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6.クエストへ逝こう

フォードから、この世界についてたくさんの知識を得た俺だったが、知識だけ得てもそれは使わなければ知らないのと同じ。


「という訳で、クエストをそろそろやりたいと思う」


朝起きた俺は真っ先にギルドへ向かってフォードに話した。

あの、3人組の所為ですっかり流れてしまっていたが、俺は「時計台修理」のクエストを受注済みなのだ。マリー曰く、「武器を揃えてきなさいな」との事で、フォード待ちだったところを話しかけられたのだった。


「フォード、そろそろ俺に合う武器は見つかっているか?」


それをフォードに伝えたところ、「待て、既に作業は終わらせていたんだ。用意だけするから待って欲しい」と言われ、おとなしくマシューを撫で撫でしながら待機しているところであった。


「よし、坊主。武器出来たぞ!これを使うといい」


暫らくすると、ギルドの受付の奥で作業をしていたフォードが出てきた。


「え?出来たって……これ、おっさんが作ったのか?」


思わず驚いてしまった俺は尋ねる。

だって、武器とか普通はその、鍛冶屋みたいな所が作るんじゃないの?というRPGのやりすぎによる知識が俺の頭には刷り込まれているからな。


俺に尋ねられたフォードは不思議そうな顔をしながら


「通常、武器は冒険者が自分自身で作るものだ。駆け出しにはこのように、ギルドマスターが最初の武器を作ってあげるというのがルールになっているのだ。だから、今回が特別という訳では無いから、勘違いするなよ?はっはっは!」

「なんだそのツンデレは。おっさんのツンデレなんて誰得だよ」


ツンデレは可愛い女の子がするからいいのだ。


あ、ツンデレと言えば、俺の幼馴染みの女の子もだいぶツンデレさんだったな。

あいつ、顔はすげー可愛かったからツンデレ似合ってて、子供ながらに謎の憧れを持っていた記憶があるんだよ……


まぁそんな昔話(黒歴史と読む)は置いておいてだ。


「とりあえずサンキュー、フォード。これはありがたく貰って……料金とか頂いちゃうシステムですかコレ?」

「いや、金は必要ない。そもそも、小僧、お前さん金など持ってないだろう?はっはっは!」

「失礼なっ!金くらい、そ、それくらい……かね、金くらい……」

「いや、悪かった。今のは俺が悪かったな。クエストやればお金もらえるから…」


そうなのだ。金がないのだ。それもあって今回クエストやろうと思っていたのだ。


実は、赤い三連星を捕まえて、警察的な所に突き出した時に「懸賞金かかってないかなぁ。ワ○ピースみたいにぃ」とか思っていた自分がいるのだが、残念ながら


「ほう?赤い三連星か。ご苦労だ、若い冒険者。くれぐれも危険な事はしないようにな。それでは良い旅を」


と、いい感じにまとめられて終わりにされてしまったのだ。

後でフォードに確かめたところ、確かに懸賞金のかかっている犯罪者はいるらしい。

だが、それはいずれも超極悪な殺人犯で少なくとも、新米冒険者が容易く手を出してはいけないレベルなのだとか。

つまり、赤い三連星は大したことない奴らだったという事で、それにやられた俺って一体?みたいなことである。


1人で目に涙を浮かべていた俺を不思議そうに見つめていたフォードが、手に持っていた武器を俺に手渡してくれた。


「ほれ、小僧。この武器を使え。これは"ビギナーズソード"だ」

「よし、これ以上の説明は不要だ。俺に渡せ」

「えぇ?まだ説明は終わってないのにいいのか?はっはっは!」

「いや、これ名前がすべてを語っているだろ!………コマンドウィンドウ…」


なんだかんだ言って少し気になった俺はコマンドウィンドウの、アイテム欄からビギナーズソードを確認してみた。




[ビギナーズソード【NEW】]

剣初心者が、剣の鍛錬の為に用いる。非常に軽く、筋力のないものでも扱えるため、沢山の新米冒険者に愛用される。




「見なくてよかったわっ!」


まんまじゃねぇか!いや、これに怒るのはもはや申し訳ないかなぁってくらいそのまんまだよ!


「坊主、新米冒険者なんだから、いい武器もらえると思ったら大間違いだぜ?それともなにか期待でもしてたのか?はっはっは!」

「畜生!ちっとはしてたよこの野郎っ!」

「恥ずかしくないのかい?はっはっは!」

「UZEEEEEEEEEEEE」


くそ、これに関しては俺に非があるから何も言い返せなくて余計にうぜぇ!


「まぁ、安心しろ。今回のクエストは俺がついていってやる。剣術に関しては俺が色々教えてやるからな。はっはっは!」

「助かるけどやっぱうぜぇ!」


という訳で、なんやかんやでクエストへ向かうことにした。


尚、マシューは危険と判断して街に置いてきた。今頃、マリーさんに面倒を見てもらっているだろう。


………監視役を完璧に忘れているマシューは後でロドに怒られるかもしれないな。


「じゃあもう行こうぜ。クエストをやってみたいんだ」


俺はやる気満々でフォードに話す。

だが、


「そう慌てるな。まだ準備が整ってないんだ」


と、フォードは言う。


「そ、そうなのか?なんか、もういつでもいけそうな格好してるじゃねぇか。俺もあんたも」

「はっはっは!じゃあ坊主、今から何をしに誰とどこへ行くか言ってみろ」

「ふんっ!そんなの簡単だ!え〜と、修理をしに………あんたと2人で…と、時計台に?」

「おぉ、すごいな流石だ!」

「ま、まぁな!俺を誰だと思ってる?天下の空様だぞ!」

「あぁ、天下の空様だな!全部間違ってる」

「死ねぇぇ!!」


俺は必殺のパンチをフォードの顔面に繰り出す!

だがフォードはそれを顔を後ろに背けるだけで避ける。


「な、なにぃ!?」

「甘い、甘すぎるぞ小僧!」


そして、そのまま俺の突き出している右腕を掴み、



ギュッ



「いっ、いたたたたた!!」


羽交い締めにしてくれた。


「痛いか?そうか、はっはっは!」

「ごめんなさい!すみません、お許しをっ!」



ギューッ



「いだぁぁ!!!やめ、やめてっ!笑顔で腕締めるのやめてっ!」

「はっはっは!笑顔の方がやられてる側も怖いだろう?」

「お前ドSかっ!?そうなのかっ!?」

「ドSではないよ。はっはっは!」



ギューーーッ!



「いったぁぁぁぁ!!」

「ふふ、痛いのは最初だけだ。すぐに気持ちよくなるぞ!はっはっは!」

「気持ちよくなんてならねぇよぉ!」


ギブ!ギブですからぁ!!


抵抗するために俺は左腕をぶん回す。


「オラオラオラオラァ!」

「無駄な抵抗を!さっさと気持ちよくなってしまえ!」


フォードは、空いているもう片方の手で俺の脇の下をくすぐってきた。


「あひゃっ、あひゃひゃ!!やめ、やめっ……」

「もうすぐだ、もうすぐ快感が生まれる…………ぞ……」


と、途中でフォードが俺の腕を離す。

俺はようやく解放され、思わず地面にへたり込む。

フォードを見ると、フォードは固まっていた。

なにがあったのかとフォードの見つめている方をチラッと見ると……




「…………な、何をしているんだ君達は……」



こちらに冷たい目を向ける金髪の少女と、マリーの姿。


「………違う違う断じて違うぞマリー。俺はそういうことをしていたわけではないんだ!」

「なにを慌てているの?フォード?私はなにも見ていないわよ?……そうね、取り敢えず今夜は私の部屋に来てくださいね?」


マリーはそれはそれは素敵な笑顔でフォードに話しかける。


「………ひゃい…………」


言ってる事は唯のお楽しみの話のはずなのだが、すっごいびびってるフォード。いや、携帯のバイブみたいになっちゃってるからね?きっと一番怖い人はフォードではなくマリーなんだろうな、と思ったことは内緒だ。


「おい、君!」


まぁフォードの強さは今、身をもって体験できたしやはりギルマスは捨てたものではないんだな。


「おい、君!君だよ!」


それでもそんなフォードを一瞬で黙らせるなんて、マリーの威圧感もなかなかだ。

あの家はかかあ天下なんだなぁ。尻に敷かれているフォードも見てみたいな。かかあ天下何て言葉はもう死語かな?


「おい、君!この僕を無視するとはいい度胸だな!」


突然後ろから怒鳴られた俺はビックリして後ろを振り返る。


「な、なんだ?」

「なんだ?じゃない!この僕が直々に2回も呼びかけてやったのにそれを無視するなんて、君はどんな教育を受けているんだ!」


え、えぇぇぇ?


今『この僕が』って言ったよね?こいつあれか?所謂お嬢さまって奴か?

世間知らずのお嬢さまがこの冒険者の集うこの街に何の用だ?


「おい、その目はなんだ!僕を一体誰だと思っている!由緒あるベネディクト家の娘、ベネディクト・アグネーゼであるぞ!」


アグネーゼと名乗った少女は腰に手を当て胸を張った。


金髪、蒼目、身長は普通くらいだが、非常に顔立ちが整っており腰まで伸ばした髪型も似合っており、まぁ、うん。可愛いな。

年は15、16ってところだろうか?

性格に反して胸はあまり主張なさっていないようだ……


「アグネーゼ?ふーん、やっぱり貴族のお嬢さまだったか。ここは冒険者が集まるところだぜ?お嬢さま。お嬢さまはとっととお家に帰りな?怖いぜ?お嬢さま」


それにいらっときた俺は少し小馬鹿にしてみた。


その瞬間、後ろから首根っこを掴まれて持って行かれる。


「え?ひぇぇぇ??」


そして、そのままギルドの中へ連れ去られた。


「な、なにするんですか!……マリーさん!」


犯人はマリーだった。めっちゃ力強くて逃げられなかったなんて言わない。


「いい?空くん。さっき自分で名乗っていたけれど、彼女はベネディクト家のお嬢さまなの」

「はい、知ってます」

「アグネーゼちゃんはね、幼い頃から冒険者を志して稽古をしていたの」

「なるほど」

「それで、うちのフォードがその師匠役に抜擢されたの。それで、今日はアグネーゼちゃんの実践稽古の日なのよ」

「あぁだから金持ちがいたって訳か」

「それでね、ベネディクト家っていうのはこの世界で一番位の高い貴族なの」

「はい、知ってま……へ?」

「ベネディクト家が、このグレン王国の王家なの」

「は?まじ?」

「つまり、ベネディクト家にかかればうちのギルドなんて速攻ペッシャンコなの」

「やばくね!?」

「しかもアグネーゼちゃんはベネディクト家の一人娘だから、全員に甘やかされててねぇ。だから、余計なことはしないほうがいいわよ?」

「ら、らじゃぁ…」


こえーまじこえー貴族様すげー。


日本にいた時はそんな人達いなかったからなぁ。歴史の教科書に出てるくらいだろ貴族なんて。まさかこうして会うことになるなんて思わなかったよ。しかも想像以上にやばい力持ってたよ。詩とか詠んでるんじゃないの?違うの?


俺は考えを改めてアグネーゼ様のところへ向かう。


「どうした、君。僕への非礼を謝りに来たのか?一応言っておくが、僕は幼き頃から剣の稽古をつけてもらっているのだ。しかも、このフォードにな。つまり、僕のほうが新米冒険者如きの君より何倍も強いんだ。それも含めて僕に謝罪するべきだ」


え?フォードが剣を教えたの?

ちらっとフォードを見ると「いやぁ、ま、まぁね(笑)」みたいな表情を返してきた。


以下、心トーク。


(おい、フォード。助けてください。後でマリーさんと過ごす夜をアドバイスしてあげるから!)

(ふむ、なかなかいい交換条件だ。しかしまだ足りないな!はっはっは!)

(わかった!俺の必殺技も伝授してやる!それでマリーさんもイチコロだ!マリーさんをいじめてみたいだろ?)

(よしのったぜ!)


「まぁまぁそこら辺にしてやってくだせぇお嬢さま。こいつはぁ、まだまだこっちに出てきたばっかで世間知らずなんですよ」


なっ!?このやろう!俺を世間知らず扱いしやがった!でも一応助けてもらってるから文句つけにくいんだよちきしょう。


「ふん!例えお前の頼みだとしてもそれは聞けないな!土下座するまで許さないからな!」


そして使えねーフォードさん使えねー。俺を下げても何も出てこなかったじゃねぇかこの野郎!おい、そのテヘペロやめろうぜぇぇ!


「おいフォード!このクソウゼェお嬢さまと一体なにをするんだよ!」

「なっ、うざいだと!貴様………」

「はいはい!これから2人のクエスト兼戦闘訓練を始める!これから始めるクエストは時計台修理の素材集めだ!そして、ついでに君達の実戦訓練を行わせてもらう!決着はそこでつけろ!いいな?」


使えねーフォードさんはそう言って無理矢理場を収めたが、俺は全く納得していない!


「おい貴様、名を名乗れ!僕にここまでの無礼を働いたものは初めてだ!」

「俺の名は神木空だ!さっさと決着つけよーぜ?お・じょ・お・さ・ま!」

「〜〜貴様ぁ……!」


はっ!怒ってろ怒ってろ!あっまあまに育てられたお嬢さまに俺が負けるわけねぇだろ!


「お前ら面倒くさそうだな!はっはっは!」


そして、フォードは雰囲気を、ぶち壊す天才だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「………この森か?」


フォードに案内されてきたのは森だった。時計台修理に必要な素材集めだということだが、実は素材は道中で殆ど集め終わってしまって、この森でやることは戦闘訓練だけとなっていた。


「この森、ゴダ森林はスライムやゴブリンなどの弱いモンスターが沢山生息しているんだ。だから新米冒険者の実戦訓練にうってつけなんだ。ついでにいうと、生活に必要な素材なんかもここで大体は集まるから素材屋みたいな奴らもここに来てるんだ」

「ふーん……まぁ、僕ならこんな雑魚では腕慣らしにすらならないがな」

「あーそうスゴイネー。ところでフォード?一体なにをすればいいんだ?」

「ふむ、そうだな。取り敢えず今からここに生肉を置くんだ。すると、ゴブリンが食べ物を取りにやってくる。それを一体狩れ。奴らは仲間意識がすごく高くてな、一体狩ればその仇討ちに沢山やってくる。そいつらも全員狩れ」

「沢山?それはどれくらいだ?」


ゴブリン、集団。う、頭が……の俺にとってはそこが重要なんだ。だが、フォードが答える前にカマチョーゼが口を挟んでくる。


「ふん、ゴブリン如きが恐ろしいのか?新米冒険者は可愛いんだな?」

「あ?屋敷で手塩をかけて甘やかされたお前には絶対わからないだろうね。ゴブリンの夕飯にされそうになる恐怖は……」


あの時のことを思い出した俺は思わず身を震わせる。あそこでロドが来てなかったら確実に食われてたからな俺………

その場合、かけられるのは砂糖と塩だろう。


しかし、その話を聞いたアグネーゼは腹を抱えて笑い始めた。


「ゴブリンの……夕飯に……ぷっ!どんな雑魚ならそうなるんだ、空!お、お前、どれだけ弱いんだ……夕飯っ……」

「テメェしばくぞ」


言いたいけど言えない。伝説の忌み種のドラゴンに追いかけられて、伝説の禁断魔法使って、動けなくなったなんて言えない……


「まぁ、確かにずっと2人で過ごしていたなら、なにか理由があっても仕方ないだろうな」

「え?2人?」


誰のことだ?そもそも俺にはずっと旅をしてきた仲間なんていないんだが……


「ギルドにいた女の子が君の連れだとマリーから聞いたのだが?」

「あ、マシューのことね」


そうか、そういうことになると俺は今3人で行動してることになるのか。まぁ、今は諸事情でソロだけどな。


「まぁ、僕なら連れがいようがいまいが何も関係はないがな」

「お前ほんっとうぜぇな」

「おい、いつまで話しているんだ2人して。もうゴブリンがきたぞ?」


おっと、すっかり忘れていた。そういえば戦闘しに来てたんだっけ?


「よし、勝負だアマネーゼ!どっちがより多くのゴブリンを狩れるかだな!」

「ふっ、望むところだ雑魚。僕のバスターソードで切り捨ててくれるっ!」


と、アグネーゼが抜いたのは金色に光る剣。


「おい待て武器違いすぎるだろ!」

「ふん、僕はベネディクト家の娘だからな。当然のことだろう?ほら、早く自分の武器を抜かないと、僕が斬っちゃうよ?」


と言いながらアグネーゼはゴブリンに向かって走り出した。


「ギャギャ!」


ゴブリンもそれに対抗して走り出す。


俺はその間にバスターソードについてアイテム欄で確認してみた。




[バスターソード【NEW】]

相手を斬ることに特化した短剣。短剣のため非常に扱いやすく、また剣の形状は、相手を斬り捨てることのみを考えて作られている。

非常に高価であるため、冒険者よりも貴族が護身用で持っていることが多い。




「なるほど、こいつもその1人なのか」


と、アイテム欄を見ている間に、アグネーゼとゴブリンの距離はだいぶ近付いていた。


「雑魚が。失せろ!」


そして、アグネーゼは交錯する直前に飛び上がった。

そのままゴブリンの後ろへ回り背中を斬りつけた。


ザシュッ


「ギャッ!!?」


ゴブリンは背中の痛みに耐えながらアグネーゼのいる方向へ向き直す。

が、既にそこにはアグネーゼはいない。


「こっちだ。そして眠れ!」


またもや素早く背後に回り、放たれた一撃はゴブリンの首元を抉っていった。


ごろっとゴブリンの首が落ちる。


「見たか?空。これが僕の実力だ!」

「お、おう………」


はっきり言おう。こいつ強いぞ。

フォードの言い方からして多分今のが初めての実戦なんだろうけど、戦い慣れている感じがある。フォードめ、どんな稽古をつけたらこうなるんだ?


「ふむ、お嬢さまもまた強くなりましたね。前回の稽古が終わった後も練習したでしょう?剣筋が一段と綺麗になっていますよ?」

「ありがとうフォード。これもお前の稽古のおかげだ」


ふーん、意外とまともに師弟関係築いているんだな。

少しアグネーゼの印象が変わったぜ。唯のお嬢さまではないことは認めてやろう。絶対言わないけどな。


「ほれ、また一体来たぞ。坊主、次はお前の番だ」

「よ、よし。どんと来い!」


「ギャギャ!!」


ゴブリンが、こちらへ向かってくる。と、途中で止まったぞ……?


「あ、坊主。1つ言い忘れていたことがあるんだが……」


そして、ゴブリンは転がっている仲間の首を見て………


「ゴブリンは仲間の仇討ちってなるとめっちゃ強くなるぞ?」


次の瞬間には俺の背後にいた。


「はいぃぃ!!!?」

「ギャギャキャギャッッッ!!」


ゴブリンは俺の背中を突いた。


「ぐぅっ!!?」


「はっはっは!まぁ頑張れ坊主!」

「あとで覚えとけよフォードぉぉ!!」


俺は後ろへ飛んで距離を取る。が、俺が着地する頃には既に目の前にゴブリンがいて、


バシッ!


「いてぇっ!」


右頬を殴られた。

くそ、血の味がしやがる。口の中切っちまった。


「おーい、そらくーん?ゴブリンに負けちゃうのぉ?あ、夕飯になるのか(笑)」

「てめぇもウゼェ!!」


でも、確かにこのままではやられてしまう。でも、まさかこの状況で存在消去を使うわけにはいかない。先程フォードに怒られたばっかだ。


どうすればいいんだ………?


と悩んでいる間にもゴブリンはどんどん攻撃を仕掛けようとしてくる。

恐らく、俺のことを自分より格下だと認識したのだろう。攻撃も単調になり、前から突撃するだけになっている。


「ギャギャ!」

「うぜぇ!!」


それがあまりにもうざかったので俺は突っ込んできたゴブリンの顔面を先ほどフォードにやったようにぶん殴った、のだが……




次の瞬間にはゴブリンの頭が消し飛んでいた。




「………ほぇ?」

「え?………えぇ!?」

「凄いな坊主。はっはっは!」



…………えええええ!?何があったの!?今消し飛んだよね!?殴っただけだよ?俺はっ!?


俺が自問自答していると、フォードは、さっきと違い、真面目な顔で俺に声をかけた。


「……おい、坊主。その右腕はなんだ?」


え?右腕?そんなこと言われたって別に何もないだろ………


「………うろ、こ?…鱗っ!!?」

「え?鱗だ。なんだそれは!空!」


そう、俺の右腕は鱗がつき、更に手は鋭い爪の生えたものになっていた。


……これはまるで…


「竜の腕みたいだ………」


そして、俺の腕を不思議そうに見つめているアグネーゼとフォード。


どうしよう、心当たりしかないよ。こうなった理由。多分そういうことだと思うんだ。特別なことはなんもしてないんだけど竜って言ったらアレしかないよねあいつらしかいないよね。


「ま、まぁいいじゃん?強いから……」

「そういう問題ではないだろう、空!君の腕は今竜の腕そのものだぞ!それでいいのか!?」

「う、うん。別に嫌ではないんだけど……」


だって、そんな驚くってことは珍しいんだろ?俺は珍しい力を手に入れたってことだろ?なら、俺的には嫌なことないんだよね。


「嫌ではない?君の力は人外のものだぞ?それを嫌ではないで済ませるなど……」

「まぁ落ち着いてくだせぇお嬢さま。坊主がいいって言ってるならそれでいいでしょう?ですが、その事例は俺も聞いたことないんだ。だから、俺は一度街に戻ってこの事を報告してくる。君達はこのまま練習していてくれ」


いやまて、報告されるのはまずい!これがそのままあいつらの身バレに繋がらないとは言い切れないだろう。


「ま、待ってくれフォード!」

「ん?なんだ?坊主」

「いや、その……この事は報告しないでくれないか?」


だが、フォードは不思議そうにこちらを見る。


「なんでだ?これは新たな発見だぞ?報告しなければならないだろう?」

「うっ、それはそうだけど……もしこれで俺が変なことに付き合わされることになったら面倒だし……」


正論は正論だからなぁ。言い訳みたいになっちゃうんだよどうしても。


「空。君はその研究みたいなのをされるのが嫌なのだろう?」

「ま、まぁそうだね……」

「なら、僕が直々にお父様に伝えておこうてはないか。そうすれば空は安全だ」

「ふぇ……?」

「『お父様、私の下僕がカクカクシカジカなのですが……』と伝えておこう」

「てめぇ……!!」

「よし、それでいこう。俺も別にその腕自体にはさほど興味はないんだ。では、頼みましたぜお嬢さま。俺は行ってくるぞ」

「え、ちょっ!」

「なんだ?坊主。まだ何かあるのか?」


くそ、これ以上言うと怪しまれるか!?畜生、ここは引き下がるべきなのか……?


「はっはっは!用事があるなら帰ってきてから聞こうじゃないか。では行ってくるぞ」


考えている間にフォードは行ってしまった。


ていうか、ジャンプしていったぞフォード。ちゃっかりカッコイイな……忍者みたい。


「行っちゃったね……」

「うん、行ってしまったな……」


残された俺とアグネーゼは暫くポカーンとしていた。


「はっ!よく良く考えたらなんで僕はこんな下々といっしょにいるんだ!?」

「お前、マジで殺すぞ…」

「ふんっ、僕を殺せるのか?そんな実力で?……ふっ!バカも程々に言え!」

「…ほんとに死ね。冗談抜きでウザイ」

「うざくで結構だ!お前のような奴になんと思われようと知ったことでは……えっ?空、腕が元に戻ってるよ!?」

「あぁんっ!?……あっ!本当だっ!なんで!?」


そう、俺の右腕は既に戻っていた。

爪とか鱗とか、そもそも色も赤くなっていたのにも関わらず、ふつーの、人間の腕に戻っていた。


「…………目の錯覚だったか?」

「いや、それだけはないよっ!?」

「そんな事言われてもだな、さっきまであんなだった腕が元に戻ってるんだぞ?人間の腕だぞ

?そんな、体が別の種族のものになるなんてファンタジー、現実ではありえないだろ?」

「いや、でも一部の竜たちはドラゴノイドとして人間の姿になれると本で読んだことがあるよ?空?」


あーそーでしたねマシューとかいましたねマシューとか。


「ふ、ふぅん…ま、まぁ俺に限ってそんな変な力は無いだろ?」

「ふむ、それもそうだな、空。君にはそんな力はなさそうだ」

「……一発殴らせてくれ」

「断るっ!」

「何故だ!?」

「君には人道とかそういうのはないのっ!?っていうかまず、君の龍の腕はパンチした時に変わっただろう!?僕を殴った時にもし、また龍の腕になったらどう責任とってくれるんだ!」

「あー、そういえばそうだな」

「君の体の話をしてるんだがっ!?」


確かに、俺の腕はゴブリンをパンチした時に変わったのだった。だったら、パンチモーションをした時に腕が変わるのかもしれない。


「うおりゃぁっ!」


ブンッッ!


「………………」

「………空?もしかして、お化け見えるようになったのかな?可哀想な脳みそ…」

「ちげーよ!俺なりの実験だ!気にするな!」


別にパンチは関係ないらしい。

じゃあ、本当にさっきの竜の腕はなんだったんだろうか?


……もしかして、なにか当たるものに殴ればいいのかな?


「えいっ」


バシッ


「いったぁぁぁぁいい!!?」

「あ、ちげーや、変わんなかった」

「君は、僕の高貴な体で何を実験したんだっ!?」

「いや、その〜、アレだ、生命の神秘についてだ」

「訳すと龍の腕の事だよねっ!?やめてよ!?あと……ちゃっかり殴る時に僕の……その、胸の部分を殴るのは………その、やめて欲しい…」

「え!?いや、そんなつもりはなかった、ごめん!」

「いや、悪気がないのは知ってるんだ……うん。別に謝らなくてもいい……」


うっわ、ごめん。発育途中の少し可愛い胸だったねありがとう。


「……ごほんっ!とにかく、もう二度と僕の体で実験をしないでくれ!」

「あぁ、そうするよ……」

「…………………」

「…………………」


きまずっ!

いや、事故だったんだよ!?そんな、胸を触ろうとか思ってやったわけじゃないんだ!

くそー、少女とはいえ、くそうざいとはいえ、女の子だからなぁ。もしかしたら少し傷付けちゃったかな?

ちらっと顔を見ると頬を赤くしている。

あぁ、やってしまった。きっと「このへんたいがっ!」とか心の中で思ってるんだろ?

くそー、この世界に来てから俺変態扱いしかされてねぇよ……


「ギャウッ!」

「あぁん!?人が真剣に悩んでる時に何のようだぁこのゴミがっ!」


ドンッッッ!!


「ギャ………」


…………あれれ?おかしいな。今、殴っただけでゴブリンの頭が消し飛んだ気が……


「空、ゴブリンめっちゃ来てるよ!早く倒そう!レベルをあげられる!」

「え?あ、仇討ちか!よし、分かったぞ!」


腕の事は気になるが、とりあえずゴブリンを殴ると竜の腕に変わることが分かった。

今はそれだけでいいじゃないか!


俺とアグネーゼはゴブリン狩りを続けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


20分位経っただろうか?

俺とアグネーゼは迫り来るゴブリン達を、アグネーゼは斬り捨てて、俺は殴り消して応戦していた。元の世界ではボクシングとかそこら辺も一通りマスターしていた俺は、拳一つでも戦えた。

さらに驚くべきは竜の腕。

やはり、ゴブリンを殴った時のみに変わり、暫く時間が経つと元に戻る。

竜の腕である時間は爆発的な威力を誇り、ゴブリンが消し飛ぶ。

原理こそ分からないが、取り敢えず俺は便利なものを手に入れたようだった。


「空……その腕、なんともないのか?」

「なんともないって……一体どういうことだ?」

「痛いとか、そういうのはないのか?」

「うん、痛みとかはないな。寧ろメリットしかないって感じだ」

「そうなんだね。ならいいか…………ところでフォードはまだかな?」

「あぁ、そういうのはな、面白いジンクスがあるんだ」

「ジンクス?」

「そう、ジンクス。こういうシチュエーションの時、『○○さん、まだ来ないのかな?』って言っておくとその数秒後に現れるんだ」

「へー、不思議だねぇ……」



「お、おい、お前らっ!やっと着いた!」

「な?来ただろ?」

「もう10分経ったけどね……」

「うるさい、放っておけ」

「いいから、すぐに来てくれ!大変なんだよ!」

「はぁ?何があったんだよ?」

「マリーが……」

「マリー?マリーがどうしたんだよ?」



「マリーが、攫われた……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「この後のこと、しっかり分かってるでしょうね?」

「当たり前だろうが。俺を誰だと思っていやがる?」

「そうですね……私から見たらあなたは充分脳筋ですから………馬鹿、でしょうか?」

「てめぇ、一回焼き殺してやろうか……」

「やめて下さい。物騒ですよ、マルコシアス?」

「はっ。前回、単体で数千の人間達を喰い殺したお前には言われたくねぇな、バーゲンティさんよぉ」

「どっちもどっち、ということですよ」


マルコシアスと呼ばれた青年は、両手両足を縛られ眠らされている人質のところへと向かった。


「それにしても、こんな女があの方のお気に入りだとはねぇ」

「マルコシアス、それは言ってはなりませんよ。あなただって立派に奥さん子供がいるでしょうに」

「それとこれとは話が別よ」

「そうですかね……」

「とにかく、この後は戦闘なんだ。ばっちり準備しとかねぇとな」

「戦って終わりではないことをお忘れなく」

「忘れるわけねぇだろ?お前、俺を馬鹿にしすぎだ」

「だって、脳筋ですから……」

「あん?なんか言ったか?」

「いえ、なにも……」


こうして、2人は話し合いながら深い闇へと消えていった。

6話でした。

少しシリアスにした気がします。

……気がします。


次も来週の日曜7時に更新予定です。

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