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29話 廃都 前編

「私もムーンディア王国内からドワーフ王国にかけてだいぶ探したのだがな、痕跡らしきものは発見出来なかった。すまないな」


「いっ、いえ、とんでもない! わたしの個人的なことなのに、それに戦争中なのにわざわざこちらに来て頂いて申し訳ないです」


 そう言って、生真面目に頭を下げてくれたミリアムさまに、わたしは思わず両手を振ってしまった。


 ほんとに、とんでもないことだ。わたしの家族、アリサちゃんとママのために、六王神騎が動いて下さるなんて。


「ふむ? タクミどのからは『自分がどうしても動けないので代わりによろしく頼む』と聞いていたがな?

 暗黒神ほどの超大物神が懇願するほどだ、世界の命運が掛かっていると言っても過言ではない気がするのだが」


 ……と、そんな言葉を聞いて、わたしはその場に崩れ落ちそうになる。あの方、ほんとに全力の全身全霊でやらかしているというか。


 ――こういうのってシスターコンプレックスっていうんだっけ?


「座標が判りゃゲートで直接飛べたんだけどなァ、コイツらも細けェ記憶はねェっつーからよォ? ここからは徒歩だなァ」


 と、のんびりしたちょっとだけ粗野な口調でいて、でも声だけでびりびりと空気が振動するくらいの覇気を纏った言葉を仰られたのが、……『暴虐神』スサノオさま。


「ととさま「お父様「父上と徒歩でお散歩なのですー♪」」」


 と、その三人の息女さまの、タキリさま、サヨリさま、タギツさま。


 正直言って、大陸を割ったとか数百万人を殺したとかそんな伝説ばかり聞いてたので、今日ミリアムさまとこちらにいらっしゃられたことにびっくりしたんだけど。


 スサノオさまはわたしがタクミさまからお借りしている神剣フツヌシちゃんの元の持ち主ということで、今日正式にわたしに所有権をお認めになられて下さって。


 ずっと一緒だね、フツヌシちゃん。改めて、よろしく!


 って、ネルララフンの右腕外側に仮収納されてるフツヌシちゃんに思念で話しかけたら、ちょびっとだけ照れてるっぽい、でもすごく嬉しそうな思念が返ってきた。


 ふふっ、フツヌシちゃんかーわいい。


 落ち着いたら、仮収納じゃなくてちゃんとした鞘を作って貰わなきゃ、ね? 今って右腕装甲の隙間に無理やりねじ込んでる状態だし。


 アルトリウス王国領内にはまだ緑化が手付かずの砂漠の地点がいくつかあって、わたしたちが今やって来てるここ、旧エルフ王国の王都、廃都フィールもそのひとつ。


「だいぶ気温も下がったし砂も固くなったようだが、まだまだ掛かるだろうな」


 左隣を歩くミリアムさまが天を見上げたりしながらそんなことを仰ってて。


 その言葉通り、確かに神国の高天原ほどには暑くもなくて割りと過ごしやすい程度には穏やかで、砂地もかなり水分を吸って重くなってるから、あと何年かしたらきっと土に変わってくんだろうな。


「アァ、生物が居ねェってこたァ、壊し放題だなァ? ぶァッ、やめろってのシフォン、シルフィン。マジでやるわけねェだろォ?」


 ……ものすごく物騒なことをのたまっておられるスサノオさまの顔を、二人の妖精さんが羽根から鱗粉? みたいなキラキラした光の粒をパラパラ振り撒きながら、全力で押し戻したりして止めてる感じが。


 前にシーンの村、クラオカミさまの住処で会ったときはひとりだったのが、今は二人に増えてるけど。


 シフォンと、シルフィンって名前なのね? 小さいから観察しづらいけど、髪色と羽根色が薄い緑と薄い青の違いしかないから、姉妹なのかな?


 何か小さい声で喋ってるみたいだけど、ちょっと肉声は聞き取りづらいなあ。


 妖精や精霊は高貴な魂が転生した姿だっていうけど、あの子たちもそういうのなのかなあ?


 とりあえず、妖精を見かけるのってものすごく珍しいので、思わずじぃぃーって観察してたら、気づかれちゃったみたいで、さぁーっとタキリさまたちの方に飛んでって隠れちゃった。ああん、惜しい。


「隠れなくてもいいのです? この方は人間なのです?」


「「Han, althandim! 」」


「嘘じゃないのです?」


「Thîro! Albainim, daer gûl!」


「確かに、凄い魔力だけど人間なのです?」


「「……bain?」」


「「「本当なのです♪」」」


 ……エルフ語全然解らないしくしく。タキリさまたち三童女が受け答えしてなかったら全然理解出来なかったかも。ママなら何語でもペラペラなんだろうけどなあ。


 どうやら、わたしのことを話してたみたいで、なんだか恐る恐るって感じでゆっくり近寄って来た妖精さんたちが、ネルララフンを着込んだわたしの各部をぺちぺち叩いたり撫で回したりして確認してるんだけど。


 ほんとにただの人間なんですよー? 人よりほんのちょっと魔力が多いだけの。


「転生したてで怖がりになってんだ、まァ、しばらくしたら慣れっからほっとけ」


 苦笑というか愉快そうというか、どっちか判断に迷う凄みのある笑顔でその様子を見てたスサノオさまが言って下さって。


 あれ? ということは、スサノオさまはこの子たちの転生前の生前を知ってらっしゃるのかしら? 本人たちより知ってる風な態度、に見えるけど。


 しばらく自由にさせてたら、妖精さんたちは今度はミリアムさまが広げてる古い地図に興味が移ったのか、ミリアムさまの周囲をくるくる回ってたけど、しばらくしたら地図の一点をぺちぺち叩いて声を上げ始めた。


「「Sen, Ris ned malkor taras! Ris ned malkor taras!!」」


「あー、タキリどの、済まないが通訳をお願い出来まいか?」


「……『女王の尖塔城』って言ってるみたいなのです?」


「ふむ? ムギリ王から聞いた話と一致するな。となると、ここが目的地か」


 顎に手を当てて地図と目の前に近づいてきた、焼けて崩れ落ちたっぽい外壁の残骸や瓦礫みたいな遺構を見比べたミリアムさまがひとりごちたので、わたしも隣に並んで、ちょっと地図を覗き見。


 地図はどうやら廃墟になる前のフィールの町並みを記した古地図だったみたいで、同心円状の運河と、中央部にたくさんの樹木が巻き付いた形の巨大な輝く尖塔が描かれてて。


 最上階の出窓から王冠を被った耳長のエルフの女性――これが、エルフの女王さまかな?――が、大きく後光を受けて輝きながら両手を天に掲げてる様子が記されてた。


「これはムギリ王から預かった、ここが滅びる以前の地図でな。

 ……本当はムギリ王自身が来れば地図など要らなかったのだが、王にも辛い思い出が多すぎて足が向かぬとのことで、私が代わりに来ることになった。済まないな」


「いえっ、とんでもない!」


 地図を軽くひらひらさせながら、軽く頭を下げて下さったミリアムさまに、わたしは再び恐縮してしまう。


 そんな、六王神騎っていう神様に頭なんか下げられたらわたし、ほんとにどうしていいか解らないよぉ。


 ……っていうか、今更だけど、六王神騎最強、っていうか神族最強の暗黒神なタクミさまに、わたしもハヤヒさんも何度も逆らっちゃってるんだよね?


 タクミさまと、今右前方を三童女プラス妖精さんたちと先行してるスサノオさまたちだけで、仕方なかったとはいえ、ディルオーネ王国の王都ディールを消滅させちゃったんだよね、跡形もなく。


 ――無知ってこわい。わたし、よく生きてたな、ぶるぶる。


「さァって、そんじゃ、一発ぶわァッと景気よく掃除すっかァ?」


 なんてスサノオさまが言うなり、背中に背負ってた、鏡みたいにキラキラてかてかと光を反射して輝いてる、肩口から膝くらいまでのすごい長さの両刃の長剣を両手で柄を持って。


 そのまま右足を前に出しながら、袈裟懸けに斬り下ろした! と思った瞬間に、わたしたちの目の前に大きくそびえ立ってた、真っ黒に焼け焦げた街の外壁が切り裂かれた。


 ――いや、なんか自分で見てて信じられなかったんだけど、剣の先が当たったとかそういうのじゃなしに、壁に何も触れてないのにすっぱりと、剣が振り下ろされた(・・・・・・・・・)軌道上にあったモノが(・・・・・・・・・・)全部なくなった(・・・・・・・)


 ……えええええ???? なにあれ、なにあれ?!


「おォ、ムギリの野郎、よく研いだもんだなァ? アメノヒトツメにはちっと及ばねえが、人界でこれだけ研げりゃ大したもんだぜェ」


「ムギリの仕事をお褒め頂き光栄です。夫も喜びますでしょう」


 両手に持った分厚い剣身を横の八の字に振り回しながらいろいろと確かめてる風のスサノオさまの横で三童女たちが妖精さんたちとじゃれあってて、ミリアムさまとスサノオさまが会話してて。


 えええ? 驚いてるのわたしだけ? だって、魔術の気配も何か力が振るわれた気配もなかったのに、壁が、っていうか正門だったらしい門壁にぱっくりと部分消失しちゃった。


 しかも、綺麗に縦一文字、幅二メートル程度かな? 奥は……、今の一撃で砂煙が舞っちゃって見通せないけど、魔力検知最大でもずぅっと先まで二メートル幅で消滅しちゃってるっぽい。


「断面に触らない方がいいぞ? 鋭すぎて指を切るからな」


 一通り振り回して気が済んだのか、再び剣を背負い直して三童女たちと手を繋いで、先頭に立って奥に進んでいくスサノオさまはなんだかピクニックにでも来たみたいな気楽さだけど。


 後に続きながら、まるでガラスみたいにつるつるに光ってる切断面を指で触れようとしたわたしに、ミリアムさまがそんな風に仰ったのでびっくりしちゃった。


「そうか、フィーナは見たことがなかったのか。そういえばアゼリア王国軍には剣士が極度に少ないからな?」


「そうですね、王国軍は基本魔法兵団ですし。……誰でもできる技だったりします?」


「多少魔力を操れる剣士なら、剣に魔力を乗せて振り下ろしに合わせて飛ばすだけだからそう難しくはないが……、先程のスサノオさまのアレは、純粋に剣速だけの神技だからな」


「ああ、やっぱり……。全く放出される力を感じませんでしたし」


「剣聖たる私ですら、あと何百年修行してあの域に達するか判らぬよ」


 肩を竦めて、わたしを追い抜いてスサノオさまの後に続くミリアムさまの腰の後ろに、互い違いの鞘に差し込まれた神剣と蒼銀ミスリルの宝剣が見えて。


 ご謙遜なさってるけど、似たようなことはできるんじゃないかなあ、だって六王神騎さまだもんなあ。


 って考え事してたら、置いていくぞ? と声をかけられて、わたしは慌てて返事しつつ大急ぎで後を追った。




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