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転生したら神になれって言われました  作者: 澪姉
第一章 冒険篇
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09話 龍神クラオカミ

ちょっと誤字修正しました。内容に変化はないです。

「……うっ……、はぁっ」


「お目覚めかえ?」


 真っ暗な部屋の真ん中にぽつんとひとつだけ置かれた二人掛けの椅子テーブルの上に揺らめく蝋燭の明かりの向こうに。


 ……質素な浴衣? 前合わせの無地な薄布を帯一本で留めただけの女性が座っているみたいだ。


 俺はくらくらする頭を振って、寝かされていた寝台から身体を起こした。確か、地下水流に落ちて、それから……。


「次からはちゃんと玄関から訪ねるんじゃぞ。

 水門に流れ着いた水死体が居ると思ったらアメノウズメさまの神器じゃとは、儂も少々驚いたわい。

 ウズメさまも、初の神器でこのような子供の身体を作るとは、あの方もショタじゃったということかのう」


 気になる台詞を続けるやたら言葉遣いの古めかしい若い女性の声に、俺はベッドを降りて歩み寄った。


 薄暗い中で、金髪ポニーテールの、爛々と輝く鋭い切れ長な双眸がまっすぐに俺を射抜いている。


「まぁ予定外の訪問者じゃが、儂の元神器の縁故でもあるのじゃろう? そこにおかけ。

 アマテラスの魅了眼なぞ使わずとも、聞きたいことには応えてやろうともさ」


 言われて、何が何だか分からないまま俺は言われるがままに席につこうとした。


 ――んだが、蝋燭の炎に目が吸い付いて離れない。


 状態無効なはずの身体の全身からぶわっと鳥肌と発汗が同時に起こって、俺は混乱を覚えた。


「ほっ? これは珍しい。炎にトラウマがあるのじゃな?

 小僧、お主異世界転生者か? 大きな炎で死んだのではないかえ?」


「トラウマ……、になってんのかは分からないけど、前世の最後は焼き焦がされて死んだ……死にました」


「敬語なぞ要らぬよ。アメノウズメさまの神器なれば、神族末席にも近しい儂よりも遥かに格上じゃ。

 辛い体験をしたのう、明かりには代わりを使うとしよう」


 言うなり、女性は蝋燭の芯を指で摘んで消火すると、暗闇の中でひとつ指を鳴らした。


 途端に、ティースさんが作った<永久光球コンティニュアルライト>よりも更に小さな<光球>が指先から天井付近へと辺りを照らしながら浮遊して上がって行く。


 ただ、そこから発せられる青白い光の量は数十倍にも達する光量を保持していた。


「いろいろ分からないことだらけだ。なんで俺はここに?

 あ、俺はタクミ、あなたの言う通り、異世界転生者だ。

 この身体はアマテラスが作ったと思ってたんだが……」


 敬語は要らない、という言葉に甘えさせて頂くとして、俺はようやく木製の椅子を引いてテーブルに着いた。


 長いこと使用されてなかったのか、テーブルも椅子もぎしぎしと耳障りな軋みを立てる。


「その話をする前に、まずアマテラスの魅了眼を封じよ。目を閉じて儂の神力を受け入れよ。視界は確保してやろう」


 わけがわからないまま、助けて貰ったんだし敵対者ではないと信じて言われるままに俺は目を閉じた。


 すぐに、後ろに回った女性の両手が俺の頭を両手で包み、両方のまぶたの上に細い女性の両手が軽く乗せられるのが判る。


「すぐに儂を信じたな。良い子じゃ。魅了眼なぞなくとも、お主のまっすぐな性根は人を惹くに足るものじゃ。このような姑息な手段なぞ使うでない」


 状態変化無効で暖かさも冷たさも感じないはずの身体に、指先から温かい熱がじんわりとまぶた越しの両目を通して頭全体に伝わっていく感触が判る。


 熱というか、波のようなもの。それはすぐに頭全体から溢れそうになった。


「さあ、もうそろそろいっぱいのはずじゃ。そのまま、その波を外に出せ。イメージするんじゃ、頭から骨、皮膚を貫通して周囲に広がる波を」


「あっ……、ああっ?」


 言われた通りに熱を、波を頭から放出するイメージを思い描いたら、一瞬だが周囲の光景が浮かんだ気がした。


「一回は出来たな? ではもう一度じゃ。慌てるでない、力は無限に在る。主の身体はそれほどまでに特別製なのじゃ。

 力を込める必要はない、ゆっくりと、滑らかに、途切れることなく外に出せ。

 魔法は確固たる詳細なイメージと、そのイメージを具象化する魔力の流れが全ての基礎であり根本であり、原理であり源力」


 言葉を続けながら、女性の右指が頬を撫でながら首、肩を経由して下に下がって行く。


「えっ、ちょっ、待って、そこから下は」


「これ、集中せんか、小僧」


 叱責されたけど、さすがに下半身は。


 へそと股間の真ん中辺りで止まったけど、左手で俺の両方のまぶたを押さえながら、右手で下腹部を押さえてる体勢で。


 後ろから俺を抱きすくめる感じになってるらしく、背中に柔らかな脂肪の塊と、右の頬にやや冷たい頬肉の感触と、熱い吐息を感じてさすがに俺は慌てた。


 クルルやシルフィンたち相手ですら、これほどまでに密着されたことはない。


「これは周囲探知の魔法じゃ。魔法は初めてではなかろう?

 異世界の生まれで魔力の扱いを知らぬお主に手ほどきしてやろうと言うのじゃ、儂に感謝せい」


 女性の叱責に、俺は頷いてぎゅっと目を閉じて雑念を振り解いた。


 なんでこんなとこに居るのかって疑問はさておき、さっきの周辺の光景の感触から察するに、あれは魔力を外部に出すやり方だ。


 自分じゃずっと出来なかったことを教えて貰うことに異存はないどころか、全身が喜びって感じ。憧れの魔法!


「急に素直になったのう? 儂に欲情でもしたか? 生憎と儂の心と身体は夫に捧げておるでの、他を探せ。

 主ほどの器量良しなら選り取りみどりじゃろうよ」


 相変わらず、両目と下腹部に添えられたままの女性の両手から、じんわりと熱が伝わって、それを周囲に送る作業が続く。


 脳内でイメージしているのは、こたつの中身みたいな赤外線が放射される感じ。


 それと同時に、イメージとは別に目を閉じたままで周囲の光景が視えるようになっていくのが判る。


 間近にある女性の美貌の細部までが詳細に捉えられて、頭部装着型のVRカメラでも装着しているような感覚を覚えた。


 少し慣れないのは、前方だけでなく背後の女性の身体を通して全周囲視界というか気配の情報が得られる感覚。


 だけど、嫌悪感のような悪感触ではなく単に不慣れなだけなのだろう。


「慣れて来たようじゃな? ではこれを、ここの「ぐえっ」情けない声を上げるでない、男の子じゃろうが。

 丹田で練った魔力を通して全身から同じように放射せよ」


 急に下腹部に置かれた手を力任せに押されたらそりゃ変な声も出ますよ。


 言われた通りに――これ魔装で使う一部を外に流すやり方だな。外にってか、故意に外側に溢れさせる感じか。


 周囲に広げなくても、外に出たら勝手に拡散されて……、そうか、拡散して反射してくる波を視界にしたらもっと鮮明に……、レーダーじゃんこれ。


 レーダー波、のイメージが浮かんだら後は早かった。


 放射、吸収を繰り返して、どんどん間隔を早めて、それを同時に行うように体内で調整する。


 調整も女性が手伝ってくれてるみたいで、すぐに俺は目を閉じたまま、目を開けたときと変わらず周囲を把握出来るようになった。


 光が当たらない部分まで、魔力が到達する範囲まで、少し力を強めれば壁や天井を貫通してまで気配を得ることが出来る。


 ――これ、すげえ!


「あまり調子に乗るでないぞ、小僧よ。身体の力は無限じゃが、それを操作するお主自身はまだまだ未熟じゃ。

 練習じゃ、これから決して目を開けるな、それを続けよ」


 言われて、慌てて俺は居住まいを正して放出する力を最小限に留めた。と言っても、最小限でこの狭い部屋を把握するには十分すぎた。


 つるつるに磨き上げられたみたいな鍾乳洞っぽい石壁の小さな洞窟で、2メートル程度の天井に、テーブルと小さめのクローゼット、食器棚とそれにベッドがあるだけの狭い場所。


 女性が最初に座っていた椅子の向こうは断崖になってるみたいで、轟々と流れる水流が感じられる。


 水流の中はほとんどが水だけで生命の気配はあんましないっぽい。


「さて。落ち着いたところで自己紹介と行こうかの?

 魅了眼が開いておるうちはアマテラスに全て筒抜けじゃからのう、あまり良い趣味とは言えんの、あの男も。

 ――儂はクラオカミ、ここの水門の管理者じゃ。

 管理と言っても、ただ時折落ちてくるお主のような水門を詰まらせるゴミ掃除をしておるだけじゃがの」


「俺は沖田匠、異世界転生者で成り行きで神器やってます。

 聞きたいことがたくさんあるんだけど……、シルフィンの師匠なんですよね?」


「敬語はやめよと言ったであろう。遥かに格上の神器から敬語を使われるなどむず痒いだけじゃ。

 沖田、匠……、ふむ、良い名じゃな。大匠おおたくみの意を示す職人を現す名であろう?

 察するにお主は日本人か。

 ……もう失われた世界じゃが、お主がここに在ることで、この世界にもそれらが継がれると良いの。これは儂の勝手な願いじゃが」


「元の世界も知ってるんです……知ってんの?」


「儂の名は淤加美クラオカミ

 元はイザナギさまがイザナミさまを焼いた神敵カグツチを斬り殺した際に、カグツチの血から生まれた卑しい龍神よ。

 元はと言えばこちらではなく、お主が元と呼ぶ世界で生まれた神故にな。我らは皆そうじゃ。

 日本人なればイザナギさまは知っておろうな? 知らぬならお主を金輪際日本人とは認めんぞ」


「いや俺だって無神教とは言ってもイザナギ、イザナミの話くらいは「さまを付けよ無礼者め」イザナギさま、イザナミさまくらいは知ってる」


 鋭く言い直しを要求され、俺はびっくりして首を竦めた。元々鋭いクラオカミの眼差しが凶悪な輝きを宿している。


 死なない身体とは言っても、下手に機嫌を損ねると死ぬより辛い何かをされそうだ。小箱に詰め込まれて永久放置とか。


「上でシルフィンが暴れる気配と共に巨大な気配が在ったのは知っておったが、アメノウズメさまの神器とはのう。

 ウズメさまの初めての神器の誕生に、不肖卑しき血なれど龍神クラオカミ、謹んでお祝い申し上げる」


「ウズメってクルルのことだよな。……いやそういうのは本人に直接伝えて欲しい。

 あなたみたいな風格の方に畏まられると、一般人な俺ってどんな対応していいのか分からない」


「なんじゃ、伝言も出来んのかえ。シルフィンと一緒に来ると思うておったが、何故水底を歩いて来たのじゃ」


 いや歩いたわけじゃないんだが。戦闘の経緯を軽く説明すると、クラオカミに指差して笑われた。


「なるほど、雷撃のっ……、巻き、添え、かえ……っ、あまり笑わせてくれるな小僧、腹筋なぞここ数十年使っておらなんだで、この老躯には堪えるわ」


 笑いを堪えつつ、ティースさんのミスはいつもは存在しない位置に俺が立っていたことが原因だろう、と推測した。


 そうか。いつもの面子ならきっとティースさんの魔法を撃つ経路を塞がない立ち位置が徹底されてるんだろうな。


 俺がそこに立ってたから……、ってか俺も無敵の肉体ってことで相当に気抜けしてんだよな。


 役立たずになるのはやめよう、って親方に怒られて誓ったのに、全然行動に出来てねえ。くそっ。


 俺は自分の頬を両手で勢い良くはたいた。


 ぱしん! と小気味良い音を立てたのを見て、俺の両肩に手を置いたまま横に立っていたクラオカミが微笑みを浮かべて顔を覗き込んで来る。


「良い子じゃな、未熟な我が身を反省したか?

 良い良い、まだまだお主は強くなれる。

 なれば、ここが開始位置じゃ。ここより下がることなどない、上に登るのみじゃから気楽に構えよ。

 して、まだ聞きたいこともあろう?」


「ありがとう、クラオカミさん。じゃあ質問。さっき俺の眼を『魅了眼』って言ったけど、あれはどういう意味?」


「おう、そうであった。自身でも気づいておらなんだか。これはアマテラスの作った魅了の力を宿す眼じゃ。

 そしてアマテラスはこの眼を通して全てを把握しておる。

 つまりはアマテラスの監視装置、じゃな。

 この眼を通して相対した相手の皆がお主に好意的であり、最大の努力を誰もが無償でお主に惜しみなく協力したであろう?

 それが効果じゃ」


 クラオカミさんが俺の首筋に抱きついて、頭のすぐ横で熱い吐息を俺の耳にかけつつ答えてくれる。ちょっ、これわざとやってんじゃね? 近い近い。


「言われてみれば、確かに……。会った人みんな優しかったな。なんで? って思うくらい」


「惜しいか? 戻したいか? なれば封印を解いてやろう。

 もはやお主は目を開くこと叶わぬ、先ほど儂がまぶたを封印したからの。

 しかし。魔法の効果で他者を操って得た信頼が、本当に惜しいのか?」


 言われて、目を開けようとしたが確かに開かない。視力自体はさっき教わった周囲把握の魔法でずっと見えてるので、何も不便はないが。信頼云々の話はちょっと理解できない。


 しかしなんでアマテラスはそんな回りくどい真似を。全知じゃなかったのか?


 そういえば、最初にクラオカミさんは人間嫌いって言ってたみたいだが。


「アマテラスは人間嫌い、人を騙し意のままに操ることなぞ悪いとも思わぬ。率先して人族らを駆逐しようなどとは思わぬであろうが、その行動はよりタチが悪い。

 アマテラスにしてみれば、人の子なぞ自らの暇を潰す玩具に過ぎぬ」


 吐き捨てるようにクラオカミさんが言葉を吐いた。


 アマテラスつったら日本神話でも結構偉い感じだったと記憶してるけど、クラオカミさん――長いからクラさんと呼ぼう。


 クラさんの言葉と態度から察するに、クラさんは割りと人間側の立場に寄ってて、アマテラスに対する嫌悪感が勝ってるような感じ。


「アマテラス、ツクヨミ、スサノオの三兄弟は力こそ神族最強じゃが、性格は全員が悪いの一言に尽きる。

 アマテラスの発言は9割が嘘じゃと思え。1割の真実を混ぜる故、よりタチが悪くなる」


「全知全能の神ってのも嘘?」


「全知でも全能でもないわ。ただ先にも言うた通り、間違いなく最強は最強じゃ。

 力だけなら末弟暴神スサノオをも凌ぐ。

 そもそも、この世に在る魔法の全てはアマテラスが編んだものぞ」


「末弟とか言われてたんだけど」


「主の身体は間違いなくアメノウズメさまの権能に依り作られたものじゃ。

 言うなればアメノウズメさまの息子。

 であれば、同じイザナギさま、イザナミさまの神力を継ぐ神器でありいずれ神成るその身であれば、アマテラスも儂も含む神族の末で間違いはない。

 アマテラスからすれば末弟ではなく兄弟の子故に甥っ子程度になるがの」


「神になるために修行しろって言われた」


「不老不死の条件を満たせば、能力に関わらずヒト族から見ればそれは神じゃ。

 小僧は既に神器を得て居る故、現状で神と呼んでも差し支えない。

 ただ、魂が脆弱過ぎる故に、確かに修行はともかく魂の強度なり大きさなりを増すことを怠れば器はそのままに魂の消滅は有り得るじゃろうな。

 ――修行を行えとアマテラスが言ったのは魅了眼を通して楽しむためであろうよ」


 それと、修行自体は息子となる俺が強くなることでもあるから、アメノウズメ――クルルの願いとも一致するって話だった。


「てかクルルの息子、ってのが衝撃すぎた。じゃあ父親は誰なんだ……アマテラス?」


「神産みに父母なぞ要らぬよ、力を用意すればそこに自然と神は生まれる。

 我らはイザナギさま、イザナミさまのニ柱より力を分け与えられた故、より強き力を持つがの。

 小僧はウズメさまの権能で作られた器に人の魂をそのまま刻んだ、言うなれば神造人間ホムンクルスよ」


 質問にすらすらとクラさんは答えてくれるんだけど。密着しすぎだと思う。後頭部にめっちゃ柔らかい双丘の感触がぷにぷにと。


 なんでこの体は欲情しないんだ、もったいない。


「はん? 魂が器と上手く重なっておらんの。主の感情と身体の反応の不一致はそこら辺も理由じゃな。

 身体の清廉さに対して魂の穢れが多すぎて重なり切らんのじゃ。瘴気渦巻く下界の人の子のサガじゃな、精進せい。

 けがれが増えすぎるとあっさりと剥がれるぞい」


「穢れ?」


「穢れは魂の傷であり、魂の色を濁らせる汚れじゃ。お主は元の世界では相当に苦労したようじゃの?

 傷だらけでささくれ立っておる。婆には甘えて良いぞ。ゆっくりと時間を掛けて傷を癒せ」


「その外見では婆ちゃんとはちょっと呼びづらい」


「ほほほ。ではお姉さまと呼びしことを許そう」


「それもちょっと。クラさんくらいで」


 きょとん、とした顔をしたクラさんが、また盛大に笑い始めた。


「クラさん、クラさんか。良いの、良い良い、そのような名を貰うのは初じゃが、気安いのう。

 よし、今後そのように儂を呼ぶが良い。さて、シルフィンがそろそろ着くぞい。

 菓子の用意はないが、茶は良い葉を持っておる。改めて皆で茶会と行こう」


 クラさんに言われて開口部に魔力を飛ばすと、水上を浮遊しながら歩くシルフィンたちが近づいて来るのが判る。


 顔を撫でた魔力に気づいたのか、シルフィンが壁越しに視線をこちらに向けて大きく手を振った。


 こちらから手を振っても見えるんだろうか。って、シルフィンは熱源視力もあるから壁越しに見えるかもな?


「どれ、婆に良い名をくれた子にご褒美じゃ。

 少し身体との重なりを正してやろう。

 アメノウズメさまには内緒にするのじゃぞ、小僧」


 言うなり、クラさんが俺の首をごきん、と音が出るくらい強制的に上を向かせて、額にキスして来た。


 ちょっ、ちょぉっ、待っ!?


 ずるずるずる、と音が立たないのが不思議なくらいの勢いで、俺の中から何かが吸い上げられる感触があった。


「こんなものかの。ウズメさまも初めての神器で世話に慣れんと見える。

 小僧、瘴気を多少吸ってやった。身体に熱を感じるであろう?」


 言われて、両手を前に出してみる。おっ? 気温が少し肌寒く感じるような。


 そしてむくむくと大きくなる息子が。これはっ、念願の?!


「ほほっ、こんな婆の身体でその反応かえ、若いのう」


 しかしシチュエーションが悪い。ここでその反応をすればそりゃバレるわな。


 俺は無駄だとは知りつつ前屈みになって、シルフィンたちの到着を待った。


 お姉さん、この恥ずかしい状況の俺を、救ってくれ。



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