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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第三章 王国篇
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27話 強制連行

「そこの眼帯の子供! 騎士団命令である、神殿へ連行する!」

「……きょろきょろするな、貴様だ貴様!!」


 アゼリア王国北端の港湾都市、シュラーデンの港で乗ってきたヨットの売買を商人と交渉していたライバックに付き合って同行し、必須日用品である潤滑油を見繕っていたタクミに、複数の鋭い女声が掛けられた。


「ほえ?」


 交渉する話を止めて、顔を上げたタクミの隙を突いて、交渉していた商人がタクミの手に乗せられていた銀貨を全て奪うと同時に、交渉していた潤滑油の入った革製の油袋をその手に握らせる。


 そのまま、その商人はにこやかに笑い会釈しつつ手早く広げていた商品をまとめ、軽く手を振りながら足早に去って行った。


 面倒事に巻き込まれるのを嫌いつつ商談は――半ば強制的、かつ商人側の要求を全面的に適用させた状態で――成立させていった逞しい商魂に苦笑を返しつつ、タクミは誰何の声を発した相手に振り返った。


「どちら様でしたっけ?」


「寝ぼけたことを抜かすな、子供の分際で! この鎧装束を見れば、ツクヨミ様の親衛隊であるヴァルキリア騎士団であると一目瞭然であろうが!」


 誰何した女性騎士とは別の、傍らに立つやや背の小さめな少女騎士が色めき立って強い口調で詰問を続けて来る。


 見れば、いつの間にかそのヴァルキリア騎士団に囲まれているようだった。


「やめよ、シーベル。我らはこの副隊長シーベルの名乗った通り、神殿直属護衛騎士団ヴァルキリアである。

 私は軍団長のルシリア、先ずは部下の失礼を詫びよう」


 口では詫びの言葉を発しながらも、ルシリアと名乗った女騎士は頭を下げるような様子はなく、傲然と1メートル程度の投げジャベリンを手にしたままタクミの前まで進んだ。


 それを、さりげない風を装ったライバックがにこやかな笑みを貼り付けてルシリアの進路に割り込み、進路を遮った。


「この子は生来盲目で、こうして眼帯で目を防護しているだけの障害者。

 神聖魔法と言えども生来の欠落は完治させられませんことはご存知でしょう?


 何を問題にしておられるのかは解りかねますが、この叔父に免じてまずは私を通して頂けると有り難いのですが」


「抜かすな、痴れ者が!」


 ルシリアではなく、副隊長と紹介されたシーベルがルシリアの横合いから槍の底部で鋭くライバックの左腕の根本を突いた。


 左腕全体に走る鋭い痛みに、ライバックがやや顔をしかめるが、進路は譲らないままその場に留まる。


「これはこれは、ただの旅人に手痛い仕打ちですな。皆さん殺気立っておられるようですが、何か、あったので?」


「とぼけるな下郎! 戦地にあって同地の騎士団に逆らう時点で貴様が敵方であることは明白!」


「そうよ、お姉さまやっちゃえ!」


「敵は皆殺し、我らヴァルキリアの威光を示すとき!」


 剣呑な空気を察したのか、あれほど行き交う人の多かった桟橋周辺はあっという間に人の波が引き、ルシリア、シーベルと対峙するライバック、タクミを中心にそれを囲む純白に赤のラインをそこかしこに入れた全身甲冑に整った顔だけを晒している少人数のヴァルキリアたち。


 そして、それを更に外側から遠巻きに囲む野次馬の集団、という構図が完成していた。


「見れば商人でなく、隠してはいるがその身から発する魔力量は一般人を遥かに超え、魔術師とまでは行かぬが恐らく戦士職の者であろう、その方?

 北方冒険者に属する者か。しかし問題はその方ではない。そちらの子供よ」


 落ち着いた声を発しつつ、それでいて鋭い眼光を向けたルシリアに、視線の先に居るタクミは軽く両手を上げて胸の前で振って見せ、害意がないことを態度で示したつもりだったが、どうやらそれは逆効果のようだった。


 油断なく投げ槍を構えた女騎士たちが、じわじわと包囲を狭めて来ているのが視界の端に映る。


「……しかし、耳慣れぬ言葉を発しましたな? 『戦地』とは?」


「とぼけるな。先日、我らが神殿が属するアゼリア王国は南方に国境を接するフィーラス帝国より宣戦布告を受けた。故に、この地も既に戦地である。

 王国戦時特例法に則り、我ら神殿騎士団も治安維持のために周辺にて怪しげな非領民を捕縛する権利を有している」


 ライバックののんびりとした口調に惑わされる様子もなく、ルシリアは言外に捕縛を目的としていることを理路整然と告げた。


「まずは武装解除だ。隠し持っている武器を全て出せ。

 ……安心しろ、その方らに害意なきことが分かれば所持品は全てそのまま返却する。


 ――現状の問題は貴様ではなく、そちらの子供だ」


 やれやれ、といった風情でターバンに良く合う砂漠の商人風の衣装を纏っていたライバックを部下のシーベルに任せ、ルシリアは所在なさげに佇んでいたタクミの眼前まで数歩を進んだ。


「坊主。貴様が見た目通りの子供ではないことは既にわかっている。隠し立てすれば為にならんぞ?」


「――参考までに、俺を只の子供じゃないって思う根拠は?」


「この子供、ルシリア様に口答えするとは!」


「待て、セリス。この子の疑問も尤もだ、順を追って説明せねば納得出来まい」


 既にタクミたちを囲う包囲網は、包囲を構成するヴァルキリアたちが素手で触れられる距離まで狭まっている。


 タクミの横に立つ、セリスと呼ばれた赤髪の女騎士の憤慨を軽く片手で制止し、ルシリアは言葉を続けた。


「まず第一に、その発散魔力量だ。我ら騎士団は神殿所属であり全員が魔法騎士、魔力の総量を見るすべは全員が等しく身に付けている。

 その目から見れば、君の発散する魔力は――盲目であり発散魔力で視界を得ているであろうことを差し引いても、あまりにも膨大すぎる」


「ていうか、もう魔物レベルだって言った方がいいですよねー」


「そうそう、そんな気持ち悪い真っ黒な魔力放つ人なんか信用出来るもんですか、中身だって見た目通りの子供かどうか怪しいもんよ」


 あからさまな嫌悪の目を向ける周囲の女騎士たちが同調の声を上げる。


「……口を挟むな。わたしが説明中だ。そして第二に、恐らくだが君はそのローブの下に鎧を装備しているだろう?

 完全防備のまま一般人に紛れて何を企んでいた?」


「いや、企むっつかただの買い物を……」


「見え透いた言い訳はもういい。詳しくは神殿で聞く。同行願おう。そして」


 眉間に皺を深く刻みつつ、怒気を露わにしたルシリアは荒い息と共に最後通牒をタクミに叩きつけた。


「我が神ツクヨミさまの神託もある。昨晩港に入港し、早朝まで周辺を探る様子を見せていた盲目の子を疾く神殿まで連行せよ、との仰せである。

 神命につき、逆らえば殺してでも連れ戻る。いかがか?」


「うーん。女の子とり合うのは遠慮したいし。これは神殿に行く流れなんだろうなあ」


 言いながら、タクミは顔は170センチ超の長身なルシリアを見上げつつ。


 やや後方から近づく気配を伺っている様子の宿の手配に別行動を取っていたリュカ、ティースたちを魔力検知で把握し、近づくな、との意志を込めて軽く魔力で押し戻した。


 ここで一網打尽となるよりは素直に従って機会を伺った方が良い、との判断からだったが、付き合いの長いティースがすぐにその意図を察したようで、固い表情ながらなおも進もうとするリュカを押し留め、赤子のクルルをしっかりと両腕で抱いたまま、人混みに紛れる様子が見えた。


「武装解除って短剣しか持ってないんだけどそれ出せばいいのかな」


「我らを舐めるな、小僧! 衣類も全て剥ぎ取り裸で連行するに決まっておろう! 罪人の分際で生意気な!!」


 シーベルの嘲笑を含む上から目線の命令口調に、タクミはかなりむっとして先に立つライバックを見た。


 ……槍で小突き回されながら、シーベルの言う通り衣類までを剥がされ半裸になりつつあるところだった。


 ちらり、と目が合い、お互いに軽く首肯し合ってここは無抵抗が得策、との意志を確認し合う。


「ははぁ。なるほど。まぁ女の子に手を上げるつもりは今んとこないけどさ。……後悔すんなよ?」


 言いながら、身に纏うローブを脱いで地面に投げ出し、手早くローブで隠していた身体にぴっちりと覆う鎧を乱暴に引き剥がしつつ、義手、義足を装着解除し無造作に地面に落として行く。


「むっ、いや、まさかそこまで重傷の身体とは……、小僧、もう良い、残りは神殿で」


「ふっざけんなクソ女ども。お前らが『完全装備解除』って命令したんだろうが、自分の命令には自分が責任を取れ」


 怒気も露わに、左手の義手を残すのみにまで解除を終えたタクミは、両目全体を覆う幾何学模様の入ったクラオカミの神力封印が施された眼帯を一気に剥ぎ取り、力任せに地面に叩きつける。


 見開いたタクミの眼窩内には眼球が存在せず、ぽっかりと赤黒い抉られた肉が蠢いている様子が見えたはずだった。


 そのあまりの凄惨な傷跡に、女騎士たちの中には「うっ」「ひいっ」などと悲鳴を挙げる者たちまでが居た。


「で、ご命令通り、『武装解除』した俺はここから一歩も動けない。――誰が優しく抱っこして運んでくれるんだ?」


「……身障者の分際で何を偉そうに。そちらの男に運ばせれば良かろうっ」


 相変わらず侮蔑の色を隠そうとしないままのシーベルが上半身裸にされ、元々あった複数の刀傷などの上から新たに槍の柄で突き回された円状の赤い腫れを無数に付けたライバックを槍で押し、俺の方へ誘導する。


「そういえば、タクミどのの眼帯を外した姿を見るのは私も初めてですな。これは痛みはないのですかな?」


「うん、これは家族以外に見せたことないからね? 痛みはないんだけど。

 ……発散魔力の制限が効かなくなるのと、まぁ見てて気持ちがいいもんじゃないからいつもは隠してる」


「抱き上げるのも初ですが、これでは入浴時すら手足を装備したままというのも納得ですなあ」


 会話を交わしながら、軽々とライバックは四肢の義手足を装備解除して地面に横たわっていたタクミを抱き上げた。


 ――本来ならばタクミは四肢の先端から神鉄触手を出し、それである程度の日常動作を行うことが出来るのだが。


 それは『隠し玉』として見せないことにしたようで、ライバックの方もそれを察して何気ない会話中に暗に『装備解除すると介護が必要』との偽情報を混ぜることを忘れない。


 実際は義手足装備のままで水に浸かると関節部から潤滑油が漏れ出すため入浴中も装備したままということはなく。


 入浴時は――触手でわさわさ動く姿が自分でかなり気持ち悪いという理由により――単独で入るか、既に見慣れているティースが薄着を纏って混浴状態で洗浄を手伝う形になっている。


「待て。そちらの男、先程は自らをこの子の叔父、と称したが、今しがたの問答では親族間の会話ではなかったようだな。あれは虚偽か?」


 耳聡くタクミたちの会話を聞いていたらしいルシリアが、港から神殿へと続く道筋を先頭に立って進みつつ、軽く振り返り質問を発した。


「ええ、虚偽ですね。私はこの子らの祖母と兄、それに我が主君に頼まれて旅路に同行している保護者でして。

 そちらの名乗りが本物かどうか信用出来かねたので、一芝居打ってみた次第ですよ」


「無礼な! 我らヴァルキリアを愚弄するか!!」


「私の知っているツクヨミさまの護衛騎士団は男性中心の騎士団で!」


 相変わらず激高しやすいらしいシーベルの叫びを、ライバックはよく通る低い声で一喝しその出鼻を挫いて見せた。


「――良い、続けろ」


 今にも飛びかからんばかりの勢いのシーベルを腕一本で制止し、隊長であるルシリアはライバックにその先を促した。


 それで、周囲の女騎士も両手の槍を下げ話を聞く様子になる。軽く頭を下げ、ライバックは再び言葉を続け始めた。


「歴史ある戦闘騎士団に女性が混じるということは通常考えられませんし、失礼ながらあなた方は余りにも若く、幼い。


 ――恐らくですが、戦時となり第一親衛騎士団が前線に招集された穴を埋める形で、王国最北端であり南方帝国とは相当に距離のあるこのシュラーデンの治安維持と実戦経験を詰むために臨時に組織された、騎士団子息女から構成された新造の騎士隊……ではありませんかな?」


「ふっ。鋭いな。元は相当の見識を持つ人物とお見受けする、今までの非礼を詫びよう。

 ……その通りだ、我らは正規騎士団と比べれば予備騎士団と言っても差し支えない若輩、戦場に出た経験なぞ一度もない。


 しかし、ひとつ過ちを正すならば、我らヴァルキリアも歴史ある騎士団であり、正規騎士団の子女が多いのは事実ではあるが、本来の役割は男子禁制の神殿内警護が主である故に、我が騎士団に男子は居らぬ」


 固いながら笑みを浮かべ、今度ははっきりと誰の目からも分かるように、ルシリアはタクミを抱くライバックに向けて頭を下げた。


 しかしむしろ、騎士団長であるルシリアが罪人として連行中のタクミたちに頭を下げたことで、周囲の女騎士たちの敵意がより増したように思えた。


「これも既に聞き及んでおろうが、南方戦線で発生した初戦が帝国の騙し討ち同然の奇襲により大敗した故に、このような後方の騎士団までもが前線に引き抜かれることとなり、また過日のエイネールに対する盗賊ギルド――いや神国の介入によりアゼリア王国の後方補給は絶たれた。


 内需で賄ってはいるものの、事実上の補給路封鎖により食糧事情も厳しくなっている。


 そのような状況でエイネールと思しき方面から有り得ない速度で近づく船舶に乗っていた船員たちを、しかも『カモフラージュのために赤子を含む非戦闘員の女子を同行させていた』とあっては、その方らを怪しまぬ道理はあるまい?」


 覗き込むかのようなルシリアを筆頭とした厳しい視線に晒されたタクミは、すぐ上にあるライバックの目と目線を合わせ、やれやれ、とため息をついた。


「あっちゃー。全部バレてーら。そら怪しさ全開だよな、俺ら」


「加えて、ツクヨミさまの御神託もあったようですし。神殿で申し開くまではいろいろと無理そうですな」


 お互いに苦笑い。昨晩のうちに重力魔法を消し浮揚をやめた上で通常の海上帆走にて港湾に入港、船舶内にて休息した上で朝を待って二手に分かれて活動を開始したが、入港以前から魔力追尾されていたとあっては言い逃れは出来まい。


 ただし、一見して武器と判断しづらいティースの銃棍ガンロッドや、リュカの銃把棍ガントンファーなどを単なる杖と見て赤子を抱くティースらを一般人と誤解して見逃したのがタクミらにとっては僥倖だった。


 経験が少ない騎士団というのは確かなようで、正規騎士団であれば事情聴取のためにティースらに接触を図ることも辞さないであろうが。


 このヴァルキリアたちはひとつところに集合し副隊長の意のままに一般人を威嚇することに快感を覚えているようであり、また本人たちの正義感や使命感とは裏腹に、一般民衆から向けられる侮蔑と畏怖の目線には気づいていない様子だった。


「この子たち、そのうち背中から刺されるんじゃないのかなあ……」


「同感ですな。それに、著しく戦闘技量が低いですし、女性ですから、……万が一戦場に出て、負けた場合は悲惨ですぞ」


「――ああー。やっぱそういう感じになっちゃう?」


「戦場というのは究極の興奮状態になる特殊な無法地帯ですからな。特に規律の乱れやすい一般兵や傭兵に相対すればそのような場合も出てくるでしょう」


 小声でぼそぼそと雑談を続けるタクミたちをちらちらと横目で見やりつつ、山頂の神殿へと続く細い道筋を整然と隊列を組み、ルシリアを先頭にしたヴァルキリアたちは罪人または重要参考人としてタクミたちを連行して登っていく。


「見えて来たな。あれが、我らが仕える三貴神の一柱、ツクヨミさまのおわす神殿だ。――此度はツクヨミさまの御神託により、そこの小僧、貴様のみ特例で神殿内部に連行する。


 本来は男子禁制故に感謝せよ。また、内部については他言無用とせよ、破れば死を以て償わせる。


 そちらの男は別殿にて取り調べとなる故、内部では小僧は義手足を装着し自らの足で歩くことを許可する」


「少しでも怪しげな動きや術を使ってみろ、その場で刺し殺すからな!」


 相変わらず事務的なルシリアと感情的なシーベルの凸凹コンビの言に、タクミは肩を竦めて、軽くため息をついて見せた。



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