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エピローグ

 あたしの名前はアリサ、10歳。最上位神で知識の神、シンディの娘、風神ハヤヒの妻、フィーナの妹。


 ――でも、あたしはただの人間。……神から生まれた、人間の娘。


 ……異界からやって来た精神が、この世界で知識の神シンディのお腹に宿って生まれた、って聞いてる。


 フィーナは世界最高の魔力を持ってる人間で、世界唯一の風神の妻で自由に空を飛べる神の使徒……神器で、あたしの自慢のお姉ちゃん。


 歳はすごくたくさん違ってるけど、風神の神器で風神の神力の影響を強く受けてるから、歳を取らないんだって。


 でも、おかげで、あたしの今の姿と、お姉ちゃんの姿はそっくりなくらいになってて、あたしは嬉しかったりする。


 今日も、あたしの拳法の練習に、お姉ちゃんとお義兄さんのハヤヒさんが揃って見学に来てくれてて。


 ぱあん!


「んー? 考え事してたろ? お姉ちゃんの方に全力で意識向いちゃってたぞ?」


 あいたたた。対峙姿勢から一瞬で足を払われたんだ、って判ったのは、砂地の練習場で視界が雲ひとつない青空になったからで。


 その澄んだ青空の視界に、眼帯姿の先生が見えて、義肢の手を差し伸べてくれたので、その手を取って引き起こして貰う。


 この方は、異界の拳法『蟷螂拳』を教わってる、あたしの拳法のお師匠さまで、暗黒神、ってあだ名で呼ばれてるオキタ・タクミさま。


 昔は、海を超えて、ずーっとずっと西の方にあったっていう大きな国で強い軍勢を従えてた国王だった、って噂があるけど、ぜったい嘘だと思う。


 だって、あたしが知ってるタクミ先生はいつもにこにこ穏やかで、小さい頃からあたしがどんないたずらしたって叱ったことなんか一度もない、すごーく優しい先生なんだもん。……たくさん奥さんも居るし?


 ――でも、あたしがほんとに怪我するような危ないことしたときだけはすごい勢いで怒ってくれる、ほんとに大好きな先生。


「ハッハァ? 今日も負けたか、アリサ? んじゃ、次は俺と剣の修業の時間だぞ?」


「ええー? 虎徹先生の授業は痛いから嫌いー。ミリアム先生のがいいなっ?」


 あたしが正直に答えたら、虎徹先生はものすごーく傷ついたような顔で背中に青線背負っちゃって。ふふっ、かーわいい!


「嘘だよ、パパ! でも痛いのやだよ、パパって寸止めしてくれないんだもん!」


「……かーっ、大人をからかうんじゃねーよ、このクソ娘! だからな、こう振られたらこうして避けて、外側に外側にって回ってな?」


 あたしのパパで、ママのシンディの神器、虎徹先生はすごくすごーく強い剣士なの。なんて言ってたっけ、『剣聖』? って言って、大陸で最強の剣士、なんだって。


 でもあたしの前じゃすぐに拗ねたり落ち込んだり、でも絶対にあたしや家族のことを守り抜いてくれる、最強のパパ、なんだ。大好き。


 大陸、っていうのは、この島からずーっと西に行った、海の向こうの大きな陸地のことで、パパやママたち、タクミ先生やフィーナお姉ちゃんたちが全域を旅したっていう伝説の土地のこと、って聞いてる。


 あたしももっと大きくなったら、大陸を旅していいんだ、って言われてるから、それで、強くなきゃ『冒険者』になれない、ってパパたちが言うから、いっしょけんめー強くなる修行をしてるところ、なんだ!


 冒険、いいなあ、憧れちゃうなあ。


 二百年前(・・・・)に大陸全土を覆った戦乱があって、それで大陸中が団結した戦いだった、って村の大人たちに聞いてるけど、それってもうずーっと昔のことだよね?


 そんな昔のお話が聞きたいんじゃなくて、あたしは今の世界が知りたいだけなのに、誰も知らないの。――パパやママやお姉ちゃんたちや先生たちは知ってるみたいだけど、教えてくれないの。


 それなら、あたしが自分で行くしかない、じゃん?


 海を渡る手段だって、もうあるんだし!


「アリサ? 日が暮れないうちに、上がる(・・・)よ?」


「はーい! 今日はどこまで行くの?」


「そうだね? 今日はアリサの10歳の誕生日だから――、成層圏(ストラトスフィア)までだね!」


「ほんとに!? やったぁ、ハヤヒお義兄さん大好き!!」


 虎徹パパの赤い刀をほっぽり出して、お義兄さんとフィーナお姉ちゃんに駆け寄ったら、虎徹パパがなんだかすごーく悲しそうな顔してたけど、シンディママが寄り添ってるし、今にも飛びかかって慰めようって狙ってるロキおねーちゃんが納屋の影に隠れてるのが見えてるし? パパ、そっちはそっちで頑張ってね!


 あたし、拳法も剣術も好きだけど、いちばん好きなのは――。


「じゃ、着ておいで?」


「うん、行ってくる! 戻って来るまで飛んじゃやだよ? ぜったいだからね?!」


「わたしがアリサに嘘ついたことある? 待ってるから、行ってらっしゃいな?」


 フィーナお姉ちゃんとハヤヒお義兄さんに見送られて、あたしはロキおねーちゃんの横をすり抜けて納屋の奥へ――、そこに、八枚の翼を広げた飛行外骨格、あたし専用の飛行魔道騎があって。


 みんなが使ってる飛行魔道騎とは別に、極端に魔力が少ないあたしでもみんなと同じように飛べるように、ってハヤヒお義兄さんが特注してくれた、あたしの宝物。


 急いで装着して――って言っても、この子は背負うだけで、内蔵されてる剣神フツヌシちゃんがいろんなことを自動でやってくれるんだ。


「ン? 今日モ飛行訓練カ、ありさ?」


「うん! 今日は成層圏まで上がるんだって!!」


「ホウ? ソウカ、今日ハありさノ誕生日カ。デハ、私モ張リ切ッテ魔力ヲ貸シテヤラネバナ?」


「うん、いつもありがと、フツヌシちゃん!! 帰ったらうーんとたくさん磨くからね!!」


 ――でも、いくら張り切ったからって、納屋の天井突き抜けて飛び上がったのはやりすぎ、だと思うな、あたし。


 下から慌てて追いかけてくる、24枚の大きな翼を広げたハヤヒお義兄さんと、それよりも更に大きくて綺麗な八枚の魔法の翼を広げたフィーナお姉ちゃんの顔がちょっとだけ怒ってるぽいのが解って。



 あたしはフツヌシちゃんにお願いして、蒼い空をどこまでもどこまでも、高く高く、ずーっと高いところまで飛び上がって……、広い広い空を、笑いながら、駆けた。




                    転神II 第一部 完



ここで「転神II 第一部」完結です。お疲れ様でした。

前日譚として「900年前のシンディと虎徹、エルガー王たちのお話」(転神Zero)を連載中です。

http://ncode.syosetu.com/n1636dz/


第二部以降は虎徹とシンディとエルガーの物語が終わってからでないと始められないので、しばらくここで終わりとしときます。


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