29話 慢心と増長
「って、ゲート開けば一発だったんだよな。忘れてたわ。馬鹿か俺は」
ちょっとだけ息切れ感を覚えつつ、ぐるぐると迂回路を経由してやっと辿り着いたツクヨミ神殿の正門付近。
……「うぁっちゃーorz」って感じの惨状が既にそこに展開されてたりして、内心俺はかなり頭を抱えちゃってたりなんかしちゃったりして。
「賊め、神妙に縄につけ!!」
とか叫んじゃってるけどシーベルさん、声震えちゃってるから。無理しないで。たぶんガチ戦闘って初だろあんたら?
片手でクルルを抱えたまんま、もう片方の手で銃棍ぶんぶん振り回しながら俺の重力魔法で高圧縮された魔法弾の数々を乱射しまくりなティース姉も、やりすぎだからね?
一応冒険者の心得に則ってか、無駄に殺傷はしてないみたいだけど。
それでも俺の魔力をふんだんに利用してあほみたいな威力の攻撃魔法が超圧縮されてる魔法弾を使用してるし、ティース姉の超絶正確無比な射撃で撃たれまくっちゃ、結局剣と投げ槍しか武装がないらしいヴァルキリア騎士団には相手が悪すぎるみたいだ。
ゆっくりと歩を進めるティース姉とリュカたちの周囲を囲って遠巻きにしてるのは使命感の現れなんだろうけど……。
剣持つ手とかめっちゃ震えまくってるし、一般女性騎士とか腰が引けまくってるのが分かるし。
「銃の概念教えるの早すぎたかなあ……、何もかもフープ兄の言う通りで、尊敬するってかむしろ引くわ。どんな先見性持ってるんだあの人は」
呟きながら、戦闘態勢を取りつつ目の前に居た女騎士たちを押し分けて、長い階段を降りつつティース姉たちの目前に近づく。後ろからなんか罵声とか聞こえるけど無視無視。
「リュカはちゃんと割り切ってるみたいだな。リュカにとっては単なる便利な武器扱いか。――まぁ、元々自分なりの戦闘法が確立してたし、フープ兄とみっちり訓練してたしなあ」
ティース姉の後ろをカバーする形でリュカと、拘束を開放されたらしいライバックさんが戦ってるのが見えるけど、ティース姉みたいに武器の威力を誇示する感じじゃなくて、牽制してるだけに留めてる感じが、やっぱり戦闘の場数踏んでるなあ、って思ったりする。
「タクミさん! 無事でしたんですのね!! では、この後はどう懲らしめてやりましょうか?」
「……懲らしめられるのはティース姉の方だよ? フープ兄の伝言で、『ティースが力に溺れたら全力で叩き潰せ』って言われててさ。
こんな風に、真正面から突破するようなアタマの悪い力技を選択してるようじゃ、クラさんにも怒られるでしょ」
俺の返答に驚きで目を見開いたティース姉が、口をぱくぱくしてるのが見えるけど。
そりゃね、銃棍を手に入れるまではいつも攻撃魔法ひとつ唱えるだけで青息吐息で、魔法詠唱の間が空きすぎでシルフィンにも怒られまくってたのも知ってるし?
そういう不便を全部解消する道具を手に入れちゃった上に、魔力不足は俺っていう魔力タンクを利用することで欠点がなくなっちゃった、って勘違い起こすのも無理ないよ。
「敵に回るかもしれないこいつらの前でやるのもどうかと思いはするけど。
ツクヨミ『姉さん』と話はついたから、邪魔して怒られるのはおまえらだからな?」
言葉の後半は周囲を囲んでるヴァルキリアたちに向けたものだったけど、理解出来たかどうか。まあ、乱入するほどの技量もないし、ほっといてもいいか。
話の内容を汲んでくれたみたいで、ささっとリュカがクルルを抱えてライバックさんと一緒に脇に引き下がってくれたし。
「あ。俺の短剣回収すんの忘れた。――タキリちゃん、サヨリちゃん。ちょっと手伝って?」
軽く両足を広げて半身の立身中正から両拳を目の前に構えて、両手に持つ短剣がなかったことに気づいててへぺろ。
後ろについて来てた三童女のうち、タキリちゃんとサヨリちゃんに声を掛けると、二人は大喜びで俺の左右の腕にぶら下がった。
「父上、私は……?」
「あー、いや、タギツちゃんは別のことを頼みたい。ヴァルキリアたちが邪魔しないように見張ってて?
それが終わったら後で街に買い物にでも出かけよう、ね?」
「……はいっ!」
途端に喜色満面で思いっきり頷いてみせるタギツちゃんが可愛すぎて。
あー、やべえ、スサノオの子だって分かってんだけど、だから兄弟親戚の子みたいなもんなんだけど、うん。幼女マジ可愛い。
――いかんっ、YesロリータNoタッチの大原則に触れるんじゃないかこれは?! まぁでもタッチしないと使えないし、いいかなあ?
「「ととさま「お父様」のお役に立ちます!!」」
ひじの辺りにぶら下がってたタキリちゃんとサヨリちゃんが唱和したかと思うと、真っ白い光を全身から発して、同時に、俺の両拳に煌めく15センチ程度の白剣が出現する。
――タキリちゃん、サヨリちゃん、タギツちゃんは『スサノオが愛用してた神剣の化身』なんだよね。
三神合身すると一本の『十束剣』になるんだけど、俺自身が剣の使い方を覚えてないからこういう使い方になっちゃうんだけどさ。
「タクミさん、その子たちは……?! いえ、その剣は一体……」
「説明は後々。ちゃっちゃと終わらせよう? ハンデで、俺は魔法を一切使わないし」
あ。さすがにむっとしたみたいだ。クルルをリュカに預けてフリーになった両手で、銃棍を軽々と自在に振り回して俺の方にびしっ、と向けて。
「いくらタクミさんでも、わたくしを舐めすぎではないですか? 以前と同じように考えているのでしたら軽く考えすぎですわよ?
第一、その場からほとんど動かずにじわじわと距離を詰めて行くタクミさんの戦闘スタイルでは、わたくしと相性が悪いのではありませんか?」
「へえ? そうかな?」
言われて、俺はいつもの地面にしっかりと重力魔法まで動員してがっちりと中腰で地面を掴み立つスタイルをやめて、ボクシングのフットワークみたいにつま先立ちで左右にリズミカルにステップを踏むスタイルに変更する。
「これもフープ兄やクラさんにさんざん言われたことじゃん? 『出来ない』のと『出来るけどやらない』の間には天地の差があるんだって」
言いながら、魔法は使わずに両拳をビーカブー・スタイルみたいに顎の前で揃えてティース姉に近づくためにダッシュ。
距離があるんで俺の方を見据えて落ち着いてティース姉が銃棍で射撃して来るけど、それが甘いんだってば。
「がいんっ!」なんて音したけど右剣のサヨリちゃんは大丈夫だったかな? 『大丈夫ですー!』とか脳内にサヨリちゃんの声が響くからいいのか。
「弾いた!? 魔法は使わないんじゃありませんでしたの?!」
「使ってないよ。ああいや、厳密には魔力検知は使ってるけどさ。ただ頑丈な剣で弾丸を横からぶん殴って弾いただけよ?
銃棍は長いのと射速が速いから、発射時の銃棍の向き、イコール弾丸が飛んで来る先、ってことだよ。
あんな風に乱射してたら俺じゃなくても気づく相手は出てくるよ」
喋ってる間にも銃棍を振り回しつつ発砲して来るけど、左右のステップで避けるだけでそれは回避出来た。
なまじ弾速が速いのと、発砲するときに視線や動作がそれ用に『自分で射撃しますよサイン』を作っちゃってるせいでモロバレなんだよね。
まあ、戦闘素人や魔物相手にはそれで十分なんだけど、ある程度以上の剣術や格闘の達人には通用しないんだよね。
例えるなら「大振りのテレフォンパンチをやらかしちゃってるボクシング素人」みたいな感じ。
「さあ、ここからは俺の間合い。なんだけど、攻撃しないから撃っていいよ?」
拳を伸ばせば当たる距離まで近づいて、挑発とも取れる言葉を掛ける。
むかっ、って感じで眉を釣り上げたティース姉が銃棍を振り下ろして来るけど、それも間違いなんだよなあ。
「きいん!」って軽い金属音がした、と同時に、俺はタキリちゃんの左剣で銃棍を受け流して、前のめりに態勢を崩したティース姉の後頭部をがしっ、と左手で鷲掴みにして。
……無理矢理にキスした。
――ずるずるずる、って音がしてもおかしくないくらいの勢いで、ティース姉の中にあった「俺が貸してた魔力」を根こそぎ吸い上げる。
「……ああ、やっぱり。すげえ溜め込んでたね。最近自分からキス求めて来たり、頻度が多くなったからそうじゃないかな、とは思ってた」
俺が貸してた魔力を全部取り上げたら、ティース姉に残るのは一発魔法を撃つだけでへとへとになっちゃう極端に容量が少ない自前の魔力だけで。
それを理解出来たのか、ティース姉は銃棍に縋るようにへなへなと座り込んで、傍らに立つ俺を涙目で見上げて来た。
……うっ、罪悪感すげえ。恨むぞフープ兄。
「あー、いや、泣かせるつもりはなくて、フープ兄の指示に従っただけ、っつか、武器に振り回されちゃダメ、っつか。
それ、初心冒険者の頃に俺もやらかしたミスなんで」
そう。クルルに神鉄槍を作って貰って有頂天になった俺がやらかしたミスと同じなんだよなあ。
道具を使う自分も一緒に成長しないと宝の持ち腐れっつーか、逆に危ないっつか。
あのとき俺は神器だったから戦闘で敗北しても全くの無傷だったけど、ティース姉みたいな美人さんがさあ、俺の目の届かない場所でこんな『稚拙な戦闘を自分からおっ始める』ようになっちゃうのはかなりヤバイ傾向なんだよね。
痴漢対処な護身術習いたての女の子が、積極的に自分から痴漢に喧嘩売るくらいのヤバさ。『生兵法は怪我の元』って感じで。
相手が自分より格上の武術とかを修めてたら、戦闘経験が違いすぎて通用しないのは解りきってんだから。
「タキリちゃん、サヨリちゃん、あんがと。戻っていいよ。後でタギツちゃんと買い物行こうな」
「ととさまのお役に立てて、タキリ、嬉しかったです!」
「お父様とお買い物、サヨリ、お菓子がいいですー!」
ああ、マジ可愛い。手持ち少なくなってるけど全額菓子に突っ込みたくなってきた。
いやそれは置いといてだ。白剣から童女の姿に変化したタキリちゃんとサヨリちゃんが、ヴァルキリアに睨みを効かせてたタギツちゃんに駆け寄って、三人が手を繋いで輪になって、くるくると飛び跳ねながら回る様子を軽く振り返って眺めつつ、俺は俯いてしまったティース姉の前にしゃがみ込んで言葉を続ける。
「――フープ兄に言われたじゃん、『二人ワンセットで遠近をカバーし合う戦い方が主流になる』って。それは逆に言うと、『ティース姉の戦い方は近接戦闘に向いてない』ってことだよ。
現に、俺に近づかれたら連射で三発しか撃てなかったし、当たったのは最初の一発だけだし? 近づきながら横方向に激しく動き回られたら狙いが定まらなかったじゃん?」
びくり、と肩を震わせるティース姉がなんだか可哀想になってきたけど、このまま放置すると危なすぎるし。
「だから、銃棍はさ、ぶっちゃけると『極端に間合いの長い槍』なんだよ。相手に近づかれたら、俺みたいな前衛と交代して、俺が盾になってる間に距離取らなきゃいけないし。
元々近接戦闘に慣れてるリュカ専用に近接用の銃把棍作ったのに、今のは見てたら前後衛が真逆になってたじゃん? それめっちゃ悪手だよ」
「――確かに。慢心しておりましたわ……。相手が正規騎士でしたら、盾で防がれたままで包囲されたかもしれませんし」
「あ。そういう方法もあるか。まともに受けなきゃ弾けるのは俺がやった通りだし。
弾速が速すぎて着弾反応が間に合わないのが原因だから、そこんとこ改善の余地あるかも。
今は『着弾を見てから爆発を命令してる』状態だよね」
「そうですわ。そう、何故そこに気づかなかったのでしょう。
――術式を事前に組み込んで自動化しておけば弾いた瞬間に爆発させられたでしょうに。
……兄さんに一発も命中しなかったのも、タクミさんがやった通りの先読みですわね」
お。いつもの調子が戻ってきたかな?
元々、戦闘中でもどんどん使ってる技を無限変化させる創造力の創意工夫がティース姉の最大の強みだったんだから、そこを切り捨てちゃってるのはもったいないな、と思ってたし。
「あと、戦闘慣れしてると分かるんだけどさ、ティース姉は射撃する時に『ここで撃つぞ!』ってのが構えや視線からモロバレなんだよね。気づいてる? 撃つとき必ず銃棍を右手に持ち替えてるの」
はっ、と息を飲む気配が。あー、やっぱ無意識か。利き手にしちゃう気持ちは判らんでもないけど。
「……リュカを妹みたいに思って可愛がってるのは分かるんだけどさ、戦闘経験で言うと俺よりも遥かに格上の『戦士』なのがリュカだから?
リュカを格上だと認めて、いろいろ教わるといいと思うよ? あとライバックさんとか。
後衛の戦い方ってのは俺は判らないけど、ティース姉の経験と合わせて武器の使い方に習熟したら、前みたいに『慎重で達人な後衛』の立ち位置に立ち戻れる、と思う」
「言われてみれば。リュカちゃんはその場で臨機応変に戦い方を変えられますものね。
お祖父様の神殿内では役立たず、と言われたのに重力渦の使い方をすごく短時間でマスターしてわたくしの射撃準備の手伝いをしてくれましたし」
あー、クラミツハの神殿内のあれか。射撃のときそんなことやってたのか。
元々、短刀使ってたのはシェリカさんが使ってた愛用の短刀を貰ったって理由らしいけど、元々持ってた戦闘術と相性最悪だったんだろうな。
シェリカさんは投げ物主体で格闘は従って性格の戦闘法使うし。
「……落ち着いたっぽい、かな? なんかオレの名前出てたけど、悪口じゃねェよな?」
言いながら、大事そうに両手に抱いたクルルを俺に差し出して来るんで、リュカから受け取って一言。
「うん、落ち着いたと思う。ってか中で話ついたから、戦闘自体が必要なかったんだわ。
これからクルルのこと頼むんで俺はまた奥に戻るけど、リュカたちはどうする?」
「ライバックさまの救出は終わったし、タクミたちの方で片付いたんだったらオレらもここに居座る理由はないかな。ってことで、街の宿に戻ってるよ」
「不幸な誤解だったということで、ここはお互いに刃を収めませんかな?」
よく通る大きな声で、周囲を見回したライバックさんがヴァルキリアたちに向かって締めの言葉を。
がくがくと首を縦に振るルシリアの姿を見つけて、苦笑が浮かんでしまう。
完全に格下みたいに侮ってた相手に、ご自慢のぴっかぴかな白銀の鎧を傷だらけにされまくってちゃビビりまくりも頷けてしまうんだなあ。
いくらド素人でも、『こっちが本気で相手したら、全員確実に殺される』のが分かったんだろうし。
「いつ戻れるかはちょっと先が読めないんで、ライバックさん、ティース姉とリュカのこと、よろしくお願いします」
「次第は解りかねますが、タクミどのもご無理はなされませんよう。あと、これをお返ししておきます」
上手いこと場を収めたライバックさんに頭を下げたら、取り上げられたまま忘れてた俺の短剣を差し出してくれた。
ライバックさんの装備と一緒にまとめて保管されてたそうで。
もう一年以上も一緒に戦ってる相棒になっちゃってる短剣だもんな。有難く受け取って腰の後ろに収めた。
やっぱり、いつもあるべきモノがなくなると違和感ばりばりだよなあ。
――――☆――――☆
「いつもあるべきモノがそこからなくなると、違和感がある、とは言うけれども。あの子たちはどうなのかしらね」
緑の蔦が部屋中のそこかしこを侵食している狭い書斎の一角で。
黒壇のテーブルに乗せた半分ほどまで中身の減った酒瓶から装飾を凝らしたガラス製のグラスへと中身を注ぎながら、シルフィン・フェイは独り言のように呟いた。
片手に持った羊皮紙を、テーブルの傍らに立てた蝋燭の明かりで興味深げに読み通しながら、グラスを傾けてちびちびと舐めるように中身に舌を伸ばして少しずつ消費していく。
「――ライバックの報告書ぉ? あの人もマメだねぇ、わざわざ羊皮紙とか使わなくてもぉ、念話一発で済むでしょーにぃ?」
シルフィンの実妹であるシフォンが、シルフィンの読む羊皮紙製の報告書を覗き込む。
――『爆炎』の二つ名の通り、凝縮した炎の球体を両手に持ち、お手玉のように両手で投げ上げつつ遊んでいる様子が見える。
その周辺は、シフォンの持つ炎球により更に光量を増すと同時に熱量も増加したように思えた。
「こらこら。手紙読むなら後で渡してあげるから。邪魔しないの。……お酒も手を出さない。これは『あたしが貰ったお酒』なんだからね?」
覗き込むついでにシルフィンの酒を拝借しようと酒瓶に手を伸ばした手をはっしと掴まれて、きょとん、とした表情でシフォンはシルフィンの顔を覗き込んだ。
「めっずらしー? 酒に執着するとか初めてじゃないぃ? 味なんかどうでも良かったんじゃなかったのぉ?
だいたい、貰ったっていつ、誰にぃ??」
シフォンの詰問口調に可愛らしく舌を出しておきながら、シルフィンは酒瓶を取って両腕に抱くと、椅子ごとグラスを持ってシフォンから遠ざかった。
「『あたしのお墓に供えられたあたし宛のお酒』なんだから、これはあたしだけが飲んでもいいお酒、なのよ。
悔しかったらあなたも贈ってくれる相手を見つけることね」
「それは贈られたって言わなくないぃ? ってーか、クラオカミの神力消えたって言ってもあそこにもう一度行ったんだぁ?
やっぱりお姉ちゃん度胸あるぅ」
差し出された報告書を受け取り、炎球を天井付近に飛ばして光量を確保したシフォンが、酒に未練たらたらで相変わらずちびちびと飲み続けるシルフィンの方と報告書の双方に目線を動かしつつ、報告書の中身に目を走らせる。
「どれどれふんふんなるほどぉ? あー、タクミってあの気色悪い魔力放ってた眼帯のガキかぁ。
……あいつ、スサノオの化身だったんだぁ、どーりでくっそ硬いわけだぁ。あたしと相性悪すぎぃ。
念話を使わないのはあいつに気づかれる可能性が上がったってことぉ?」
「そうね。クラオカミよりも遥かに面倒ね。中身がスサノオだから、どこまで伸びしろがあるのか判らないし。
だから、こういうアナログな方法に変えたライバックの慎重さを見習うべきかもね」
「ってーかぁ、ライバックを入れたのは何のためぇ? 動き自体は『アマテラスの天の目』でいつも追えるんじゃん?
今はツクヨミの神殿に居るみたいだけどぉ?」
「あれは確かに万能に思えるけど、周回軌道の関係で昼間にしか追えないし、ツクヨミやスサノオの結界で覆われたら分からなくなる欠点があるからね。
やっぱり『近くに居るスパイ』ってのはいつになっても重要なのよ。でも」
グラスの底に残った酒の残りを一息に煽って、アルコール混じりの青い息を吐いたシルフィンは、凄みのある笑みを浮かべて、言った。
「ライバックの目的自体はあの子たちに害を成すものではないから、あたしたちの意図が混じってるとは気づかないでしょうね。
そこに気づいたときが、対決のとき、かなあ。待ち遠しいわ」
「あたしはあたしの神使なカグツチさまが復活為されるんだったら何でもいいんだけどねぇー。
小難しいことはぁ、ぜぇーんぶお姉ちゃんにお任せするのでぇ。お姉ちゃん頑張ってぇ?」
新たにグラスに酒を注ぎ直しつつ、シルフィンは苦笑を浮かべて最愛の妹に軽く頷いて見せた。