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23話 王都炎上 後編

 まさしく世に謳われる魔王の如く、嘲笑を続ける――本人的には普通に笑ってるつもり――のタクミが指し示した巨大な光の剣は、その光芒を更に増やしつつ、莫大な神力を結集して、どうやら古赤竜の方に振り下ろされつつあるらしい。


 と、驚愕すべき事実に気づいたとき、即座に古赤竜は逃亡の選択を行い、翼をはためかせて空中に飛び上がろうとした。――が、それが不能であることにすぐに気づく。


 全身が地面に縫い付けられるかのように、王城を破壊し、先程戯れのように自身の周囲に振り下ろされたタクミの重力魔法の残滓が古赤竜を拘束しており。


 下半身を動かすことが出来ず、その強烈な吸引力は飛行能力と<浮揚レビテート>の魔法を全力で駆使しても引き剥がすことが不可能であり。


そうこうする間に、その光の剣……、スサノオの娘三柱が合体した神界最強の光剣、『十束剣トツカノツルギ』は、全長数百メートル、全幅数十メートルという、既に一本の剣と呼ぶにはおこがましいほどのとてつもない純粋な光の神力を放出し続けながら、そのままの勢いで古赤竜を直撃。


 ――空間を震わせる、といった表現が最も正しかったか。


 タクミの暗黒の神力を幾重にも束ねたかのような莫大な神力は古赤竜の纏う邪炎の加護など物ともせずに粉砕、侵食が発生するよりも早く古赤竜の全身を叩き潰した。


 そして、それだけに留まらず、古赤竜の存在していた場所を中心として炸裂するかのように全方位に光り輝く剣身が弾け、先程タクミが王城を吹き飛ばした際の爆発などとは全く比較にならぬ程の深い縦一文字の大穴を地面に穿ち。


 吹き飛ばした瓦礫もろともに周囲を無数に飛び回る有翼魔獣たちへ向け、数千万から数億本に達する光の矢が時に合体、また時に更に細分化し分裂を繰り返しながら乱舞軌道を描いて追いかけ回し、全ての飛翔体に確実に命中、それらを墜落させて行く。


 ……結構な数が飛行中のハインにも命中しているがそこはご愛嬌だ。


 光矢が奔った空中軌道からは邪炎の残滓も失われているようで、有翼魔獣たちが一匹、また一匹、と墜落すると同時に、炎上する王都の空気は少しずつ清浄化されて行き、全魔獣が駆逐されるまでにさほど時間は掛からなかった。


 ――ただ一点、古赤竜が出現した炎ゲートを除いて。


《……ぬふふふ、ぬっははははははははは! 吾輩、顕現!!!!》


 先程40メートル級の古赤竜を出現させた全高10メートル以上に及ぶゲートから、更に巨大なサイズと思われる、真っ青な邪炎を纏う神竜の鼻先がにゅっ、と突き出され、そのような言葉を吐いたかと思うと……、どうやらゲートのサイズが小さすぎるようで、巨大な顎を突き出したのみで止まってしまう。


《……あれっ? 狭いな、あれっ、あれれっ?? ……まあ良い、全神族中最強無敵の炎神カグツチ、ここに顕現なのである!!》


 空中から光り輝く青白い邪炎を発しつつ、鼻先だけが突き出た神竜が厳かにのたまっている姿を想像してみて欲しい。


 言霊のみでびりびりと居合わせる人間たちの臓腑を鷲掴みにし、死に至らしめるのではないか、とも思わせる、心胆を寒からしめる莫大な邪神の神力を発揮しつつ――、どうやらゲートが狭すぎてそれ以上出現することが出来ずその状態で止まっている様子。


「――アレが俺の天敵たァ、なんだか泣けてくるぜェ?」


 集めた神力を全開放後も娘三神の神剣化を解くことなく、珍しく両手でいたわるように優しく左肩にその剣身を預けるように載せたスサノオが、盛大に溜息をつきつつ、鼻先だけが出現したカグツチを下から睨め付ける。


《ぬっ? 目視は出来んが、そこにスサノオが居るな? 残念であったな、此度の戦は吾輩の勝利となりそうである!》


「何をどうしたらオメエが俺様に勝てる要素があんだよォ?」


《未だ現状把握も出来んのであるか、哀れである! 900年の時を経て神力を復活させた我輩、既に全神力が神界並みなのである!

 対してスサノオよ、そちらは人界制限に縛られた状態、比較するのもおこがましいのである!!》


 ふんふんっ、と鼻を鳴らしつつ高らかに宣言するカグツチに、その鼻のすぐそばに寄っていたタクミが呆れるように両手の掌を上に向けて肩を竦める様子がスサノオの目に映った。


「アァ? 俺様の力はそのレベルで『留めてある』だけだっつーんだよォ。

 だいたい、オメエ、俺様よりオメエよりも遥かに強い神がそこに顕現してンのに気づかねえのかァ?」


《むぅ? ……何も感じぬが。何を言っておるのか? とうとうボケたのであろうか》


「俺様がボケたならもっと年上のオメエはとっくに棺桶だろうがよォ?」


 スサノオと言い合う間も、突き出た鼻先を僅かに上下左右に動かして匂いを嗅ぎ取ろうとするかのようにカグツチはすんすんと鼻を動かしたが、どうやら本当に全くタクミの存在に気づいていないようだった。


《ふん? 戯言を。何も居らんようだぞ?

 ――まあ良い、それよりも、なかなかに面白き人間の存在を巧く隠しておったようじゃの?

 下級神よりも遥かに大きな魔力を抱く女子、感じ取れたぞ??

 人の身で風の領域を飛翔するなど、人にあるまじき魔力、殺せばさぞ良き声で鳴くのであろうな?》


 言うまでもなくフィーナのことを指すのであろうが、生憎とスサノオはフィーナとはっきりと面識がなく、カグツチの言葉に小首を傾げるのみだった。


 それには構わず、カグツチは言葉を続ける。


《吾輩、今ここに、全人類の抹殺、滅亡を宣言するのである!!!

 ……よっ、あれっ、むっ。……やっぱり狭いな。魔術式間違えたの、これ。広げられんのである。まぁ、仕方ないか》


「相変わらず魔法は苦手なんだなァ?」


《力任せはお互い様なのである、というか貴様に言われる筋合いはないのである!

 かくなる上は、吾輩、本国ヒノヤギハヤ神聖帝国より軍勢を率いて人獣共存圏に進軍を開始するのである!

 魔物の真の恐怖に怯えて泣き喚くが良いぞ、いずれは全てを我が蒼き神炎で焼き滅ぼしてくれる!!》


「……自分で神聖帝国とか名付けてて痛くないかァ?」


《黙るのである、最初はかっこいいと思ってたけど時間が経ったらちょっと痛くなってきたとか言ってはならんのである!!!》


 気の抜ける間抜けな会話で時間稼ぎをしていたスサノオに向けて、親指を立てるサムズアップサインを見せたタクミが、突き出たカグツチの鼻先に向けて、片手に構えた神剣フツヌシを一閃。


 どかぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!


 ……と、軽く振り抜いたようにしか見えなかったその剣の一撃は、カグツチの鼻先で極大の暗黒の神力を炸裂させるなり、カグツチの巨大な鼻先をゲートの向こうに軽々と押し戻し、その余力は炎ゲートにも及び、その炎を雲散霧消させてしまう。


 そして、完全に清浄化された、破壊され尽くした王城全域を覆うアマテラスの神域結界にもその一閃の威力は及び、濃いミルクのように分厚い噴水シャワーのようなその結界はバターのように斜めに切り裂かれて消失を開始していた。



――――☆――――☆



「タクミさんが言うにはですね、『カグツチにはタクミさんとクルルの姿が見えない』そうなんですのよ」


「へえ? そりゃまた、なんで?」


「『カグツチが居る領域と、タクミさんとクルルさんが居る領域が異なる』ので発生する制限らしいのですが、詳しくはわたくしにも良くは」


「ふーん? まあ、タクミくんとクルルちゃんだけが覚醒したっていう<源力>に関係するんだろうな、と僕は思うね」


 白馬に跨った『本物の』仮面の王、フープ・アヴァロン・アルトリウスが、隣で空中に浮かんだまま同行する、妹である雷神の神器にしてアゼリア王国宰相、六王神騎の三、『迅雷騎』ティースと会話している。


 場所はディルオーネ王国の南国境を超えて、ハヤヒたちが赤竜を叩き落としたディルオーネ王国南端の鉱山街ラバト・ウェベルへ向かう街道の途中である。


「それにしても、まったく。どうやってクラウティア共和国とディルオーネ王国の国境に兵を動かすのかと思っていましたら、まさかあんな方法を採るなんて?」


「タクミくんほどの大きさのゲートは作れないけど、時間短縮が可能なら人海戦術でいくらでもやりようがあるからね。――二国とも、快く通過を許諾してくれたよ?」


「……それは『こころよく』ではなくて『おののく』ではありませんでしたか?」


 兜を被らぬまま背に兜ごと跳ね上げた状態で、不動の足を前に投げ出す姿勢で安楽椅子に座っているような形状の『迅雷騎』を身に纏うティースは、やや眉をしかめながら盲目の両眼を兄であるフープの方に向けて問うたが、フープは愉快そうに含み笑いを仮面の奥から漏らしながら返答を避けた。


 六王神騎の三『迅雷騎』は全神騎中で唯一立脚しない浮遊機体で、下半身不随、盲目の神器ティースに完全に合わせられたタイプなのだった。


「ミリアムちゃんは元気だったかなあ? 進行の都合でとうとう会えなかったからねえ?」


「元気ですよ。相変わらず、ドワーフ王国の業務安定で世界中を飛び回ってますわよ」


「別にあの子がやらなくても良さそうなものなのにねえ? でもまあ、若い子だから世界を知って見識を広げるのはいいことだよ、たぶん」


 ……六王神騎の五『双剣騎』ミリアムは剣神の神器になる以前はムーンディア王国第一王女としてアルトリウス王国建国戦争に、現アルトリウス后シェリカの親衛隊長として同行した縁があった。


「――サクヤちゃんほどには大陸全土を動いていないようですけども?

 聞きましたわよ、先代の首領トーラーさんに代わって忍者軍団頭領に就任させたんですってね?

 子供に重責を負わせすぎなのでは?」


「あの子自身が音を上げたら代わりも考えるよ。そちらは自分が身代わりで完全放任とは、本当に兄妹でこうも子育てに関する考え方が異なっていることが面白いね」


 返答しながらも、この話はここで終わり、という風な強い意志が込められているように感じられ、ティースは話題を中断し、ちらり、と後ろを振り返る。


 ――フープを先頭とする総勢40万に達するアルトリウス軍の軍勢が、銀色の鎧に全員が六メートルに達する長大な銃棍を手に怒涛の足音を響かせつつ、整然と行進を続けている。


 三万の『囮』を北方に差し向け、ムーンディア王国南部国境での四カ国国境紛争に横槍を入れる、と思わせつつ、四カ国全軍を叩き潰してお釣りが来るほどの世界最大規模の軍勢を率いて密かに隣国ファーラン王国の国境を侵犯。


 魔道兵団によるゲートやテレポートを駆使した高速移動術で戦力を移動させ、あっさりとファーラン王国首都ファーマを『何もせずに強行的に通過』した後は、そこから進路を北西に変えてほぼ一直線に更に隣国のクラウティア共和国首都パスティアに到達、こちらも『実力行使で制止を物ともせずに堂々と通過』し。


 ディルオーネ王国の南国境付近で単身待機していたティースと合流、『難民保護』の名目で、邪竜が出現し既に六王神騎の二『白神騎』によって退治されたというラバト・ウェベルに向かっている途中なのだった。


「いや、だって宗主国の危機だもん、悠長なこと言ってられないでしょ?

 という説明を僕が『衛星国家の先輩国家の首脳陣』に話したら、みんな快く通過させてくれたんだよ?」


「……その後ろには国家を粉砕して余りある巨大な両手斧を構えながら、ですわね?」


 余談ながら、フープの冒険者時代の愛用武器は両手斧だった。


「――ムーンディア王国に向けて軍を動かしているって言っても、西方諸王国連合の同盟を完全破棄して宣戦したわけじゃないから、内部紛争に過ぎないのでね。

『同盟参加国新参でーす、よろしくお願いしまーす、宗主国の要請で動いてますー』なんて言ってる軍を止める権限は宗主国にしかない。

 止めるなら実力行使で排除しても、国際法上何も問題ないし」


「囮に貼り付けられてるリュカちゃんが可哀想……」


「あっちから抜けられるなら本体の向きをあちらに変える方策もあったんだけど、まさか六王神騎の誰かだけじゃなくてツクヨミさままでが出てくるとは予想外すぎた。

 あちらはもう少ししたら事情を話してセレスティアからエイネールに向かわせる予定だよ」


 というか、リュカちゃんを出して来たのはタクミくんの別の思惑なんじゃないの? と続けられて、ティースも首を捻る。


 最近はタクミの無説明の指示が増えてタギツやリュカが不信感を募らせていることはティースも知っているが。


 どうも、当のタクミも『何故そのような指示をしなければならないのか』という理由は分からぬままに、『そうしなければ後々困ったことになる』という結果論から指示を出しているように思えるのだ。


 それは恐らく、タクミとクルルだけが持つ、未来を垣間見る力、と簡単に説明されている<源力>に関係が深いのだろうが、ティースとしては夫であり世界の守護者であるタクミと、タクミの永遠の伴侶である正妻クルルを信じるのみである。


「それは、まあ判りましたけども。難民支援がメインの任務でありますのに、40万の軍勢を送り込むのはやりすぎではないでしょうか?」


「難民支援だけなら十万も居ればディルオーネ王国全土に展開してお釣りが来るだろうね。僕が欲しかったのはラバト・ウェベルの鉱山と、クラウティア共和国、ファーラン王国の二国領土だもん。

 『全軍の半分の威容を見せるだけで付き従ってくれる』弱兵の国だから、これで西方諸王国連合はしばらく安泰だろうね」


 飄々と言って軽く笑う兄の姿に、妹であるティースは脂汗を流しつつその騎乗姿を見やった。


 軍事常識として、他国へ遠征を行う場合、自国内の全軍を動かしては国境警備や国土治安などが疎かになるため、全軍の三分の一から最大でも半数程度に押さえるのが常道となっている。


 その常道下で、他国への救援に囮の軍も合わせると43万の軍勢を動かした、という事実は、アルトリウス王国の全軍は100万に届こうかという大軍勢になる計算となる。


 ――西方諸王国連合最大のディルオーネ王国ですら王国軍全軍で15万にも満たない騎士しか居ない状況では他国軍は更に少ない軍勢しか持たず、アルトリウス王国軍の規模がどれだけ桁外れなのか分かろうというものである。




 もっとも、アルトリウス軍の主力は同盟国ドワーフ王国から供給を受けている射撃発砲をメインとする銃棍歩兵で、これにより剣術や馬術などの非常に時間と金銭のかかる、大陸でごく一般的だった兵士教育過程を廃止し、ごく簡単な発砲魔法とその兵士たちを集団射撃による弾幕戦術で交代運用する、という軍事教練のみでこの世界の常識を遥かに超える強兵を作り出したのだった。


 銃棍の本家であるアゼリア王国が銃棍から大砲、戦車へと大型大威力化、運用高速化したのに対し、こちらは本家のお株を奪う弾幕による面制圧兵器として活用している違いがあったが、共通するのは、剣と魔法による従来の戦術の殆どを無効化する軍団である、という点で。


 超近代化で少人数が高速最精鋭化し強力な戦力となるに至ったアゼリア王国(と属国クーリ公国)に対し、末端兵士に至るまで銃棍で武装した全兵範囲制圧兵器持ち、という単独攻撃力平均化の相違点、と言ったところか。


 銃棍の製法で言えば、本家本元のアゼリア王国に対し、技術提供で部分的にその製法を分け与えられたドワーフ王国は精度、威力で及ばないところを、アルトリウス王国では運用法の工夫で更に強力無比な武装と化しているところに違いがあったのだった。



最後の四節は筆が滑っただけなんで読まなくてもおk。

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