8.どうして?
あの、遅くなった上に1本とか舐めプしてすみません
────くそ、体が動かねぇ!
畜生、こんなところでは死にたくねぇんだよ!
どんな強さしてやがる……
こんな強さのヤツ、今まで戦った事ねぇよ────やめろ、殺すなぁぁ!!!
────上が俺で、下はアグネーゼである。
なにが?って、そりゃお前、このアフレコの話だよ。
今、俺達はゴダ水路という場所にいる。
先程俺達が入ったゴダ水路入口───通称"漆黒の井戸"から梯子を10メートルほど降りた場所がここ、ゴダ水路である。
超高レベルな魔物が生息しているのは漆黒の井戸ではなくこの水路になるのだが、何故かここには『漆黒の水路』とかそういう二つ名はついてなく、『"漆黒の井戸"を降りたらゴダ水路だよ』みたいな事になってる。
漆黒の井戸自体は別に危険ではないということで、すごく奇妙である。意外とそんなものかもしれないが。
さて、そんなこんなで俺達は確かにゴダ水路に入ることが出来た。
「よし、入れたな。意外と梯子って辛いんだな。めっちゃ久しぶりに使ったよ…」
「空は地下には行かないのか?あ、怖いのか。暗いもんね〜」
「んな訳あるか」
ゴダ水路は勿論地下にある。その為、光といえば所々に設置してある松明か、自分の持っているランプのみ。
つまり結構暗い。
おまけに足元が湿っていてすこし滑りそうになる部分があったり、壁にコケが生えてて触ったら少し萎えそうになったりとかなり環境が悪い。あと寒いし。
今はマリーさんを救出する為に来ているから頑張れるが、レベル上げなどの為にわざわざ自分からここへ来るか?と聞かれたら答えはノーだ。
「よし、お前ら。梯子を降りた100メートル位は、すっごく強い魔法使いのおっさんがめっちゃゴツイ結界張ってるから魔物達は来ない。だが、もうすぐ結界の外に出るから気を引き締めておくんだぞ」
「うぃー」
「分かった」
フォードの説明は分かりにくかったが、つまりはもうそろ警戒しとけ、という事だろう。
じゃあ、そろそろ武器の準備でも────
「坊主、危ねぇ!!」
「ひゃい!?」
フォードに呼ばれ咄嗟に頭を下げる。
その瞬間、俺の頭スレスレを何かが飛んでいった。
「カラ、カラカラカラ………」
後ろを振り向くと、そこには骨格標本がいた。
「学校七不思議だぁぁぁあ!!!」
「こいつは、スケルトン……のウィザード──の、上位種だな」
「スケルトン・ハイウィザード、だね」
「……………スケルトン・ハイウィザード…?」
しっかりと骨格標本をみると、確かに「スケルトン・ハイウィザード Lv.85」の文字が……
「Lv.85!!?」
「何を驚いているんだ、こいつは弱いほうだろう?」
「フォードの言う通りだ。85位ならグレン王国を少し出ればうろうろいるぞ」
「……………え?」
あ、そうか、この世界の最高レベルは999だった。
どうしてもレベル上限は99だと思ってしまう俺がいるんだよな。わかるだろ?
「まぁ坊主、こいつを殺ったら詳しく教えてやろうではないか、ハッハッハ!」
と言いながらフォードはスケルトン・ハイウィザードのところへ走っていく────と思ったらもうアイツの後ろに背中合わせに立っていた。
「あばよ、骨野郎」
「カラ……!」
そしてそのまま右回転。
いつ抜いたのか分からない、光り輝く剣を右手に持ち、綺麗な剣筋が描かれる。
骨くんは、左腰から右肩まで切り上げられた。
走り出してからの時間、1秒もない。
スケルトン・ハイウィザードはそのまま崩れさり、残ったのは剣を右上に掲げながら残心を取るフォードのみ。
そして相手の命の灯火が消えたことを確認し、フォードは剣を鞘へ収めた。
「────かっけぇ……」
「フォードが強い………」
俺もアグネーゼも思わず褒めてしまう。
それくらい今のフォードはカッコよかった。
「ハッハッハ!カッコいいか、いやぁいい気分だな!」
フォードはこちらへ戻りながら俺に解説を始めた。
「まず、坊主が最初に撃たれた魔法は多分凍結魔法だ。1人に対して3人は不利だと考えたんだろうな。敵戦力を減らす事を最初に行ってきた。非常に正しい判断だ。敵ながらアッパレだな。しかも、今のは高難易度魔法。詠唱も時間がかかるものだ。となると、奴は俺らの接近に気付いていて、待ち伏せしていたことになる。非常に、洗練された敵だったな!」
「おぉぉ………」
今の数秒の戦闘でここまで把握するとは……
「まぁ、今の攻撃は後ろからだったし、気付けなくても仕方ないだろうな!ハッハッハ!」
そうそう、後ろからだったからびっくりして────は?
「いや待てこらフォード。なんでまだ結界出てないって言ってたのに、俺は後ろから攻撃されてんだよ」
「────────あ」
フォードはそーっと目線を逸らし後ろを向いた。
「あ、じゃねぇよっ!やっぱりお前の仕業かよ!確かにカッコよかったけど!ただ単にアイツが道の陰に隠れてて誰も気付かなくて、そんでアイツが俺らに気づいて『あ、ラッキーカラ』とか言ってずっと後ろくっつきながら詠唱してただけじゃねぇか!!」
「うむぅ………」
右手を口元に当てて唸るフォード。
「『うむぅ』じゃねぇよ!攻撃されるまで気付けないとかアンタそれでもギルマスかよ!!」
全く、ちょっと強かったから褒めたけど、やっぱりダメダメじゃねぇかこの人。
結界出たのに気付かなくて、敵の気配に気づかなくて、詠唱にも気付かなくて、俺が死にかけて初めて気付いて倒すって、唯の脳筋じゃねぇか!
「ま、まぁ、助かって良かったな……ハッハッハ!!」
「よくねぇ!!」
「あ、スケルトン・ハイウィザードは魔法撃ってくるぞ」
「身を以て学んだわ!!」
だめだ、やっぱり死ぬかも、俺……
とその時は思ったんだが、このギルマス。
俺に『アンタほんとにギルマスかよ!疑惑』をかけられてから少し本気になっちゃって、俺らが気付く前に全ての敵を狩りに狩っているのだ。
俺はというとフォードが狩った後の死骸を見る度に敵の情報が入ってきて、「後でコマンドウィンドウ見るの楽しみだなー」ってなってる。
スケルトン・ナイト、スケルトン・リザード、アンデット・クロウ、アンデット・エンプティ、ウィザード・シャドウ、その他諸々………
出てくるのは全部亜種ばかり。
スケルトンもアンデットもリザードもウィザードだって、どれも素を見たことねぇよ!!
しかも、全部強いもん、もうレベル300級しか見てないもん!
それを普通に笑いながらワンパンで倒していくフォードはやばい。
そろそろ敵が可哀想になってきたなーって思ってそれを隣でずっとジャンケンをしながら歩いていたアグネーゼに話したら
「空もか?僕も同じ事考えてたよ……」
と、共感を得た。
だから、俺達2人はフォードの狩っている敵のアフレコをして安らかに眠ることを祈っているのだ。
因みに、
こんな強さのヤツ、今まで戦った事ねぇよ────────やめろ、殺すなぁぁ!!!
と、言いながら死んでいったのは、ゴースト・ナイト…………レベル402。
────くそ、体が動かねぇ!
畜生、こんなところでは死にたくねぇんだよ!
どんな強さしてやがる……
と、言いながら死んでいったのは、アンデット・ブラッディ…………レベル475。
ゴースト・ナイトは実体が無く、物理攻撃が効かないのだが、一秒もかからずに詠唱されたよく分かんない魔法────エグイことだけは分かる────に抹殺された。
アンデット・ブラッディは近接攻撃の攻撃力の高さが売り────ブラッディは返り血を指してつけられた名称らしい────にも、関わらず接近戦で容赦なく叩き斬られた。
俺とアグネーゼはスポーツ観戦気分で「いけ、そこがチャンスだ!」とか「今ならいけるぞ、大勢を立て直せ!」とか、もうやりたい放題させていただいてます。
やることないし。
なんか、思ってたのとだいぶ違うんだよ。
はっきり言って、なんであそこまで行きたくないって思ったのかなー?ってくらい。
ぶっちゃけ恥ずい。
あんなに嫌がらなくても良かったじゃん!マシューに慰めてもらわなくても良かったじゃん!
なんかフォードにイラついてきた………
が、そんな俺の心境は露知らず。
フォードの無双は止まらない。
1匹、また1匹と魔物達が倒れていく。
フォードの表情に浮かんでいるものは快感のみ。
笑みを浮かべながら魔物を斬って斬って斬りまくる。
なんだか、どっちが善で悪なのか分からない……てか、フォードは悪だろこれ。
俺の魔物情報が地味に埋まり始めた時、ようやくフォードが我に帰った。
「お、おぉ……もうこんなところまで来たのか」
「おかえりなさい極悪人」
「おかえりなさい魔物殺し」
「言い方が酷いな!ハッハッハ!!」
貶されても笑顔でいるフォード。
その顔には魔物の返り血がついているため、ヒジョーーに怖い。
てか、怖いよ普通に。
フォードは顔についた血を拭きながら話し始める。
「さて、とりあえず最深部まで潜ってきたな。ここからはいつ魔族達が出てくるか分からない。だが、お前達を信用して、ここは分担して探したいと思う」
「は?やだよ。なんでここで別行動しなきゃいけないんだよ。こんな所で別行動持ちかけるとかどこのホラゲーあるあるだよ」
「僕も同意見だ。はっきり言ってフォードがいないと死ぬ自信しかないぞ」
「ハッハッハ!頑張れ!」
「死ね」
「失せろ」
俺たちの必死の抵抗も虚しく、
死なないし失せないぞ!じゃあな、また後で会おう!ハッハッハ!
とか言いながらフォードは走っていった。
追いかけたかったのはやまやまなのだが、なにぶんあの人の移動速度はキチガイなので、俺達に追いつけるわけがない。
「はぁ、どうする?アグネーゼも流石に怖いだろこれ」
「そりゃもちr……な訳ないだろバーカバーカ」
「煽り方ガキかよ」
こんな冗談を言い合えるだけ複数人行動はましだ。
ある意味フォードは強い。
なんだかんだ、ね……
「空、確かに2人では心許ないが、逆に言えば敵に遭遇しなければどうということは無いだろう?」
「まぁ、そりゃな」
「じゃあ簡単じゃないか!敵に会わなければいいんだよ!」
「当たり前だろ馬鹿か」
「馬鹿って言う方が馬鹿だよーだ」
「だから餓鬼かっつーの」
「でも、さっきのフォードを見ている限りではそこまで数はいないように思うんだ。10分に一回遭遇するかどうか、しかもフォードは先行しているしある程度は数が減ってるんじゃないのか?」
「ふむ、一理あるな。でも、それ以上言ったらフラグに………」
「ということは、そうそう簡単には戦闘に入ることはない────」
「カラ、カラカラカラ……」
「な、フラグだろ?」
「──や、やぁ──────スケルトン・ナイトさん……」
「うし逃げるぞ」
「「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
「馬鹿やろぉ!だから言ったじゃねぇか!それ以上は言うなってぇ!」
「そんな事言われたって、そんなに早く回収しに来るとは思わないだろう!?」
「フラグはやばいんだってェェ!!」
全力で逃げる俺たち2人。だが足元はコケだらけで、そこまで気をつけて走らなきゃいけないから思ったより早く走れない。
「カラ、カラカラカラ……」
「ちょぉ!あいつ足はぇぇ!!」
「くそ、こうなったら闘うぞ空!」
「あぁん!?んなことできるか!って話聞いてる!?」
時既に遅し、もうアグネーゼは後ろを振り向き、剣を抜いて構えていた。
「カラカラカラ……」
「ふん、望むところだ屍よ、僕が貴様に安らかな眠りを与えてやる!」
「ああああ!!こうなったらヤケだ!」
俺も剣を抜いてスケルトン・ナイトの前に立つ。そして敵を見る、いや診る。
敵の情報、スケルトン・ナイト レベル385
いやいやいやいや!!!!
「無理だってアグネーゼぇ!あいつレベル385だって!勝てねぇよこれ!」
「ふっ、例え1人が385レベルだとしても僕達2人を足せばそれ以上になるだろう!僕のレベルは158、つまり空のレベルが227以上だったら五分!勝ち目はある!」
「いや、俺の負担でかくね!?」
なんで言い出しっぺの方が負担小せぇんだよ。
まぁそれ以前に悲しいことがあるんだけどな……
「……………あと、俺、1レベルぐらいだから、多分……」
「だろう!?勝ち目はあるに決まって────ふぁ!?」
いや、ごめんて。ちゃんとステータス確認してないけど多分俺のレベルそれくらいだって。
「………勝てないな」
「言ったよね!?俺さっき言ったよね!?」
「なんでそんなに低レベルなんだよ!君だって一応新米冒険者としての卒業試験にいたじゃないか!」
「卒業試験?何の話だよ!」
「はぁ!?一緒に素材集めに行っただろう!?時計台修理の!あれが卒業試験だろう?違うのか!?」
「え、そうだったの!?」
初めて聞いたし!
てか、その話が本当だとすると俺は冒険者としての卒業試験にほぼ無理矢理レベルでぶち込まれたわけか。なんつー事してくれてんだあのジジイ!!
じゃねぇ!マリーさんもなんも言ってくれなかったじゃねぇか!!
「カラカラカラ…」
俺とアグネーゼが口論してるのを見かねて、スケルトン・ナイトはこちらへ走ってきた。いや、説明聞いててくれてありがとねほんと。
いや、だからそうじゃなくて!!
「来たよ!?ねぇ、どうすればいいの!?」
「お前が逃げてればよかったんだろうに!」
といいながら、スケルトン・ナイトとアグネーゼの間に立ち塞がる。
「お、おい空!お前が勝てるわけないだろ!レベル1なんだから!」
「うるせぇ、女を盾にできるか!」
スケルトン・ナイトの上からの斬撃を俺は剣を横にして受け止める。
「ぐうっっ!!!?」「カラカラカラ……」
なんだこれ!?やべぇ、腕がもげる!
スケルトン・ナイトの方は右腕だけで振り下ろしてるはずなのに、両腕使ってる俺の方が押されてるーー!!?
「くそっ!」
ギリッギリギリと刃のぶつかり合う音がする。
「このままでは勝てない……」
そう判断した俺は右側に体勢を寄せるとそのまま剣を振り、相手の剣をいなした。
が、いなそうとした瞬間、相手は一旦剣を浮かせたかと思うと俺の剣の持ち手近くにそれを振り直した。
「なにっ!!!?」
当然、その力はとても強く、しかも俺は不安定な体勢をしていたため、簡単に体勢を崩された。
「カラカラカラ……!」「しまっ………!!」
俺には、スケルトン・ナイトが笑みを浮かべたように見えた。
古びて、錆びに錆びた剣が襲いかかる。
あ、これはやばい────────
「やらせてたまるかぁぁぁ!!!!」
シュッと、風を切って俺とスケルトン・ナイトの間に入り込んだのはアグネーゼ。
俺に振り下ろされかけていた剣を受け止めてくれた。
「カラカラカラ……」
「な、お前………」
何してるんだ、と言おうとしたのも束の間。
アグネーゼは剣を受け止めたまま左足でスケルトン・ナイトの腹付近を蹴り飛ばした。
「カラカラカラ!」
力の強さは圧倒的にスケルトン・ナイトの方が大きいはずなのだが、アグネーゼはその体格に似合わない力を発揮し、スケルトン・ナイトを押しのけたのだ。
「お前、許さないぞ……よくも空を────空を殺そうとしてくれたな………!!!」
「アグネーゼ……」
そして、アグネーゼは体勢を少し崩したスケルトン・ナイトに、まるで先程俺がコイツにやられたように斬りかかった。
「これでも……喰らえっっ!!次元斬ッ!!!!」
「カラッ!!?」
アグネーゼの放った一撃はスケルトン・ナイトの胸の辺りを見事に捉えた。
その瞬間に、そこに切れ目が出来る。スケルトン・ナイトの体にではなく空間に。
そしてその空間が元に戻ったかと思うと、スケルトン・ナイトの胸の部分は見事に切り取られていた。
「じ、次元斬………」
カラカラ、と音を立てて崩れさる骨達。
その音はアグネーゼがスケルトン・ナイトに対して、227以上もレベル差がある敵に対して勝利を収めたことを意味していた。
大白星を挙げたアグネーゼ。
本人はずっと下を俯いていた。
「おい、アグネーゼ?どうした────」
「初めてできた……次元斬……………できた、できたよ……!!」
「え?…………今まで出来なかったのか!?」
アグネーゼは顔をあげると俺に飛びつきながら満面の笑みで語る。
「あぁ、そうだ!僕は今まで次元斬を使えなかったんだ。悔しくてずーっと練習してたけど、ここで習得できるなんて思わなかったんだ!なんでだろう、あの時不思議と力が出たんだ……」
「そうか……なら良かったんじゃないか?」
「うん、良かった……!」
アグネーゼは今までで一番の笑顔で俺に答えた。
俺が死にそうなのを見て「(´・∀・`)ザマァ」みたいなノリでパワーアップしたのかなー?なんて思いながらも、思った以上に可愛い笑顔を見れたので許してやるとした。
「なんだ、人の顔をジロジロ見て。気持ち悪い」
「やっぱり可愛くねぇなお前」
この野郎め、頭叩いてやるわ────
「カラ、カラカラ……」
「え、なんだ!?」
この場所では、おふざけはどうやら許してもらえないらしい。
俺たちの前にはスケルトン・ナイトが、立っていた。
それも一体だけではない。
俺たちの横から、前から、下から、色々なところからスケルトン・ナイトが湧き出してきた。
「は!?なんで!?普通スケルトン・ナイトは群れないはずだ!なんでこんなにいる!?」
アグネーゼが叫ぶ。
アグネーゼの言っていることが本当なら確かにおかしい。
「おいアグネーゼ!それは本当なのか!?」
「本当だ!前にフォードから教わった事だ!記憶力には自信がある────間違いない!」
だがそのアグネーゼの記憶とは反対に、どんどんスケルトン・ナイトは湧いてくる。
俺達はあっという間に囲まれてしまった。
「カラカラカラカラ…」「カラカラ…」
「おいこれマジでやべぇぞ!?」
「そんな事知ってるよっ!ほんとにどーするのこれ!?」
「知るかっ!!」
存在消去を使うか?────いや、それはだめだ。この後にまだマリーさんの救出作業が待ってるんだ。ここで体力を使い切るのは絶対愚策だ…………ならどうする?普通にやっても勝てないだろうな……一体倒すのにアレだけ手間取ったんだ。今は見えるだけでも10体越え。ここで正攻法を挑むなんて自殺行為に等しい。せめて、俺もアグネーゼみたいにコスパのいい技があれば……………
思わず手を握る。やっぱり俺には力が足りない……仲間を守れるくらいの圧倒的な力が…
その時、俺の頭に一つの策が思いついた……
────────手だっ!!
そうだ、俺にはあの竜の腕がある!!
前にもこんなことあったけど、自分の技が全く把握出来てない証拠だなこれ。一回自分のことを見返す必要があるな……
いや、今はそんな事どうでもいい!あの、パーン出来る腕があるなら、この状況をどうにかできるかもしれない!!
よし、やったるわっ!!!
「おりゃぁぁぁぁぁあああ!!!!」
「はぁぁぁ!!?おい空、お前馬鹿みたいに突っ込んでも死ぬだけだろう!?今の時間何してたんだよ!!」
「うるせぇ!!一か八かだよっ!」
俺は近くにいた、比較的孤立しているスケルトン・ナイトを殴りに行った。
「カラカラ……カラ?」
「これでも………くらいやがれぇぇぇえええ!!!」
俺は全身全霊を込めて、全力の殺意を込めて右手を振り切った。
バシィィンン!といい音がして、スケルトン・ナイトは若干後ろへ下がる。
がそれだけ。
「なに!!?」
「カラ………カラカラカラカラ!!!」
俺の拳を普通に耐えたスケルトン・ナイトは右手に持っていた剣の持ち手部分で俺を殴り倒した。
「ガハッッッ!!?」
「空ぁぁぁぁぁあ!!!」
アグネーゼが叫んでいるのが聞こえる。
が、もう目の前には骨の足が。
「カラカラカラ………」
「次元斬っっ!!!」
「カラカラ!!」
アグネーゼの技もスケルトン・ナイトによる絶妙なタイミングでの斬撃で呆気なく対応される。
「クソがっ!!次元斬っ、次元斬っっ、次元斬────!!!!」
泣き叫びながら出す技もスケルトン・ナイトには効かない。全てがいなされ、消えていく。
そして、スケルトン・ナイトは倒れている俺に剣先を向ける。
「カラカラカラカラ!!」
「やめろぉぉぉぉおおおお!!!」
俺の背中の後ろからシュッと風を切る音がする。なにがそれを発しているのか、最早考えるまでもない。
俺に見えるのは骨の足のみ。
「なんで………なんで俺はこんなにも弱いんだよぉおおおお!!!」
「カラカラカラ………!!!」
「やめろ、やめろぉおおおお!!!!」
────スケルトン・ナイトは、俺に剣を振り下ろした。