40話 再会
「まずは、我ら全軍収容可能となるこのような巨大な、かつ今後後方補給物資集積拠点として機能するであろう幕舎基地を多大なる労力を用いて建設して頂いたこと、有難く思います。
――ディルオーネ王国軍派遣軍指揮官および諸王国連合軍総司令官として、『不殺の神器』の誉れ高いアゼリア王国アバートラム侯、オキタ・タクミ侯爵に、このフープ・ディル・アルトリウス、深く御礼を申し上げます」
……なんて、聞き覚えのある懐かしい声で俺に告げてくるフープ兄の表情はしれーっと澄まし顔で、「ここは公共の場で人目があるんだよ分かってるよねタクミくん?」なんて流し目をちらちら送って来るんだけど。
そりゃ俺だって当然分かってるっつか、そうでなけりゃ滅多に着ない正装で、豪華なドレス姿のリュカまで伴って丸腰でこんなとこ立ってないよ。
フープ兄だって冒険者時代とは似ても似つかないようなぴっかぴかの全身鎧で真っ赤なマントとか羽織っちゃって、公式対面の場だから帯剣はしてないけどまんま「豪華絢爛な戦闘貴族の正装」になっちゃってんじゃん。
あ、貴族になったんだってね、あとで個人的にお祝いしないと。あとシェリカさんとの結婚の報告と馴れ初めとかも聞きたい。
しかし、俺のこの正装を前に着たのって貴族叙勲のお披露目と結婚式典のときだけだよな。
俺は五体が全部義手義足なんでデザインに結構苦労したらしくって、ティースやクシナダさんたちがお針子さんたちと何日もうんうん唸りながら作ってくれたんだよなあ。
有難すぎるのと迂闊に汚したり破ったりしたら申し訳なさすぎるのでほんとに式典以外じゃ異空間収納の奥深くに厳重に保管されてる「余所行き専用衣装」になってんだけどね。
俺の左肘に軽く手を添える形で俺の左後ろに寄り添って立ってるリュカも、普段の戦闘衣装とはまるで違って、髪まとめて上げてばっちりお化粧して。
足元まで隠れる薄絹のドレス着てハイヒールまで履いてて物凄い綺麗なんで、ぶっちゃけ式典なんかそっちのけでリュカの姿をガン見して愛でたいとこだけど。
微笑み浮かべつつ強烈な「オマエ解ってんだろうな、なんかヘマしたらめちゃくちゃ叱り飛ばすぞオーラ」が鬼の圧迫感を醸し出してるので、仕方なく俺も他人行儀に「ディルオーネ諸王国連合軍の最高司令官になっちゃってて。
ばんきゅっばーん、なんてとてつもない美女の衣装なシェリカさんを連れてる大貴族様になっちゃったフープ兄」の挨拶に応じる。
「多数の敵軍を打ち破り、圧政の敷かれていた支配域を開放した連合軍の各種攻勢の成功こそ讃えられるべきでありましょう。
私ごとき新興の若輩が『鷹の目フープ』の名声に及ぶとは考えられませぬ。
我らアゼリア王国南部方面軍は諸王国連合軍の東征を快く歓迎すると共に、その麾下に加わる所存であり、これら幕舎はその目的のために贈るものであります」
……ヴァルキリアたちを連れて来てて良かったな、と思う理由その一。これ、挨拶文面考えたの主に副団長のルシリアとシーベル。
意外とあの子たちって文才豊かで何案も書いてくれて、その中で産休中でゲート通れなくて本国残留なティースと相談したりして採用された中のひとつなんだよね。
さすが箱入り娘ってか、元々ツクヨミ神殿付きの奥殿護衛女性騎士なんで、貴族向け礼儀作法とかが完璧で。
貴族になってからはいろいろ公式式典の場では世話になってるんで、もはやウチの組には必要不可欠な人材になってるなあ。最初裸にされたことで突つくと未だに慌てて平謝りしてくれるのが可愛い。
日本ならまだ高校生くらいの年齢だし、まあ失敗することもあるよね。年長者としては若年者の失敗に目くじら立てるよりは、今後の成長に期待したい、ってとこ。――外見上ほぼ同い年だけど。
そのルシリアとシーベルは長い銃棍を構えてヴァルキリア騎士団全員完全武装な正装でずらっと直立不動で整列してたりして。
軍団長のティースとクシナダさんのどちらもがククリの世話でアバートラムの拠点を離れられないんで、軍団長不在の穴を埋めなきゃ! 騎士団全員で一致して頑張ってるみたい。
可愛いねえ、雇用主としてはその頑張りに報いてあげたいな、とかいろいろ考え中。
「私の名声、などとは異なことを申される、先のアバートラム防衛戦の折りにオキタ侯爵が獲得された数々の二つ名は大陸全土に響き渡る勢いですよ?
『不殺の神器』は言わずもがな、『神の鉄槌』、『神速の拳士』、『光輝の神剣』、『光り輝く神の器』、『神撃の神器』など、その莫大な功績は誇られるべきでしょう。
それらは吟遊詩人の神譚となり永久に大陸に語り継がれるでしょうね。
アゼリア王国王権代理宰相レムネア・レイメリア様と並ぶ不世出の神器、アメノウズメの神器でいらっしゃる事実は伊達ではないと言うことですね」
……リュカに腕掴まれてなかったらその場で「ふしぎなおどり」を踊り出してたかもしれない。
なんだその二つ名。聞いてないっつか、ヴァルキリアの砲撃とかスサノオのやつまで混じってんじゃん。
つーかさ。フープ兄、もう隠そうとしてないな? めっちゃ口元笑ってんじゃん。
シェリカさんも口元隠してるけど、ドレスとセットな細かいレース模様入った薄いベール越しにでも笑ってる目が見えてるってば。
「……それを申されるならば、強大な軍事力を持つフィーラス帝国を宣戦布告からわずか2年にも満たぬ期間で西方国境からここ、アゼリア王国南部国境までの数百キロを破竹の快進撃で侵攻しつつ勢力を増やして来たアルトリウス侯も自らの功績を誇られるべきでありましょう」
「あー、やめやめ。聞いてて背筋がむず痒くなって来るってんだよバカヤロウども」
なるべく動揺してない様子を取り繕いながら褒め言葉の応酬してたら、突然フープ兄の後ろに控えてたシェリカさんが、よく通る大声でそんな一言を。
「約2年ぶりの兄弟の再会なんじゃねーか、国籍も立場も違ったからって何取り繕ってんだよ?
いいからさっさと本音で語れってーの、めんどくせえよな貴族サマって奴は」
最後の一言は俺たちに向けた言葉じゃないっぽいな。急に勢力拡大した新興貴族なんで、フープ兄の陣営にいる各国の王は一枚岩じゃないらしいんだよね。
そっちへ向けた牽制なんだろうなあ。陣営が違う俺らにはどうしようもないんだけどさ。
とりあえず、苦笑してるフープ兄が肩をすくめて両手を広げてるんで、俺も笑ってるリュカに背中を軽く押されたことだし。
遠慮なく、その両手に飛び込むことにした。
「――久しぶり、フープ兄! 結婚おめでと!!」
「タクミも結婚と第一子の誕生おめでとう! もっと早く来たかったんだけどね、なかなか段取りが面倒で。
貴族サマってのは本当にめんどくさいねえ、僕が王様になったら全部廃止しちゃいたいところだよ。
――積もる話は『家族兄弟水入らずの個室』でやろうか?」
そんなわけで、俺は「俺の組の新しい出稼ぎ雇用先」なフープ兄について、真新しい完工したばかりの幕僚宿舎で現状報告をすることになった。
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「全く、シェリカはいつも要所要所でやらかしてくれるよね?
このあと、僕がどれだけ王侯貴族たちに突き上げ食らうか分かってる癖に」
「牙も爪も貧弱な癖に吠えるだけは声がでかいバカヤロウどもなどほっといて、フープさんはもっと堂々と旗頭として先頭を進めば良いんですよ」
いつもの戦闘衣装な忍者服に着替えたシェリカさんが、宿舎内に用意されたソファに全身を預けて座るフープ兄の足の上に乗せられてすーっごい仲睦まじい夫婦の会話繰り広げてんだけど。
変われば変わるもんだよなあ、あのシェリカさんの笑顔がすごい穏やかで綺麗になってて。口調そのままなのがすごい「らしい」って感じでね。
「タクミがすっげーストレス溜めてたのは解ってたからさ、お嬢さんのあの一言は大助かりだったよな。あのまんま話続けてたら後半ボロ出してたろオマエ?」
「緊急事態になったらクルル起こして手伝って貰うもんね、だから全然まだ平気だったし」
「正妻に頼るのが最終手段って時点でダメ男じゃねーか」
俺も別に対抗してるわけじゃないんだけど、フープ兄の対面で同じようなソファに座ってリュカをやっぱり股の間に横抱きに置いてて、一応夫婦の会話。
でも俺、現場作業関係以外の所用を全部ティースやリュカに丸投げしてるんで全然頭上がらないってか、正直尻に敷かれてる感は否めないんだけども。
今日はもうずっと家族だけ水入らず、ってことになったんで、この部屋はフープ兄の割り当てになってるんでフープ兄の方の幕僚が出入りすることになってんだけど。
入り口に俺の親衛隊とフープ兄の護衛が見張りに立ってるから家族以外が入ってくる恐れはないし。
「クルルちゃんと融合した、っていう話はレムネアさんからの事前連絡で知ってたけど。あれかい、スサノオさんの神核形成を促進する方向性かい?」
「うん、育ち方が順調で、初期形成終わって成長促進の段階に入ってるんで俺の中でスサノオと共同作業で安定化させながら発現させられるようにするんだ、って言ってた。だから戦闘中以外は基本的には『表に出て来てる』のは俺一人だよ」
俺は神核なんか作ったことないから細かいことは分からないんだけどね。
ものすごく経験豊富なクルルが手伝えばスサノオ一人で頑張るよりもかなり作成が高速化する、ってことみたい。
「同時に二柱をひとつの身体に宿らせられる、って意味なんだよね。――僕らはタクミが神器なのは知ってて、魂の根源が神族に関わりが深いのも知ってるから違和感はないんだけどね。
――それはこの世に存在するどんな神器でも出来ないことだから、あまり公言しない方がいい。単純に敵対するだけでなく、タクミを利用して祀り上げようとする輩も出てくるから」
ちょっと眉を潜めたフープ兄の諫言に、俺とリュカは顔を見合わせて、にんまり笑って頷き合って見せる。
「鷹の目フープの先を行ったかな? 対策済みなんだよねー。俺の神族としての身柄はツクヨミ神殿に帰属してる建前になってるんで、俺を祀り上げるならツクヨミ姉さんの神託を得なきゃならない。ツクヨミ姉さんはそんな神託出すわけないので無理ー」
「タクミ単独で新規に神殿を作る動きも想定できるだろう? アゼリア王国国内だけでなく、国外のどこかでもタクミ不在で神殿建立の既成事実だけで民衆は集められる」
「俺が否定したらそこまでじゃん? そもそもティースとリュカの安全が一番確保されてるアバートラムの拠点を離れなきゃいけない理由がないよ。
それに、アゼリア王国を攻めるのが陸路でも海路でもすごく困難で、海路から来るにせよフィーラス帝国の海岸線は大陸南部にしかないから海軍が来るまでに1年は掛かるし、西側のディルオーネ連合王国は俺と敵対しないよね?
――やるなら喧嘩上等だけど、正直、弓矢や単発範囲魔法が主力のごくふつーな諸王国連合軍と俺らとじゃ戦力差がありすぎる、と思う。
……ってのがうちの参謀たちの話だったんだけど」
そこまで言ったら、ふっ、て感じにフープ兄が表情を緩めたんだけど、それがなんか今まで見たことがないくらい穏やかで優しい顔で。
あれ? とかちょっと疑問に思ったら、それが顔に出たのか。
「いい部下を得てほんとに成長してるみたいだね。――今のはカマ掛けみたいなものだから真剣に考えなくていい。
『武技以外は部下に丸投げのお飾りで単なる土木労働者』なんて風評もあったので、僕の目で確認したかったんだ。ごめんよ?」
「フープ兄の謝罪は腹の底でまだいろいろ計画が進んでそうですっげー怖ぇ」
ジト目で応じた俺の言葉に、本格的に苦笑したフープ兄はしっかり頭を下げてくれた。
……それでもなんか企んでそうなのがフープ兄のフープ兄たる所以、ってやつだよね。そうでなきゃ尊敬する俺の兄じゃないけどさ。
「ああ、そうだ。家族の話と言えば。僕がタクミと同じく義手になったのはもう知ってるだろうけど、これはタクミと同じくシェリカのお手製だよね」
「――あ。そうか。もう原型留めないくらいに強化改造しまくってるけど、関節とかのベース構造はシェリカさんが最適化してくれてから殆ど変化してないな。
シェリカさんその節はお世話になりました。……それが?」
「フープさん、後は私が。――そう、フープさんの義手のメンテナンスをアタシが担当してんだけどね、タクミの義手義足は魔力神力応用ですげえ強化されてるって話を聞いてな?
いっぺんアタシにどんな改造して使ってんのか見せて欲しいってのと。『アタシが治癒魔法を使えるようになったお礼』に、関節駆動系統を更に最適化してあげようか、って話。どうだい?」
ん? 以前女医としてのシェリカさんが治癒魔法を使えなくて、それで非魔法系の治療技術を使ってたのは知ってるんだけど。
ずっと離れてた俺になんでその治癒魔法を覚えたお礼を?
「ああ、悪ぃ、言葉が足りなかったな。アタシが前に治癒魔法を使えなかったのは、魔力を使うと忍者が子供の頃から徹底的に覚えさせられてた毒魔法術のせいで毒を含むようになっちまってたんで使えなかったんだ。
――こりゃ弊害の方が大きいってんで、街に定住するようになったアタシらの代で終わらせたんで、リュカはやってないから心配しなくていいぜ」
思わず両手を見下ろしたリュカに、シェリカさんが笑みを絶やさないまま告げて、言葉を続ける。
「それで、アタシゃずっと人体の急所と殺す技術を把握してるんだったら活かす方にも使えるだろ、ってことで女医やってたんだが。
タクミ、アンタが広めた『逆魔法』の技法が、アタシの長年の悩み解消にドンピシャだったのさ。
……どんな回復魔法かけてても毒が載っちまう状態が、最初から『毒を与える前提で逆魔法でひっくり返した』ら、これが効果の高い回復魔法になっちまった。
こんな誰にでも実施可能なすげえ技術を惜しげもなく広めたアンタに、お礼言わずにどうするってんだい?」
えええ? 確かに逆魔法の理論と実践は魔法使える人間なら誰でもすぐに使える簡単な手順で、魔力の流れを最後に真逆にひっくり返すだけだから失敗も少ないだろうけど。
そんな感謝されることかなあ? 俺だってクラさんに教わっただけなんだし。
「まだ納得行ってない感じだね? 『泣く子も黙る超暗殺集団なアタシら忍者軍団』が、『死にかけの重傷者でも起き上がらせる超医療集団な医師軍団』になれちまう可能性を作った、ってことなんだよ?
アタシら一族の感謝の大きさが想像できるかい?」
だから、この戦争が終わったら足を洗って医療魔道士になるんだ、とシェリカさんは笑顔のままで言葉を続けて、深く頭を下げてくれた。
「ああ、ちょっと解った気がする。……生まれてこの方一度も人を救うなんてことが出来るはずがない殺人技術に全身全霊で特化した集団だったのが、これ覚えただけで人の命を全力で救える道筋が出来た、ってこと?」
「その通り。冒険者にもたくさん居ただろう? 戦闘以外に能がないから冒険者を続ける以外に道がない、って人が。
そういう人たちが、直接人体に作用する負荷をかける攻撃魔法を習得していれば、それをひっくり返して医療に役立てることが出来るようになる、って可能性を作ったことがすごいんだよ」
ちょっと涙ぐんじゃった風のシェリカさんを抱き寄せながら、フープ兄が言葉を継いだ。
――よく見たらすげえよなシェリカさん作成の義手。
魔力人並みで戦闘にでもほとんど魔力使用しないフープ兄が、全然普通に生身の腕と変わらないレベルで関節全部動かせてんの。
さすがに五指までは無理だったのか、手袋みたいに親指以外が覆われてるけど。
「タクミのことだから、お祖母様に教わった技術を広めただけ、なんて考えてるんだろうけど、そうじゃない。
タクミがみんなに広めたこと自体が功績なんだよ。だからちゃんと誇りなさい。
――それで、神聖魔法の使い手以外にも、シェリカみたいに医療系に分類される魔法を使える魔法の使い手が大幅に増えることが見込まれるんで、医療術士に国家単位や大陸全土共通で医療術士ギルドみたいなものを作って、免許を与えて認可制にしよう、って話も出て来てるね。
……めんどくさいけど既に詐欺師まがいの出現報告が出ててねえー。
厳密に言うと『傷病やその原因の知識』と『医療施術と薬品、薬剤の知識』と『医療に使える魔法とその使い方』は全く別の学問体系になるから、そこをまずまとめよう、という話だね。
そこら辺、まだまだ迷信や偽知識が横行してるんで、この際はっきりと『人を治さず偽知識でカネだけ取ってくヤブ医者』を犯罪者に認定しよう、という動きもある」
あー、そうか。神聖魔法修めた神殿所属術士以外で、誰でも医療に使えるかもしれない魔法使える可能性が出て来るんだったら、それなりの人体のお勉強とかが必要になって来るよね。
どれがどんな効果で何に効くか、なんてのは全然手探りだろうし。
「まあそれは今のところタクミたちには関係のない話だろうけど、シェリカがその医療術士ギルド創立に関わるかもしれなくてね。何しろ、『人体を解体することにかけては右に出る者のない恐怖の忍者集団の一人娘』だったからね?
それはタクミの方でも今後関係が深くなるかもしれないから、教えて置こうと思ってね」
もうっ、フープさん! とか赤面したシェリカさんが軽く片手振り上げてフープ兄が笑いながら避けてる光景が目の前に。
なんつーか、シェリカさん可愛いなあ。いい奥さんやってるんだなあ。
とか眺めてたらすごい目で睨んで来るリュカに無言でいい勢いで耳たぶ引っ張られた。
いやいや待って待って待って、これは他の女に色目使ってるとかそういうんじゃなくて、仲睦まじくて羨ましいというか微笑ましいというかそんな視線であって。
断じてリュカが思うような意味じゃない。
「……やっぱり大きい方がいいのかよ? オレだってちょっとは育ったんだぞ、あんだけ毎日のように揉まれてりゃな」
うん、「俺が育てた!」って自覚はちゃんとあるけど!
でも、いくらなんでもシェリカさんのばかでかい、ぶるんっぶるんのおっきな果実と比較するのは無理・無茶・無謀の三拍子だと思う。
でもリュカのは小ぶりでも形はいいし何てったって感度抜群でついでに俺専用なんだし張り合う必要は全然ないんだよ実際。
「あ。義手義足のメンテは喜んでやって頂くとして。医療術の方なら俺の方にも関係あるかも。ええと、ちょっと待ってね。グロールさーん! タギツちゃん呼んできて?」
ドアの向こうに控えてるはずの親衛隊副団長の一人なグロールさんに呼びかけたら、いつものしっぶくて野太い低音で「かしこまりました!」って返答が帰って来る。もう完全に馴染んじゃったよね。
ティースとクシナダさんとレイリー兄ちゃんやルースさんの進言で「元敵軍の将だから、対外的に信頼度を示すためにも要職に就けた方がいい、あと頻繁に外部に見える場所に行かせて主君の信頼度合いを外部に示した方がいい」って話だったんで、割りと他の部下に任せてもいいような些細な仕事までパシリみたいに使い倒してんだけど。
地球でだったら給料同じで一人だけに仕事押し付けるブラック雇用主みたいな状態なんだけども、グロールさん以下敗軍の将で元降伏兵たちの身の安全確保には絶対必要なことだったみたいで。
まぁ、そりゃ新興の組が大人数で元敵軍の兵隊を引き連れて動いてんだから、他所の土地に行けば多少の嫌がらせとか妬み嫉みの類はあったけど、大事に至ることなく。
ついでにうちの最強の幼女たちタキリちゃんサヨリちゃんにめっちゃ懐かれまくってて幹部以下一同から羨ましがられてるし?
本人も仕事に邁進して信頼度が上がって軍団内で重要度が増すことにやり甲斐を見出したみたいで熱心に働いてくれてるしで、もう何ていうか実質的に俺の片腕、って言ってもいいと思う、グロールさん。
全員に細かく土木技術を伝達学習・経験させて全員が高熟練度の土木作業従事者になる組織再編したレイリー兄ちゃんも凄いし、荒くれ者の集団だった配下たちをぴしゃりとまとめて一糸乱れぬ統一行動が出来るように率いてるルースさんや元暗く重き渦傭兵団幹部の『重力渦の兄弟たち』も凄いんだけどね。
「お招きに預かりました、タギツなのです! よろしくお願いします!」
しばらくしてやって来たタギツちゃんが部屋に入ってきて、元気よくぴょこんと頭下げて挨拶。
……で、当たり前のように俺の左足の上に座ってるリュカの対面、右ふとももの上にちょこん、と座っちゃうのが可愛い。
最近三童女それぞれでお気に入りの人間が変わって来たのか、タキリちゃんは最初からグロールさん一筋みたいだけど。
サヨリちゃんはグロールさんとレイリー兄ちゃんかルースさん、タギツちゃんは俺の後をべったり、って感じで三人同時に固まってる姿を見かけることが少なくなってきたように思う。いい傾向なんだろうな、個別化してきたというか。
「ええとね、最近このタギツちゃんが治癒術に興味を持ってて、この子はこんなちびっこの成りで実はスサノオの娘で神そのもの、って感じの子なんだけど。
スサノオはさっき言った通り長時間実体化出来ない感じで、あとそもそも治癒術に詳しくなくて。
母親のクシナダさんはまあ、それなりに何でも使える魔法の達人なんだけど、魔力がティース並みに極端に少ない人なんでね。
それで、長時間みっちり教える、ってことが出来なくてね。
交換条件とかそういうんじゃないんだけど、シェリカさんにその気があるんだったらこの子にも少しずつでいいんで治癒魔法系統と医療術式に関する知識を勉強させてあげて欲しいんだ」
ツクヨミ神殿に戻してツクヨミさんに教わる方向性も考えたんだけどなあ。
三人娘が離れ離れになるとスサノオや俺が使う『十束剣』を使用する局面のときに困るな、ってことで、いずれ本格的に医術師をやることになってからでもいいだろうっていうのと。
何よりツクヨミ神殿はずっとクルルの肉体を守る神域結界を展開させっぱなしでツクヨミさんの神力施術はずーっとそっちを継続してるんで、これ以上負担を増やしたくないな、って理由で却下に。
「構わねえけど、アタシが許可するまでは治療行為は全部禁止するぜ?
ド素人の生半可な治療行為はそれだけでヤバいからな。戦場従軍看護師、ってとこか、これから教えられるのは。
本格的医療行為までは教えねえし、それやるんだったら神殿に缶詰にして脳みそから溢れる勢いで人体知識詰め込んだ方が早い。
ってか神様だってんだったら、ある程度神力を使える神に預けた方が早道なんだが――。
今その預ける相手が居ないか忙しいから、手近なとこに来た女医経験のあるアタシに、ってことだろ?」
「さすが話が早い。そういうこと。うちの家庭の事情が解決したら神殿や神に預ける道もあるだろうけどね。
タギツちゃん、この人はすごく厳しいけど間違ったことは教えない人だから、頑張って勉強してね?」
「わかったのです! 頑張って勉強して愛しのタクミさまをお助けして差し上げるのです!
そしてたくさんキスして貰うのですぅ、うふふ」
「……タクミくん……、まさか、世界の真理『YesロリータNoタッチ』の原則を忘れた、なんて言わないよね?」
物凄く呆れたジト目がフープ兄の方から向けられて。あなた大貴族になって軍司令官までやっててまだ治ってなかったんかいそれ。
っていうかいやそういうんじゃなくてだな、タギツちゃんたちは父親から離れて過ごしてた期間が長かったからちょっとしたスキンシップを大げさに勘違いしてるというかだな。
「ほんっとにオマエ、その無差別見境なしのタラシ癖どうにかしろよ?
いつか後ろから刺されるぞマジで。ルシリアなんかオマエ狙いらしいからな」
「聞いてないよ?! だいたいヴァルキリアには嫌われてると思ってたし手出しとかしたことないよ!?!?」
「手は出さなくても、感謝されることやりまくってんだろうが無償で、しかもあんだけの屈辱与えられた相手なのに蒸し返しも報復もせずに。
そういうところが人に好かれるんだって自覚くらい持てっての、この天然」
……なんて感じで兄夫婦に手を叩いて笑われまくりながら、弟夫婦は嫁に説教食らいながら久々の再会は過ぎてったのだった。
「タラシって何なのです? 美味しいのですか?」
「タギツちゃんは知らなくていいの。あと、疑問に思ってても他の誰かに聞いちゃいけない、お兄さんとの約束だっ」
「?? 愛しのタクミさまがそのように仰るのでしたら。……後でこっそり内緒で教えて欲しいのです?」
そんなに可愛い顔で無心に見上げてきても、教えません。




