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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第二章 水龍篇
23/120

22話 対死霊戦

加速魔法の持続時間を変更しました。体感速度と現実時間の割合を計算間違いしてたので(´・ω・`)

「へえ。じゃ、リュカは、アレだ、末っ子なのか」


「そんな目で見んなよ、ハッキリ『口減らし』って言えばいいじゃねェか?

 最近じゃ珍しくねェだろ、あちこちで戦争やっててずっと物価高いまんまなんだし」


 俺の目線は同情を含むものになってたのかな。リュカの、俺を見る視線が少し不快なものを含んでたように感じられた。


 まあ、眼帯してるから目線が見えるわけないけど、そんな感じが。


 考えてみれば、フープ兄もティース姉も戦災孤児だし、俺も厳密に言えば両親を戦争で失ったことになるのか。


 このパーティって戦災孤児大杉な気がする。


 てか、溢れるほど戦争が多かったってことなのかなあ?


 そう言えば、ここの街でもシーンの街でも、中年男性って少なかった気がするし。


「全然関係のねェタクミがそんな辛気臭い顔してどうすんだよ、ほんっとオマエお人好しだよなあ?

 別にオレはそれで親に捨てられて不幸になった、なんて思ってねェし?


 むしろ頭領やお嬢さんのいるここに預けられてスキルは上がってるし、そもそもあちこちで戦争やってっから、稼ぎ場所には困らねェんだけどな」


 リュカは俺と同じくらいの細い腕で力こぶ作って見せたかったみたいだけど。


 ほっそいよなあ、女の子みたいに華奢だし、ちゃんと食べるもの食べてるのか心配になるレベル。


 他の皆さんを見るに食うに困ってるわけじゃないだろうから、単にリュカが元々細身なだけなんだろうけどさ。


「昔は孤児は全部盗賊ギルドが引き取って、それなりの商売覚え込ませて盗賊ギルドに上納金収めさせる代わりにギルドが育成費用負担する制度があったんだけどなあ。今はなあ……」


 俺の左横を歩くシェリカさんが、なんだか悔しそうな顔を作っている。孤児院経営してるし、いろいろ思うところあるんだろうな。


「盗賊ギルドは今の統主――アマテラスになってから孤児救済をやめてしまったからのう。アマテラスが子供嫌いという理由のみでな」

「んっだよそれ。ほんっとアマテラスって嫌な野郎なんだな。何が何でも顔面に一発入れてやりたい」


 クラさんの言葉で、俺の怒りに火がついた。あちこちで碌なことしてやがらねえのな、あいつ。


 今は水龍神クラミツハのねぐらに向かう途中で、ぞろぞろと30人ばかりが集団になってて。


 恐らく最深部の祭壇に居るだろう、という元住人なクラさん情報で下に向かう進路を取っているところで。


 幸いにして多少の水棲魔物は出るには出るけど、集団総力戦になるほど強力な生き物ってのにはまだ遭遇してないんで、割と気楽に雑談混じりで親交を温めつつ神殿内部の通路を下ってるとこ。


 パーティを仕切ってるのはフープ兄で、さすがに集団指揮も慣れてるっていうか堂に入ってるというか。


 俺のすぐ前辺り、集団の中心でのんびりとして見えるけどしょっちゅうあちこちに目線を向けてて、全然タイプは違う人なんだけど、亡くなった親方を思い出す。


 俺にはこんなに他人に気を配ってうまく動かしたりなんか出来ないな、きっと。


 親方以外でも、シルフィンも戦闘中は触ったら切れそうなくらいにピリピリしてたよなあ。


 あっちはどっちかっていうと冷静ってよりは狂気的というか愉悦的というか、なんか危なそうなキレっぷりが怖かったけどさ。


「しかしさー。その、頭の上のクルルちゃんだっけ? それ、どんなバランスになってんだ?」


 考え事しながら歩いてる俺に、リュカが話しかけて来た。


「んあ? ああ、クルルはいつものことだから」


「いつものことって、いつもそうなのかよ? よく落ちないもんだよな」


 リュカが言ってるのは、俺の頭を枕にして熟睡してるクルルのことだろう。


 これが、歩いてても走り出しても絶妙のバランスを維持して絶対に落ちない姿勢を維持するんだよな。寝たまんま。


 どんなオートバランサー積んでんのかいっぺんテストしてみたいわ。いや戦闘訓練中でも普通に寝てたから超絶レベルなのは知ってるけど。


「こんなナリしててもちゃんと女神さまだからな、拝んどかないとバチ当たるぜ?」


「こんなちびっこを何かにつけて女神さま呼ばわりとか、ほんとにロリなんだなオマエ? 引くわー」


 露骨にそんな嫌そうな顔すんなよ、失礼な。この世界に写真とかあれば疑いを晴らせるんだけどなあ。


 リュカからは完全にロリ疑惑食らってんだよな。


「だからロリは至高にして至上にして我ら人類のみならず亜人種も含む世界を救う……」


「ハイハイ、兄さんは黙ってて下さいませ、ややこしくなりますから」


「そんな、酷い」


 ――もうこのやり取りを何度繰り返したか。


 つか、リュカがちょくちょくロリ発言を繰り返すのはもしかしてフープ兄の反応を面白がってんじゃないだろうか?


 なんか俺の周りをちょこちょこうろうろしてるし。まあ、同年代の男子がこの中じゃ俺しか居ないからかなあ?


 でも俺、見た目が13歳なだけで中身は30手前のおっさんだけどな。


「おおっと。ぜんたーい、停止ー。トーラーさんが見つけちゃったぽいですねえ」


 間延びした、それでいてなぜか遠くまで響くフープ兄の号令が響いて、俺たち全員がその場に停止する。


 一応全員武器は構えてるけど、よく考えたらシルフィンが居ないから、遠距離系攻撃手段ってティース姉の魔法しかないんじゃないか?


 クラさんも使おうと思えば何でも魔法全種使えるのは知ってるけど。


 クラさんの場合は攻撃に魔法や神力使うんじゃなくて、体術系の日本刀使う方がおっそろしく強いからなあ。


 ……何度斬られたかはもう数えたくないな。


 鎧や義手義足は修理が大変なんで避けてくれる、とは言っても。――生首が飛ぶあの感触は、何度体験しても慣れるってことはないと思う。


 むしろ、そんなになっても死ねない俺って、ある意味すごく不幸なのかも。


「フープ兄、見つけたって、何を?」


「いやあ。たぶん普通のダンジョンと同じで、下層に行くほど魔力濃度が高まって強い魔物がいるはず。

 ……という推測の元、集団の中でもかなり強い方に斥候に出て貰ってたんだけどね」


「ああ、そっか。神殿内だから普通なら魔物は寄り付かないけど、魔力濃度が高すぎるってかこの場合は神力なのかな?

 それで自然発生しちゃう奴がいるのは止められないってやつ?」


 魔物は、普通に生まれた動物が生まれつき強い魔力を持ってる奴、成長で魔力が育ったり他の強い魔物を食べてどんどん強くなる奴、なんてのが普通なんだけど。


 例外的に、ここみたいに魔力濃度がおっそろしく濃い場所だと、最初から自然発生でめっちゃくちゃ強い魔物が湧くことがあるんだよな。


 特に、そこにクラさんやクルルが持ってるみたいな神力が混じると最悪。


 クラさんが住んでた龍神のねぐら上層のダンジョンで何度死ぬ目を見たことか。いや死ねないけどさ。


 龍神のねぐらはクラさんが俺らの修行のためにわざと魔力や神力の濃度を調整して魔物を集めたり沸かせたりしてたんだけど。


 魔力が強いだけでも魔法使って来たり知能が格段に上がったりでめんどくさかったのに、神力混じりになると上位魔法ぽんぽん連発したり通常攻撃が当たらなかったりするんだよなあ。


「バッカヤロウ、トーラーに全部任しときゃ何の問題もねえんだって言ってんだろうがよ」


 シェリカさん、そんなに顔を赤らめて熱弁しなくたってトーラーさんに心酔しちゃってるのはみんな分かってますから。


「いや、それがそういうわけにも行かなくてねえ。まだ先頭で様子見の監視して貰ってるんだけども。

 相手……、死霊レイスの集団なんだってさ?」


「ぅゎめんどくせェ……」


 リュカが露骨に嫌そうな顔をする。気持ちは分かる。すごく。


 死霊って肉体がないから、金属武器全般が全部素通りするんだよなあ。


 だから全部の攻撃に魔力乗せなきゃ霊体に当たらないんで、出来なくはないけどめんどくさい。


 まあ、ティース姉に魔法付与して貰えば楽なんだけど、それやるとティース姉の回復時間が長くなるんでなるべく自前で済ませたい。


「あれ? 俺は身体強化の魔装あるし、こっちはティース姉の武器強化エンチャントウェポン魔法あるしで困らないっちゃ困らないけど。リュカたちは精神体な死霊相手で攻撃手段ってあるの?」


「バカにすんなよ、前に魔法使えなきゃ忍者になれねェって言わなかったか?

 みんな武器強化や精神防御ディフェンススピリットくらいは自前で出来るっての。……オレはちょっと苦手だけどさ」


 リュカの言葉がちょっと尻すぼみに。もしかしなくても魔法系苦手? なのかな。


「皆さんが自前で事足りるのでしたら助かりますわ。正直、この人数全員に武器強化をかけるとわたくしの体力が持ちませんもの」


 ティース姉が心底ほっとしたような様子を。


 ここ一年の修行で新しく覚えた別の手段もあるんだけど、アレはお互いあんましやりたくないから体力少ないティース姉がほっとするのは分かるなあ。


「ティースが出来ぬのなら儂が代わっても良いのじゃが」


「お祖母様が動くほどのことではないでしょう。というか、お祖母様の力は少々強力すぎますから。

 結界のないこの場でお力を振るうのは最後の最後まで遠慮して頂いた方が安全かなと思います。


 ……何しろ、ここ、水没してて外壁の外は水でいっぱいですからねえ」


「そっか。うっかり外壁損傷させたら、どっぱーって水が入って来るって感じ?」


「そうっ。さすが僕の弟、物分りがいいねえ」


 フープ兄が俺の頭をわしゃわしゃ。恥ずかしいからやめて欲しいんだけど。


 そして熟睡したまんま何故それを予測したかのように避けられるんだクルル。髪を引っ張らないでくれクルル。痛くはないけど引っ張られる感触が地味に気になるんだクルル。


 ていうかそろそろ起こした方がいいんだろうか。戦闘になりそうだし。


「でも、全員で戦うわけじゃねェんだろ? ここで全体止めたってことは、戦闘員選抜やんのか?」


「おおっ、さすが実戦慣れしてるねえ?

 そう、僕らは冒険者だから魔物対処はお手の物だけどね。


 そちらの戦闘力を臨時指揮してる僕が把握してないんで、そちらで問題なく相手出来そうな方を六人ほど選抜して欲しいかな、と」


「バカにすんなよ、オレら全員魔法使えんだからよ、誰でもイケるっての」


「いや、そうなのは知ってるんだけどねえ、何しろ数がねえ?」


 ちょっと不満げにしてるリュカに、フープ兄が腕組みして意味深な顔を。あ、この顔知ってる。なんかすごくいやーなこと言う前の顔だ。


「この下の広間にね、軽く二十体くらい居るらしいんだよね」


「にじゅっ……二十?!」


「うん、リュカくん驚いた顔がとても愛らしいね。戦闘慣れしてても二十の死霊を同時に相手したことはなかった感じだねえ。

 で、他に回り道がないらしくて。その先がどうも最深部らしいから、親衛隊とか近衛兵に近い存在じゃないかなあ、というのが僕の予想」


 リュカを始めに驚愕しまくってる忍者さんたちを尻目に、俺らは割とのんびりしてたりして。


 龍神のねぐらの環境が死霊を寄せやすかったのもあって、めっちゃくちゃ強いの湧きまくってたから強制的に慣らされちゃってんだよなあ。


 ふつー、なんぼ冒険者つっても死霊と戦い慣れたりはあんまりしないと思う。それは悪霊祓師エクソシストとかのお仕事だと思うっ。


「近衛というか、それは恐らく元は神官じゃの」


 あ、そうか。クラさんは元々ここにも住んでたから知ってるのか。


 でも、たぶんクラさんは生前を知ってる人だろうから戦闘になるのならクラさんは待ってて欲しいなあ。


 知り合いが死霊になっててそれを殺す役割させるって嫌じゃん?


「神官の死霊はさすがに会ったことないですねえ。死霊になっても神聖魔法って使えるんでしょうかねえ?

 神聖魔法を使われると回復力の桁が違うので厄介極まりないのですが」


「兄さん、死霊が神聖魔法を使用したら自分が浄化されるのではありませんか?」


「確かに神聖魔法を死霊に掛ければ浄化されるがの、そこまでの知能が残ってはおらんと思うぞえ?

 死霊は恩讐を抱いたまま現世に呼び戻された存在じゃからの。


 まあ、使えば使えるとは思うがの、裏返して攻撃に使うのではなかろうか。回復の逆呪文系統でのう」


「えっと。クラさんはここで待ってて欲しいな。たぶん知り合いの神官さんだっただろうから」


 ティース姉たちの作戦会議に口を挟むのもどうかな、と思いはしたけど。


 やっぱり知り合い同士で殺し合うって場面を見たくなかったので思い切って言ってみたら、クラさんがちょっと驚いた顔してるのが分かった。


 軽く眉を上げた程度の変化だから俺ら家族以外は気づかなかっただろうけど、やっぱりな、って感じが。


「――タクミどのは聡いのう。気づかれましたか」


「いや誰でも気づくんじゃ? 不老不死の女神さまの元住居に居る死霊になっちゃってる神官なら生前に面識ないわけないだろうし」


「ふふ、確かにのう。儂も昔を思い出して勘が鈍っておったか。

 ……まさしく、この先に神官の死霊が居るのであれば、間違いなく旦那様の身の回りを世話しておった昔の神官たちであろうかと。


 他に思い当たる節もなし、ここは本来は神官以外の立ち入り無き清浄区域であったからのう」


 クラさんが昔を懐かしむように目を細めて遠くを見るような感じに。当時のこととか思い出してんだろうなあ。


 神官の人たちもスパルタで鍛え上げられちゃったりしてたんだろうか。有り得るな。意外と戦闘脳なんだよなクラさん。


 まあそれはともかくだ。


「なんで死霊が湧いちゃうような状況になっちゃってんのとかは思い当たる節ある?」


「……いや、ないのう。なにゆえ恩讐を抱いて現世に舞い戻ったのか。

 黄泉平坂ヨモツヒラサカの管理はイザナミさまのもので抜けられるはずもなし、舞い戻ったのではなく、この地へ縛られたものか。ただ、旦那様の意志ではないように思う。


 旦那様であれば儂と同等かそれ以上の戦闘力を持つ故に、永久とこしえの眠りに就いた神官たちを呼び戻す必要自体がないからの」


「そりゃそうか。――戦いとかしたくないなあ、クラさんにも勝ったことないのに」


「ほほほ、旦那様相手では儂でも全力で五分に届くかどうかじゃからの、タクミどのが勝てるようになるにはまだ修行が必要じゃのう。

 しかし元々はタクミどのの武者修行で訪れる予定じゃったことじゃし……と。フープよ、どうやら始まってしまったようじゃぞ?」


 クラさんの目がすっと細められて、下り坂で光球ライトの光が届きにくくなっている坂道の奥を貫くように前方に向けられる。


 俺も少し魔力検知を強めて壁を貫通して視てみたけど。確かにクラさんの言う通り、トーラーさん以下斥候の人たちと死霊で戦闘が始まっちゃってるみたいだ。


「あちゃあ。仕掛けられたか見つかっちゃったか。じゃあ自信ある人だけついて来て?!

 お祖母様はここで待機で、僕らだけで行きます。前衛多いからティースは援護と回復専念で、たぶん支援は要らない。


 タクミくんはティースの護衛と、例のアレやるかも予定でよろしく」


「うぇ。やりたくないんだけどなあ。最終手段でいいよね?」


「うん、最終手段でいいよ。急ごう、精神吸引レベルドレインとかされると回復に時間掛かるから後が手間だねえ」


「そんなヘマするオレらじゃねえっての!」


 バカにされたと思ったのかリュカがぷんすか怒ってるけど。違うんだな、死霊は姿消せるんで、姿消したまま接触されると精神に直接ダメージ食らうから危ないって意味で。


 いや、そんなことより急がなきゃ。


 そんなわけで、俺らはバラバラに我先で現場に向かって大急ぎで駆け出した。



――――☆――――☆



「……何しに来た?」


「この状況でそんなこと言えるトーラーさんもかなり気合入っちゃってますよねえ」


「なんでそんなのんびり落ち着いてんだあんたら?!」


 思わず全力でツッコミを入れてしまったけど、ほんとにそんな場合じゃねえっつーの。


 いやまあ、落ち着いてるわけじゃないんだろうけど、声だけ聞いてたらのんびり縁側で並んでお茶でも啜ってるような平静さで。


 日本で暇つぶしに読んでた本に『リーダーとはどのようなときも平静さを失わずに対処出来ることが重要』みたいなことが書いてあったけど。


 この状況でこういう態度が取れるって意味ならそいつはリーダーってよりはどっか突き抜けてるかネジが数本抜けちゃってる奴だと思う。


 この人たちがどっちかは知りたくもないけど。


「タクミー、頭下げて右に四歩っ、くるっと回って左に一歩っ」


「あいよ、クルルほんとに何度も言うけど神力使ったらめっ、だからな?」


「めっ、はイヤー! いいこいいこがいいのっ」


 壁や床を無視して通過しながら縦横無尽に青白い光を放ち、割と高速で怨念の言葉を吐きつつ飛び回る死霊の群れを前にして。


 頭の上のクルルの言う通りに戦闘の構えのまま歩を進めると、最後に左に向き直して一歩進んだ瞬間にドンピシャで天井からループしつつ降りてきた死霊の一体の背後を取ることに成功する。


 ここまで至近距離なら、あとは俺のあほみたいな量の魔力をバリバリに乗せまくった魔装プラスな攻撃を叩き込むだけで。


「うぉぉおらぁっ!」


 気合とは裏腹に可愛い男の子の声が出るのはなんか寂しいよな。これだけはどうしても慣れそうもない。


 そんなこんなで、俺はクルルのサポートのおかげで一発も攻撃を喰らわずに広間のど真ん中まで来れた。


 俺が攻撃担当、クルルが状況把握して避ける指示出す俺の操縦担当。この状態でなら、クラさんともいいとこまで戦えるんだな。


 クルルがほんとに凄い女神だっていうのはここ一年の、こんな感じの分担戦闘で思い知ったことで。


「あっ。タクミ左後ろに一歩下がってティースちゃん右に二歩ーっ」


「あいよっ。ティース姉ついて来れてる?!」


「なんとか! 相変わらずものすごい先読み能力ですわね、クルルちゃん。この乱闘状態の全部を読み切ってるんですわね」


 訓練通りにクルルの指示に従うと、死角から高速で放たれた死霊の怨念? のようなどす黒い魔力の渦が俺たちの身体をかすめるようにして通過していく。


 これがクラさんの言ってた、魔法の逆呪文系統って奴かな? 正常な魔法を『裏返して』逆系統でかけたら効果も反転する、って奴。


 さすがに普通の人間なティース姉は額に汗してるけど、ぶっちゃけティース姉の動きも含めてこの場の敵味方の動きを全把握してるクルルがマジで凄い。


 これで神力使用率ゼロで、積み上がった膨大な戦闘経験と『タイミングを読む固有能力』だけで乗り切ってるっていうんだから。


 クラさんが常々言ってる『ガチの肉弾戦やったら神族最強はクルル』っていうのが頷ける。


 こんだけ反則級な予知能力にしか思えない先読み能力持ってて、この上に更に神力や魔力を上乗せされたら俺なんか手も足も出ないだろうし、クラさんですら勝ち筋が見えないだろうな。


 ――まあ、不老不死で不滅の神族同士で対戦したら永久千日手になるから普通は避けるそうだけど。


「ティースが辛そうだし、まだ先もあるから早めに終わらせたいんでー。タクミくんいい場所取ってるから、一番速いアレよろしくー」

「フープ兄がここに行けって指示したんじゃん! 最初っからそのつもりだっただろ?!」


「やだなあ、いちばん動きやすい中央部に行けって言った時点で意図に気づいてただろう?」


 自分の周りを飛び回る神官の怨霊をティース姉がかけた魔法を帯びた赤く光る両手斧や投げ斧で軽々と始末しながら。


 少し離れた場所で単身戦ってるフープ兄が俺に向けて言い放った言葉で、遅まきながら俺はやっとこの場所に行けって言われた意味を悟る。


 くっそ、ほんとに手のひらの上だよ、敵わねえ。


「ああっ、ちくしょう! いいよ、準備おっけー! ティース姉も……、いい加減慣れた?」


「わたくし未だ未婚ですし、何度やっても慣れるということはないというか……。

 こほんっ、これは儀式、そう、ただの魔法儀式ですから!」


「そう、ただの魔法儀式、手早くちゃっちゃと済ませちゃおう。クルルー、いい子だからおめめつむるー!」


「にゃっ? クルルおめめぎゅーっ。何なに?」


「よーっし、いい子いい子。あとで撫でてやるからなっ」


 あー、やだなー、これフープ兄わざと面白がってやってんじゃねえのかな。


 こっちに視線向けてはいないけど、魔力検知も使わずに気配だけで何やってるかとかどんな様子だとか全部把握しちゃうんだよな。


 どんな修練したらあんな観察力身につくんだか?


 一応周囲に魔力飛ばして全体把握してみたけど、リュカはシェリカさんにべったりでなんとか凌いでるみたいで心配なさげだし?


 シェリカさんは両手に持ったでっけえ両刃の刃物を振り回したりの投げ物プラス体術メインですげえ強い。


 トーラーさんと古参の忍者軍団は死霊なんか屁でもないって感じで少し短めな反りのない直線的な日本刀振り回したり手裏剣投げたりで対処してるしで、全体的に苦戦してる様子はないんだけど、早期戦をフープ兄が考えてるのは言った通りの意味でこの先用に体力温存策なんだろうな。


 忍者の人たちの戦闘能力も把握したかったから斥候にいちばん強いと思われるトーラーさんたちを選抜したんじゃないか、なんて思えてくる。


「タクミさん、術式展開終了です、いつでも!」


 矢継ぎ早にすごい勢いで両手で呪印を切っていたティース姉が、顔を真っ赤にして俺の方を向いて両目をつむって待ってる。


 そう、儀式、ただの儀式、手早く済ませるんだ。


 俺はティース姉のほっそい両肩をがしっと掴んで、おもむろに顔を近づけて。キス、をした。ちょっと深いやつ。ああ、恥ずい。


 ――途端に、俺の身体の中からすげえ勢いでティース姉が組んだ呪印の形に何通りもの魔力放出の道筋が導き出される。


 同時に、光球は変わらず周囲のあちこちにぷかぷかと浮かんでるのにも関わらず、周囲の明かりが暗くなったように感じられて。


 何種類か持ってる俺らの複合魔法のうちのひとつ、ティース姉主導の超加速ハイパースピードの術式。


 半端ない術式知識と応用力に長けてるのに必要魔力量が足りなくていつも青息吐息なティース姉と、無尽蔵くさい反則級な魔力量持ってるのにそれを上手いこと放出して利用する能力が絶望的な俺とが、ふたりで足りないところを補い合って協力して作る術式。……の、ひとつなんだけど。


 キス、っていう手段になっちゃうのは、ほんと魔力の扱いが死ぬほど下手くそで何でも力技で済ましちゃってる不器用な俺が、魔力の大規模連続放出ってやつが何でかそれ以外で出来なかったからで。


 最初は手を繋いだりとかの接触で試してたんだけど、クラさんが言うには魔力利用ド素人な俺が繊細な魔力操作でティース姉と同調しやすいのはこの方法だろう、って言うから。


 これ、クルルに初めてキスしたときよりどんどん慣れて来てる感じあるんだけど?


 ちびクルルがめっちゃ素直に目つむってるからいつもバレてないけども、実は意識下にいる大人クルルは全部気づいてる、とかだと後が怖いな。


 ……考えないようにしよう。


 とにかくも、ティース姉が俺の魔力を使って俺にだけかかるように俺の魔力をふんだんに使って代理でかけてくれたこの魔法の恩恵は。


 ……行動速度100倍の超絶加速能力の加護。


 あんまりにも速すぎて、光を知覚するのが遅れるようになるんで自分の周りがやたら暗くなるように感じるんだけど。


 魔力検知の速度も同時に上がるから影響ってのはないに等しい。これやると自分以外が止まってるように感じるんだよな。


「おめめ疲れたっ。タクミー、もう開けていい?」


「おっけ、開けていいよクルル。んじゃさっさと終わらせっか!」


 ちびになっても女神なクルルはやっぱり神力使用ゼロであっさりとこの状態の俺に追従して来る。


 クラさんが言うには、基礎肉体能力だけで更にこの億倍も加速した状態で光の速度に近いとこまで行けるんだ、って聞いたけど。


 ほんっとに神様って神様なんだよなあ、人知も及ばないってこのことか、なんて納得した覚え。


 俺にも出来る、なんて言われたけどお世辞にしか思ってない。


 周囲が時間が止まったみたいに、いや実際にはじーっと見てたらちょっとずつ動いてんのが分かるんだけども。


 ほぼ静止状態に見える戦場の広間を俺たちは縦横無尽に駆け巡って、死霊をばんばんぶん殴って処理……。


 って怨霊とはいえクラさんたちの元従者さんたち相手には酷い言い方すぎるか。


 手早くティース姉直伝の浄化魔法込めた一撃で浄化させて回って、そこそこ広い広間は五分もしたら浄化の光の残光で眩しいくらいの状態になった。


 なんで怨霊化したのかは会話が通じるような状態じゃなかったせいで結局分からなかったけど、せめて安らかに眠って欲しい。


 ……あ。そろそろ術が解けるな。


 これ自分で制御できるようになったら魔力が続く限りずっと加速を維持出来るらしいんだけどな。


 今はティース姉を媒体にティース姉の術式中継して、一旦ティース姉の身体を通して外に出した魔力を再度俺に向けて加速魔法として戻してる状態なんで。


 ティース姉の術式の持続時間はティース姉依存だから、負担がない時間がだいたい五秒くらい。


 ――たった五秒つっても、俺らの体感時間は八分くらいまで伸びるんだけどな。


『もっと深い接触したら持続時間も伸びるかもしれないよ?』なんてフープ兄が言ってたけど。


 ……兄さん、そんな下ネタ連発してるうちは彼女出来ないよ。


 ていうかあれ以上を戦場でやるって俺ただの頭のおかしな人じゃんっ。そしてそこまでやったらクルルにぜったいバレるだろ。そっちのが怖いわ。


「って、うぉっ?! タクミ、いま何やったんだァ?」


 あ。ちょうどリュカのそばだったか。リュカたちから見たら、中央に居た俺が瞬時に消えて、突然目の前に出現したように見えたんだろうな。


「ははん? 超加速ってやつか。トーラーが似たような技使えるんだよな。アタシにゃ無理だけどさ」


「これが使える人って他に見たことないなあ。クラさんのは別系統の神力系だから参考にならなかったし」


「正真正銘の龍神さまと比べたらそりゃ劣るだろうけどもよ、人間のトーラーがやるってとこがすげえんだろバッカヤロウ」


 あっ。シェリカさんのご機嫌を損ねてしまったかも。


「あー、お嬢さん、タクミの今のはたぶん頭領を貶したとかじゃなくてっすね。ほらタクミ、てめェも謝れよ」


「お? おう、シェリカさん済みませんっした」


 リュカが俺の横に並んで来たんで、俺たちは並んでシェリカさんに向かって同時に頭を下げる感じに。


 なんか悪いことして謝ってる舎弟みたいな感じが。


「バカヤロウ、別に怒ってねえよ。タクミのおかげで余力残して先に進めるのは分かってるっての。タクミは疲れてねえんだよな?」

「あ、はい。俺これでも一応神器なんで。疲労感とかは無縁っす」


 リュカの口調が俺に移って来た感じがするなあ。


 てか、ほんとにシェリカさんって姐御肌なんで、面と向かって喋ってると自然とこんな感じの受け答えに。


「頭領やお嬢さんのそばでいつも動いてるオレの目から見ても、マジでタクミの動きって人間離れしすぎてて頭領並みって感じがすんだけどよ?

 まるで何秒も先が見えてるみたいにすいすい攻撃避けまくるし、動いたかと思えば消えたみたいにしか見えねェし。


 そんだけ化物みたいな戦闘力持ってて、まだ神様にはなれないってのがなあ。参考までに、あと何が足りないんだ?」


 リュカの話の半分以上はクルルのおかげなんだけど、コイツ、それ言っても全然信じないんだもんなあ。


「魂が傷だらけで汚れすぎてるんで、それを修復して汚れを落とさないと全然ダメダメなんだってさ。

 つっても、何をどうすりゃいいのかは方法がさっぱり判らないんだけどなあ」


 答えてはみたけど、クラさんの受け売りにしかならない。ほんと、話聞いてるとカスミ喰って生きてる仙人になれ、みたいに聞こえて現実味が全然感じられないんだよなあ。


 クラさんが嘘教えるわけはないから、俺の理解レベルがそこに至ってないだけなんだろうけど。


「魂と来たか。神様は荒ぶる荒御魂アラミタマと優しい和御魂ニギミタマでふたつの魂を同時に持ってる、なんて話を聞くけど、タクミは絶対和御魂の方だよなあ、優しすぎるもんな。

 ――早く済ませたの、オレが疲れてるの気づいたか? ……ありがとな」


 ぶっきらぼうな感じで、伏し目がちにリュカがほんの少しだけ俺に向かって頭を下げた様子が。


 いや、たぶんそれ気づいたのフープ兄で、俺そんなの全然気づかなかった。ってか、身体が特別仕様な俺と違ってリュカはただの人間なんだから。


 戦闘力あるし場数もリュカの方が上っつっても、それはいちばん歳も近くて距離感近くなってる俺が気づいてやらなきゃいけなかったんだと思う。


 なんつーか、リュカがどう思ってるかは判らないけど、この短い期間でなんか歳の近い友達、って感覚が芽生えつつあるし。


 ほんとにまだまだ修行が足りないな、俺。


「コラ。お前ら、二人して申し訳なさそうな顔してんじゃねーよ、お互いに助け合えばいいんだってーの、バカヤロウ」


 辛気臭い顔になっちゃってたのか、俺たち二人を両脇にがばっと抱いたシェリカさんが頭の上からそんな言葉を。


 うおぉ、頬に巨大で柔らかい質量の感触が。なんてでかいんだ。


「むぅっ。タクミにやにやしてるっ。クルルこれ嫌いー」


「あっ、こらちびっこ、っ、先っぽつまむな、つねるなってのあぅん。てか、こそばいからやめっ!」


 頭上でなんか素晴らしい攻防してる気配があるけど。それはともかく。


 とりあえず戦闘は集結した気配なんで、俺たちは後からやって来るクラさんたち後続をテキトーに身体を休めながら広間で待つことにした。



Okaka MaroさんがクルルちゃんのPVを作ってくれました。


「http://www.nicovideo.jp/watch/sm30454472 クルルの「ピチカートドロップス」」


ウチのクルルたんかわええんやでっ!

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