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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第一章 冒険篇
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01話 どうやらここは異世界らしい

「ふんっ!」


 ぺちん。


 気合を入れた全力、渾身の震脚しんきゃくが。ぺちんって。 ああ、泣けてくるわ。……俺の15年の功夫クンフーがゼロに。


 震脚ってのは踏み込みのことな。これ豆な。

 ――知ってても何の役にも立たないけどな!


 間違いなく、俺は死亡した、はずなんだが……。


 気がついたら石造りの部屋に寝かされてて。

 その上。外に出たら分かったんだが。

 ……ばかみたいな高さの塔のてっぺんに居た。


 どれくらいの高さかって、目測するしかないけど。

 元とび職の俺の経験則で言うとたぶん、2,000メートルくらい?

 これくらいの高さになると、気温も気圧も地上と比べてかなり下がって、普通なら相当に寒いはずなんだが。


 寒さは一向に感じないし、ていうか、身体がすごく若返っている。


 鏡がないんで触った感じでしか顔貌は判らないけど。

 それでも、間違いなく前世の27年慣れ親しんだ顔じゃない。

 あと、見た感じ、身長や手足は12歳くらいの肉体で……、たぶん、俺は人間じゃなくなってる。


 なんでそんなこと思ったかって?


 だって俺、もうここに来て二週間は経ってるけど。

 メシもトイレも何も催さないんだもん。


 ついでに、日課の鍛錬は毎朝やってるってのに、疲労も何も感じないし。

 つまり、身体が鍛えられる様子がない。

 完全に肉体の状態が固定されてる感じ。


 あと気がついたのは、体感でしかないけど、この世界でも朝昼晩の時間はだいたい地球と同じくらいみたいだ。


 最近流行りの異世界転生ってやつかなあ?

 でも、これってチートじゃね? って感じはある。


 拳を傷つけるつもりで壁を殴ったりもしてみたが、拳が傷つく様子もなかった。

 たぶんだけど、この塔から飛び降りても無傷な気配は感じる。


 ――ある意味無敵の俺、誕生。


 ただ力そのものは子供程度のようだ。

 それで、異世界ものでありがちな、神様に特殊能力を授かるとかそういうのはないみたいだ。


 しかし。


「筋肉がつかないなんて、ある意味アウトドア野郎にとっては絶望対象でしかないんだよ畜生!」


 そう。

 俺の27年で培った上腕二頭筋の盛り上がり。

 SNSで晒しまくって自慢したばっきばきに割れた腹筋も。

 全てが失われて、子供の身体にっ!


 ショタ好きのおねえさんたちにはウケがいいかもしれないがっ! 俺の筋肉を返してくれっ。しくしく。


「てーか、ここで俺に何をやれってんだよ! 神様が居るんだっていうんなら出て来やがれ!!」

「――てゆーか、早く呼んでくれればいいのにー(´・ω・`)」

「?!」


 突然背後から聞こえた声に俺は驚いた。

 そして、思わず飛び退って壁を背にして。

 見知らぬ声が聞こえたベッドの方を凝視した。


 ──今まで誰もいなかった殺風景な白い部屋。

 その、このベッドと窓がひとつずつしかない場所に、唐突に現れた見知らぬ男が足を組んで座っている。


「いやね、ほんとーは魂が定着するまでは少し間を置こうと思ってねー。でもここ、ベッドひとつしかないじゃん?

 男二人で密着して寝るとか御免被りたいし、いやショタも行けない感じではないでもないけどー、やっぱりその年齢からそっち方面を開発するのもはばかられるなあってねー。

 あとめんどくさかった(´・ω・`)b」


「最後の一言だけ本音だな?」

「うん、正解」


 さんざんぱら言い訳した挙句の本音。

 コイツが何者なのかはさっぱりだが……。

 かなり、いい性格してやがる。


「まぁねー、突然元の世界からこんな異世界ー? 君らの世界だとそんな言い方で良かったんだっけかー? まぁいいや。

 一度生命活動を停止した肉体から星幽体だけ取り出して、あらかじめ用意してあったその身体に突っ込んでここに持ってきたわけだけどー。


 さーすがに神力にある程度馴染んでたとは言っても、やっぱりただの下等生物な人間から神の器に魂を移すってのは難しかったみたいで、なっかなか定着しなかったんでー。

 頭に来て全力で雲散霧消を繰り返す君の魂を無理やりまとめて強制的にぶち込んだのが、いまのその状態、ってわけなんでー」


「ちょっと待て。その物言いだとなんかお前が神様みたいに聞こえるんだが。気のせいか?

 ていうか、お前が俺を選んで生き返らせたってこと? 何のために?」


 軽薄そうな調子とやたら語尾を引っ張る口調になんだかちょっと頭痛を覚えつつ、尋ねる。


 言っちゃなんだが、上から下まで眺めてみても……。


 銀ラッカーでも振りかけたのかやたらぎらぎらとした金属光沢のある銀髪に全身白ずくめでギリシャ風の衣装?

 そんな感じの布を袈裟懸けに全身に巻いた感じの衣装。


 黙ってれば絶世の美青年と言っても過言ではなかろうに。

 喋るだけで三枚目まで格下げになること請け合いのこの口調。


 これがこの世界の神なのか。

 神々しいって言葉はこの世界には存在しないのかもしれない。


「まあ、君を特別に選んだわけじゃないんだけどねー。

 言うなれば誰でも良かったんだけど。

 たまたまウチの知り合いの神の異形に戯れて貰ってる君が目についてねー。あのときに」


 あのとき、という単語で俺は死の瞬間を思い出して身震いした。

 全身に鳥肌が総毛立つ。

 全身が焼き焦がされてバラバラになる感覚。

 もうあんな体験は二度とごめんだ。


「あの世界は……、地球はどうなったんだ? あの後。親父や、お袋や……」


「綺麗さっぱりすっぱーんと後腐れなく完全に動植物も人間も何もかもが滅びたよー。やっぱり原住民に任せるとダメだねー。

 ほかの星でもそんな感じで失敗してんだよねー」


「失敗って、他にも人類が居たのか?」


「人類ってーか、文明を与えた種族だねー。

 地球の場合はたまたま猿に与えただけで、他だと爬虫類とか植物とか、そんなのもいたねー。

 ちなみに今いるここは最後のテスト中の惑星、バイオスフィア10、通称『アトラス』ですなー(`・ω・´)b」


 バイオスフィアって単語には聞き覚えがある。

 確か和訳は生命球だったはず。


 金魚鉢サイズの密閉した容器に水と藻類と魚と微生物とかを入れて。

 その中で、各生物の食物と排泄物を生物循環させるんだっけ。

 で、全てが相互にぐるぐる循環する完璧な環境を作るってやつだったような。


「んー。なんだかよくわからない、って顔してるねー。

 その顔でもう少し目をうるうるさせて上目遣いで頬染めてお願いしてごらんっ。

 そこらのおねーさんたちはきっといちころだよっ」


「うるせえよ。説明するんだったら続きを話してくれ……」


 神、というのは本当らしい。

 さっきから手のひらの上に光を出したり消したりして遊んでるっぽい様子が見える。

 ──けど、その光から発せられる不思議な力から感じられるのは。

 ……圧倒的すぎる破壊力。

 うっかり爆発したら間違いなくここら辺一帯が吹き飛ぶ力を持ってる何か、ってのが、何故か知識ではなく感覚で感じられる。


 っていうかあれ、魔法ってやつか?


 しかし。コイツと話してるとやたら疲れるのは何でだろう。

 体力とか精神力ってか気力みたいなもんをごりごり削られてるような気配がある。

 口調と態度で疲れるとか言うんじゃなしに。

 なんか……、対峙してるだけでエネルギーを持ってかれるっていうか。


「あー。やっぱり神の器に入れたとは言っても、魂そのものの脆弱性は変化ないんだなー。

 これはそのうちバグ取りせにゃいかんねっ。めもめもっ。

 詳しい説明は後任に任せるとして、お兄ちゃんはもう消えるから」


「ちょっ、ちょっと待てっておい。説明はして行けよ……ッ?!」


 立ち上がってシュタッ! とか片手上げて部屋から出ようとする男の白衣装の裾を掴んだ瞬間。

 俺の全身は感電したみたいにびくん! と硬直して。

 爆風みたいな風を伴って俺はその場から弾き飛ばされた。


 こんな感覚は昔、小学校の度胸試しでコンセントに針金突っ込んで遊んだ時以来だ。

 それを何万倍にしたかのような衝撃。


「うひょっ、さすが人間、無茶するなー。次に死んだら生き返れないぞー? これでも56億7千万枚の障壁かけてるのに、それでも耐えられないとか人間弱すぎ、だね」


 指を指して笑われた。

 ムカつく口調だけど、それよりも先に恐怖が働く。

 コイツが言ってる内容が真実だと、魂が理解している。


 ちっぽけな人間なんかが相対していい相手ではない、と。


「ちゃーんと代わりの相手は置いてくからっ、頑張って乳繰り合ってねー。 でわっ、また会う日までっ、さらばだ末っ子よっ!!」


 ばしん! という音と共に光に包まれて男の姿が見えなくなる。

 あまりの光量に思わず目をつむったけど、瞼越しにも網膜が焼かれるような感覚。


 両手で目の前を覆ってると、徐々に光が弱まる感じがした。


 何度か目を瞬かせながら眩しさに薄目を開けつつそこを良く見ると……、巫女服に身を包んだ小柄な女の子が立っていた。


「えーっと……、代わりの説明を、っていうかこれからタクミくんと暮らすことになります、アメノウズメですっ。

 でもタクミくんはクルルって呼んでねっ。

 ――そう、あの白猫の、クルルちゃんですっ。よろしくねっ」


 何を言ってるんだお前は。


 鈴音のような耳に貼り付いて離れがたい少女――クルルの美声を聞きながら、俺はもう現実感がなさすぎて、乾いた笑いを漏らした。



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