12話 反則級のステータス
HDDいっこ逝っちゃって元旦から復旧さ行で泣いてます。プロットデータ復旧出来たのが不幸中の幸い。
「その単語は言霊の名に於いて禁止しますっ!」
と、いうことで、クルルのことを母親呼びするのは禁止ワード認定された。
……禁止の威力がハンパなさすぎで、「母さん」「母上」辺りの単語を発音出来ないように神言術で徹底禁止されてるという。
――俺の抵抗力の弱さも相まって、どうもこういう精神系に作用する術にはぽんぽん引っかかるらしい。
この抵抗力についてはどうにかしたいところだが、今のところどうしていいのか方法が見つからない。
クルルがクラさんと旧交を温める挨拶の中で俺(の身体)がクルルの息子、って話に及んだんで、その流れで母上呼びした方がいいのか尋ねただけなんだけどな。
――まさかあんなに怒るとは。
地球で死んだ俺を転生させてまで救ってくれたのは、どうやら息子にしたかったからじゃないらしい。
じゃあなんでだ? さっぱりわからん。
とにかくも、クラさんが合流して、主に俺を鍛えるためにクルルと俺に同行してくれることになったのは心強かった。
自覚はないけど、魔力のない地球の出身だからか、俺の魔法抵抗力はこの世界じゃ有り得ないレベルで弱いらしい。
まぁ、ステータスカード上の数値見ても、一般人100のところを20ってのは五分の一だもんなあ。
そこのフォローをするために、常にクルルが同行して精神防御してくれるってことになった。
というわけで、今日は冒険者ギルドに3回目の初心冒険者講習の終了報告と、クルルとクラさんの冒険者カードを作るために訪れている。
「神使の冒険者カードを作るのはこの支部では初ですよ。しかも二人同時とは……、これは歴史に残るかもです」
ギルド受付のシンディさんが上ずった声でカード作成の用意をしている。
初心者講習修了報告そのものは昨日街に帰った後にフープさんとティースさんが俺の代わりに報告してくれたらしいので知ってたそうだ。
あの二人にもお世話になったし、何かお礼しておきたいな。冒険者としての立ち回りをもっと教えて欲しいし。
「あれ? クルルは冒険者ギルドに登録できなかったんじゃなかったっけ? 別のギルド登録証持ってるんだよね?」
「うーんっ、それはそうなんですけどっ、複数持つ前例がなかったわけでもありませんしっ。
ていうか冒険者ギルドの創始者も元は盗賊ギルド員ですからっ。
あと、ほっとくとタクミくんの生死に関わる大事ですからっ、ここは神使のクルルが責任取らないとですねっ」
「儂も手伝うことに吝かではないが、神使と神器の繋がりほどには密接に小僧に対処出来んからの。
ここは甘えておくのが良かろう、後にいくらでも恩義を返す場面はあるじゃろうし」
ただ、別組織のカードなので盗賊ギルドカードは見せられないそうだ。そりゃそうか。話を聞く限り、あまり友好的な組織関係じゃなさそうだしな。
しかし。神使が二人同時にカード作るってことで、物珍しさからか周囲に冒険者の人だかりが出来ている。
受付の前に並んだクルルとクラさんの間に入って二人に背中を抱かれる形になってる俺も注目度高いみたいだが。
すいませんめちゃくちゃ初心者です注目しないで。
元無職ニート舐めんなよ? みんなの期待の眼差しが怖い。
「これは……、今すぐ本部依頼を請けて欲しいくらいのレベルですね。神位が高いのはお話では伺っておりましたが……」
シンディさんが震える手でパネルをタップしているのが見えるが。受付テーブルに乗ってる二人のカードに視線を移してみる。
――なんじゃこら。
「四桁とかになるんですね能力値って。これが桁違いってやつか。そして龍神化……、かっこいいんだろうなあ」
「人間でも高レベルならばこれくらいにはなるであろうよ。
儂はこの現世では全力を封じておるし、何より神力を全開放すると肉体を維持出来なくなるからの、まあこの程度じゃ。
何より、知神オモイカネがリソースをそれほどこれに掛けておらんじゃろうから、仮に全権能を数値化しようとするなら専用カードが必要になろうさ。それに」
一つ言葉を切って、クラさんは俺の頭をぽんぽんと軽く手のひらで叩く。
「戦いは数値で決まるのではない、相手との駆け引きじゃ。
そこのところであれば儂も手ほどきしてやろう。小僧はとにかく、無心で経験を積むことじゃ」
昨晩風呂を一緒に入浴してから、妙にクラさんが優しい。いや最初からかなり優しかったけど。
そう、最初、クラさんと出会ったときの施術。
変化があったっつか、クラさんのおかげで俺も前屈みスキルを入手してからは毎晩の入浴にちょっとした変化が。
真ん中のきかん坊がぴょこんとおっきするようになってから、クルルやシルフィンが恥ずかしがってるみたいなんだよな。あまり近寄って来なくなったというか。
おかげで今後はちゃんと男女別で入れることになりそうだ。そういえばギルドには大浴場があるって言ってたな。
神器で状態変化無効だから入浴の必要自体がないとは言っても、俺も温泉大好き元日本人だし、そこはそのうち行ってみたいと思っている。
「しかし……、アメノウズメさま……、失礼、今はクルルさまでしたな。これは少々やりすぎなのではないでしょうかな」
失笑しながらクルルを見やるクラさんに釣られて、俺もクルルを凝視する。きょとん、と小首を傾げているが、俺もこれはやりすぎだと思う。
「冒険者カードって16ビットだったんですねっ」
「違う、そうじゃない。俺もそこはちょっとびっくりしたけど、ツッコミどころはそこじゃない」
「たぶんアマテラスやサルタヒコとかタケミカヅチたちも全員こうなると思いますよっ」
「今ここに居ない人たちのことはどうでもいいし」
周囲の冒険者の人だかりがずざざっ、と潮が引くみたいに下がるのが見える。ですよねー。歩く核爆弾級ですよねこれ。
「うかつにそこらで転んで街が壊滅とかダンジョン崩壊とかやらかしそうなステータスだなこれ」
「そんなことは――、まぁ、ここ最近はないですよっ」
「やったことあるんかいっ!」
俺のツッコミと同時に、周囲の冒険者さんたちが更にざあっと引いた。
この姉ちゃんマジヤバイ、という認識が共有された気がする。
あちこちで、
「やべえ、あの人マジやべえ」
「人じゃねえよ神だよ、しかも最高神に近いレベルだよあれ」
「なんでこんな田舎にあんな神が降臨されてんだよ、おかしいだろ」
……とかいう囁き声も聞こえてくる。むしろそれは俺が聞きたいわ。
子猫だと思ってたら神でした、とか小説かっての。事実は小説よりも奇なりってほんとだよな。
「そうじゃ、昨夜は伝えておらなんだな。
小僧を鍛える修行に微力ながら手を貸す、という話じゃがの。
儂の孫らも同行させて欲しいのじゃ。
なれば、同じ冒険者として冒険者ギルドに登録したのもそちらの所用も含めた理由も大きい」
「あっ、同じパーティになるってことですか? それは俺もお願いしたかったので、ちょうどいいです」
「敬語は要らんと言うたであろ?
それと、器を整えて魂を鍛えると言っても方法はたくさん有りすぎるで、小僧は武技に通じて居る故に武者修行するのはどうであろう?
心技体全て鍛えれば自ずと全てのレベルが上がるであろ?
体は先に最高レベルに達しておるで、心と技の鍛錬じゃ。
儂の夫、クラミツハも神器を育てておるでな、先ずはそれと手合わせしてみる、というのはどうか?」
もちろん、普通の冒険依頼もこなしながらな、とクラさんが受付内部で端末操作しているシンディさんの方を見ながら微笑んで締めた。
シンディさんが恐縮して頭を下げているのが見える。
冒険依頼も滞ってたりするのかな。ここ、冒険者レベルみたいなのがない代わりにギルド側から依頼斡旋があるんだよな。
思うに、カードに表示されないだけでギルド側でレベル管理してるんじゃなかろうか? なんでカードにレベル表示がないのかは判らんけど。
冒険者同士でレベル関係なしに協力体勢を敷きやすくするためだろうか? レベルがないなら全員同一扱いで差が出ないもんな。
「そうと決まれば、儂はここで別れてティースたちへ伝えることにしよう。クルルさま、しばしお暇を頂きとうございます」
「同じパーティ組むなら一個だけっ。
……タクミのことを小僧と呼ぶのはやめなさいっ。
確かに未だ穢れ多き人の身なれど、このクルルが認めた人であり代え難き為人ですっ。
臣下の礼を取れとは言わないけどっ、せめて対等の敬意を以て相対しなさいっ」
はっ、と目を見開いたクラさんが、距離を取ってローブのフードを取り去り美貌を露わにしながら、俺たちに跪いて臣下の礼? みたいなのを取った。
「確かに。元人間であり、霊格低き者、と言う侮りが常にありました。
神器タクミどの、礼を失しておりましたこと、この闇淤加美、伏してお詫び申し上げる」
「いやいいですって! 確かにカードの通り能力でも強さでも知識でも全然敵わないし、神さまに敬われるとか意味わかんないし!!」
ていうか周囲の視線が痛くてもう。
「なんだあの美女、すげえいい身体してるじゃないか」
「あんな美女を侍らせるとか、なんだあの小僧、俺と代われ」
「いや俺とだ」
「俺はあの美女に代わって欲しい」
――とかそんな声がちらほら。……最後になんか変なの居たな??
「と、とりあえず急を要する依頼案件はありませんので、追ってこちらから連絡します。
3回の初心者講習修了でタクミさんにはギルドから手数料を差し引いた依頼報酬が出ておりますので、カードを持って銀行の方で口座を確認して下さい」
「分かりました。シンディさんもありがとうございました。しばらく宿でのんびりしようと思いますので、連絡はそっちに」
シンディさんにお礼を言って、とりあえず受付でやることもなくなったので出口の方へ向かう。
――と、まだ跪いたままのクラさんがいた。
「クラさんも立って! 対等って言うんだったら対等でやりましょうよ、礼儀とかそんなの気にしてませんし、これから一緒に冒険する仲間にそんな大仰な謝罪とか要りませんってば」
「しかし、考えてみれば当初より儂がタクミどのを侮っておったことは事実。ついつい外見のかわゆさに惑わされたのも在るし」
「なんか今聞き捨てならないことが聞こえたけど聞かなかったことにします。
――えっと、じゃあ、なんかひとつ魔術を教えて下さい。
もう魔力感知教わってるけど、更にもう一個、使えそうなのを。
……それでチャラにしましょう」
「む。それでタクミどのが良いと言うのであれば、何か考えましょうぞ。
……次回からはもう少し上目遣いでお願いして下されば……、こほんっ。いや聞かなかったことにして下され」
ほんとにこのひと、全力の全身全霊でショタなんだな。と再確認。気安くなった反面、俺の身の危険が増えた気がしないでもないんだが。
……どんな星の下に居るんだ俺って。
「じゃっ。お話まとまったところでっ。タクミっ、デートしよっ」
「ああ。じゃあ……。――は?」
多少の気疲れを覚えながら背後のクルルを振り返ると。
――耳まで真っ赤にしたクルルがもじもじと俯きながらこっちを凝視していた。
終わらなかった。次こそは。