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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第二章 水龍篇
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20話 恋話と魚雷攻撃

地図が出来ました。

挿絵(By みてみん)


「ええっと、あー、そのなんだ。元気そうだな」


「……そうだな。特に変わりはない」


「そっか、そりゃ何よりだ。

 ……そうだ、最近こっちは水ポンプを作って貰ってな、子供らが水運びとかなくなってさ、遊べるようになったんだ」


「……そうか。良かったな」


「――うん、良かったんだ」


 と、そのような会話を繰り広げているのは船首付近で遠くを見つめたままの壮年の男性と、そのやや後ろで頬を紅潮させたまま後ろ手に組んだ手をもじもじとさせながら話しかけているシェリカであった。


「――うわぁ、見てて身悶えしてくるわ」


「だろう、タクミくんもそう思うだろう? あれは何かどうにもくっつかないと、僕は思うね」


「こういうときのフープ兄さんの発言はあてになりませんわね。こういうときはやはり、何かでお互いの気持ちを盛り上げてですね」


 クルルの様子が大事ないとクラオカミからの報告があって以降、クラオカミは様子見で船室のクルルに付きっきりになっているため、特に側に居ても専門外の神力に関する手伝いが出来るわけでもなく、甲板上に残されたタクミ、フープ、ティースの三人が行っていることと言えば。


 どうやらシェリカの想い人であるらしい、沿岸警備隊の隊長職にある極度に寡黙な男性と、当のシェリカの様子の観察――要するに出歯亀である。


 直接に近づけば異様に勘の鋭いシェリカに気づかれるため、ティースによる遠見クレアボヤンスの魔法で遠隔監視するという念の入れようであった。


 タクミは船上ならばどこに在っても魔眼で視認出来るため、直接そちらに眼帯を向けている。音声は聞こえていないが、判り易すぎる二人の態度で一目瞭然である。


「乗船許可取るときも結構苦労したからねえ、あの人。

 とにかく寡黙っていうか朴訥ぼくとつというか、全然返事してくれないから。


 まあ、古参船員の人で二十年前に『美少年だった』僕が乗船したことを覚えてた人がいたから、その後は仲介してくれて早かったけどねえ」


 美少年、の部分をやたらと語気を強めて言ったフープに、他の二人は冷ややかな一瞥を向けたのみで観察に目を戻す。


「なんか空耳が聞こえた気がするなあ。とにかく、ありゃほんとに周りで強制イベントやらないとだめぽ」


「ダメポ? とにかく、わたくしたちが協力してシェリカさんの恋路の成就をですね……、どうしましたフープ兄さん?」


 狭い居住区屋上の隅っこで体操座りになっていたフープの様子に気づいたティースが、そちらに声をかける。


「君らねえ。僕の繊細な心は深く傷ついたよ……」


「繊細の定義がたぶんフープ兄と俺らでかけ離れてるんだと思う。――ああん、誰だあれ? あのでぶっちょの親父。邪魔すんなよ」


「んん? ああ、あれはここの盗賊ギルドの支部長みたいな役どころだね。

 普通はああいう役職の人は隠れて表に出て来ないんだけど、船上なら危険は少ないからかな?


 ここの街の上役が入れ替わったんで、盗賊ギルドの勢力が強まったんじゃないかな」


 立ち上がったフープが軽く尻を払いながら、中空に浮かぶティースが映し出す遠視の球体空間に近づく。


「あの人ねえ、街でもかなり評判悪いよー?

 海運支配も盗賊ギルドのやり口のひとつだけど、長らく禁止されてた奴隷売買や輸入関税とかやりたい放題やってて。


 それはどうも私腹を肥やしてるんじゃないかって黒い噂が満杯だねえ」


「なんだそりゃ、胸くそ悪いー」


「奴隷売買もですか。道理で獣人の方が少なかったはずですわね。シーンは寒冷地ですから元から少ないですけれども。

 ここら辺は割と気候変動が少ない土地でありますのに、獣人の方を見かけないなと思ってましたら」


「僕らは冒険者だからそういう種族差別感情とは無縁だけど、ヒト族の差別意識は根強いからねえ」


「って、獣人差別とかあるの?」


 心底不快、という侮蔑感を露わにしながら、タクミはフープに聞き返した。フープが困ったような表情を浮かべる。


「うちの可愛い末の姫君も見方によっては猫の獣人に見えなくはないし、お祖母様はぱっと見人間と変わらないけど、本性は竜人だから僕らはほんとにそういう感情とは全く無縁なんだけどね。


 一般のヒト族なら多かれ少なかれ、他種族で人間より劣った種族、と考えている人は少なくはないよ」


「クルルにもそういう感情が向いてたのかな? その……、神殿の子どもたちとかも」


「いや、獣人国家連合とかが出来て奴隷売買が禁止されたのはかなり前だし?

 あそこの子どもたちは幼いしシェリカさんもそういう教育を施してるようには見えなかったから大丈夫じゃないかな」


「ほんとに、胸の悪くなる話ですわね。――あっ、シェリカさんが離れますわね」


 船首に目を戻すと、盗賊ギルド支部長に除け者扱いされたらしいシェリカが船首からこちらへと何度も振り返りながら歩き戻る途中の様子が見えた。


「ティース姉、そろそろ遠見の魔法鏡仕舞っちゃって。シェリカさん鋭いから気づかれるかも」


「そうですわね。では当たり障りないお話でも。やはりフープ兄さんは適齢期を逃してしまったのだと思いますわ」


「なんで当たり障りないお話でピンポイントにそこを抉るんでしょうかね君らは。兄さんはすごく傷ついてるんだけどねえ?

 というか、まだ僕は三十四歳でばりばりの働き盛りなんだけどね?」


「まあまあ落ち着いてフープおじさん」


「お兄さん! 僕は君らのお兄ちゃんだよ!?」


「彼女の一人でも俺らに紹介してくれれば安心出来たーで終わる話だと思うんだよねそれ」


「タクミさん、そこに触れては兄さんが可哀想ですわ。そっとしておきませんと」


「ほんっと仲のいい家族だよなアンタら」


 梯子を器用に下駄で上がってきたシェリカが、やや疲れたような顔を見せて会話に加わる。


「だーめだあのおっさん、話になんねえわ。盗賊ギルドの威光を示す! とかで本殿領域に入るんだとよ。じきに変針するぜこの船」


「えっ? 本殿周辺は神域指定で立入禁止になっているのではなかったのですか?

 この沿岸警備の船も、基本は本殿周辺を巡って領域侵犯船を警戒する目的だと」


「だから話になんねーんだわ。あのおっさんヒスっててアタシらの言葉が信用出来ねーみてえ。

 ギルドの威光って連呼しまくりだけどよ、ありゃただの自己顕示欲丸出しな感じ。


 トーラーもあんな小物に絶対服従でさ、かっこ悪い。昔のことがあったからって、あそこまで卑屈にならなくたっていいのによ」


 憮然と手すりに寄りかかって腕を組んだシェリカが、トーラーと呼んだ壮年の男性の方へ視線を向ける。


 トーラーはやや背の低い怒鳴り散らす親父を後ろに引き連れながら、黙々と操舵室へ向かうところだった。


「……昔はあんなんじゃなかったんだけどな。寡黙なのは一緒だけど、理不尽なことには頑として従わないかっこいい奴だったのに」


「昔ってどれくらい前?」


「ん? ああ、話してなかったか。もう十年くらいになるかな、アタシがここに居着くようになったきっかけで。

 あんときゃアタシも全然ガキでさ、自分の持ってる力に増長して天狗になってた頃で」


「あれ? シェリカさんっていくつなんだ?」


「女に歳聞くとはなかなか度胸あるなタクミ。まぁ隠してるわけでもねえけど、アタシゃ今年で32だよ。

 ここに住み始めたのは十年前、あそこの神殿に診療所構えたのは更に後で七~八年前くらいかな?」


「ええっ!? 見えない!! 若々すぎますわシェリカさん! どうやったらそんなに若さを維持出来るんでしょうか?」


「ぴっちぴち20代の小娘が何言ってんだよバッカヤロウ、そりゃ女医のアタシに健康の秘訣を聞いてんのか?

 健康はとにかく規則正しい生活と睡眠と食事だ。程良く運動してよく食べてクソして寝ろ、それだけでいい。


 ああ、夜更かしは美容に悪いぜ。肌が曲がるのが早まる」


 蓮っ葉なティースの言葉に、はっ、と思い当たる節があるようにティースが頬に両手を当てる。


 低血圧の気があるティースは寝付き、寝起きが悪いため、ベッドに入ってからもかなり長時間魔法で明かりを灯して書物を読み耽る癖があった。


「ティース姉の美容と健康の話はちょっと置いといて。

 ――本殿に向かうのは俺らの目的と一致するから俺らは願ったりなんだけど、シェリカさんがそんなにぴりぴりしてんのはなんで?」


「ああ? あそこがタクミらの目的地だったのか。そりゃそうか、クラオカミさまと一緒だったもんな。

 この船にも同乗してるんだからそれで大丈夫になりゃいいんだが――」


 言葉を切って、腕組みしていた手の片方を軽く顎に当てて本殿の方を見る。


 湖の中央付近に見える本殿中央にある尖塔の最上部のみが水上に出ている状態で、それ以外は高い透明度の湖底に沈んでいる状態であり、クラミツハはその本殿最深部に居る、と伝えられている。


「十年前にここで街がふたつに別れて大喧嘩したのは知ってるよな?

 そん時、どちらにも味方しなかったクラミツハさまに住民が怒って、本殿に続いてた浮き桟橋に油を撒いて燃やしちまったんだ。

 それでクラミツハさまも人間を見限って、本殿ごと湖底に沈めた、って話でな。


 本殿領域周辺は近づくとクラミツハさまのお力で無差別に船が沈められるようになったんで、今はこうして沿岸警備隊の巡視船がうっかり領域に入らないように領域周辺を周回警備するのが役目になってる。

 ついでに密輸船とかの取り締まりもやってるけどな。十年前はこれが役割が逆だったんだけど。


 おかげでトーラーも全然神殿に帰って来なくなっちまって、今じゃ船に住んでるし」


「もしか、シェリカさんってトーラーさんと結婚してたりする?」

「なっ?!」


 傍目からもはっきりと判るほどシェリカは耳まで真っ赤になり、狼狽した様子を見せた。


「ばっ、バッカヤロウ、あほなこと言ってんじゃねえよ、トーラーとあたしがけっ、結婚とか、何の冗談だっての。有り得ねえだろバカバカしい」


「昔は神殿で一緒に暮らしてたんじゃありませんか?

 そういえば、どう見ても殿方用のサイズの真新しい衣類なんかも綺麗に整理されて保管されてたような」


「なんでそんなとこ見てんだよ?! あー、神殿の片付けんときにか。

 あーもー、確かにありゃトーラーのもんだけど、ありゃ神殿に居た頃のじゃなくて今のやつだよ。


 船乗り生活長くなったから、アタシが洗濯物とかまとめて引き受けてるだけだ」


「水不足で遠い神殿に頼るよりも街中の洗濯屋に頼んだ方が早いんじゃないですかね?」


「水不足は解消したし、アタシも街の老人たちの往診で街に降りる用事あるんだし?

 トーラーたちだって毎日必ず朝晩二回は寄港して補給するんだから時間さえ合わせりゃ何の問題もねえじゃねーか。


 なっ、必然だよ必然」


「で、どこまで進んでんの?」


 咄嗟に返事が出なかったのか、口を開きかけたまま紅潮が極限に達し、全身を真っ赤にしたシェリカがそれを口にしたタクミの方を指差しぱくぱくと口を動かすが、言葉は出ない。


「あー。これは何も進んでないね。このパターンで十年経過したんだろうな、と簡単に予測が付くパターンだ。僕はよく判るよ」


「フープ兄さんも同じなのではないですか?」


「僕は違うからねっ?! 僕の場合はそもそも相手が……、こら、口元を押さえて笑いを堪えない。

 君たちどうしてそんなに性格悪くなったのかなあ? お兄ちゃん悲しいよ。


 ――閑話休題それはともかく。シェリカさん、僕らはこの問題にひとつの解決策を持ってます」


 にこやかに詐欺師のような笑顔を顔面に貼り付け、フープがのたまう。


「どうです、ここはひとつ、誰にでも分かりやすい形での既成事実――、結婚を申し込むという」


「それが出来たら苦労してねえんだよバッカヤロウ!」


「え、じゃあその前でプロポーズ」


「同じじゃねーかど阿呆!」


「じゃあ婚前交渉」


「出来るわけねえだろアタマおかしいのかてめえ」


「えー、なかなかウブでいらっしゃる。じゃあキスとか抱き合うとか」


「出来たら苦労してねえって言っただろうが」


 目に剣呑な光を宿らせたシェリカが、両手を固めてこきこきと首や肩を鳴らしながらフープに歩み寄り、じわじわとフープが円を描くように狭い屋上で距離を取る。


 ――間に挟まれた形となったタクミとティースの巻き添えは免れまい。


「汚え、汚えよフープ兄! 間違いなく被害を受ける位置に俺らを置いて!」


「フープ兄さん、何があなたを変えてしまったのですか?! あんなに優しかった兄さんが」


「君らが僕のことをどう思ってるのかは分かったから、その辺でね?」


「ごちゃごちゃ言い訳してんじゃねーぞ、なんだか知らねーが、こうなったら全員潰してやんぞごるあ」


 四者がそれぞれの心中を吐露し、撃発までのタイミングを図っている最中、突然それは起きた。


 緩やかな円弧進路で巨大な円を描き本殿領域境界の縁を周回していた船の進路が鋭角に内側に向かって急回頭し、本殿中心に向かう進路を取る。


 甲板上に居た船員らは慣れているため何の問題もなかったが、タクミら四人は何の前触れもない進路変更で大きくバランスを崩し。


 今にもフープに飛びかからんとしていたシェリカの状況もあり、フープを底辺としてタクミ、ティース、シェリカの順に進路とは逆の手すり側に重なって倒れ込む格好となった。


「むぎゅうー……まだまだ成長する余地はあるよ、諦めないでティース。何か変針前に合図して欲しいものだね、鐘を鳴らすとか」


「ちょっとどこに手を回していらっしゃるんですかっ、兄さん!」


「重い重い、早くどいてくれシェリカさん。あと変なとこ触らないでくれ、特にそこ体重かけて押したら俺たぶん悶絶するぞ」


「とっとっと、悪りぃ。さすがのトーラーもちょっと腹立ててたのかな、あいつに逆らえねえつっても、いつもならもっとゆっくり操船すんだけど」


 少し頭が冷えたのか、普段の調子を取り戻しつつ一番上に重なる形になったシェリカが起き上がりながら操舵室の方へ心配へな視線を向ける。


「うぉぉ、やばかった。流石に頑丈つっても潰されたら俺の精神が先に逝ってしまう」


 先に起き上がったシェリカの手を取り、タクミはティースの腰を支えて同時に起き上がる。


 それから、一番下になっていたフープが起き上がるのに手を貸そうとして、はっ、と気づいたように行動を中断し、手すりから身を乗り出して船底の方を見た。


「やあっべええ! 避けろ、魚雷だ!!」


 どこから発射されたものか、長い尾を引く無数の細く真っ白な白渦が、水中からまっすぐに船に迫り来るのがタクミには感じられた。


 それは船を粉砕して余りあるであろう強大な威力が込められていることも感じられる。


「ぎょらい? 何かなそれは……、避けられないっぽいよ、みんな何かに掴まって!」


 魚雷の意味が分からなかったのか、タクミの目線の先を起き上がり半ばながら手すりの隙間から確認したフープが鋭くタクミに引き続き警告の叫びを上げる。


 と同時に手すりに腕を絡ませ、身体を固定する動作にティースもシェリカも聞き返すこともなく素早くそれに倣った。


 しかし。


 タクミが魚雷、と呼んだその攻撃の威力は余りにも凄まじく。


 船底に水中下から斜めに突き上げる形で受けた攻撃により、船は一瞬で下から大きなハンマーにより連続で叩きのめされるが如き巨大な連撃により浮き上がり、攻撃の余波は水上に抜け、真っ白な水しぶきを高いマストの何倍も高い位置にまで吹き上げ、そこから落下する大量の水塊は船上に大雨のように降り注いだ。


 同時に船底の船を形取る最重要基部である竜骨はくの字に折れ曲がり、木造の船は竜骨の損傷と同時に甲板および構成物にいくつもの亀裂と破損などによる破孔を開け、推進力を失い、大きく傾斜し湖上を漂い始めた。


 さほど時間を置かずして、この船が、深い湖底に沈む、他の沈船と同様の道を辿ることになることは、既に誰の目にも明らかな状態だった。



フープ兄さんいじりがちょっと楽しくなって来ました。


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