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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第三章 王国篇
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30話 告白の返事

「では。始めようかのう」


 ツクヨミの言葉を皮切りに、中央に浮かぶ赤ん坊のクルルを中心に六芒星の形に立つタクミ、ツクヨミ、女神アマテラス――クシナダ、タキリ、サヨリ、タギツの六人がクルルに向かって両手を伸ばす。


「アメノウズメ――今はクルル、か。クルルの神力容量は実を言えば三貴神以前の古き神であるからして、三貴神全てを合わせた量よりも遥かに大きい。

 故に、我ら全ての神力を合わせても失われた神核を再生するまでにはいかんじゃろう」


「そうですね。せいぜい、精神体を呼び出す程度で終わると思いますが……。

 ここはツクヨミの神域、呼び出しさえすればあとはウズメ自身が如何様にも私達の神力を利用することでしょう。


 瞬間最大出力は私達三貴神が上位ですが、活用効率は古神のウズメの方が遥かに経験がありますから」


 ツクヨミとクシナダが軽く会話をする間にも、まるで枯れた井戸に注がれる水の如く膨大な量の神力がツクヨミの敷いた神力吸収陣の中央にあるクルルに吸い取られて行く。


「「「ううぅー、これはきっついですぅ、ととさま」お父様」父上」


 あまりの急激な吸収の勢いに、童女神のタキリ、サヨリ、タギツが弱音を吐くが、全員が等しく吸収されている状態故に誰も代わることが出来ない。


「タキリらには少しきついじゃろうが、暫し辛抱せよ。――主らの大好きなウズメが、そろそろ姿を見せるぞえ?」


 ――なんで俺には聞いてくれないんだ、と真剣に考えているのが全力で脂汗をだくだくと流し続けているタクミである。


 神力を扱えるようになってほんの僅かの期間しか経過していないタクミの両手から吸い取られる神力量は、神力を使用出来るようになってから使用して来た総量の数十倍を軽く超えるような莫大な量が吸い出されており。


 全量を吸い取られるような心配こそないものの、その流出エネルギーを支えるタクミ自身は流路となっている両腕が破裂してしまうかのような錯覚を覚えていた。


『……はふ……、美味しいにゃっ――。――ああああぁぁぁぁぁぁぁっ、ごめんなさい、ごめんなさいタクミくんっ?!?!

 吸いすぎましたぁぁぁぁっ?!』


 よく聞き慣れた声と同時に赤ん坊の肉体の上に瞬時に出現した半透明のクルルの姿を見て、タクミはぶはっ、と大きく息を吐くと同時に、安堵やその他もろもろの感情の瀑流により顔をクルルにまっすぐに向けたままその場に跪いた。


「……えっと。帰ってきたら言うことなんかいっぱいあった気がするんだけど。――なんかもう、全部吹っ飛んだ」


『ええっとっ、クルルもなんかたくさん言いたいことあった気がするんですけどっ、全部吹っ飛んじゃいましたっ』


 顔を見合わせ、どちらともなく吹き出して、跪いたままのタクミの前に、姿勢正しくちょこんとクルルが正座して。


「おかえり、クルル」


『ただいまですっ、タクミくんっ』


「――で、もう見慣れてるし別にいいっちゃいいんだけどさ。……なんで全裸なの?」


 はうあっ?! と目を見開いたクルルが目を落とすと、そこには決して大きいとは呼べぬまでも、美しく曲線を描き前に突き出た真っ赤な先端部がゆらゆらと揺れ続けるふたつの果実が存在しており。


『精神体ですからっ、服を忘れましたっ。でも、見慣れてるから別に、いいですよねっ?』


「恥じらいのない娘は感心せんのう、というか、久方ぶりに出会って何なのじゃが。――もしや、修羅場かえ?」


 ツクヨミの声に、えっ? と首を捻りつつタクミとクルルが周囲を見ると。


 ものすごい嫉妬の目線を向けて来るクシナダと、なんだかすごく疑惑の視線を向けて来るタキリ、サヨリ、タギツの三柱が、そこに。


「ととさま、浮気?」


「お父様、ウズメとどういう関係?」


「父上、タギツは父上について行きます」


『……ほえ?』


 四柱以上に事態が把握出来ていなかったらしく、クルルも疑念の声を上げつつ小首を傾げており。


 ……別室に場所を移して、クルルの持つ情報も合わせて詳細の突き合わせを行うことになったのだった。



――――☆――――☆



『えっとですねっ。最初の勘違いというか最大の間違いというかですねっ。

 タクミくんは確かにスサノオの表層人格として存在してるんですけどっ。

 ――そもそもっ、人間の魂とか、スサノオから分裂した半身とかじゃじゃないんですっ』


「「「「「「えっ?」」」」」」


 驚いたのはタクミを含む全員である。


 では、タクミが感じる郷愁に似たタキリたちやクシナダへの感情は何か、という点から始まったクルルの説明は、全員を更に驚愕させるに十分なものだった。


『タクミくんの正体っていうか、大元になってる神格はですねっ。クルルと同じ古神の一柱、ヒルコ、なんですよっ』


「なんてこと……、最初期に生まれた神ではないですか?

 しかし不具の子だった故に次元の間に返し神力に再変換された、と父上や母上には聞いておりましたが」


 驚愕に震えながら、クシナダが言う。同じく、驚きを隠せぬ様子のツクヨミも大きく息を吐いた。


「ヒルコに次いで生まれたアハシマと、最初の二柱は意識も性別もなく無反応であったが故に神力に戻され、再度条件付けを厳しくした後に生まれたのが我ら三貴神である、と説明を受けておったが。――意識があったのじゃな?」


『そうですっ、ツクヨミさん相変わらず賢いっ。

 ……表現する方法を知らなかっただけなんです。

 アハシマは本当にただの神力の塊だったので既に神力に還りましたけど――。


 ヒルコ――タクミくんは次元の狭間に還された後も自我を残して膨大な神力を維持したまま、巡り巡って地上に落とされたスサノオの引き出す神力の予備タンク、のような形でスサノオと融合したんですねっ』


「そうか。我ら三貴神より前に生まれた兄神故に、それは我らの神力と相性が良かろうて。

 もしや、先程使用したタクミの神力はスサノオの神力を『借りて』現出したもので、本来のヒルコの神力波長があるのではないかえ?」


 ぴしり、と閉じた扇子の先端をクルルに向けたツクヨミに、クルルは満面の笑みで大きく頷いた。


『その通りですっ。無限に力を欲する男神の目があるのでここ以外では言えませんでしたけどっ、やっとそれをタクミくんに教えることが出来ましたっ』


「てかさ。スサノオはなんで俺の中で眠っちゃってるんだろう?

 予測としては、クルルと同じく神核を奪われたから、神力凝縮で新しい神核を作ってる最中なんだ、って思ってんだけど。


 あと、その話だと、もしか俺とスサノオって分離不能だったりする?」


 タクミの質問に、ううーん、と難しい顔をしつつ、クルルは精神体でありながらテーブルの上にあった和菓子をひょいっ、と口に運んだ。


『スサノオの神核は体の外にあって、神核自体を武器として使ってたんですよねえっ。

 まぁ、武神によく見られる神核武器の使い方ですし、あれだけ暴力的な神力でしたから納得の使い方でもあるんですけどっ。


 天叢雲剣アメノムラクモノツルギって知ってますかっ? あれがスサノオの神核そのものだったんですっ。

 今は、たぶん男神に奪われちゃってますねっ』


「ふうむ、またもや男神か。なにゆえあ奴はそれほどまでに力を欲するのであろう?

 既に世界を滅ぼして余りある神力を持つであろうに」


「自己顕示欲や収集欲などといった欲望故に、ではないでしょうか。私が持ち得ない荒御魂の全てを持っている、と考えると分かりやすいような気がします」


「そんなものかのう。ふぅむ。同じ三貴神でありながら、疑問に思ったことすらなかったが、あ奴の行動原理こそ人間の欲望に近しいのではなかろうか」


 言いながら、会話の合間に菓子をつまみ口に運ぶ手は加速の一方であった。


 女性陣たちの飲食の様子に、タクミの脳裏には違った疑問が浮かんで来る。


「全然まるっきり関係のない疑問を挟んでマジ悪いと思うんだけど、気になっちゃって。神様ってモノ食べられるんだ?」


 えっ? という表情で、全員の視線がタクミに集中し。無知を晒したかのように気恥ずかしくなって慌ててタクミは片手を振って謝罪するが、その視線は次にクルルに向けられる。


「説明しておらなんだのかえ? というか、タクミの知識と人格が本当にただのヒト同然なのは何故じゃ?」


『ええっとっ。タクミくん、ヒトの食べ物でも、ちゃんと浄化して穢れを祓ったら神でも食べられるんですよぅっ?

 こちらに来てから何も飲食しなかったのは、単に必要がなかったからでっ。


 クルルの神器に宿らせたからクルルの神力を消費して活動しますけどっ、クルルの神力自体は殆ど無限ですしっ。

 タクミくんは元々持ってるヒルコの神力も併用出来ますからっ、この世が滅びるまで何も食べなくても生存出来ますしっ』


 じゃあ今ぱくぱく食べてるのはなんでだ、と尋ねれば「女子トークでお茶菓子があるのは当然」などと返答があり。


 正しくタクミは『女系集団では男性の立場は下よりも更に下』という尊敬する兄の言葉を思い出し、深く納得したのだった。


『タクミくんの知識がヒトレベルのままなのはっ、スサノオが天叢雲剣と同じくタクミくんを外部神力タンクとして活用したからでっ。


 ――ヒトと同じように転生を繰り返す特殊な神格なんですよっ、タクミくん、つまりヒルコはっ。

 最古神ならではというか、規格外というかっ』


「もしや――、本当のヒルコは感情がないのではないかえ? いやさ、なかったのでは?

 純粋な神力タンクとしての存在がヒルコだったのではないのかのう?」


『うっ。――鋭すぎますねっ、ツクヨミさんっ。その通りです、転生を繰り返させたのは、似たような人生を男女問わず悠久に繰り返すことで、感情というものの役割を魂に焼き付ける必要があったからで。


 原初のヒルコは、ただオウム返しに受けた反応をそっくりそのまま繰り返すだけの鏡のような存在でした。だから、クルルがそのように転生の輪を組み込んで――』


「じゃあ、俺って、この人生が終わって――死んで転生したらまるっきり別の人間としてまた生まれて来る、ってことかな?」


 自分のことの話し合いでありながらどこか他人事のように聞こえつつ、質問を差し挟むと、クルルは悲しげに首を振った。


『今のタクミくんが最後の転生で、この後は多分ありません。

 もしその実体を失うと、元々が純粋な神力の塊で、神の精神体というものが未だに形作られておらず、すごくヒトに近い魂の在り方を維持していますから――。


 輪廻の輪から外れて、ただアハシマと同じように神力の渦の中に還るだけだと思いますっ。

 地球が滅びて転生の輪の形が崩れてしまっていますから、もし転生することになっても物凄く先になるでしょうし――。


 死者の国を司るイザナミさまの目を逃れることはもう出来ないでしょう、神器として馴染みすぎてしまっていますからっ。

 ――ごめんなさい、これはクルルのわがままの結果なんですっ』


「……ほえ?」


『クルルは同じ古神の仲間として、最後の古神として生まれたヒルコのことを弟のように、子供のように、そして永遠の伴侶のように思ってましてっ。

 悠久の過去から今までをずっと近くで見守って来てましたがっ。


 地球が滅びることで、次の転生先と時期が読めなくなって、離れ離れになるのが寂しくて――。クルルの作った神器に、タクミくんとしての人格と魂を焼き付けたのが今のタクミくんなんです』


「お話むずかしすぎてわからないです、ととさま?」


「お父様であってお父様ではないのです?」


「どのような姿かたちであっても父上は父上と感じられるのです……?」


 疑問符を頭上に大量に浮かべている様子の三女の合いの手に、深刻な話の中でさざ波のように全員に笑みが浮かんだ。


『ううーん、難しすぎちゃったかぁ、タキリたちにはっ。

 んーとですねっ、つまり、現在のタクミくんのだいたい三分の一くらいがスサノオで、残りがヒルコ、くらいですねえっ。


 ――あっ。もしかしたら、スサノオが起きられるかも?』


 思い立った! といった風情で突然立ち上がったクルルの体の各所でたわわな果実や猫耳が揺れまくり。


 ぴん! と伸ばされた猫の尻尾が背に伸びるのが見えており、テーブルを前にあぐらをかいていたタクミの目の前には真っ白い毛に覆われた恥丘があったりするなどで。


「なんぼ女神の座談会つっても恥じらいくらいは持てよ」とツッコミたくなったものの。


 この場で唯一の男子としてはその常識がもしかしたら女神たちの認識では非常識なのかも、などと思ってしまうと抗議の声は上げられなかったのだった。


 気弱系男子、ここに在り。


『ええっとっ、じゃあ、タクミくん、行きますねっ?』


「って、待て待て待て、いきなり何する気なんだ、ってかどこから出したんだその半透明ながらめっちゃ光りまくってるハリセンを」

『たぶん、これで出て来るはずー、っとぅっ!』


 すっぱぁぁぁああん! という小気味良い音が響き渡ったと思うと、その光るハリセンが全力で横薙ぎに振り抜かれ――。


 直撃したタクミの側頭部から中身が飛び出した。――ようにタクミには感じられた。


「うおぉぉぉ、っっっ、たくはないな?? あるぇ?」


 思わず打撃を受けた側頭部を押さえたのも束の間、軽く頭を振って衝撃から回復しようとして、ハリセンが振り抜かれた先に。


 ……なんだか有り得ない物を見たような気がして、二度見。目を逸らし、三度見。――確かに、そいつはそこに、居た。


『ぐおおおぉぉぉぉォォォォ、なんっつー乱暴な起こし方しやがる、こんのクソ女がァァァァ!』


『ほら、出たぁ♪』


 自分と全く変わらぬ姿ながら半透明の眼帯の男の子と、全裸で半透明の猫娘が喧嘩しているというかじゃれ合っているように見える光景を間近で見れる機会、というのは最早訪れまい。


「ととさま? ととさまぁ!」


「お父様ぁ!」


「父上ぇ!」


「あなたっ!」


 家族の再会、と言えばそうなのであろうが、自分と全く同じ姿の人物に妻と子たちが駆け寄る姿も最早。


 いやもうどっちでもいいか、などと諦めに似た心境ながら、その光景自体は微笑ましく他人事ながらタクミ自身も嬉しく思った。


「あまり束の間の再会を喜ばせるものでないぞえ? タクミはここから更に南下し、男神の元まで旅するのであろう?

 であれば、当然タクミの中で眠る融合中のスサノオも引き連れて行くことになろう。


 それに、ウズメ――クルルはこの場を離れればその精神体は維持出来ぬであろう? どうするつもりじゃ?」


 親子の再会を見やりながら、ツクヨミが傍らに横座りで座り直したクルルに尋ねる。クルルはその問いに笑顔で答えてみせた。


『スサノオの神力はスサノオが実体現出のために起きる間も惜しむくらいの大急ぎで新しい神核を作ってる最中ですから。

 ――今ちょびっとクルルが食べちゃいましたので少し遅れるかもですけど、いずれ分離しようと思えば分離出来るようになると思いますっ。


 魂の根っこでは融合して長いですから簡単ではありませんけどねっ。

 男神と女神で分かれてるアマテラスたちくらいには、別になれるだろうなあ、って思ってます』


「ほほ、言われてみればそうじゃな。分離はしておるが、姉君と男神の魂の根源は同一のものじゃ。であれば、スサノオも同様に分離可能か」


『あとはぁ。クルルは、えっと、タクミくんが迷惑でなければっ、タクミくんの中に間借りさせて欲しいなっ、と思ってまして……、ダメでしょうか?』


 全裸の猫耳美少女が自分に向かって申し訳なさそうに懇願してくる様子はもう。


 いや、そのようなことはともかく、突然の申し出にタクミは困惑するばかりだった。


「えぇ? 間借りって、ええーっと、ごめん、どういうことかちょっと理解が追いつかない」


『あ、そうか。タクミくんの知識はヒトのままですもんねっ。じゃあ、ちょっと、実際にやってみますけどっ……』


 そう言うなり、たわわに実った果実をぶるぶると揺らしながらテーブル上を四つん這いで這って近寄って来る猫耳美少女の姿は準賢者予備軍で前の人生を終えたタクミにとっては耐え難き光景であり。


「ちょっ、おまっ、待っ……?!」


 クルルの柔らかな唇が自分の額に触れた、と思う間もなく、眼前のクルルの姿が瞬時に掻き消えた。


 と、同時に、タクミの全身に心地よい体温にも似た熱気と至上の幸福感が充満するのが分かる。


『分かりますか、タクミくん? これが、融合状態なんですけど……?』


 ――分かる。ていうか、判ったし、解った。この状態の維持には俺の、ってかヒルコの神力を使ってんの?


『そうですっ。クルルの神力はあっちで寝てる実体を通す関係で、使うと肉体損耗がまた進むので――。

 出来ればクルルの神核を取り戻すまで、この状態を維持させてくれれば、って。


 ――ダメだったら、クルルはおとなしくここでずっとタクミくんの帰りを待ってますっ』


 ――ダメなわけないじゃん、クルルの神核を取り戻す旅なんだから。一緒に行こうよ? そうそう、それでさ。ずっと伝えなきゃ、って思ってたんだよな。


『??』


 ――返事、してなかったじゃん。言うよ。……俺も、クルルを愛してる。ずっと一緒にいてくれ。


『?A?Q?!!!!???』


 言葉にならない叫びとはこのことか、とタクミは苦笑した。


 どうやら脳内の話し合いは表には伝わらないらしく、微妙な表情で自分を見つめているツクヨミと目が合い、クルルの望み通りタクミの身体にクルルの精神体を受け入れたことを告げる。


『ってよォ、ォィォィ、俺様の寝床を何勝手に占拠してくれちゃってんだよ、俺が入る隙間が狭っ苦しくなってンじゃねエかよォ』


 背中に泣き顔で抱きついているクシナダと、両手に三女を引き連れながら戻ってきた半透明のタクミ――、スサノオが、本気ではない証拠として凶悪な笑みを浮かべつつ、クルルとの精神融合を果たしたタクミに向かって文句をつけた。


「家族の団欒はもういいのか? って、自分の姿に話しかけるのもなんだか不思議だなあ」


『オメエが気づかねえだけで俺様はときどき目覚めてたんだよ、だから俺様には別に不思議な感じはしねェ。

 ってか、言われてみりゃこんな形で分離したのは初か。


 ――まあよォ、男神に腹ァ立ててんのはオメエだけじゃねェ、ってことは解ってンよなァ?』


「当たり前だろ。ってか、あいつはもう存在してちゃいけない、って俺が思ってるのも知ってるよな?」


『ったりめェだろ、クシナダの半身つっても、もうやりすぎもやりすぎだろ、いい加減そろそろ潰さなきゃならねェ。

 ……だからよォ、俺様はクシナダやタキリたちの力も借りて、なり振り構わずに神核生成を急ぐことにしたぜェ?』


「……ん? 俺の体に戻るんだよな、とりあえず?」


 疑問を口にしたタクミに、スサノオは傲然と凄みのある笑みを浮かべてみせた。


『おぅよ、まずはテメエの身体を昔の俺様並みに成長させて拡張してだな、俺様とウズメが同時に入れるスペースを作ってよォ。


 そンで、クシナダたちが付いて来るっつーからよォ、家族の結束って奴で、オメエに日毎夜毎パンクすっくらいの勢いで神力注いでよォ? 俺様の神核生成を急ぐって寸法よ』


「――お、おぅ? この神器の身体って成長出来るものなのか?」


 しげしげと自分の身体を見回しつつ、スサノオに向けた台詞は、どん、と力強く胸の辺りを拳で突くことで返された。


『三貴神全員と古神アメノウズメとヒルコの全力コネりゃどうにでもなんだろうがよォ。見くびんなよ?

 神力総量は古神には及ばねえけどよォ、瞬間最大出力なら三貴神に敵う奴なんざ神界に居ねェんだよ、だいたい』


 もう一度、どん、と強く胸を突かれて、よろよろとタクミは数歩後退した。


 その顔を射抜くように、はっきりと眼帯越しにスサノオが見つめているのが感じられる。


『オメエも元の身体に近い体格の方が戦い易いってモンだろうがよォ?

 ガチで喧嘩すンだぜ、全力が出しやすい身体にするのは当たり前ってモンじゃねェのか?』


 それもそうだ、とスサノオがやったように、同じく拳で胸を突き返して。


 ごんっ! と音が出る勢いで額同士を突き合わせたタクミとスサノオは、同時にツクヨミの方を振り向いた。


『「てなわけで、協力よろしく、ツクヨミさん」姉貴』


「……拒否権なぞないじゃろうの、ほんに、わがままな弟を持つと姉は苦労する」


 口では渋々といった風を装いつつも、最初からツクヨミに拒否するつもりなどないことは、いそいそと立ち上がる様子などでバレバレであった。



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