『深緑の都テテルヴェア』まで落とすよ? そうしたら、その次は帝都エル・フィールまで一手だ。
――まあ、実際は打てる手は全部徹底的に打つけどね」
にやり、と笑ったフープ兄がやっぱかっけー。
しかし、砂漠の中のオアシスで『深緑の都』って名前だけが残ってるのって虚しさ感じるよなあ。
元々は大森林に囲まれてたエルフの都で、エルフの国が滅びてフィーラス帝国に占領されたんだってね。
ずーっと南の方には放棄された元のエルフ王都な街があるんだとかも聞いた。
「ああ、侵攻作戦には俺の描いた地図も使ってよ。割りと正確に描けてると思うよ地形とか」
「そう、あれも突っ込みどころ満載だからね? どうやったらあんなレベルで正確な地図が描けるんだか。
まるで天高くから直接見てきたみたいな描き方だよねあの地図」
ぎくり。その通り、衛星軌道の静止衛星画像を元にして図面に起こしてんだもんな。
この世界でそれ説明しても理解できないと思って詳しく言ってないけど、相変わらず鋭すぎる。
「まあ、しばらくは僕ら諸王国連合軍は砂漠戦そのものが初めてで勝手が分からないんで、タクミ麾下の砂漠部族をお手本にさせて貰うつもりだから。
作業進捗に口は出さないけど、合同演習の時間はちゃんと取ってくれよ?」
「りょーかい、そこら辺はうちの組の優秀な事務官たちに任せてあるんで、まあとりあえずしばらくは拠点内あちこち見て回っててよ。
ここ一応恒久施設になる予定で建設予定組んでるからね。――さて、今日も一日砂まみれで頑張ろう。……いい? 開けるよ?」
三重の扉を通過して、最外門に手をかけて、フープ兄とシェリカさんを振り返って一言。ふたりとも苦笑しながらローブを深く被り直して襟を立てたり砂対策。
扉を開けると同時に、ぶわあっ! って勢いで陸風に乗って海まで飛んでく砂、砂、砂!
これがなけりゃ日差しは暑くても夕凪までずーっと吹き続けてる風が涼しくてまだ我慢出来るんだけどな。
俺の義手義足の関節にも入り込んでざりざりになって関節の動きが悪くなるんで、潤滑油と洗浄液の消費が倍以上になってんのが泣き所。
早いとこ周辺でやってる砂の表面に被せて飛散防ぐ対策なスポンジシートの量産急いだり、防砂林の植林やって、緑化進めてなんとか砂の飛散を少なくしたいとこだよ。
そのうち、潤滑油の自作も目指そうっと。




