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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第二章 水龍篇
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15話 港町エイネール

「さーあ、やって来ました水の都エイネール。ご飯は美味しく商売は盛んで気候良くして賃金は安く犯罪はこびる港町!」


「フープ兄、それ後半なんか貶し入ってると思う。……っていうかとりあえず疲れた。限界」


 真っ赤に充血し切った目で一頭立て馬車の御者台に座る男性二人、フープとタクミは軽く言い合いながら、街の入口の門番に入場問答を行うために馬車を降りて馬を引きつつ入り口の大門へ近寄った。


 親方の墓碑に挨拶を終え、シーンの街を出発してから約一週間。


 シルフィンとクラオカミとティースの親元である貴族の援助により馬車を購入出来たことからここまでの旅路は徒歩よりは遥かに早く到着したものの。


 荷台を何かと荷物が入り用な女性陣に占領されているため、男性二人の居場所は吹きさらしな狭い御者台で交代で座ったまま寝ることになり、疲れなど取れるはずもなく。


 クラオカミが御者台に座れば発する気配で馬が怯えるため、荷台最後方でクルルの面倒を見ていたし、シルフィンは最初から暗視見張りなどを行うのに忙しいなどと理由をつけて寝入っているし、それほど旅路に強くないティースは乗り物酔いのため当初から臥せっていたこともあった。


 また、基本的に食事の一切が必要なく、夜間は魔力回復のためクルルと同衾する必要のある神器のタクミと違い、冒険者であるとはいえごく普通の人間族であるフープの消耗は著しく。


 その上で御者経験がほぼ皆無なタクミにフープが馬車の扱いを教えるために三日、初心者のタクミの面倒を見るために四日、と結局のところ殆どフープの休養は皆無だったに等しい。


「今思い出したけど、ここら辺からは盗賊ギルドの勢力が強くなって来る代わりに、冒険者ギルドの影響力が弱まってくから注意してね。

 ……ああっ、タクミくんは毎晩ロリ幼女なクルルちゃんを抱っこ出来て羨ましいなあああ」


「忘れてたけどフープ兄ってロリだったんだよな……、YesロリータNoタッチっすよ!?」


「うん、それほんといい言葉だよね、全世界に広めよう、僕は喜んで伝道師になるよ!」


 ――もう徹夜明けハイテンション状態な男兄弟二人の意気投合っぷりに、街の門番たちも全力で引きまくりだった。


「お、おう。えらくハイテンションで来たもんだな?

 分かってると思うが、エイネールへの入場料は一人銀貨一枚、子供は銅貨五枚、馬車は一台につき金貨一枚。


 荷物は関税あるもんが積んでないかどうか検査させて貰う。

 ヤバイもんあるなら事前に盗賊ギルドに話通してどうにかしとけってことだ。

 ――一旦引き返してもいいぞ?」


「いや見られて困るものは……、ああ、女性が乗ってるので扱いは丁寧にね」


「女ぁ? 女衒ぜげんや売春やるつもりじゃねえだろうな? そこら辺も盗賊ギルドの取り締まり厳しいぞこの街は」


「いやいや、僕らの祖母と母親と妹たちだけだよ。一家で冒険者やってるものでね」


「冒険者ギルド員か。ここいらじゃちっとばかし苦労するかもな?

 まあ、そこら辺も分かってて来たんだろうから、とりあえず決まりなんで中身改めさせて貰うぜ?」


「いいけど、寝起きの女性の不機嫌さはあなたもよく知ってると思うから本当に気をつけて。

 ――迂闊に起こして魔法を食らったりしないように」


「どんな豪快な女が乗ってんだよ、こっちも仕事なんだからビビらせんな」


 フープと門番のやり取りを傍らで立ち会いながら、タクミは内心目を丸くしていた。


 会話の流れから、賄賂や事前に密輸品などを当局の目から隠す談合や裏ルートのことを門番が示唆していることが判ったからだ。


 不正と贈収賄に厳しい社会を当たり前としていた日本の出身であるタクミには考えが及びもしない話だった。


 そして、ただ街に入場するだけで金貨一枚……五万円、大人三人で各銀貨一枚……二千円。


 そして外見上は子供の姿のタクミとクルルが各銅貨五枚……千円と、入場手数料が取られるというのも驚きがあった。


「あっ、タクミくんがびっくりしてるぞ。そうか、タクミくんは盗賊ギルドのことを全然知らないんだったね」


「――毎度思うんだけど、なんで眼帯してて表情判らないはずの俺の考えを、そんなにぽんぽん見通しちゃうのかな」


「ふっふっふ。それは僕がよく出来たお兄ちゃんだからだよ」


 御者台や荷台から馬車に立ち入り検査を実施中の門番たちを見送りながら、フープはタクミの肩を抱き寄せて頭を撫で回した。


「冒険者ギルドはほんとに冒険者たちだけの互助組合で、その繋がりで魔術師ギルドなんかの学院系賢者養成所みたいなところと繋がっててね。

 あとは冒険者に関係ある道具屋、武器防具屋、素材屋、銀行、なんていう商業系にも繋がりが深い、ってのは知ってるよね」


「うん、それは一緒にパーティ組んでいろいろ交渉経験させて貰ううちに覚えたし、個人的に繋がりも出来たし」


 大工職人との繋がりが出来たことで、親方の墓碑作成を最後にチームを解散し街を離れることになっていた職人たちに魔法を教わったことも大切な思い出になっている。


「そう。そういうわけで、冒険者ギルドの影響力っていうのは主に商売人相手に強いんだけど。

 盗賊ギルドっていうのは冒険者ギルドよりも前から存在してる、本来は裏社会の職業をひと纏めにしてた裏社会組織でね?


 ……今の統首になってからは流通を牛耳るようになったんだよね。裏社会の仕事はそのままで、業務拡大みたいな形で」


「へえ? それでなんで冒険者ギルドと仲が悪いんだろう」


「ぶっちゃけると、冒険者ギルドの方が後から出来た組織で、盗賊ギルドが持ってた商売人相手の儲けを奪って安定した組織だから。――あっちの目線ではね」


 言葉を切って、やや声を潜めてフープは続けた。


「それで血で血を洗う抗争があって、長く続いたんだけど、割と最近になって向こうから手打ちの形で相互不可侵、の取り決めがあって、同じ街に同居出来てる今があるんだね」


「え? じゃあシーンの街にも盗賊ギルドってあったの?」


「あったけど、ほんとに元々は裏社会組織だから冒険者ギルドみたいに大きな住居構えてそこに受付置いて~なんて真っ当な存在じゃないんだよ。


 ごく限られた人間だけが本部というか本部員を知ってて、そこにいろんな手段で連絡を繋ぐのが裏の連絡の繋ぎ方。


 表の方じゃ、例えばこの馬車を購入した厩のご主人さんとかが盗賊ギルド構成員だね。

 大陸全土流通支配は伊達じゃないっていうか、移動手段の殆ど全てに盗賊ギルドの息が掛かってる、と考えてもいい」


 何しろ、足抜けすると粛清されちゃうからね、と言葉を続けて、フープは首筋を親指で切り裂くジェスチャーをしながら白目を剥いて舌を出しておどけてみせた。


「仲いいな、お前ら。兄弟か? それにしちゃ似てねえが。

 まあいい、検査の結果は異常なし、だ。

 あとは入場手数料支払ったら入っていい。

 滞在は一ヶ月を超えるようならもう一度ここに来て延滞料金支払うか、街で居住許可を発行して貰うこった。


 ……それから」


 馬車から戻ってきた門番がおどけていたフープにやや憮然として告げた。よく見れば、右目の周りにさっきまでは存在しなかった青痣をつけている。


「ちびっこの元気良すぎる猫娘のお嬢ちゃんの頭突きは凶器すぎる。あれはもう少し厳しく躾しとけ」


「「すんませんっしたぁ!!」」


 フープとタクミはその場から逃げるように急いで手数料支払いを済ませ、馬車に飛び乗り街の内部へと走らせた。


――――☆


「だーってっ」


「だってじゃない。悪いことしたらめっでしょ」


「だーっってーっ」


「だーっってーっじゃないっ」


「クルルの袴めくるんだもんあのおじちゃんっ」


「それは反撃していいっ、僕が許すっ」


「いや許しちゃダメでしょフープ兄。ていうかややこしくなるから黙ってて」


「タクミくんがロリータの精神を理解してくれないっ。あの晩あんなに熱くふたりで意気投合したじゃないか」


「そんな事実ねえから」


 馬車を厩に預け、預け賃を支払った上でその場で手分けし、女性陣は生鮮食料品の買い物と宿の手配。


 男性陣とクルルは日用品の購入と、ついでに港町が初めてなタクミとクルルの案内を仰せつかったフープの三人で買い物がてらの散策中である。


 特にタクミの興味を引いたのは遠方ながら他の漁船などとは明らかに大きさが違う、こちらに舳先を向けて波止場に近づいてくる。


 他の商船とも一線を画す一際大きなニ本マストの三角形の帆を張った30メートルサイズの巨大な帆船だったが、それが内海用で外洋に出る予定はなく、目前に広がる水平線も内海であると知ったときは驚愕するばかりだった。


「うっほ。でっけー!」


「あれでも小さい方なんだよ? 外洋用の帆船はもっと大きいから。もう少し南に進んだら見れるかもね?

 ちなみに、風がないときは風魔法の使い手をかき集めて魔法で進むことも出来る。乗ってみるかい?

 乗りたいなら交渉してみるけど」


「乗りたい!」


「クルルもーっ!」


「よしよし。じゃあ接岸までもう少し時間があるはずだから、その間に買い物済ませちゃおう」


「てか、結局休憩出来てないけど大丈夫なんフープ兄?」


 フープの顔を見上げて心配したタクミに、フープは虚を疲れたような表情を見せた。


「おや、顔に出てたかな? 今の時間が休憩みたいなものなんだよ、お祖母様の気遣いかな?

 女性陣の買い物に付き合わされる僕の姿を想像してごらん。どんな惨状が待ってるか」


 言われて、顎に手を当ててタクミは少し考えた。


 肩車でタクミの頭上に乗っているクルルもそれを真似して上下で同じポーズを取る姿が非常に微笑ましかったが、本人たちにそれを意図している様子はない。


「体力の限界まで物を持たされる俺らの光景が脳裏に」


「正解だよタクミくんっ。また一歩僕達は相互理解が近づいたね」


 がしっ。


 往来の波止場で固く交わされる男同士の熱い抱擁。今、男たちの心は確かにひとつだった。


 間近に寄せられる形になった肩車中のクルルが、傍らに来たフープの頭を撫でたのはそこに頭があったからか、それとも別の思いからか。


「――まぁそれはともかく。とりあえず油と研磨剤と乾燥剤と。せっかく港町だしロープ類も買い替えたいな。あと着替え」


「港の近くに商店あるん? そういうのこそ街中にありそうなもんだけど」


「街中は荷降ろしされて卸問屋を通った後の手数料込みなお値段だから、すこーし割高になるんだよ。

 お金に困ってるわけじゃないけど、節約出来るところは節約して余裕を作るのが僕の信条」


 言いながら、手早くフープは荷物片手に移動途中の船員風の男に声を掛け、交渉を始めた。


「フープすごいねっ。タクミ、びっくりー?」


「……うん。ほんっと俺って何の役にも立ってない」


「ええー? フープはタクミといるときいっつも嬉しい楽しいしてるよっ? フープはタクミ好きだもんっ。

 でもタクミを一番あいしてるのはクルルー。ちぅしたもんねー」


 頭上から掛けられるクルルの言葉に、ふっ、とタクミは笑みを浮かべた。


「そうだね。しかしあれは痛かった。次までにはもう少し練習しとくわ」


 勢いが良すぎたファーストキスと、その後の惨状の結果がクルルの今の姿。


 しかしそのクルルが姿が変化する以前の、二人の共通の記憶を語るということは、確かに大人のクルルと今の姿のクルルが確かに同一人物である証明でもあり。


 タクミの中で寂しさと嬉しさが入り混じった不思議な気持ちがこみ上げてくる。


「んー? れんしゅうー? 誰とぉー??」


「――あっ。そうか。相手いねえと練習出来ねえよな」


「タクミー? クルルは浮気許さないじょ?」


「浮気ってかまだ俺何も答えてないような」


「だーれーとー、れんしゅーするのー? クラー? シルー?」


「いやあの二人とはそういう関係じゃねーし、髪引っ張るなクルル。――いやそうじゃない、叩けって言ったんじゃない」


「おや、僕が離れてる間にイチャつくとは、僕はお邪魔虫だったのかな、クルルちゃん?」


「んーん、フープにもタクミはあげないからねー」


 船員との交渉を済ませたフープがクルルに声をかけると、クルルは舌を出してタクミの後頭部にしがみついた。


「ふふふ、弟妹が仲良くしててお兄ちゃんは嬉しくて仕方がない。

 ――後で僕が個人売買で売り荷の残りを買い取った、って形で分けて貰えることになったよ。

 で、とりあえず急ぎの案件は油だね」


「うん、正直もう手持ちが少なくて。俺の鎧ってほんっと手間かかるよね、ごめん」


「はい謝らない。それは君の鎧、ではなくて僕らの弟の身体、なんだから家族が面倒見て当然なんだよ」


 タクミの鎧は元の大きさから相当にスリム化した状態で、更に上から通常の衣服を着ることで普通の子供と変わらない見た目を保ってはいるものの、関節のすり合わせ間隔がかなり狭いために油を切らすときぃきぃ、と耳障りな金属音を発するようになっており。


 音自体は発しても構わないのだが、その音で全身鎧かつ中身がなく四肢欠損と他人に知られることが不味い。


 何故なら視力を失っても、魔法が一般人まで浸透しているこの世界では誰もが魔力検知で補える故に、現にこの街に入ったときもタクミの眼帯に門番は驚く様子もなかったが。


 四肢欠損のままで魔力で鎧を動かしている状態は『四肢再生を何らかの方法で行えない』ということであり、それは呪われている人間であることの証左に他ならない。


 呪われている外部の人間は街に入ることは出来ないか、法外な入場手数料を要求されるか、街からの退去を要求される。街に災いを呼び込む可能性が高いからだ。


 また、盗賊ギルドの現統首であるアマテラスに直接的な呪いを受けたタクミは特に、盗賊ギルドの影響力の強い土地ではどのような扱いを受けるか不確定要素になる。


「そういうことは僕ら何度も話し合ったじゃないか? 鎧の形や重量も何回も調整したし?

 この旅だってタクミくんがクルルちゃんを残して一人で行くっていうのを引き留めてこうなってるんだし」


「クルルはタクミを守るもんっ」


「うん、タクミくんはいつも考え方が後向きすぎるから、クルルちゃんちゃーんと守ってあげてね」


「いやどっちかってーと俺の方がクルルを守りたくて……、はっ!」


 ものすごいにやにや笑いになっているフープの目線に気づいて、俯いていた顔をタクミは勢い良く上げた。


「そういういじり方はやめて頂きたいっ! それと意見誘導もっ!」


「いやもうこんな素直で可愛く育ってくれた弟が可愛くて可愛くて。世の中を全力で斜めに渡ってきた母親に育てられて物事を斜めに見る癖が染み付いてるお兄ちゃんとしてはもうタクミくんを可愛がりたくて仕方なくてだね」


「クルルもタクミを守るんだよっ? じゃー、そーしそーあい? だよねっ?」


「よく意味も覚えてないような単語を理解出来ないまま発言するなっ」


 頭上のクルルと掛け合い漫才を始めたタクミを腕組みしつつ優しい目で見やりつつ、フープは笑いかけた。


「ふふふ。まぁ、さっきの帆船が到着するのは夕方らしいし、日没にお邪魔するのは間が悪いから、帆船乗船は明日にしよう。

 ついでだし女性陣にも声かけてみようか?

 上手く行けば次の街までの移動は船旅になるかもだし。


 ……とりあえず、油の方は僕が話つけておくから今は広場で女性陣と合流しようか。そろそろ宿も取れてると思うし」


 そうして、三人は街の広場までの距離を賑やかに歩いた。



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