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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第三章 王国篇
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35話 大人の時間

「まったく、すごいこと考えつくもんだよね? ボクの既成概念はもう木っ端微塵だよ?

 っていうか、これ、攻撃魔法の概念全部変えちゃうよ多分」


 口では文句を言いながらも、表情は笑顔そのもの、って感じでわくわくしてる様子を抑えきれない風なレムネアを先頭に、俺たちは要塞の外壁上を歩いていた。


「そうですわね、構造は簡単な中空のある程度の厚みを持った金属管だけで十分ですし。

 本来は攻撃魔法を重力殻で覆って凝縮するのですけども……。


 一般兵が大量消費する前提なら簡単な爆発方陣を内部に組み込んで、先端から何か重量物を押し込み、方陣に接触した瞬間に発射動作を行うようなものが使いやすいのではないかな、と思います」


「おおー、いいねいいね、それは大きさとか指定あるの?」


「底面の魔法陣の種類分けを管の色を塗り分けるとかで分かりやすくして爆発力を変えれば、近距離用から遠距離用まで、軽量弾頭から重量物までを使い分けて対処出来るのではないでしょうか?」


「ああ、そうだね! うーん、ほんとに軍団指揮経験とか全然ないのティースさん?

 もうそれ宮廷魔術師や軍師並みの知識レベルだよそれ。ボク権限でここの王国の宮廷魔術師にしてあげようか?」


 自分よりちょっとだけ背の高いティース姉の顔を間近に見上げたレムネアがそんなことをティース姉に告げてるけど、ティース姉は困ったように赤面しつつ拒絶してる様子が見えた。


 ――いや。ティース姉が魔術運用にかけては天才的だ、ってのは知ってたけど。応用力と発想力がハンパなさすぎる。


『これって「迫撃砲」の概念ですよねー?

 確かに魔力を込めるだけで勝手に発射されて、弾頭はそこら辺にある硬いものなら何でもいい、材料は筒状で硬いものならどれ使っても大丈夫、っていうのは劣勢の軍にはもってこいの決戦兵器ですねっ』


 ――俺、地球の兵器のことなんか一切教えてないし伝えてもいないんだけどな。ただ銃と弾丸の概念を教えただけよ?


 女性だから反動ない方がいいだろうって、RPG-7みたいなロケット砲の概念は混ぜたけどさ。


『魔力変換効率100%の爆発魔法陣描いたクシナダさんもすごいですねー。でもあれは時間が来たら自動焼失するみたいですけど』


 ――ああ、悪用したり敵に横流しする奴が出て来るだろうからって、そういう安全弁付けるのは最初から言ってたし。意外と安全重視で保守的よねクシナダさん。


 まだ前の方で要塞外壁から周囲を見回しつつあれやこれやアイデアを捻ってるティース姉とレムネアの二人を見やりつつ、俺はその場に立ち止まって内壁内を見下ろして。


 ――レムネアって「王権代理宰相」なんだってね。初代王が亡くなってから、ずっと国王の代わりを努め続けて900年、か。いろいろ苦労もしてるんだろうなあ。しかしその割にはやたら自由気ままな雰囲気醸し出しちゃってるけど。


『900年も情報収集してたら先祖代々の弱み溜め込んでて最強存在になっちゃってるからじゃないでしょうかっ?

 でも、基本的には王国から離れられないので苦労はあるみたいですねー。


 タケミカヅチが実体を失ったときも同行出来なくて悔しかったそうですよっ』


 そう。レムネアはこの世界でもものすごく珍しい「実体のない神の神器」で、「神使が現世から肉体消失しちゃったのに神器契約が続いてるタイプの神器」なんだよな。


 クルルは精神体で憑依状態つっても実体はちゃんとツクヨミ神殿に安置されてるから神核を戻したらもう一度実体化出来るし、スサノオも精神体状態つってもあれは規格外すぎてやろうと思えば俺と身体の主導権を交代して肉体持つことが出来るけど。


 ――神使がこの世にいない神器、ってやっぱ寂しいのかな。


『タクミくんはクルルが居なくなったらどうします?』


 ――泣く。喚く。暴れる。悲しい。寂しい。愛してる。俺を残して逝くな。


 畳み掛けるように単語を連ねたら、脳内で七転八倒して身悶えしてる感じが伝わってきた。可愛いんだよなあ。


 視線を下げると、中庭で傭兵主体の一般兵士に槍代わりの銃棍の扱いを指導してるヴァルキリアたちの姿が目に入る。


 ――あの子たちもまさか、自分らが最前線でああいう役割を担うなんて思ってなかっただろうなあ。


 ……クルルに話しかけたけど返事はない。これはしばらく使い物にならないな。


 最前線で父親な正規騎士団に再会したとか思ったのも束の間。


 神殿からこっち、ほんの数週間だけどティース姉とクシナダさん直伝で銃棍の扱いを習ってる、って利点から新兵教育官に任命されちゃったんだよね、王国宰相レムネア様々直々に。


 まぁ教えるつっても根っこを地面に突き刺して身体と足で支えて、先端から弾頭を放り込んだら底面に着地した瞬間自動で爆発して飛んでく、ってだけのお手軽兵器だから。


 横倒しにするとか着弾先が味方陣地だとか馬鹿なミスしない限り大丈夫だと思うけど。


 後方支援火器の扱いが弓とか魔法より極端に簡易化されたもんだから。


 民間人の義勇軍や自警団、みたいな通常武器の剣や弓の心得がなかった、今までは肉の壁以上の意味がなかった弱い一般人たちが、魔力持ってて人数が多い、ってそれだけの理由で急に重要視されて、要塞の中は民間人の姿も増えてきた。


 あと、男尊女卑社会の帝国兵を脅威に思ってるのはやっぱり女性が多いみたいで。


 近隣だけじゃなくちょっと遠方の村や街からも防衛の手助けしたい、って人たちが男女問わず前線に集結して来てて。


 このアバートラム要塞は今や内壁の更に外側に臨時の炊き出し所や宿泊施設が出来たりして、ちょっとした都市並みの様相になってる。


「勝てるといいなあ……」


「タクミ、それチョット後ろ向きネ? 勝てる、じゃなくテ、勝つ、って言おうヨ?」


 聞き覚えのある東方訛りな片言の共通語で、すぐにレイリー兄ちゃんだと気づく。


 いつの間にかすぐ隣から俺の肩に腕を回して肩を組んでて、どうやら俺はちょっとの間ぼーっとしてたみたいだ。


 さっきまでレムネアと一緒に外壁を見回ってたティース姉も姿が見えないし、ぼーっとしすぎてたか。


「うん、勝つよね。こんだけ頑張ってるんだし、負ける要素ないよな」


「ソウ、その意気その意気。会議が始まるカラ、呼びに来たヨ? 最重要傭兵団なタクミたちが居ないト、始まらないからネ?」


 そんな言葉を笑顔と共に言われて、苦笑い。新兵器を作って王国にもたらした救世主! みたいな扱いになっちゃってんだよなあ。


 いや原理分かれば誰でも応用出来んじゃん?


 実際、正規騎士団や傭兵団でも馬上槍ランスに組み込んだり極端に短くして盾に組み込んだりしてる人も出てきてるし。


 事前製作の重力弾頭は製作数の関係で、俺らと重力魔法使える暗く重き渦傭兵団専用に限られちゃってるけどさ。


「こう言っては何だけド、さすが神器さんネ? これは戦いが変わるヨ? 剣の時代が終わってしまうかもしれないネ」


 隣で興奮気味に俺に話しかけてくるレイリー兄ちゃんに曖昧に頷きつつ、俺たちは並んで会議場へと続く階段をゆっくり下りた。



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――



「なんで、決戦を決める会議にそんなガキがいるんだ?」


 なんて声が後ろから飛んできて、俺は恐縮してしまう。


 だよねえ、俺、銃棍の発案者だからってことと、技術指導なティース姉やクシナダさん所属な傭兵団の団長ってことでこの場に呼ばれて割と最前列の席順に配置されてるんだけど。


 正直、実戦バリバリな一癖も二癖もありそうなガチムチ戦士な集団の中に放り込まれた女子供、って感覚がどうにも抜けない。つまり、場違い感全開。


「え? ボクのこと? ええー、いや、参ったなあ、この国でボクのこと知らない傭兵がいるなんて思っても見なかったよ? 改めまして、初めまして?

 王国王権代理宰相で冒険者ギルドマスター、戦時な今は最前線なここで傭兵団指揮最高司令官なんてご苦労様な役をやる羽目になっちゃってるレムネア・レイメリアですぅ?


 好物はよく浄化されたチョコレートクッキーと発泡酒、差し入れはこのふたつを優先的に受け取るからね?

 あと、お花とかファンレターとか食べられないし飲めないものにはあまり興味がないんだ、だからそこら辺はよく覚えててねー」


 人を食った返答に、周囲の傭兵たちからどっと歓声が上がった。


 それで、俺のちょっと後ろから立ち上がって俺を見下ろしてた、ガキ呼ばわりしたがっしりとした体格な大男さんが苦虫を噛み潰したような表情を作りつつ、派手にがしゃがしゃとか音を立てて椅子に腰を下ろすのが見える。


「えーっとね、今回ここに来てくれてる『女子供』の皆さんは、戦局を打開する新兵器、ってやつをボクらにもたらしてくれた希望の光な新傭兵団『神撃の軍団』の方たちなんだ。


 あとでどれくらい画期的かって実演も予定してるから、説明が終わったら拍手喝采で新しい世代のこれからの活躍を見守ってあげて欲しいっ。

 あと、ボクの美貌にも拍手喝采をお願いだよー?」


 もうちょっとむちむちになってから言えよ、成長止まってるから無理かー? などといった笑いを含むヤジを軽く怒ったふりで歓談しつつ、レムネアは話を先に進める。


 相変わらず俺の場違い感あるのは変わらないけど、レムネアの冗談を多く交えた会議の進め方でだいぶ場が和んだ感じ。


 こういうとこ、さすが年の功だよなあ、と感心しきり。


『んー、タクミくん、アレは「利害が一致してるから味方になってる」だけの人ですから、そこんとこ勘違いはダメですよ?

 アレは国益になると思ったらタクミくんたちを騙して敵国に売り渡すくらいのことは笑顔で出来る人ですからね?』


 ――うん、分かってる。でもクルルやクシナダさんたちの裏をかくのはちょっと厳しすぎるだろう、って風にも思ってる。だよな?


 脳内でなんかじたばた身悶えしてる気配。


 よしよし、だいぶ扱いが解ってきたぞ。いつまでも遊ばれっぱなしなタクミくんじゃないんだぜ、クルル?


「魔法陣だけで爆発が起こせるのなら、板鱗鎧スケールメイルの装甲板の間に魔法陣挟んだら衝撃を殺せるんじゃないか?」


「射出される弾丸の威力ってなどれくらいなんだ? 考えようによっちゃ装填に力が要らないクロスボウなんだから、中近距離のサブウェポンに使えるだろ?」


「中空管さえあれば撃てるって言うんなら、魔法がほとんど使えない戦士でも隠し武装に使えるだろ?」


「槍部隊を撤廃して銃棍部隊と弾頭補給部隊で銃棍だけを手渡し交換させたらどうだ? 発射時間が短縮されるだろう?」


 ……さすが実戦経験ばりばりの傭兵団。銃棍や魔法陣の概念図見ただけでどんどん意見が出てくる。


 それをうんうんとか頷きつつティース姉やクシナダさんに意見求めて、更に実戦向け戦法に洗練させてくレムネアもさすがっつか。


「なあ、タクミ。オレら、なんでここに呼ばれてんだっけ?」


 隣で小さくなってたリュカが、俺に向かって小声で聞いて来るけど。いや俺もそれ同意見だから。ぶっちゃけ、帰りたい。


「はいはーい、んじゃ発案はそれくらいで。傭兵団用にもちゃんと本数作ってあるから、帰りに束で持って帰って?

 そんで、それぞれで有用性の高そうな使い方を考えてみて、まだ改善出来そうならボクの指揮官詰め所にどんどん意見持って来てねー。


 一般兵士は基本、長弓ロングボウと同じ遠距離射撃弾幕に活用するし、騎兵は突撃戦法用に特化するけどー。

 遊撃隊な傭兵団用は自爆や味方撃ちがない限り特に制限設けないからー。大規模範囲系になりそうならなんか合図してねー。


 まあでも、仮にも傭兵やってて味方撃ちとかに引っかかる馬鹿たれさんは末代まで指差して笑うってことでいいよねー?」


 相変わらずの人を食った回答ながら、レムネアの言ってる内容はけっこー辛辣だな、と思ったり。


 うっかり味方に撃たれたり範囲魔法系の効果範囲に立ち入っちゃったりして死んだら全部自己責任だぞ、って意味だよなあ?


 でも拍手喝采しちゃって歓声上げてる傭兵の皆さんはみんなものすごく笑顔で、その通りです命預けます、みたいな信頼関係が感じられたりしちゃって。


「あれ? タクミって戦場入るの初だよな? ――今更だけど、人間を殺せるのか? 相手、魔物とかじゃないんだぜ?」


「ああ、うん。それについてはちょっと考えてることあって。あとでみんなにも伝えるからそんときに」


「そか。考えてるならいいけど、ぶっちゃけ団指揮官ってことでここに残ってもいいんだからな?

 無理して経験しなくてもいいんだし」


 めっちゃ心配顔でそんなこと言ってくるリュカが急に先輩に思えてきて。


 10歳で戦場に入って16歳まで断続的に大陸中で戦争傭兵やってるって言ってたけど、リュカは一体今まで何人を。


 魔物相手の俺たち冒険者でも、「六年も戦って生き延びてるだけでベテランも大ベテラン」だもんなあ。


 その後、実演ってことでティース姉の手持ち銃棍射撃実演と、呼ばれて来てたルシリアとシーベルの迫撃砲撃ちプラス交代給弾方法。


 唯一の両腕銃把棍ガントンファー持ちなリュカと無手な俺の銃弾利用な格闘戦とかやって、今日のところはお開き、ってことになった。


 リュカの戦場での二つ名――リュカと同じ戦場に出たことある傭兵さんが居た――が知れちゃったことが俺にとっては収穫だったな。


 かっこいい名前なのにめちゃくちゃ恥ずかしがってるリュカの反応が面白いんで後々いじるネタにしよう。


 で、俺たちの団員は女性が多い関係と、行方不明になっちゃったライバックさんが戻ってくる可能性、ってのを考慮した結果。


 同じく女性で最高司令官なレムネアの居室の至近距離に部屋を用意して貰ってるんで、そこにリュカと戻ろうかな、って通路を歩いてたら。


「おう。ちょっとツラ貸しな、坊主」


 うーん。やっぱり躱しきれないか。なんだかなあ。子供が傭兵団に居るのは気に入らない的な何かかなあ。


 さっきの大男さん。しつこいってか、これだけ執着して来るなら何か深い理由あるんじゃないかな、的な。


「レムネアさんに話通してんのか? コイツはこんなんでもオレらの団長だからな、喧嘩ならまずオレを倒してけよ?」


 ささっとリュカが前に立ってくれる辺り、やっぱ場数こなしてんなあ、と。


「ハッ、女に庇って貰わなきゃブルっちまって喧嘩も出来ないような糞ガキが団長なんざ、前線じゃ初日にしかばね晒すのがオチだな、色男?

 せいぜいその眼帯の下の甘いマスクで女ども囲って盾を切らさないようにしなきゃいけねえなあ?


 もしかして、寝床でおっぱいしゃぶる用、娯楽用に盾用とか使い分けてんじゃねえだろうなあ?」


 むかっ。なんか理由あるのかとは思ったけど、俺自身はともかく他を馬鹿にするのは許さないぞ。


「ルース団長! 男を下げるのはやめるネ、親方が悲しむヨ!!」


 そこに割って入ったのがレイリー兄ちゃんだった。


 ルース団長、って呼ばれた大男の肩を後ろから引っ掴んで、片手で体ごと一瞬で宙に浮かせて動きを止める。


 レイリー兄ちゃんの得意技、重力拘束だ。


 足の甲に張った反重力と手のひらに出した接合重力を釣り合わせて間にある物体を空中固定するってやり方で。


 見た目はそう派手でもないけどものすごい精密な魔力操作が必要なんで、クルルと融合するまで俺は一人で成功したことが一度もなかった。


 大工時代は桁違いな重量物の運搬に使用してたけど、こんな使い方があるなんて思わなかったな。


「レイリー、やめろ、拘束を解け! コイツは親父を殺した仇なんだぞ、悔しいと思わねえのか?! そうだろお前ら??」


 ルースさんが空中に拘束されたまんま、レイリー兄ちゃんの更に後ろを振り返ってじたばたと暴れながら大声を出して賛同を求める先には。


 どうやらレイリー兄ちゃんと同じ『暗く重き渦』傭兵団の団員と思しきがっちりと全身をお揃いの黒塗りの革鎧を着用した十人程度の戦士達が立ち尽くしてて。


 あれ? レイリー兄ちゃん以外にも元大工さんな知り合いが。俺の方見て軽く手振って来るけど、ちょっと和やかに手を振り返す雰囲気じゃないんで、軽く頭下げて応対。


「ルース団長。いや、ルース。もウ、いい加減にするネ。タクミを殺しても親方は帰って来ないネ?

 だいたい、タクミにも『重力渦』を伝えてあるのヨ? ボクらの誓いを忘れたカ?」


「ひとつ、我らは『暗く重き渦』、互いに強く引きつけ合うべし」


 なぜかぐっ、と息を詰まらせたルースさんに向けてか、団員の誰かが声を掛けるのが分かる。


「ひとつ、我らは『暗く重き渦』、身内の罪は皆の罪、皆の罪は身内の罪」


「ひとつ、我らは『暗く重き渦』、身内の功は皆の功、皆の功は身内の功」


 別の誰かが言葉を継ぐたびに、宙に吊り下げられてるルースさんの悔しそうな顔が深まるのが分かる。


「ひとつ、我らは『暗く重き渦』、『重力渦』こそ我らが証明、我ら兄弟、永遠とわに共に在り」


 最後のその声で、団員さんみんなが一斉に手のひらの上に小さな真っ黒で渦を巻く重力魔法の渦を作り出す。


 あ。これ、みんなに最初に教わった重力魔法だ。


 俺も、みんなと同じように、両手に重力渦の魔法を捧げ持って見せて。俺も、親方にも教わりたかったな。


「相変わらず、ほんとに、タクミは泣き虫ネ? 男の子がそんなに簡単に泣いちゃダメヨ?」


 あれ。頬を涙が伝ってるのに気づいて、二の腕で涙拭うけど止まんねえ。


 レイリー兄ちゃんは微笑んでるし、後ろからは泣くな末っ子ー、とか言われるし。


 ああ、重力渦を出せることが兄弟証明になるんだったら、俺は一番最後の兄弟になるのか。それはちょっと嬉しいな。


「ルース。兄弟の証は成ったネ? どうするネ団長?」


「……実質団長はお前じゃねーかレイリー。親父の右腕は伊達じゃねえってか。

 ――クソが、俺だってそのくらいは解ってんだよ、ここでコイツを殺したって黒幕に良いように使われるだけなんだ、ってのはよ。

 ちょっとした八つ当たりだ、許せ……、兄弟」


 俺の目をまっすぐに射抜くように見て強く言われたルースさんの言葉に、俺はこくりと頷いて見せた。


「弟を泣かせる兄はいい兄貴でハ無いネ? これは団長に説教が必要だネ?

 タクミも大人になってることだシ、ここからは大人の時間だネ?」


 魔法解除してルースさんを地面に降ろしつつ、にやにや笑いになったレイリー兄ちゃんがぐぐぐっ、とルースさんをひじで押しやりつつ。


 顔を背ける様子のルースさんの顔を覗き込んだり、その間に他の団員さんが俺のこと囲んで来て体中ばんばん叩いて来たりで。


 手厳しいけどこういう体育会系なノリは嫌いじゃない。


「アー、お仕置きお仕置き。ジャア皆、これから団長の奢りで飲み屋にお出かけ、朝帰りコースネ?!」


 ――うぉぉぉぉ! とか同意の歓声上がって、ルースさんもんのすごい不機嫌そうな顔になってるけど。


 酒場に出かけることには異論ないみたいでレイリー兄ちゃんに連れ添われて先頭で歩き出してるし。


 ああ。良かったな。とりあえず丸く収まったかな。とか後を見送る感じになってたら。


 体中がしっ、と四方から掴まれたと思う間もなく、一斉に俺は皆に担ぎ上げられて肩車状態に。


「えっ? ええ? あれ、もしかして俺も連れてかれちゃう流れ??」


「アー、モチロン、タクミは我らの末っ子ネ? 歓迎会ヨ、その歳でお酒ダメとか言わないヨネ?」


「13歳でお酒っていいんだろうか?」


「この国の法律分からないケド多分大丈夫ヨ、ボクの国は水が貴重品で生まれたトキからお酒飲んでたネー」


 オメエの郷里は砂漠じゃねーか、とかツッコミ入りまくりなんですけど、レイリー兄ちゃん。


 あ、そうだ、リュカと一緒に帰るとこだったんだし。助けて?


 振り返ると、リュカはもうすごく離れたとこで俺に向けて無言でサムアップサインを出してるとこだった。


 口が『がんばれ』とか動いたような気がした。


 そうして、俺はいわゆる『大人の飲み会』って奴に強制連行と相成ったのだった。


 ――お酒飲んだら何故か俺は酔わないのに精神体で影響皆無なはずのクルルがべろんべろんになってました。


 まあ、酔ったクルルが可愛かったから、いいか。



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